本来モブの【封監士】サチカーラ=N=フラクタル
思わずサチカーラの顔を見つめてしまったが、きっと俺の表情は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていたと思う。
サチカーラが全員からの注目を受け、一瞬怯んだ。
「凄い天職でしたら『竜滅隊』に招集されていたと思います。ですが、わたしのスキルで出来る事は実戦向きではないんです」
「それでもユニーク職なんですよね? なら、唯一無二じゃないですか」
……確か、【封監士】って言っていたっけ。名前からじゃ、どんな天職か想像できん。もちろん、これまで見たユニーク職を含め、【剣の乙女】以外は『竜騎幻想』には存在していない。
マナティルカの感想に、サチカーラは少し困ったようだった。
「そう言って貰えて申し訳ないのですが、使い方の難しい微妙なスキルが多い天職なんです」
「……微妙なスキル?」
思わず気になって言葉にしてしまったが、サチカーラさんは特に気にする感じではなかった。
「わたしのスキルの中でメインのアクティブスキルは〈フィクスィティ〉。物体を固定するスキルで空中でも動かなくなる」
そう言って、近くにあったクッションを空中で固定させる。
「こんな感じ。こうやって固定した物は解除しないと動かないし、壊せない。カチカチになっちゃうからクッションとしても機能しない。ただのクッションの形をした物になる」
彼女は〈フィクスィティ〉を解除すると、クッションを元の場所に戻す。
「しかも、これは何でも固定できるわけじゃないんです。まず人を含めた動物は無理です。あと、見えない物も固定できません。一度固定すれば視界から外しても平気ですけど、固定する物は視界内にないといけず、例えば透明化して認識できない物は視界内にあっても固定できません」
……なるほど。確かに厄介なスキルだ。使い道があるとしたら、絶対破壊不可能な盾になるくらいだろうか。あとは、壁が崩落して落ちてきたものを固定して逃げるとか……?
そう説明すると、彼女は席を立つ。俺は部屋を出ていく彼女を慌てて追う。
「あのっ!」
「はい?」
「もしかして、サチカーラさんは転生者ではないですか?」
「……はい。わたしは転生者。かつて『永時奏楽』という名前でした」
知った名前だけど、目の前の彼女とは全く印象が違っていた。
永時奏楽は、俺が小3の時から小学校卒業まで同じクラスで、彼女は俺の友達の1人だった。仲良かった理由としては、彼女がアニメとゲームの話ができたからだと思う。
特にゲームに関しては『フロンティア・オンライン』というヒカルピナとやっていたゲームにおいて、彼女も仲間の1人だった。だから、学校ではその話をずっとしていた気がする。
こっちの世界では結構いるけど、前世では踝まで伸ばしたロングヘアーは珍しく、前髪も伸ばしていて顔を半分くらい隠していたため、ホラー作品で有名な「貞子」というあだ名で男子に揶揄われて、女子からもあまり良く思われていなかったと思う。
……今思えば、そういった事情から俺と仲良くしていたのかもしれない。
実は永時家というのは、地元ではお金持ちの家で、彼女はお嬢様だった。箱入り娘で大切に育てられ過ぎてコミュニケーション能力が低すぎたのかもしれない。
俺が『フロンティア・オンライン』を始めたキッカケは彼女に誘われたからであり、彼女の両親にパソコンとゲームを頂いたのは小3の男児にとっては最高のプレゼントだった。
彼女のオタク具合も『フロンティア・オンライン』で加速してしまった事もあり、当時小学生にMMORPGは中毒性が強すぎて子供に良くないと言われ、他にやっている子もいなかったので、ますます孤立したんだよな。
……あの『ヒニャーユ』がこの世界に転生しているって聞いたら驚くだろうなぁ。
正直、小学生の間はほぼずっと一緒にいたと思う。まぁ、小5くらいになると男女で一緒にいる機会は無くなったけれど、それでも『フロンティア・オンライン』では一緒にいたから、2人の時はリアルの話もネットでよくしていた。
