ダクネスの疑問とサチカーラとヒカルピナ2人の因縁
ダクネスの姿は誰にも見えない。それはダクネス本人も解っている。故に彼女はずっと俺に抱き着いたまま離れない。……いや、俺は万が一に備えて付いてきただけで戦う気は無いんだけどさ。
……それにしても甘えん坊か?
思う所はあるものの、彼女がずっと話しかけてきて俺の邪魔をしているわけでもない。おとなしく周囲の状況を伺っていて、俺が独り言を言わなくて良いように気を使ってくれていた。
見ると、サチカーラがゴブリンに攻撃を仕掛けて倒していた。彼女の武器は双剣。普通は利き腕ではない方に持つ剣は刀身が短いモノを選ぶと思うのだが、彼女は同じ長さの剣を器用に操っている。仲間からの強化魔法を貰っているにしても加護持ちのゴブリンと戦えるのは凄い事だと思う。
「おめでとう。エグイくらいに経験値入っていると思うよ」
「ありがと。サクリ君が見守ってくれているからだと思う」
彼女の俺への呼び名は「サクリ君」に落ち着いたようだ。だいぶ慣れたけれど、最初はそう呼ぶのも照れていたので馴染んで良かったと思う。
「ねぇねぇ、もうハイゴブいない? アークゴブでも良いんだけど」
俺がサチカーラと話しているとヒカルピナが割り込んでくる。
「それは俺よりもユッカンとかサーヤンに聞きなって」
……俺は〈アナライズ〉できんよ。
「いないですよ~。もうゴブリンも残り僅かだし」
サヤカレットがヒカルピナの問いに答える。少し離れた場所にいる彼女だが、ギリギリ俺達の会話が聞こえていたのかもしれない。
「いないのかぁ……さっきのハイゴブ、わたしが叩く前にハチの巣になってたから……」
ちなみにトドメを刺したのはマナティルカだ。両親と再会してから調子が良いみたいで、すっかり明るくなっていた。
「それで、ヒニャちゃん。いつまでくっつくの?」
……ヒニャちゃんか。懐かしい呼び方だな。
そんな事を考えていたらサチカーラが強引に俺達を引きはがす。落とされないようにダクネスは俺にしがみ付いている。……何か申し訳ない。
「はいはい、ヒニャもゴブリン掃討頼むね」
「……! はーい」
このヒニャという呼び名は『フロンティア・オンライン』のヒニャーユの名から取っているんだろうけど、今のヒカルピナという名前からもヒニャという呼び名は合っていると思う。……もう呼ばんけど。ヒナという名前の人が仲間になる可能性を考えると迂闊に呼べん。
「ねぇねぇ、どうしてその2人はサクリ様を独占しようとするの?」
……妖精には難しい感情なのかとも思いつつ、説明をしながら昔を思い出していた。
その日の夜、風呂も入って寝るだけの状態になったタイミングで前世での2人との出会いについて思い出していた。原因はダクネスの問いについて答えていたからだと思う。
ちなみにダクネスは食事の時も風呂の時も俺から離れない……物理的にね。常に密着状態。そして現在は寝転がっている俺の腹の上に居る。
……『フロンティア・オンライン』か……。
『フロンティア・オンライン』は小学生になる前から存在していたMMORPG。PCで遊ぶネトゲでまだフルダイブ型VRが流行る数年前の話。
「あのね、知念君。お願いがあるの」
当時小3だった俺は永時家に遊びに来ていた。理由は永時家にはゲームが沢山あったから。
彼女とは小3からずっと同じクラスで、小4まではお互いの家に行き来して遊ぶ仲だった。理由は彼女に友達がいなかったから。
見た目もあったけれど、一番の問題は彼女の趣味がゲームのみでアニメとか漫画を見ていない上に性格も気が弱く人見知りで運動音痴だった事が原因だと思う。小学生は残酷だからね。
一方、俺の趣味はテレビゲームもやったけれど、将棋やリバーシ、チェスやトランプなんかも好きだったし、彼女の趣味に合わせられたからかもしれない。
「お願いって?」
「一緒にね、これをやってみたいの」
そう言って見せたのは、ゲームの紹介雑誌。その雑誌に特集されていたのは『フロンティア・オンライン』。通称、FOと略される2Dのゲーム。当然ながら基本的にゲームといえば3Dの時代。2Dゲームなんて大昔のゲームのイメージだったけれど、実はそうでもないらしい。何故なら、その雑誌は最近発売されたものだから。
「これ? どんなゲーム?」
「パソコンで遊ぶゲームでね、一緒にファンタジー世界で冒険できるの。チャットもできるし夜も好きなだけお話できるよ!」
