出発前の平穏な日常と女難フラグ乱立建築
遺跡『金霊王の古祠』への出発は明日の早朝と発表した。
俺を含め一部は帰ってきて即出発状態になるわけだけど、退屈で何もしていないよりは健全だろう。……とりあえず、今日1日は休みということで。
「準備は今日中で」
そう言って朝食を食べに行こうとすると呼び止められた。
「サクリさん。ちょっと相談があるんだけど」
そう呼び止めたのはユミウルカとコノミリナ。
「ご飯食べながらでも大丈夫?」
「……食べ終わってからで良いから。ちょっと時間頂戴」
……とりあえず、周りの反応から察するにリエストスは全裸で船内を駆け回ったわけではないようだ。
美味しい朝食を頂いてからユミウルカ達に声を掛けると、彼女達に連れられて町の外まで連れ出された。
「……そろそろ用件を聞きたいかな」
「これを見て欲しいの」
コノミリナがちょっと離れた場所へ向かい何かを設置している。
「実はさ、あたしのレベルが9のままなんだよね。ほら、9までは戦闘でレベルが上がっちゃったでしょ? だからずっと魔道具製作に集中していたんだけど、何を作っても大した経験値になっていないようなの。だから、少々難しいモノを作ろうと思って……」
……と、話を聞いている間に目の前に大きなコテージ……いや、屋敷が現れた。
「それで作ったのがコレなんだけど、売れると思う?」
試作された携帯用コテージは3階建て。使用中のコテージを参考にしたようで、1階から3階までは全部個室。1階層18部屋。全54室だ。台所等水回りは全て地下へ移動された。
「使用感を知りたいから、今回使ってみて感想を教えて」
そう言って、1つ渡された。
……生産職のレベルクラウンの話を聞かないと思ったが、まさか制作物の難易度別に入手経験値が違うなんて……いや、ゲームの世界なのだから普通か?
ゲーム的要素である経験値という概念を置いておいたとしても、簡単なモノを量産しても技術力が上がらないというのは道理だろう。上がるのは作業速度くらいかな?
船に戻ってきて、買い出しするモノもないので気晴らしに町を歩こうかと思ったが、部屋に入ろうと思った矢先に扉の前でリナイセムが立っていた。
「何か用?」
「あっ、お話したい事が……」
ここに居ると言う事は誰かに聞かれたくない類の話ってことか?
「部屋で話す? それとも呼びに来ただけなら甲板で話す?」
「……場所は何処でも良いんですけど、まだ誰にも聞かれたくない話でして……」
誰かが入って来る可能性を考えると場所は限られる。
「わかった。どうぞ」
そう言って部屋へ招く。……まぁ、ビジュペも一緒だけどね。
来客用の椅子を勧めて座らせると、俺も自分の席に腰掛けた。
「改めて、今回は助けて頂きありがとうございました」
「いや、それこそ全員がいるところで言った方が良いよ」
「いえ、それはもちろん言いますけど、あそこに囚われていた経緯の話です」
……つまり、囚われた経緯は聞かれたくないという事か?
「途中で何度か気絶してしまったので、抜けているところはありますが……最初はマモルフ王子の婚約者であるミユキャミラ様から依頼を受けて坑夫を護衛していました。もちろん、わたし1人だけじゃなく護衛兵も一緒だったのですが、坑道に着く前に拉致されたんです」
……ん?
「それ、どのくらい前?」
「多分、救出される1週間前くらいでしょうか……もしかしたら、もっとかも知れません」
……つまるところ、ドワーフの坑道と要塞が開通してしまう前からって事。
「なるほど?」
「多分、わたしは国内では生きていけない……そういう事なのだと思います」
……そうだな。彼女の言う事が事実ならば、ミユキャミラという人は彼女を殺すつもりだったのだろう。根拠は救出時に見知った遺体がない事を彼女に確認済みだし、開通前の出来事だから。……第一王子の婚約者って、こんな殺意高かったっけ?
