正式にメンバーへ加わったアカネムと町を騒がす騒動
「おかえり。何か毎回疲れてくるよね? それなのに毎日行く気持ちが解らないよ」
幼児や小児を除けば、基本的に風呂は1人で入るモノだと思うんだ。百歩譲って例外があるとしたら妻とか恋人とか? これが一般常識だと思う。
……まぁ、風呂のある家というのが贅沢の象徴とも言えるけどね。
イヴァルスフィアにおける風呂は誰もが知る知名度はあるけど贅沢な嗜好品の類。王族に限らず大きな商家や大農園の園主等金持ちの家にはあるというが一般的だ。
一方、温泉はあるが大衆浴場的なモノは無い。家に風呂の無い平民は川で身体を清めたり、身体を拭いた後にタライに湯を張り足湯で身体を温めたりする。
故に入浴の常識など一般化しておらず、混浴上等文化が王族にはある。「鍛えぬいた自身の身体は誇るモノであって、恥じるモノではない」という考え方らしいけど、前世の記憶を有する俺としてはとても恥ずかしい。それに女性の裸を見れば普通に欲情するから。
「お風呂は気持ち良いんだ。環境が疲れるだけでね」
煩悩を解放すれば楽しい時間になりそうだが。
「たかが一瞬の快楽程度を引き換えに人生の終焉は受け入れたくない。俺の異常なモテ具合の仕組みを知った以上、ただの性欲を煽る罠でしかない」
「うーん……なんか大変ね」
部屋に戻ってから話を聞いてくれたダクネスは心配している風を装って、絶対他人事と思っているに違いない。
今回の格上連戦の結果、リンクルムは【霊獣操士】、カノエルンは【祓滅士】、ヨークォットは【槍豪】、ヒカルピナは【強化術士】、サオリスローゼは【旋藍騎士】、ハルクアルマは【元弓士】に天職進化した。
今回進化したメンバー全員ウルトラレア職に進化したということで、ユニットとしては基本的に最終天職まで進化した。これで、この辺で簡単に死ぬことはないだろう。……ただ、俺達に限っては魔人族襲撃とかあるし、誰でも不意打ちや油断すりゃ死ぬけども……。
あとは、この無駄に余っているMPをオートマタに補充して……。
コンコン。
補充が終わったら寝ようと思った矢先、扉がノックされる。
「どうぞ」
扉を開けるとそこにはサチカーラが立っていた。
「秘密の話があるの」
……秘密……夜……男の部屋に来る……前世から好意を持つ女……告白?!
内心ドキドキしつつも、断るしかない現実にどうするべきか悩みつつ部屋に招き入れる。
サチカーラに椅子を勧めて、自分はベッドに腰掛ける。すると来客に空気を読んだダクネスは俺の膝の上に黙って腰掛けた。
「まだ風呂前のようだけど、時間大丈夫?」
「うん。あとで入ると伝えたから……多少ぬるいのは我慢する」
告白なら風呂上りの方が効果抜群だったりするかもだが、異性の心なんて慣れている奴にしか判らんだろうよ。
「サクリ君はチームのリーダーで司令塔ポジションよね? だから、本当の事を話しておこうと思って……【封監士】について」
……どうやら、俺の思っていた告白とは違ったらしい。
「前に説明した内容は周りに言われても困らない程度のテンプレ情報なの。だから王家に説明した内容は違うの」
今なら事情を察する。この国では「出る杭は打たれる」または「若い目は摘み取る」。それを知っているサチカーラは自由のために自分を本来より性能を低く見せていたのだろう。
「まず〈フィクスィティ〉についてだけど、固定できる物体はレベルに1つ加えた数。だから今だからこそ11個だけど、王家への報告は2つと言ったわ。そして、個数が存在すると言う事は固体しか固定できない。色のついた煙とか水は無理。固体でも透明だと失敗する可能性がある。装備している防具は固定できない。多分同じ理屈だけど、持ち主の身体と視界的に重なっている武器も固定できない。振り被ったりしてくれるとできるけどね」
「思った以上に条件多くない?」
「多い。だから微妙と認められたの。ちなみに固定したものを解除した後、30秒後じゃないとその固定枠を使って固定できないから。あと、意識を失うと勝手に固定は解除される」
……確かに、これは国も使い勝手が悪いと判断するか。それでも使い方次第な気もする。
「全部事実?」
「うん、嘘を言ってもバレちゃうからね。それで、ここからが言わないで欲しい事なんだけど」
サチカーラは全ての仕様を説明してくれた。その結果、これまでの説明は何もハンデにならないと理解した。
「……そういうわけで、バレたら自由に動けなくなりそうで……サクリ君にお願いしたいのは、少なくとも国内にいる間はなるべく【双剣士】のスキルだけで戦いたいの。アイシア様も仲間に加わったから、尚更ね。……お願いして良いかな?」
「極力尊重するけれど……背に腹は代えられない状況になったら勘弁してほしい」
彼女を死なせるくらいならスキルを使うように俺はきっと指示するだろう。
翌日の朝食後、スキアーオスクリタへ向けて出発した。
表向きはただの護送。ただ、ついでに経験値稼ぎもしてこようと思っている。レベルの低いユニット達は適当に戦わせても死なない程度には強くしておかないと落ち着かない。
……ゲームじゃないから過保護すぎるとキモいと思われるかもしれんし。
今回同行するメンバーは護衛対象のアカネムとアイシア、ナツキヨノ、トモリル、ユールオリンデ、アサミラージュ、ユーリンチェルの6人に加え、チームメンバーではないが希望があってエルミスリー、ヨシノノア、ミユルシア、アオランレイア、ルリーシュの5人も興味があり参加するという事で、13名の大所帯だが馬車1台で出発する事になった。
