資源豊かなスキアーオスクリタと闇のプルームの出現
「いやぁ~、助かったよ」
「お役に立てて良かったです」
気の良さそうなおっちゃんがミハーナルに礼を言いながら、お駄賃程度の報酬を支払っていた。その様子をアイナッツやリリアンナと共に見守る。
【話術士】の経験値稼ぎは難しい。何故なら交渉能力に強い天職ではあるが、戦闘面に有効なスキルがほぼ無い。よって、主な経験値取得方法が依頼達成による経験値取得である。
最初こそ、『竜騎幻想』での経験を前提とした「多分可能。知らんけど」的な感じで試した結果、ゲームと同じく自身の経験になる事はリリアンナの時に証明済みである。
2人がやっていたのは俗に言う「おつかいクエ」と呼ばれる町の中で片付くタイプのモノ。それを姉妹で交互に行っていた。2人でやるのも良いとは思う……むしろ経験値2倍取りも可能なのではないかとも思う。でも、『竜騎幻想』では報酬の人数割りだったので、用心に用心を重ねた感じで、1人ずつ。しかもお互いの様子を観察する事で知識量が上がる感じでやっている。
……ただし、町内で終わる「おつかいクエ」はアイアン級冒険者推奨の依頼。内容的に『竜騎幻想』のクエストには存在しない依頼だとしても、細かい条件が判らない以上は知っている知識内で処理した方が安定して稼げる。……細かく調査すれば、もっと効率良い方法があるかもしれないけど、そこを俺は求めない。
メンバー同士の会話を聞いているのが楽しい。むしろ俺は画面越しの方が身は安全かもしれない。しかし、これは現実でゲームではない。
「サクリ君。依頼なんだけど、スキアーオスクリタに荷物を届けて欲しいって……受けていい?」
アイナッツが尋ねる。
本来ならダメ一択なのだが……スキアーオスクリタか。
「条件次第だな。リリア、交渉フォローして貰って良い?」
リリアンナは頷くとアイナッツと依頼主のところに向かう。
「ミハちゃんはスキアーオスクリタに行った事は?」
「無いです。お姉ちゃんも一緒ですよ……島から出た事もないので」
「そか。じゃあ、1アラで行ってみても良いかもしれんね」
1アラなら馬車2台かな……そんな事を考えながら、誰を連れて行こうか考えていた。
18人でも大所帯だと思うのだが、それでも大半がポーンブラ周辺で待機という現状に改めてチームの規模の大きさを実感する。実際、チームで活動していても全員揃って行動なんて少ないし、船内に居ても接するメンバーは限られて全員と毎回顔を合わすわけでもない。
今回の構成は俺とシオリエル、ミナコールの3人の他に、ユミリア、フィルミーナ、マナティルカ、サヤカレット、カロライン、カナージャ、ルイ―リス、アスカーナ、アヤメルディ、アイナッツ、ミハーナル、アヤカシア、ミューディア、サチカーラの14人は経験値稼ぎのために確定。残り1人としたかったが、カナディアラ、ワカナディア、ユッカンヒルデ、ユキサーラ、ヒカルピナ、ユーリンチェル、ミボットの6人が希望し、強引に馬車2台、25人の予定よりも大所帯で片道3泊4日の旅となった。
「ねぇねぇ、サクリ君。ただ、この荷物を運ぶだけにしては人数多くない?」
アイナッツが当然の疑問を投げる。彼女の言う「この荷物」とは、キャンバスである。キャンバスとは油絵で使う帆布である。それが山ほど。少なくとも金目の物ではない。ただ、こんな物の輸送でも襲われる可能性は高い。むしろ、可能性の高低というより必然である。
「まぁ、別の目的があるからさ。実はスキアーオスクリタって経験値稼ぎに適した町なんだ」
「経験値稼ぎに適した町?」
俺の隣に座っていたヒカルピナがくっついて聞いて来る。
「くっつき過ぎだよ、ヒニャ……じゃない、ヒカルピナさん」
そう言って、反対隣りに座っていたサチカーラも俺の腕に抱き着きながら身を寄せてくる。
ここまでされると2人の好意には気付いているんだけど、俺はTPOを弁えないのは好きじゃないんだよな……。
「いや、2人とも少し距離あけて」
「「無理、賑やか過ぎるし狭い」」
……間違った事は言っていないが……無理じゃないよね?
御者台に2人乗っているから、荷台には荷物と10名が乗っている。賑やかで話を聞くのは難しいが離れるのが難しいほど狭くはない。
「スキアーオスクリタは田舎なんだよ。辺境の村にとっての都会的ポジションなわけだ。だから、町とは言っても近くに国境も山も森もある」
「そっか。鉱石とか原木とか集めるのね」
「そうそう。あとは国境超えれば手応えのある妖魔とか魔獣がいるから、経験値をね」
サチカーラは『竜騎幻想』のプレイヤーでもある。どういった遊び方をしていたかは知らないけれど、地名とか環境とかは理解していた。……いや、もしかしたら『竜騎幻想』関係なくてフラクタル家令嬢としての基礎知識かもしれんけど。
「サクリさん、そろそろ野営します?」
フィルミーナからの質問で、そろそろ日が沈みそうな事に気付いた。
ポーンブラを出て4日目。予定では昼過ぎには到着予定ではあるけど……まぁ、無理だろう。道中安全なんて言葉はクリスターク国内ではありえない。実際、今まで何度か戦闘があったが、相手が気の毒になりそうな程に一方的な戦闘となっていた。
「それでサクリさんは、どんな方が好みなんですか?」
流石に4日目で話題も尽きたのかもしれない。その瞬間、やかましい程賑やかだった周囲が一瞬で静かになった。
……偶然かもしれんけど、全員の耳がこちらに意識を集中させているような気がする。
「好きなタイプか……」
ロングヘアーな童顔で、天然のロリ声か萌え声かカワボ……って、多分そういう事を聞きたいわけじゃないよな。……だって、そう答えたらここにいる全員がそれに該当する。
「なんか静かすぎて言い難いんだけど、一番は俺の理解者で大切にしているモノを一緒に大切にしてくれる人かなぁ。例えば、今ならこのチームとかね」
……これで露骨な擦り寄りの牽制になるだろうか?
