墓荒らしを疑われている商家の客人メグルーナの天職
アカネムが呼びに行って5分も経たずに女性を連れて帰って来た。
とても目を惹く女性だった。年齢差は無さそうなのでフォクスポワール家の娘なのかもしれない。第一印象は可愛らしいお姉さん。
一番目を惹くのは、その瞳と髪色。ジュリエルの髪と同じ鮮やかな藤色。
ナッツリブア大陸では、ほとんどが橙か桜色の髪や瞳の色をしている。その2色よりは少ない確率で白や黒など10色がある。更に低確率で金や銀。極稀な確率で彼女の藤色や渦中の女性の錆色、俺の飴色などの特殊色と言われている。
そんな特殊色が3人もこの場にいるのは希少だとは思うけれど、だから何だという話で指摘する人は誰もいない。
「皆さん、止めて下さい!」
必死に制止する彼女の声。不謹慎ながらも綺麗な声だと思ってしまった。あまり大声を張るのが苦手そうな清楚な声音。だけど、そう思ったのは一瞬。すぐに理性が俺を現実に引き戻す。
「ほら、この人の言う依頼人の家の人連れてきたから、確認して貰って白黒つけようね」
圧のある……とは言い難いが割と強めの言葉を投げる。言葉自体に力は無かったかもしれないが、冒険者だと判った人から順に静かになる。
全員とは言わないが、町では俺の顔も結構知られているだろう……利用した冒険者のリーダーとしてね。
「メグルーナさん、大丈夫ですか?」
多少乱暴に扱われてはいたが、怪我と呼ぶような跡は無い。多少叩かれたようではあるが、間に合ったと言っても過言ではないだろう。
「はい」
「確かに彼女はわたしの家が雇った冒険者です。今日来たばかりなので彼女は墓荒らしではない事をわたしが保障します」
そう彼女が言うと、周囲は渋々彼女を解放する。徐々に興奮の熱が冷めていくのが俺の目にも明らかだった。
若干怯えているメグルーナと呼ばれた女性も彼女の元へと近寄る。
「ありがとう。こんな騒ぎになるなんて……」
「ごめんなさい」
彼女が謝る。
「コトリスティナさん、困るよ。こういった時期に」
「伝え忘れていたのはわたしの責任です。大変申し訳ありませんでした」
どうやら、フォクスポワール家の彼女の名前はコトリスティナのようだ。
コトリスティナは深々と頭を勢いよく下げると、膝まである長い髪のポニーテールが肩から落ちる。
とりあえず集団暴行になる事なく場が収まって、周囲の人達は解散していった。
周囲に人がいなくなった時点で、2人の緊張が解かれる。……俺? 最初から緊張していないまである。……無関係だしね。
「それで、メグルーナさんは何故ここに?」
「それは、フォクスポワール家の奥様へご挨拶のためですよ」
……ん?
少なくとも俺は理解できなかったが、周囲はスルーしている。ツッコミ入れたいのは山々だが、それをする立場でもないわけで。
「あっ、アカネムさん。呼んで頂きありがとうございました。おかげで助かりました」
「いえいえ。暫く家から離れていたんですけど、墓荒らしって何です? その冒険者は何故墓地に?」
随分言葉が略されているが、俺達が滞在している間に墓荒らし事件は発生していない。だが、戻ってきたら発生していた。ここ数日の間に何かあった事になる。だから、何があって墓荒らしなんて事件が発生し、犯人が捕まっていないのかを尋ねているのだろう。
「そうですね。お礼も兼ねて是非家に……食事をご馳走させて下さい」
「あの、彼も良いですか? わたしの所属する冒険者チームのリーダーなんです」
……おいおい。他の連中……って、依頼主でもないし全員で押しかけられないか。それでアカネム的に俺は用心棒的なポジションか? 普通はこの状況で襲われる心配は考えられないけれど……ここはクリスタークだから何でも疑うべきなのか?
「そうなのですね。では、一緒にどうぞ」
露骨に警戒されてはいそうだけど、そういう土地柄だからなぁ。……いや、冒険者を警戒する事自体は正しい行動ではあるんだけどね。
フォクスポワール家は近くにあり、民家にしては大きかった。戻ってこないアオランレイアが家に行く途中で様子を見に来たが、事情を説明して町外れにコテージを設置して待機して貰っている。
「改めまして。わたしはコトリスティナ=フォクスポワールと申します。今は父の介護のため仕事はしていませんが、元々店をやっていたので……」
この自己紹介は俺に向けられたモノだろう。多分、コトリスティナとアカネムは家も近所だし面識あるだろう。……ただの用心棒という認識ではない? あっ、前回来た時の俺達を彼女も知っているのか?