……話なら電話でも……と思ったけれど、確かにチャットの方が気は楽だし、話題もゲームを一緒にしていれば困らないかもしれない。
「うーん。でも、僕の家にはパソコンないから」
「パパがね、知念君の両親が許してくれるならプレゼントするって」
「マジ?! 永時さんのパパ、スゲー!」
「パソコンの操作とかはわたしが教えてあげる! だからお願い! 一緒にやって?」
「わかった。ウチのママに聞いてみる」
永時家の事は詳しく知らないけれど、子供でも判るくらい金持ちの家。家は大豪邸で庭も広く、テレビに映る芸能人の豪邸くらい凄かった。
だからこそ、ウチの両親も永時家の事は知っていて永時さんの親父さんが説得してくれて俺も『フロンティア・オンライン』を始める事ができた。
パソコンの起動の仕方とかサポートは詳しかった時永さんが丁寧に教えてくれて、無事一緒にネトゲデビューをした。
……ただ、当時はネトゲといえば高校生以上が多くて小学生は希少。話す人みんなが大人に感じて、しばらくは2人きりで遊んでいたんだよな。
「名前、「サックリン」って、まんまじゃん!」
「簡単で良いだろ? 「ミューズ」って名前はお洒落だね。どういう意味?」
「音楽の女神様の名前なの」
……子供心に喉元まで出た「石鹸」の言葉は辛うじて呑み込んだ。
毎晩2人で冒険をしていた。……冒険というにはドキドキ感のない徹底攻略だけど。
本質的に育成厨な俺と攻略サイト大好きな永時さん。これが中学生以降なら恋愛感情が芽生えたかもしれないが、小3男児にそんな事は無く。ただ、ひたすらにクエストとNM討伐を行っていた。
ちなみにNMとはネームドモンスターの略で、固有名詞のついたモンスターで討伐すると一定確率でレアアイテムがドロップするという同種の中でも紛れて配置される格段に強いモンスターの事。
「くぅ……また負けた……」
「2人じゃ無理なのかな?」
全滅した俺達はリスポーンポイントに戻されていた。
「やっぱり6人必要? でも、わたし達がやっている事って今の人達には必要としないし」
完全手伝いになってしまい、相手にメリットを提示できない事から野良で集めるのは難しいと俺達は考えていた。
「でもなぁ、中学生や高校生、大人と遊ぶのは難しいと思うんだよね」
知っている近所のお兄さん、お姉さんとは話が違う。ましてや相手がゲーマーなら感じの悪い人もいるだろう。
「……クラン、気になってるところがあるの。ここ何だけど」
URL記載されたメッセージが送られてきて、それを開くとクランメンバー募集の掲示板だった。
「まだ作ったばかりのヤツで……あった、『サインポスト』っていうクラン」
クランメンバーは現在2人。あと4人募集しているようだ。リーダーは小6で特に年齢制限はしていないようだ。ただ、流石にクランリーダーが小学生というだけあって人の集まりは良くないし、募集しているのに希望者を断っている事もあるようだ。
「本当に小学生なのかな? その前に入れるか判らないけどさ」
「うーん。まぁ、違っても雰囲気良ければ大丈夫かな。2人の内どちらかしか入れないなら入らないし、入って空気悪かったら一緒に辞めよ?」
結果は本当に小学生。小6男子がリーダーでジーク、小5女子がサブリーダーでロゼット。2人は兄妹だそうだ。リーダー的には小学生でクラン作れればと思っているようだけど、中学生は妥協するかもしれないという。2人も一緒に遊んでいて限界を迎えてクランに入ったけれど、あまり楽しくなかったそうだ。
……今思うと、小学生だからな……子供扱いされちゃうよな。
その後2人加わってクランメンバー募集を打ち切った。
1人は訳あり中学1年生の男子でコクト、そして最後に入ったのが同じ歳のヒニャーユだった。
穏やかな性格の人達が集まったため楽しく……ヒニャーユに気に入られたんだよなぁ。
『フロンティア・オンライン』はスキル制ゲームで、クランで活動する際には役割分担を決める事でより強敵を倒せるようになる。……万能系は役立たずになりやすい。
主にタンカー、アタッカー、スカウト、ヒーラー、キャスター、バッファーと役割分担するのが普通で、俺はキャスター、永時さんはアタッカーとして参加し、ヒニャーユはヒーラーだったのでコミュニケーションをとることが多く、活動が盛んになると自然にヒニャーユとの会話が増えて言った。
一方、永時さんとは小6まで同じクラスだったものの、小5以降学校では男女で別れる事が多く会話する事もなくなってしまった。