リナイセムは話さなかったが、恋路の邪魔だから消されそうになっているだけ。居なくなれば正規のシナリオ通りに両王子から敵視されるだろう。……『邪竜討伐軍』ではなく俺達が。
「エルミさん」
「ん?」
「ちょっと頼みがあるんだけど……多分、数名がレベルクラウンに達していると思う。確認して貰った上で『天職進化の儀』を出発前にはして欲しいんだ」
魔人族との戦闘は経験値をかなり得られる。可能な限り経験値を無駄にしたくない。
「なるほど……わかった。……って、サクリ君もレベル9じゃない?!」
「うん。ただ、なかなか上がらないだろうからね」
レア職と違ってユニーク職はなかなかレベルが上がらない。
「そっか。とりあえず今から見て回ってくるね」
「お願い」
そう言って別れてから、船から出る事が許されなくなったと気付いて……仕方なく待つ。
呼ばれて甲板まで出てくると空き店舗で『天職進化の儀』を行っていたみたいだ。
「サクリ君……慣れたと思うけれど、今のところ進化率100%よ? 絶対異常だからね?!」
「これもきっと、女神ナンス様のお導きってやつだよ」
冗談半分、本気半分で答える。
レベルクラウンに達して進化したのは全員で5人。マオルクスは【錘占術士】、カエディステラが【重戦士】、シャワールが【退魔士】、アキラテナが【弓術士】、リナイセムが【精霊術士】に進化した。
「え? こんなに天職が進化されたんですか? 何かしたんですか? こんなの見た事ない」
「でしょう? これがサクリさんの指導力なんですよ。彼が導いてくれるなら、ノーマル職のわたしでも進化してしまうかもしれないわ」
ルリーシュが始めて見る状況に驚くという通例行事を生暖かく見ていると、何故かアオランレイアがドヤ顔で誇っていた。
鍛冶屋にいって消耗品を購入しに行く。ラインナップはカエディステラのグレネードランチャーの弾、リナイセムのショットガンと弾、他ピストル用の弾。……まるでファンタジーとは無縁な品名ではあるが、量産されている立派な流通品である。ただし、前世で知る同名の武器とは形状以外は別物の魔道具だったりするけど。……仕組み的にはエアガンに近いかな?
結構な量の買い物だったために時間が掛かり、夕飯のタイミングを逃した結果、風呂の時間に間に合わず、俺の順番は後回しになってしまった。
女性陣が入り終えたという連絡を受けて、俺は『サクリウス入浴中』の札を掛けて脱衣所に入る。この札は間違えて女性達が入らないようにするための配慮である。
浴場に入ると身体を洗う。蛇口を捻るとシャワーから湯が出る。……こんな仕様は何処にもない。多分、誰かの入れ知恵だろう……販売しなければ別に構わないけれど。
ガララララ。
扉が開いて誰かが入ってきた。咄嗟に股間を隠して振り返ると、そこに居たのは全裸のユミリアだった。長い髪は下されて抱えており、その長さはざっと見て10メートルは超えている。
「サクリさん、背中をお流しします」
「いや、大丈……」
生まれて初めて見るドワーフ女性の裸。……聞いてはいたよ? 樽体型のドワーフの鎧の中身が男は腹の肉、女は胸の肉と。でも、胸にボウリングボール2つは目に毒だ。
ガララララ。
扉が再び開く。……貞子かと思うような全身が3メートル越えの緑髪で覆われた女がフラフラと歩いて来て一番奥のシャワーを利用して頭を洗い始めた。
「俺が出るべきか?」
俺がそう尋ねた結果、貞子……じゃなくカエディステラの素顔を初めて見た。橙色の瞳に思っていた以上に童顔で肌も白くて小顔……思わず「かわいい」と言葉にしてしまった。
結果として、俺は風呂から出る事を許されなかった。
恥ずかしがっているのは俺だけで、2人は堂々としている。ユミリアは居る事を知っていて入ってきているし、カエディステラは元々1人で入った事が無く、今までメイドに洗って貰っていて洗い方も解らない。素顔を見せたくなくて毎日この時間に1人で入っていたらしい。
……つまり、世間一般的には羨ま怪しからん状況だったのだが、ただの拷問だった。
「サッパリしたはずなのに、疲れた……そうだ、みんなに言っておくけど、寝起きを襲う真似はしないようにな」
部屋でグッタリしながらオートマタ達に注意する。……寝ているビジュペが可哀想だ。
「なっ、あのねぇ! せっかく……」
「リエストス、辞めなさい。主人の命令です。……今後はお互い監視し、今朝のような事が無いように気を付けます」
リエストスを諫めて、サヤーチカが謝罪する。
……これで一安心だろう。ただ、その事に関してリエストスだけでなく、リナトーラも納得している感じでは無さそうではあるが。
「うん、頼むね。……そうだ、ビジュペもありがとうね」
「え? わたしく、何かしましたか?」
ビジュペは感謝の言葉が何に対してなのか判っていないようだった。
「力量の判らない魔人族ホムンクルス相手に一緒に戦ってくれたじゃん?」
「……当たり前ですよ」
「その当たり前が難しいんだよ。実際、俺の力はホムンクルス相手に届かず、神器の力を借りて倒したけれど、その前にビジュペの攻撃が有効だった事は気付いていたよ」
「相性が良かっただけです」
「だとしても、助けられた事には間違いない。だから、ありがとう」
そう伝えると、ビジュペは嬉しそうに表情が一瞬緩む。
「……わたくしが付いているのだから当然です。これからも共に歩みます、御前様」
別れる前に伝えたい事は言えたので、明日の出発に備えて眠りについた。
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