解かれていた封印と反対を押し切るアイシア姫の決断
「おかえりなさいませ、アイシア王女様」
脱出用スクロール使用により転移した先には兵士達が控えていた。
「ただいま戻りました」
先程までとは違う、スンッとしたアイシアの態度に俺が転生前から知るアイシアの姿を見た。
「如何でしたか?」
「もちろん、最下層まで行って参りました。証拠も確保済みです」
……一瞬、兵士達に驚きの表情が混ざっていなかったか?
まぁ、表情で決めつけは良くない。ただ、出迎えているのが兵士ばかりで武装している事が若干気になる程度。
「それでその、お怪我は?」
「見ての通り、護衛含めて全員かすり傷すら負傷していません」
……言い過ぎである。実際は既に治療済みだ。
「そ、そうですか」
「もう行ってよろしいかしら? 怪我はありませんが疲れてはいます」
「失礼致しました」
兵士達が撤収するのを見届けると、アイシア達は息を深く吐く。
「……皆様、ありがとうございました。それでその、サクリウス様には大変申し訳ないのですが、その神器を一日お預かりさせて下さい。一応、国で長く管理してきた宝ですので……今回の報告を含め、証拠として提示したいのです」
「俺は構わないけれど……多分、神器がそれを許さず勝手に俺の所へ移動すると思うよ?」
「勝手にですか?! ……それは困りました。では、それが事実だった場合、お手数ですが神器を持って明日も登城して頂けますか? どうしても神器を見せる必要があるのです」
俺はナツキヨノが容易した台車に神器を置きつつ、「わかった」と返事をした。
雰囲気的に判断を迷うところだが、勧められたために俺達はフラクタル邸へと戻ってきた。
……大丈夫だろうか?
確信はない。でも、あの武装した兵士の出迎え。もし、俺達が満身創痍だったら始末されていたのではないだろうか?
……いや、彼女にとっては日常なのかもしれない。クリスタークだしな。
弱肉強食。弱者淘汰は当たり前の国。権力、財力、魅力、武力……その時に必要な力がなければ排除されるだけの国。だからこそ、兵士達は俺達相手に退いたのかもしれない。
「おかえり。部屋は用意してあるよ」
留守番させたサチカーラは拗ねた様子も無く。アカネムと一緒に出迎えてくれて、さくっと風呂を借りて眠りにつく。ダクネスも今日は俺の睡眠を邪魔する事はなく……。
そして、ベッドの中にある冷たく硬い感触に目が覚める。
深夜かと思ったが、いつの間にか熟睡していたらしく部屋は明るくなっていた。
ダクネスに気遣う余裕もなく、咄嗟に身体を起こして布団を捲る。
「きゃっ!」
彼女の小さな悲鳴が聞こえるが、視線はそこに向ける事なく……そして安堵して緊張を解く。
「……そうか。まぁ、そうだよな」
普段はこうなる前に、オートマタ達が退けてくれていたのだろう。
「何が?」
「コレの事」
ご機嫌斜めそうなダクネスに剣を指して答える。
「何時の間に?」
「神器というのは、そういう本能を有しているらしいよ」
機嫌を損ねても寒さには弱いのか、俺のズボンから顔だけ出している状態で出てこようとしない。……絶対、その寝方危ないと思うんだよな……。
数時間後。朝食を食べているとメイド服姿のナツキヨノが高価そうな服を持って現れた。
「サクリウス様、大変申し訳ございませんが、国王直々の召集命令です。登城の用意お願いします」
こんな状況になる事は、『ユカリッサ』を見た時点で予想はしていた。
……今、俺は不安でしかない。何故なら、作法を全く知らないから。あるのはフィクションでのソレだが、雰囲気だけでやり過ごす事はできるだろうか?