正直、官職5人は危険だから止めておけと忠告したけれどダメだった。
「冒険者になれて良い気分です。皆さん、公の場でない限り王家扱いは不要です。むしろ、面倒です。なので、他の王女同様に扱って下さい」
アイシアは俺の隣で上機嫌である。反対隣りのユーリンチェルも何故かご機嫌で、馬車内が狭いからなのか密着してくる。いろいろ思惑が透けて見えてはいるけどスルーする。
「当然そのつもり。冒険者である以上、その身分がメリットになる事もあればリスクになる事もあるから。原則平民扱いするけど、その覚悟はあるんだよね?」
既に仲間になりたいと言った時に確認した事である。
「もちろん。殺される前に城を出られて良かったわ。わたしは別に次期王位に関心は無いし、政治のために政略結婚もしたくない。少し前までは、言う事を聞かないと殺されそうなプレッシャーがあったから、サクリさんと会えて嬉しいです」
アイシアとナツキヨノには「サクリウス様」呼びを止めて貰った。呼び方が上品過ぎて素性を詮索される原因になる可能性もあるし。
「申し訳ないけれど、本当に姫様待遇できませんよ?」
「構いません。わたしは冒険者として武力を身に着け、いずれはあの宰相と組みする者を倒して本来あるべきクリスターク王国を取り戻すつもりですから」
「国を取り戻す?」
不穏な発言に彼女を見る。
「サクリさんも父を見たでしょう? アレが正常な人に見えましたか?」
「何とも答え難い質問を……ただ正常には見えないな」
……でも、正常ではなくなったのは前宰相が原因だったりするんだけどね。
2日目の野営。ナツキヨノと共に見張りをしていた。
国内でも有名になったのか、襲撃はされ難くなっている。まぁ、人から無いだけでも楽になる。襲ってくるのは野獣や魔獣の類。
……今となっては周りを起こすまでも無く、瞬殺……どころか、ナツキヨノの経験値稼ぎをできると思ってしまう。強くなったな、俺……。
ゲームと違って数字で実感しにくいモノだから、あまり自分の強さについて考える機会が無かった。……冒険者カードの更新も激安とはいえ有料だからな。手間だし。
すっかり気が緩んでいる俺は一応警戒しつつもナツキヨノと雑談をしていた。
「……と、割とスロースタートな感じだったよ」
話題は【学鍛童】時代の鍛錬について。
【学鍛童】は何のスキルも無い。加齢と共に勝手にレベルが上がり、個人差はあるがだいたい16歳前後でレベルクラウンに達して成人する。幼い頃は存在自体知らない子供は多いし、知っていても役立たずと思う子も多い。……実際は、【学鍛童】はステータス上昇と成人した時に賜る天職に大きな影響を与えると言うのに。
そして今、俺の話を終えてナツキヨノのターンになった。
「わたしは割と早めから剣術の練習をしていましたね。幼い頃に見た『光の英雄クアン』の話をして貰って、わたしの中の英雄像になったんです」
英雄クアンは、光の神器の前所有者。闇竜王を封じた英雄だ。
「幼い時は本気で英雄を目指していたんですが、10歳少し手前くらいになると難しいと思って、英雄の姿に可能な限り近づくという目標に変わって、【戦士】を賜った感じですね」
少なくともナッツリブア大陸で暮らす子供達は多かれ少なかれ英雄願望がある。それは大陸に伝わる実在した英雄が多数いるから。前世の記憶を思い出す前の俺もそうだったし。
「アイシア姫専属メイドをしていたのも、アイシア様から城の地下に神器があると教えて貰ったからだしね」
この話からも、2人の付き合いの長さを想像できた。
到着したのは3日目の16時前。夕方と呼ぶにはまだ明るいタイミングだった。
まずはアカネムの家に行き、彼女から報酬を払って貰った。
「これが約束の報酬ね」
アカネムが2万ナンス……銀貨2枚を持ってきた。
「銀貨助かる。確かに……ありがとう」
「いえ。これからよろしくお願いします」
「こちらこそ。メンバー登録はどうする? ここでやっていく? それともあっちで?」
「ポーンブラに戻ってからで大丈夫です。今は荷物整理の方が優先かな」
来た頃は焦っていたのか言葉は丁寧だったが余裕は無いように見えていた。今は何もないのと、割と長いこと俺達と行動を共にしたからか落ち着いた清楚な女の子というイメージになっていた。
「何か外、騒がしくありません?」
少し離れた場所で騒ぎになっているような声が外から聞こえてくる。
「見に行こう」
騒ぐ声を探りながら近づいてみると、場所は少し離れた所にある墓地だった。割と多めの人数で1人の女性を取り囲んで押さえ付けていた。
「どうしたの?」
「墓荒らしだ」
アカネムが近くの人に尋ねると驚くような答えが返って来た。
「本当に今来たばかりなんです。わたしはフォクスポワール家の依頼を受けた冒険者です」
「嘘つけ! なら墓場に何故いる?」
彼女は否定するが、確かに墓場にいる理由がない。加えて、疑われる理由はその瞳と髪にもある……赤黒い錆色なんだよね。
ナッツリブア大陸で錆色は不吉な色。死に魅入られているとも言われる銀色の次に嫌われている色と言っても過言ではない。まぁ、錆色は縁起が悪い程度にしか思われないけれど、実は自分の瞳の色を卑下していたルゥミアルも同じ色だ。
「それは……」
「ちょっと、フォックスポワール家に行ってきます」
今にも暴行されそうな雰囲気を察して、アカネムは確認に走った。
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