「あたしはアイアン級冒険者のメグルーナ=アコット。彼女に依頼されて来た【死霊術士】よ」
……知らない名前。まぁ、錆色の髪や瞳のキャラってルゥミアルも含め『竜騎幻想』には出て来ない。多分、『ヴァルキリーサガ』のキャラなのか?
何故気になるかというと、彼女の天職【死霊術士】。それは『竜騎幻想』における敵専用ユニットだったりする。でも、俺の記憶内には固有名詞を持つ【死霊術士】ユニットはいない。
「それで墓荒らしを疑われた?」
「多分、そんな感じだと思う。あたしの髪や瞳を見て怪しまれたのだと思うけれど、まさか墓荒らしがあったなんて……」
見た感じ、彼女が悪人っぽくは見えないな。
「それで貴方は?」
「あ~、そっか。今日来たから知らんよな。俺はゴールド級冒険者チーム“サクリウスファミリア”のリーダーでサクリウス=サイファリオ。この町に来たのは2度目だよ。よろしく」
「ゴールド級?」
それに驚いたのはメグルーナだけだった辺り、やはりコトリスティナは知っていたようだ。
「サクリさん、あのね、メグルーナさんって実は有名な冒険者なんですよ」
「へ?」
……俺は知らん。クリスターク王国で有名な【死霊術士】に心当たりが無い。この時点で『竜騎幻想』のユニットではない事が確定。有名キャラなら『ヴァルキリーサガ』のキャラクターなのだろう。……その答えを知る術は無いけれどね。
そもそもモブはそんな有名にならない。もちろん例外はあるよ。……例えば、転生者とか。
でも、考えてみれば彼女は優秀な冒険者なのだろう。彼女は俺と年齢がそう変わらないくらいなのに【死霊術士】。NPCが既に【風水士】から自力で進化しているのだから。
「失礼だけど、メグルーナさんって年齢は?」
「16……今年で17になるけど」
……同じ歳か。
一応NPCの標準としては1年間に1つレベルアップすれば良い方という感じである。なので、仮に【死霊術士】レベル1であれば、毎年レベルアップしていたとしても25歳が平均的。もちろん、例外もある。それがユニット……『竜騎幻想』で仲間に加入する可能性のあるキャラクターだ。それらは仲間にする際に適正レベルになっている。中には16歳で【竜騎士】とか理不尽なユニットも存在するけれど、所詮はゲーム。ご都合主義も不問だろう。
ただのモブなら【風水士】レベル2前後が妥当なんだよね。
「【死霊術士】になる前は【風水士】?」
「そうですよ。詳しいんですね」
……嘘を吐かれていない限り、彼女は転生者でないと。
「凄いですね。既に天職が進化されているんですね」
「不思議と直ぐに上がったんですよ」
「なるほど」
……ほぼ確定。彼女の言っている事が事実なら彼女は転生者の仲間がいた。それならば、俺達と条件は一緒になるから納得の成長具合という事になる。
「でも、【死霊術士】となると……冒険者をするのは大変なのでは?」
「そうだね。でも仕方ないよ……他の手段で生きていくのは難しいし」
【死霊術士】は敵ユニットというのが基本。これは『竜騎幻想』の話ではあるのだが、現実でも【死霊術士】の社会的地位は低い。
【死霊術士】というのは、【風水士】からの進化で通常は【精霊術士】に進化するのが一般的だが、極稀に【死霊術士】に進化する。珍しさから貴重ではあるものの、その天職は歓迎されることは無い。
そのスキルはほとんど死者と関わる系で、以前デンドロム王国で敵対した【死霊術士】のようにアンデッドを召喚したり、幽霊を視認して会話したりする。他にもスキルはあるけれど、敵専用だっただけに正しい情報は少なく、前世の知識以上の知識は持っていなかった。
「そう考えると、あの場で【死霊術士】だと言わなかったのは正解だな」
「あたしもあの場では言えない」
墓荒らしを疑われ、彼女は【死霊術士】。いくら否定しても信じてくれないだろうな。下手したらコトリスティナさんも墓荒らしの共犯を疑われても変ではない。
「それでその墓荒らしの件って、何があったんですか?」
「3日くらい前まで、1体ずつ、計6体の遺体が先程の墓地から盗まれました」
……普通に墓荒らし? でも、金品目的であれば遺体は残すと思うんだよな。
「いつぐらいから?」
「10日前ですね」
……そりゃ、知らなくて当然と。
とりあえず、これ以上首を突っ込むと解決して貰えると勘違いされる可能性がある。俺達は無関係な事には関わりたくない。よって、後は礼が何か判らないけど適当なタイミングで撤収を考えていた。
「遺体ごと盗まれたのよね?」
「えぇ」
今度はメグルーナがコトリスティナに尋ねる。
「それ、多分ただの墓荒らしではないね」
……でしょうね。
「村にアンデッドの襲撃ってあった?」
「知る限りでは無いですね」
「最近、町に来た人の中で見慣れない人っていました?」
「それなりにいますよ。ただ、全員を把握するのは不可能かと……」
「盗まれた遺体はどんな人でした? 共通点とかあります?」
「共通点ですか? あっ、死んで間もない人ばかりですね。一番早く亡くなった人でも死んで一ヶ月経ってないはず……」
「身体が完全に腐る前……死因とかって聞いていますか?」
「そこまでは……」
……もしかして、犯人を捕まえるつもりか?