それでも、お互いの家にはゲーム目的で行っていたし、夜もゲーム外チャットで話したりもしていたが、ゲーム内ではヒニャーユがずっと一緒にいた感じだった。
「サックリン、エンゲージリング欲しくない?」
そう言ってきたのはヒニャーユの方からだった。
まだ追加されたばかりのアイテムでエンゲージリングを2人が装備している事が前提でお互いのいる場所へワープでき、同じバトルエリアにいる場合は致命傷ダメージを受けた際に1を残して超過分ダメージは相手が負担したり、お互いへアイテムを使用した場合に効果がアップしたりする等、あるだけで便利なアイテムだ。
ただし指輪は男女専用のペアリングで、入手方法がウェディングサポートを受けて結婚式をあげないといけない。リアル性別は関係なく異性キャラ同士であれば可能なのだが、公式ホームページに様子が掲載されてしまうという恥ずかしさがあった。
「確かに、後衛であれば便利ではあるよな」
「それともミューズから既に誘われている?」
「誘われてはいないけど……」
……実際どうなんだろ? 前衛にとってはあまり必要性がないリングではあるけれど、こういう2人限定イベントってずっと永時さんとやってきたからな……。
「……ふみゅ。じゃあ、わたしからミューズさんに聞いておくよ。それなら安心でしょ?」
「そうだね。リング必要かどうか判らないから」
……自分で確認しても良いけど、機嫌損ねそうだしなぁ。
当時の俺は女子の怒るポイントが良く判らなかったんだよなぁ。だからこそ、勝手に自意識過剰になったり臆病になったりと慎重になっていた。
ただ、この選択はミスだったと思う。それ以降ミューズは俺に話しかけなくなってきて、結婚式をしたのだが……気まずい雰囲気のまま、小学校卒業する数日前にサービスが終了した。
サービスが終了した事で強制的に2人とも疎遠になった。俺はMMORPG自体を引退して『竜騎幻想』にどっぷりとハマる。永時さんは中学に進学するタイミングで私立の女子中学校に進学し、ヒニャーユとはリアルでは会った事も無かった。
「ヒューム族の雌って結構不憫なのね。雄くらい都合の良い時だけ一緒にいれば良いのに」
「妖精族とは違うからね」
ずっと『フロンティア・オンライン』の思い出に浸っていたせいか、ダクネスが俺を見ていた事に気付くのが遅くなった。
……多分、ダクネスも何かを考えていたのかもしれない。何故なら、急にこんな話題を振って来たから。昼間の事を考えていたのか?
「ちなみに妖精族って、恋愛しないの?」
「するよ? あ~、えっとね。あたし達ってヒューム族と比べると寿命の長さが違うでしょ? だから、サクリ様と恋愛しても先にサクリ様が寿命尽きて死んでしまうの。じゃあ、妖精族同士で恋愛するとなると、お互い寿命が長すぎて1人だけを愛し続けるって難しいのよ」
……そういうもんか? 単に妖精族が飽きっぽいだけのような……?
「ヒューム族の恋愛って長くても80年くらいじゃない? そのくらい短ければ平気なんだけどね。幸い、あたしはサクリ様と巡り合ったのでサクリ様との子供をポンポン産むつもりよ」
……その擬音、男としてはツッコミし難いんだわ。
「まぁ、子供の事は置いといて……あの2人、サクリ様の事好きよね?」
「多分ね。どういう意味で好きかは判らないけれど、独占欲はあるんだと思う」
俺の一言が効いているのか、表立って争うような言葉は無いけれど。いつまで有効なのかは謎なんだよな。
「でも、今は誰に迫られても拒否する事は確定しているんだよね」
これまでの経験で恋愛要素が集団を破壊する。それは何度も見て来ていた。
「恋愛、嫌い?」
「嫌いじゃないよ。むしろ憧れですらあるね」
少なくとも15歳までは冒険者になって何処かで落ち着いて、奥さんと子供に囲まれた生活に憧れていた。……そう、前世の記憶を思い出すまでは。
それにこのモテ具合も、自分の魅力だとは思えない。〈女運の加護〉の影響はあるだろう。
「ただね、現状複数人が俺にボケられない程露骨な好意を向けてくれているから……誰かを選ぶのは難しい。下手したら“サクリウスファミリア”が分解しかねない」
「ふ~ん。そんなのサクリ様が大好きで、諦めるくらいなら別の人も妻で構わないって言っている人全員と結婚すれば良いんじゃない?」
「それで全員が希望したら、どうするんだよ!」
……本当、価値観が違うからって無茶を言う。
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