「アイシア様からサクリウス様が平民出身の冒険者という事は伝わっています。多少の無礼は見逃して貰えるとは思いますが……玉座の間に入ったら、周囲を露骨に見回さず、さりげなく見て下さい。そして、王の前で跪いたら指示がない限り下を向いて下さい。そして指示されたら従って下さい。それでだいたい大丈夫……よほど失礼な言葉使いでない限り許されるはずですよ。……緊張しすぎて、声を聞き逃さないようにだけ注意して下さいね」
「……わ、わかった」
別に王様と会う事に対しては緊張せんのよ。するのは、公式の場に出て多くの目に晒されて、礼儀作法を必要とされる事。……本当に勘弁してほしかった。
玉座の間に入る。部屋には国王、アイシア、宰相、近衛兵多数。常識的に帯剣しての入室はNGなのだが、事情故に特別許可が下りている。だからこその近衛兵の数なのだろう。
着慣れない服に身を包んだ俺は、言われた通りに跪き、下を向いたまま神器を横に置く。
「ゴールド級冒険者チーム“サクリウスファミリア”リーダー、サクリウス=サイファリオ、召喚に応じ参上致しました」
「ご苦労」
……噛まないように、ゆっくり教わった文言を言う。
あまりマジマジと観察はできなかったが、国王はアイシアとは似ておらず、痩せていて存在感が希薄。年齢はアイシアの前に10人以上の兄姉がいるとして、若くて42歳。あくまで最年少計算であり、普通に考えて50は超えているだろう。
その横に立ち、今も「ご苦労」と言ったのは宰相。見た目は20代前半だろうか? 宰相という役職には若すぎる男性だった。深い黒色の髪と淡い金色の目。線の細い身体でひ弱そうに見えるが、本当に弱くてこの国の宰相は務まらない事を俺は知っていた。
「冒険者サクリウス。遺跡『王位継承試練場』について詳しい報告をしてほしい。私には言葉使いを気にしなくて良い。大事なのは礼儀より嘘偽りの無い正確さだ」
男性にしては声音が高め。中性的程ではないが、少し子供っぽい声。だが、眼光が鋭く声も機械的な冷たい印象を持った。
「【学者】を連れていなかったので正しい情報はありませんが、手応え的な話として敵は全て妖魔。1階層毎に種族は統一、5の倍数階層では上位種が1匹出現。21階層からは1つ上の上位種を。41階層からは更に上。50階層の強い個体はアンテグラロードだと思われる存在を確認しました。51階層では、妖魔の姿は無く、設定が適当にされた魔器と引き抜かれて放置された神器があるだけでした」
……一応、『闇竜晶』のことは黙って置く。あった場所が隠されていて未発見状態の可能性が高かったから。あんな物騒なモノをこの国には預けられない。
「なるほど。アイシア姫と証言は一緒のようだ。それで神器は?」
「はい、こちらに」
宰相は俺に近づいて剣を受け取ろうとして……当然持ち上がらない。
「……なるほど。これも証言一致。本当に冒険者サクリウスは神器に選ばれたようだ」
早々に持ち上げる事を諦めると、宰相は元の場所に戻る。
「そうなると……本来であれば冒険者サクリウスには国籍をクリスタークに変更、城内勤務にさせ、兵器扱いとして神器共々管理対象になるのだが……」
「それはいけません。宰相、事情はお話しましたよね?」
アイシアが宰相を諫める。
……多分、今回魔人族が関与していると思うけど……黙っていた方が良いんだろうな……。
とりあえず、俺達はクリスターク王国に拘束されるわけにはいかない。ここはアイシアを全面的に応援するのみ。
「今回の試練において、最下層まで無事に到達したのはサクリウス様達の協力のおかげ。もし、彼等に協力を得られなければ死んでいたでしょう。そんな恩人を我が国の都合で拘束するのは不義理というもの。それに彼等には今後もわたしと行動を共にして貰うつもりです。よって、勝手をする事はわたしが許しません」
……ん? 共に行動?? いや、要は権力によって拘束されそうなところを、より大きな権力である王女という肩書で阻止しようとしている……と考えよう。
「確かにそうですが……その神器は……」
「神器だけあっても誰も使えない事は証明されたでしょう? それに、その神器が抜かれていたんですよ? わたしは折角自由になる資格を得たので、神器を抜いた犯人を見つけ出す旅にでます。そのお供にサクリウス様達の力が必要なのです。邪魔は許しません」
……初耳ですが?
「お父様。いえ、国王様。どうか、わたしに彼等と犯人を追う許可を下さい」
「国王様。私もアイシア姫に神器の悪用監視のため、傍に居て頂く方が良いかと思います」
結果、宰相の一言が決め手となって、幸いにもクリスターク王国拘束の件は無くなった。
「そうなると、ナツキヨノ。お前も城内では用済みとなるな。暇をやるから、好きにすると良い。実家に帰って結婚するも良いし、アイシア姫と共に冒険者として行動するも良し。……好きにすると良い」
割と厳しい言い方。しかし、それは彼女を思っての事なのだろうか?