そんな彼女との付き合いも小学校卒業で終わった。
近所の同級生はだいたい同じ市立中学校へ進学するのだが、彼女は都内の名門私立の女子中学校に進学した。彼女はとても頭が良いので当然の結果と言えなくもない。運が悪いのはそのタイミングで『フロンティア・オンライン』のサービスが終了した事。
学校が変わり、接点も無くなり、次のゲームの話をする事も無く。そんなわけで完全に疎遠となっていた。久しぶりの会話があの死んだ日のバスに乗る前。
あのサチカーラさんが永時さんとはねぇ……永時さんは可愛かったけれど、どちらかというと控えめで顔を半分隠していたせいか、地味で印象にあまり残っていなかった。でも、サチカーラさんは永時さんと比べたら派手な顔と言っていい。声も小さくモゴモゴしていた彼女が転生したら活舌よく可愛らしい美少女ボイスになっているとは……やはり、こっちの世界での人生で大きく性格が変わったんだろうな。
「おまたせしました。ちょっとみんなの前で話し難いので別の部屋で話しましょうか?」
「そうですね」
彼女が用事を済ますまで部屋の外で待っていた。戻ったら、また出ていくのは難しそうだったから。……なるべく転生前の話は転生者以外知らない方が良い。特に永時さんの場合は。
「今は部屋を移動したためベッド以外の家具を運び出した後ですが、話すには良いでしょう?」
何も無い広い部屋に俺と2人になれるくらいには度胸のある人に生まれ変わっていたようだ。
「それで、貴方は何者? ユニーク職だから転生者なんて発想、普通無いですよ?」
「それ、厳密には成人して最初の天職がユニーク職だったらなんですけどね」
……名前を聞いて本人だと判っているけれど、それでも彼女の様子から本当に永時奏楽なのかと疑ってしまう。
「それを知る貴方は何者ですか?」
「俺も転生者。前世の名は知念朔理だよ、永時さん」
「へっ? 待って。もしかして、あの知念君?」
頷いて肯定すると、彼女の目から涙が零れる。
「知念君!」
不意に抱き着かれた。不意過ぎて後ろに押し倒されそうになるのを辛うじて堪える。あの行為は身長差があれば不意でも男なら耐えられるんだけど……あまり変わらなかったり、女性の背の方が高かったりすると、男は余程ガッチリしていないと倒れる。
「……あぁ、生まれ変わっても会えるなんて思わなかった……」
「永時さんなら、間に合って良かったわ。もしかして、自分のキャラとその運命を……」
「もちろん知っているわ。だから【剣の乙女】を待っていたのだけど……」
そう、永時さんは『竜騎幻想』を知っている。プレイ経験もあるし同人誌も詳しい。
「それなら、既にアスパラオウムに行っちゃったってさ」
「そんなぁ……」
「大丈夫。俺達が来たから」
……とりあえず、永時さんなら尚更ミューディア目当てである事は内緒にしとこう。
「知念君なら安心だね。このクエストも知っているんでしょ?」
「当然。何度もクリア済みだから。……っていうか、王族は大変な事になっているみたいだね」
「うん。原作と変わっているんだよね」
……やっぱり、宰相の事を把握していたか。
「ここ1年くらいかな? 元々アフタンダークには多くの王族が暮らしていたんだけど、最近有力な家から地方に移動させられているの。だけどフラクタル家はクエストの都合なのか、弟がまだ幼いからなのか、または大した力がない家だからかは判らないけれど、地方への移動対象にはなっていないの。記憶が戻るまでは、何処かの国の王子様と結婚して幸せになるんだろうなって考えていたのだけど……だから、とても絶望していた。さっきまではね」
……そろそろ離れてくれると嬉しいんだが、残念ながらまだ離れてくれそうにはなかった。
「クエスト、知っていたんだね」
「もちろん。『闇夜の襲撃者』……あのミューディアを仲間にするためのクエストでしょ?」
……おぅ、それもご存知で。
