ユカリッサの美少女化と新成人含む天職の成長の件
ポーンブラへ到着した時には完全に日が沈んでいた。
通常、冒険者に限らず大陸内の移動は日中に行われる。そして、日が沈む前までに野営の準備を終わらせて日の出を待つ。それがこの世界での常識だ。
夜間の移動は自殺行為とも言われているが、死ぬ程危険なだけで不可能でもない。ただ、普通はそんなリスクを負ってまで移動する理由がないだけで。けれど、日が沈んだ頃には町が目と鼻の先で既に知った場所だった事もあり、馬車で2時間くらい移動を強行して今に至っていた。
丁度みんなが夕飯を食べ終わった後に着いたようで、急遽夕飯を簡単に用意して貰って食べ、風呂に入って寝る。……正直、滅茶苦茶疲れていたので後片付けを後回しにして泥のように眠った。
そして、翌朝。
昨日は早めに力尽きた事もあり、目覚めも早かった。周囲はまだ薄暗く、日が昇る少し前のようだった。
……予知夢を見た日より早いか? もうひと眠り……。
窓を見たタイミングで、視界に見慣れぬオートマタの姿が入る。オートマタと断言する理由は、オートマタ以外が入ってきたら起こされるから。
「……もしかして……ユカリッサ?」
寝起きで思考が鈍る中、思い当たる名前を出す。
俺の呼び声に反応すると、オートマタ達の会話を中断して俺の元へ来る。
「はい。おはようございます、主人」
背丈は他の連中と一緒なので140センチ確定。傷ひとつない色素の薄い肌、幼い顔立ちに白い瞳。薄く作られた白く巻かれたフワフワな前髪に膝まである髪はハーフアップにされ、頭上には白金色のティアラが乗っている。耳には大きめのイヤリングが揺れ、服もレースのついたドレス。まるでお姫様のようだが、その姿にも見覚えが当然あった。
……オリアニ『殺戮武装麗姫☆ワルキューレ F』の斬光閃のプリシラ姫か。
そんな技名を絶叫する熱血バトルアニメを思い出しつつ、「おはよう」と返す。
「それであのぉ……お恥ずかしいのですが、空腹で……MPを頂けないでしょうか?」
……空腹……だと? ロボだから食べないと解釈していたが……そうか、MPは食料か。
「申し訳ない。夜寝る前まで待ってくれない? 今だと今日1日が厳しい」
そう答えると、「畏まりました」と答えつつションボリしていた。
……前の所有者は英雄クアン。男性だから……この中の人の参照元は誰だろう?
そんな事を思いつつも、聞いたところで知らんだろうし……ただ、見た目と声が一緒でも斬光閃のプリシラ姫と別人なのは判る。
朝食を食べ終えてボーっとしていると、ニチリカがアカリフィカを連れてきた。
「サクリさん、『天職進化の儀』をしてきましたよ!」
「おぅ?」
返事はしたものの、リアクションに困る。しかし、彼女達の様子から察するに、進化に成功したのかもしれない。
「あのぉ、わ、わたしは……【魔術士】を賜りました……です」
「おめでとう!」
……なるほど、確かに……という印象。
天職の進化は、経験した内容により種類が確定する。進化できるかどうかは成長するステータスに依存する……稀に装備条件とかあるけど……。
アカリフィカに関しては今回で急激にレベルが上がった事で戦闘経験が割合多く、戦闘手段はお手製のスクロール使用。戦い方が【魔術士】と似てしまったし、最近は魔導書の複製もしていた。条件さえ満たしていれば賜る可能性は充分あった。
「あっ、ありがとう……ございます……」
「それで、わたしは【学者】を賜ったの」
恐縮する彼女に割って入るようにニチリカが話を続ける。
「おめでとう。やっぱり加護付きを倒すと……成長早いんだな」
辛うじて経験値という言葉を呑み込む。
つい最近指摘された事だけど、実際には経験値という概念は知られていない。経験は積むものであって稼ぐものではない。しかし、既に検証した通り経験値は存在し、倒す敵の強さに応じて貰える値は変わる。一定値を溜めるとレベルアップする。これは『竜騎幻想』と一緒。
この世界はゲームである……とは言えないし、言っても信じて貰えないだろう。ならば転生者以外にこの経験値という説明は難しいだろう。
……知らない方が良い事もある。多分ね。
なので、今後は『経験値』という言葉をうっかり転生者以外へ言わないように気を付ける事にする。……手遅れかもしれんけど、やらんよりは良い。
「みたいですね。ますますお役に立てそうです」
「正直助かるよ」
彼女の【学者】への進化は、この前の〈アナライズ〉結果の共有の影響が大きいのかな? ……知らんけど。
「あっ、シャオリンさん。レベルクラウンですね? 今なら直ぐに『天職進化の儀』をして貰えるかも」
掃除をしていたシャオリンがニチリカの視界に入ったのか、そう指摘した。
彼女は掃除する手を止めて、嬉しそうにエルミスリーの元へと走って行った。
少しして、シャオリンが戻ってきた。
「わたし、【風水士】を賜りました!」
「「「成人、おめでとう」」」
「ありがとうございます」
彼女はニッコニコで答えた。
「今じゃ声をかけても全員は揃わないか……っと、その前に……シャオリン。成人した貴女の進路希望は?」
「進路希望?」
「多分既に言われていると思うんだけど、レア職を賜ったからって冒険者になる必要はない。船での生活も長いし違う仕事を……」