「はい。今まで雇って頂き、ありがとうございました」
「ナツ、冒険者をやりなさい。そして付いて来るのよ。いいわね?」
「……はい、アイシア様」
……前言撤回。何故か俺には宰相が2人の城から出ていく事を喜んでいるように見えた。
緊張の時間は終わり、色々思う所を呑み込んだまま城から撤収する。
もちろん、あの上質で高そうな服は汚す前にさっさと脱いで返そうとしたが、アイシアからは「返されても困るから、差し上げる」との事。……また似たような事もあるかもしれないから、有難く頂戴した。
「アカネムさん。スキアーオスクリタへ向かう前に一度、ポーンブラに戻りたいんだけど、良いかな?」
「はい、大丈夫ですよ。……もう仕事は終わりましたし」
完成したアイシアの絵は額に入れて部屋に飾られた。その仕上がりはまるで写真のように精密に描かれて、留守の間を部屋の主の代わりとなるのに相応しい仕上がりだった。
翌朝、ポーンブラへ向けて出発した。
理由は3つ。1つは『ユカリッサ』と『闇竜晶』の存在。うっかり失ったら取返しが付かないし、神器はどうしても目立つ。何も知らない人達からすればただのナマクラではあるが、知っている人から襲撃される可能性はクリスタークだからこそありえるんだよな。
2つめはスキアーオスクリタに向かうなら、現状はみんなのレベル掌握をしきれていないがクラウンであれば『天職進化の儀』を行った方が育成効率は良いからだ。今回、格上と戦闘を結構したので思った以上に育った可能性が高い。
最後に、アイシアとナツキヨノの存在。正規のチーム入り手順を考えるのであれば全員に2人のチーム入りを確認しなければならない。しかし、今回は彼女達が仲間に加われなかった場合、俺達が国外へ出る事は難しくなるだろう。
……まぁ、予知夢を見ているからアイシアは仲間に加わる流れになるとは思うんだけど、それだって絶対とは言い切れない。今まで100%の的中率だっただけ。
それらも説明した上で、2人を仲間に加えなければならない。……正直不安だ。
「サクリウス様、どうかされましたか?」
多分難しい表情をしていたのだと思う。ナツキヨノが心配そうに話しかけてきた。
「いや、何でもない。俺なんかよりナツキヨノさんは大丈夫?」
「何がですか?」
「いや、収入安定した城勤めをクビになってしまったから……」
「いえいえ。むしろワクワクしてますよ? それに元々城勤めは遺跡の最下層、神器を抜くチャレンジをするまでと決まっていたので」
「そうなの?」
「元々、それが目的だったので。既に抜かれていた時点で城に勤める理由が無いんですよ」
……まぁ、それなら良いんだけどね。
「そういう訳だから、わたしに感謝していいですよ?」
反対隣りに座るアイシアから何故かドヤられてしまった。胸を張られて強調されてしまい、つい視線が胸に下がったけれど、不可抗力だから勘弁してほしい。
「あそこで機転を利かさなければ、ナツは冒険に出られなかったし、サクリウス様は冒険者生活終了するところだったのですから」
だから、協力しろと言われた俺にとって断り辛い状況ではあった。
出発して3日後の朝にはポーンブラに到着した。今回は襲撃無しでスムーズだった。クリスターク王国で活動を始めてから初の事だ。思った以上に早く到着したが、まずは一番大事な事を説明しなくては。
「帰ってきて直ぐで何だけど、みんな聞いて欲しい」
船に帰ってきたら、全員が朝食準備をしていたのでタイミングは逃さない。
「【風水士】のアイシアと【戦士】のナツキヨノ。仲間入り希望だ。俺は入って欲しい。反対な奴はいるか?」
姫様と従者という事を伏せて、まずは聞く。反対者が出れば説得するつもりだったけれど、幸いにも思った通り、反対する者は出なかった。
明日からスキアーオスクリタへ向かうため、今日1日は休み。その間にアカネムとアイシアの冒険者登録とナツキヨノのチーム加入。それとレベルチェックと必要な人は『天職進化の儀』を行って貰う。ついでにカードの更新を……と言った感じで忙しく動く。
そんな訳で日中は慌ただしく動き、夕飯も終わった俺は風呂へ。
風呂場に誰も居ない事を確認してから扉に「サクリ入浴中」の札を掛け、脱衣所へ。パパッと服を脱いで身体を洗い始める。
するとまるで見張っていたかのようなタイミングで、何名か入って来る。主にヒューム族じゃない連中とカエディステラ。いつもはコイツ等が入って来るだけなのだが。
「姿が見えないと思ったら、ここに居たのね。サクリウス様、わたしの身体を洗う事、許可します。さぁ、気が済むまで洗って下さい。念入りに洗われる覚悟はできています」
「……はい?」
……後にアイシアもメイド達に洗って貰う人生で、羞恥心は皆無なのだと教わった。
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