彼女の顔を見ると何か考えているようで、思うところがあるのかもしれないけれど、どうするつもりか?
しかし、時系列を考えると彼女が犯人を捕まえるために招かれたとは思えなかった。
「1つ、コトリスティナさんに素朴な疑問なんだけど。何故、こんな時期にメグルーナさんを雇った? 真っ先に彼女が疑われそうなものじゃん?」
遺体ごと拉致する墓荒らし。犯人は目撃されておらず、当然捕まってもいない。そんな中にわざわざ【死霊術士】を招く?
言っては何だが、ナッツリブア大陸に住む人ならば【死霊術士】が忌避される天職だと知っている。もちろん、女神ナンス様はそんな天職でもイヴァルスフィアに必要な天職だと思い授けたとは思うんだけど、それと好感度は別の話。
一般的な感覚で言えば【死霊術士】を雇うなんて正気じゃない。
「実は、わたしの父は残りの寿命があまり長くありません。最初は治療を試みましたが、どんな薬や魔法でも効果のでた治療手段は無かったんです」
確かに、薬に関しては前世にあった薬と比べたら効果がはっきりとでる薬は少ないかもしれない。でも、今は魔法がある。その魔法を駆使しても治療できない病って何だ? ……いや、医者じゃないから知らんけど。
「今は寝たきりで、自由に動ける時間も日々短くなっている。でも、意識はしっかりしている今の内に父の希望である幼い頃亡くなった母に会わせてあげたい」
……言っている事は理解できる。しかし、原則死者は生き返らない。それは現実だけでなく『竜騎幻想』でもそうだ。でも、確かにそれは【死霊術士】であれば可能なのかもしれないし、可能だからこそメグルーナも依頼を受けたのだろう。
「そこでメグルーナさんに可能かを確認した上で依頼させて貰ったわけです」
……なるほどね。なら、尚更墓荒らしの件は関係ないんじゃ?
「そういう訳で、コトリスティナさんのお母様の現状を把握するべく、お墓に行って……」
メグルーナが墓場に行く必然とこの時期に呼んだ理由は把握した。でも、せめて1人で行かせるべきでは無かったような気はする。
「それで、フォクスポワール夫人の存在は確認できましたか?」
「もちろん。まだ問題は残っていますが絶対に可能な事を確認しました」
……死者の魂を呼ぶ……か。
正直、その手の内容は好きでは無かった。別にホラーが苦手だとか、死者に会いたいと思う事がダメだとか、そういう事を言いたいわけでは無い。気になるのは死者の魂の冒涜。
ゲームなんかにある死者蘇生魔法やアイテム。実際にはあまり聞かないが『竜騎幻想』にはストーリー終盤に最低1つ。あと手順を踏む事で幾つか手に入る。ただし、効果は死んだ戦場で戦闘終了する前に発動させる事。……まぁ、内容は全然違うがタイミングだけで言うなら心肺蘇生のようなもんだと思う。でも、死者の魂を呼ぶ行為は蘇生行為とは違う。
「サクリウスさん、わたしも倫理的に共感を得られる事とは思っていません。それでも……」
コトリスティナさんも判っている事なら、俺から何も言う事は無かった。
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