遠回しな言い方ではあるが、これが一番距離を詰められない方法だと思うんだよな。
チームとは違うかもだけど、中学や高校での部活で仲が崩壊するのは部内恋愛だった。そして気持ちが理解できるだけに厳しく注意もできないし、加減を知らないと部内をしらけさせる。
だから、部内恋愛禁止というルールを設ける部活があるのも理解できるし、隠れて恋愛している分には勝手にしてくれとも思う。
……これで、女子同士の対立が表面上だけでも無くなれば良い。ましてや俺の〈女運の加護〉の被害者だった場合の事を考えると厳しく注意はしたくない。
「見えてきましたよ」
御者台に座っていたミボットが荷台に向けて声を掛ける。外を覗くと木々の隙間に町が見えていた。それから数分も掛からずに町へと到着した。
「……こう言っちゃなんだけど……」
「うん、何か嫌な感じ」
町の雰囲気は暗い。理由は明白で住人の会話が聞こえてこない。町全体が静かで、こちらを盗み見ているような視線が感じられた。
ミボットが何かを言いかけて、アヤメルディが言葉を継ぐ。否定しないところから、ミボットもきっと同意見なのだろう。
「多くは町やドワーフの管理下なんだが、1つだけ好きに掘って貰って構わない坑道がある」
そう町長自ら情報を提供してくれた。
好き勝手掘って良いなら好都合。そんな訳でそのお勧めの坑道へと来ていた。普通の坑道でも勝手に掘り放題とはならない。管理者がいて、掘って良い範囲が指定されたり集めた鉱石に対する料金を請求されたりする事もある。ましてや、ここはクリスターク王国。ぼったくられる可能性もあった。それなのに、好きにして良い坑道が1つでもあるだけラッキーだった。多分掘り尽くされた出涸らし認定なのだろうけど。
「ゴブっ!」
中に入ると直ぐにゴブリンがお出迎え。でも、ただのゴブリンなら……。
ボシュッ!
独特な銃声の後、ゴブリン2匹の頭に穴が空く。……見事なヘッドショットだ。銃声は1つのように聞こえたが、アイナッツとミハーナルが同時に撃っていた。
「さぁ、みんな構える。ゴブリン1匹見たら10匹いると思え。2匹なら……わかるよね?」
「100匹?」
アヤメルディが自信無さげに答える。
「はい、アホの子の事はおいといて、殲滅準備ね」
「お姉さんに厳しくない?!」
……口に出して言わないが、そんなアヤメルディの愛嬌が可愛い。間違えて答えているのもきっとわざと……うん、きっとわざとだ。
こんな狭い坑道に100匹は冗談だとは思うが、残念ながら20匹では収まらない数だった。
「あれ? ……あれはただのゴブじゃないよね?」
最下層と思われる場所に辿り着いた時に、思わずユッカンヒルデに尋ねると彼女は頷く。
「上位種か……なら……」
ボシュッ! ボシュッ! ボシュッ!
連続で放たれる銃声。銃を構えたメンバーによる銃撃によりあっさり討伐された。
思えば、坑道があるのは小さいながらも山。坑道内は〈山の加護〉が発動している。ゴブリンもそこらの野良ゴブリンに比べれば強いはず。それでも、俺の見ていないところで鍛錬している人が多いのか苦戦せずに戦っていた。
ゴブリンの残党を狩り尽くしながら奥へと進む。
……全員で入る必要性は無かったかもなぁ。
装備が充実しているとはいえ、やっぱり敵の数以上の人数で襲えば狩れちゃうんだなと実感する。戦略SRPGでは当たり前の戦術ではあるんだけど……実戦ではその理論が通じない場合もあるからね。
「み~つけた!」
最下層最深部で俺は可愛らしい女の子のそんな声を聞いた。
股下まである長い黒髪のハーフアップツインテール。背中には蝙蝠のような翅。翼じゃなくて翅だと判った理由は、その彼女が二頭身だから。露出の多いビキニのような服装なのだが二頭身故に可愛くて微笑ましく感じてしまう。
「本当に会えた! あたしはダクネス。闇のプルームで上位精霊クラウディ様の所まで導く者です」
そう言って彼女はニコリと微笑む。
「貴方とあたしはここで巡り合う運命でした。まだ、クラウディ様の所へご案内するのに少々時間が掛かります。それまでの間ですが仲良くして下さいね」
そう言うと俺の胸元へと飛んできて、反射的に抱っこすると離れなくなった。
抱き着いている彼女は耳まで顔を赤くして、潤んだ瞳で俺を見上げる。
「あのね、こんな暗い場所に1人でいて心細かったの」
……いやいや、ゴブさんがいっぱい居たと思うんだけど?
「そうか、怖かったね」
「そうなの……あのね、ギュっとして欲しいの」
「よしよし」
まるで赤ちゃんをあやすように優しく頭を撫でてあげる。しかし、「キャッキャッ!」とは喜んでくれない。……多分、本人的には小悪魔ムーブのつもりなのかもしれない。
「絶対に離さないでね?」
彼女は俺の耳元でそう囁くのだが……二頭身の彼女では幼児のおままごとのようだった。
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