「冒険者一択ですよ」
説明を遮って、シャオリンは自分の進路を主張する。それこそ、一瞬スンってなって真顔で言われてしまって圧を感じた。
「そうか。なら、今は無理だろうから……昼飯前かな? みんなが集まる段階で承認を得たら4人でナッツリブア冒険者支援組合に行こうか?」
「「「行く」」」
「あっ、なら、その間に装備を揃えたいです……サクリさん、付き合ってくれますか?」
「もちろん」
装備の購入は防具以外を船で揃える事ができる。問題はその防具なのだが……今回は布製品でも3人の職業的に問題ないかもしれない。
「革鎧を買えたら良いんだけど……」
俺がそう言った瞬間、ニチリカとアカリフィカの2人が首を横に振る。やっぱりクリスターク国民なら同じ反応か。
「……デスヨネ。じゃあ、武器から……」
店の手伝いだけをしていたら、【風水士】は賜らない。天職は既に色々努力をしてきた結果と言える。だから、シャオリンも既に得意としている武器があるはずだ。
シャオリンの装備を揃え、昼食時に彼女のチーム入りが確定。ナッツリブア冒険者支援組合へ行ってきた。
「お帰り、サクリ君」
俺の戻りをコトリスティナが甲板で待っていた。
「ただいま。どうしたの?」
「一応、ご報告。わたしの天職が【怪盗】に進化したから」
「おめでとう」
「ありがと。これでサクリ君のハートを盗めるようになるかな?」
「そんなスキルはないよ」
コトリスティナがごく自然に腕を絡ませてくる。
……まぁ、前世の頃からよくあった。弟扱いというか、ペット枠というか、ぬいぐるみ枠みたいな扱いを幼い頃から良くされていた自覚はある。だから、この行為に何の意図もない事を知っている。
「でも、【怪盗】か。【幻術士】と相性が良いんじゃ?」
「それ、わたしも思ったの」
……何も賜ったのは偶然ではないんだよな。
天職の進化というのは通常ルートが決まっている。進化先が別れている場合だって基本ルートと希少ルートがあり、同確率ではない。
ただ、ユニーク職が1度でも賜った場合は別で、その後のルートは完全に不規則となる。でも、調べた結果は他の天職同様に経験が重要となる。
選んだ武器も火力の低い扇系を選び回避全振りの戦闘スタイル。実力を隠すために使っていた主なスキルは幻影を見せるスキル。……イメージ的に【怪盗】になりやすいと思う。
「何か、『ワードプレイ』みたい」
「あ~、そういえば好きだったね」
コトリスティナの指摘で、彼女のイメージしているモノがどんなのか理解した。
『ワードプレイ』というのはコトリスティナの前世、胡桃さんが小学生の頃に好きだった少女漫画。そして、彼女が考えている人物は、そこに登場する主人公で幻術を駆使する中学生の少女で、理由があって泥棒をしている……そんな話だったはず。
「何てキャラだったっけ?」
「怪盗ロータス。蓮華ちゃんだよ。……また読みたいなぁ……」
細かく憶えていないけれど、今のコトリスティナは蓮華に似ているかもしれない。
「ユーリン、どうした?」
夕飯を食べ終えて、風呂に入るまでの時間。
たまたますれ違ったユーリンチェルが明らかに動揺していた。
「あっ……サクリさん……」
俺の顔を見るとブワッと目から涙が零れて俺に抱き着いてきた。
「ちょっ、本当にどうしたの?」
「……『天職進化の儀』を受けて、新たな天職を賜ったの」
「おめでとう……でも、それでどうして?」
転職が進化するのはめでたい事。喜ぶことはあっても泣く反応というのは理解できない。
「天職、【大魔導】になったの」
「おおぅ、凄いな……魔導書を手に入れないと」
アッツミュの魔導書をアカリフィカが既に複製しているはず。最初から多属性の魔法が使えるはず。
「……どうやって魔法を唱えたら良いか判らないよぉ……」
……ええええええ?! いや、そう言われましても……。
確かに、魔法詠唱はヒューム語ではない。魔導書の中身もヒューム語ではない。それは知っているけれど……スキルで読めるようになるもんじゃないの?
「えっと、魔導書を見た事ない?」
魔術系の天職を賜る条件は魔導書に触れている事が基本なので、見る機会があったと思う。
「……アカリフィカさんの魔導書複製、手伝ってた……」
苦笑しながらもとりあえず、相談するならアッツミュだよと教えてあげた。
一応、ユーリンチェルの事をアッツミュに頼んでから風呂に入り……部屋に戻って来るなりユカリッサにベッドへ押し倒された。
「もう空腹で限界。お願い、MP頂戴!」
「そんなに欲しいなら風呂に行ってきなさいって」
このオートマタ達。どういう理屈か知らないけれど完全防水。海水も問題ないらしい。
「わたくし、汚くないわ!」
「ほぅ、匂いも万全と?」
……そう言うと、彼女は俺から離れて……おとなしく……いや、騒がしく風呂へ行った。
「明後日にはナイルナットへ行って、そろそろアスパラオウム王国に行かないと拙いか……」
徒歩移動という事を前提にしても、そろそろ『邪竜討伐軍』を追いかける事を考えていた。
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