「そう。俺達の狙いは元々ミューディアだったんだ。だから準備は万端というわけ」
「……そうですよね。一瞬、わたしを助けに来てくれたと思ったけれど……」
「流石にサチカーラが永時さんだったなんて今まで知らなかったからね」
そう返すと、彼女は苦笑している。……うん、何て言うか、サチカーラとしての人生が彼女に良い影響を与えたみたいだな。前世は少しオドオドしているイメージがあったんだけど。
「でも、ミューディアを仲間にするの? 怖くない?」
「大丈夫。……多分何とかなる」
……流石に〈女運の加護〉の事こそ黙っておこう。
「そっか。わたしは……どうなるかな? 本来、わたしって【剣の乙女】に助けて貰えるはずだったよね?」
「そうだね。でも、実際の【剣の乙女】の俺の印象ってポンコツだからな……」
「そうなの?!」
「でも、大丈夫だよ。本来、フラクタル家令嬢は誰も依頼を受けなかった場合、ミューディアに殺害される。NPCの冒険者でも結果は一緒になる。それはカッパー級冒険者には荷が重いからなんだけど……俺はこのクエ、何度もやってるから」
「……本当に?」
少し俺から身体を離して俺を見つめる。まだ一歩踏み込めば密着する距離で油断できないけれど、離れてくれただけでも良しとする。
再び抱き着かれないように警戒しつつ、彼女の問いに答える。
「うん。それに……サチカーラさんが永時さんだと判った以上、貴女にも俺の冒険者チームに入って欲しい。俺は大陸を旅しながら転生者を集めている」
「……わたしも一緒にいたいよ……でも……」
……彼女の言いたい事は解る。実はフラクタル家令嬢は親同士が決めた婚約する予定の人がいるんだよね。だが、そればかりは本人の意思次第なんだよな。
あまり席を外し過ぎていると問題という事で、名残惜しそうな彼女を促して部屋に戻る。
「お嬢様、そろそろお食事の時間ですが……」
「わかりました。皆様の分のご用意もお願いします」
「……畏まりました」
執事が部屋を出ていく。……思えば使用人のどちらかは俺達を探しに来てもおかしくないと思うんだけど、そうしなかったのは何か思惑があるのかもしれない。
準備が整ったという事で夕食を共に食べる。……映画で見るような大きな食卓に高級レストランのようなもてなし。俺とユキサーラだけが場違い感で浮く。
「サクリウスさん達もマナーとか気にせずに楽しく食べて頂ければ大丈夫ですよ」
「それは助かります」
その柔らかい笑顔にウチの女性陣が何かに気付いたようだ。
「サクリさん、何かありました?」
「……あった。簡単に言うと、彼女はスカウト対象だ」
正直に告げる。それに、そう言うだけで説明が省略できる。
「じゃあ、今夜襲撃してくるミューディアへの対応について説明するよ」
「「「「「今夜?!」」」」」
「……そっか、今夜は新月ですね」
サチカーラだけは俺の言った意味を理解できたようだ。
「サチカーラさんと話したんだけど……」
各自の配置と役割を説明する。サチカーラも敵を引き寄せる為の役割を担うという事で、食事を終えると配置を確認し……そして、眠る事が許されない深夜が始まった。
「……完全に月の光が消えるまで、あと数分……」
「ほら、窓の近くにいると狙撃で終わるから、こっちに」
2階寝室内で警護するのは俺だけ。まぁ、扉の外側には3人控えているんだけど。
「知念君、すっかり冒険者っぽいね……見た目もそうだけど、印象が結構変わったかな」
「お互い様だよ。俺も冒険者を1年やっているからね。それに容姿を言うならサチカーラさんは華やかな美少女さんじゃん」
「そっか、もう知念君じゃなくてサクリウスさんだよね。……あのさ……」
「……来たよ」
まだ彼女は何か言いたそうだったけれど、会話を中断する。
バルコニーにリアルで初めて見る“渇愛”ミューディアがいつの間にか立っていた。
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