地下59階層坑道を目指してアンデッド退治
ドワーフの坑道への入り口はベルクミネラーネの周辺では1つだけらしい。入口へ至る道は複数あると聞いたが、俺達が通っている道で坑夫とすれ違う様子はない。
「サクリさんは特にビックリしましたよね?」
「うん、色々ビックリした」
「色々?」
俺はドワーフの体型って男女共に樽型体型だと思っていた。いや、今も正面から見ると同じシルエットなんだよな。
「うん、まぁ……個人的な感想なんだけどさ、思い込みって怖いなって話」
「はい?」
背後から見るとウエストの太さが全然違うんだよな。体型が明らかに違うと判る。……まぁ、これ以上詳しく語るとセクハラっぽいからスルーするとして。
「この道ってさ、山を刳り貫いて作られているよね? 崩落の心配とか無いの?」
「あっ……それは大丈夫ですよ。土属性、金属性、空属性の精霊魔法で補強されているので崩落の心配はありません」
……まぁ、『竜騎幻想』には鉱山で採掘なんて仕様は無いんだけど、他のゲームであればあるわけで。そういったゲームで滅茶苦茶に掘り進めても崩落事故が発生なんて仕様は存在しない。だけど、ゲームは現実じゃないから……ここでは崩落する可能性あるんじゃないかと心配してしまう。
「ラリホー」
「ラリホー。大丈夫ですか?」
戻って来るヒューム族の坑夫さんが挨拶をしてきて、少し安堵する。
「何かあったんですか?」
「炭鉱の地下59階層で謎生物による襲撃でドワーフにも被害者が出ているそうです。危ないですので駆除できるまで坑道には戻らないようお願いしますね」
「わかった。ありがとう!」
その人を筆頭にすれ違う坑夫さんや冒険者にユミリアは笑顔で対応し危険を伝える。
「避けられているのかと思ったけど、違ったんだね」
「避けられているんですよ。ただし、ドワーフに限るって感じで……」
悲しそうに笑う彼女に俺は何て声を掛けたら良いのか判らなかった。
言われてみればドワーフには一度もすれ違う事なく、坑道入り口へと辿り着いた。
「それでは、ここから坑道です。普通にアンデット……主にスケルトンやゾンビ等の下位種族が湧きます。稀にグールとかシャドウとか出ますが……大丈夫ですよね?」
聞いている感じ、ユミリアは余裕があるのかもしれない。
「大丈夫ですよ」
「じゃあ、出発しますよ?」
「あ、隊列だけ指示させて下さい」
時間が無いことは解っているので、咄嗟に指示をする。
最前列はレベル上げを特に必要としているカエディステラ、シャワール、アキラテナ。後衛としてマオルクス、サキマイール、ユイディア。その次がミボット、イクミタン、リンクルムと経験値が欲しいと血の気が多いアズミーナ、マリリシャ、ユーリンチェル、ジュリエルと続く。逆に最後尾はアミュアルナ、ヨークォット、アオルッティがほぼ狩り残しを仕留める気満々だった。
「今度こそ行きますよ~」
そう言ってユミリアが先を歩く。
「地下59階だっけ? かなり遠いけれどエレベーターとかは?」
「『えれべーたー』? どういう乗り物ですか?」
……あれ? イクミコットが『エレベーター』言っていたような?
「サクリさん、エレベーターという名はまだ一般的じゃないんですよ」
ちなみにウチのメンバーは全員知っている。何故なら船に実装されているから。
「ユミリアさん、昇降機はありますか?」
「無いですね。徒歩だけです」
「……だそうですよ」
イクミコットにそう言われて、正直ウンザリした。
「階段も入り口から離れた位置っぽいし、不便じゃない?」
「それはですね、坑道内を安全に保つため、下に降りる人がアンデットを倒せるように……または、アンデッドが簡単に上へ這い上がって来ないようにするためのシステムなんですよ」
……なるほど。
利便性を考えれば、階段が近い方が便利だが、便利だとアンデッドも簡単に出て来られるというわけか。
事実、俺達は下りながらアンデッドを掃除しているわけで。
「皆さん、順調に経験値を貯められているようですよ」
周囲警戒のために〈ハイアナライズ〉をしていたレイアーナが俺に報告してくれる。
……とりあえずレア職がレベルクラウンになってくれるだけでも助かるんだよな。
地下59階層は遠い。けれど、その道中で順調に経験値を稼げていた。俺が気になっているのはアキラテナが無事に進化できるかどうかってところだけど……こればかりは運だよな。
時間感覚はサティシヤやサキマイールのおかげで昼夜は解る。……多分、今は深夜。
「やっと着いた……」
「お疲れ様でした。この後ですが休憩が必要でしたら、この階段下でキャンプするのが理想ではありますが……」
……正直、全員が体力に自信がある。普通に坑道探索であれば無理をしたかもしれない。でも、俺達が相手をするのは未知の生物の可能性があり、しかも〈山の加護〉を得ているドワーフを倒せるくらい強いわけで。
「そうだね。仕方ない……休もう。ここで寝てれば上から間違えてくる人を止める事もできるしね。見張りは申し訳ないが非戦闘職メンバーで行って欲しい。未知の敵相手にはレア職以上のメンバーで挑むから」
多分、この階層の坑夫は既に逃げ終わっているはず。流石に快適に熟睡とはいかないだろうから最小限の4時間睡眠をとった。
少し怠さを残しつつも再始動。このフロアが最下層ということで、これまでと違いこのアホみたいに広い階層で戦場を探す事が目的となる。
「……あっ」
ミボットが小さく驚くと彼女の服の中からスライムが出て来て壁を削って……いや、食べているのか?
「どしたの?」
「金剛鉱を見つけたみたいです」
彼女の服の中に隠れていたスライムは黙々と採掘している中、足元にいたメタルスライムとブライトスライムは動かない。
屈んで2体のスライムにミボットは語り掛けるが、腑に落ちない感じのようだ。
「何か、進化しちゃうと土や岩を消化してくれないみたい……」
ミボットは残念そうに俺を見る。……いや、見られても俺も知らんかったよ。
「まだ2体で良かったと思うしかない。これからは考えて進化させないとね」
採掘速度は落ちてしまったらしいが、時間を持て余しているユミリアに話を聞くチャンスだと考えた。
「答え難かったら言わないで良いんだけど、家族と不仲?」
「家族というより、同族から避けられている感じですね」
問われたユミリアは寂しそうだ。
「え? 何で?」
そういえば、坑道へ向かう途中ですれ違った坑夫はドワーフ以外だったし、坑道内ですれ違った坑夫もドワーフは無視していた。
「お父さんの話ではドワーフの双子というのは片方が忌み嫌われるって。それは2人分の徳が平等に分配されないからなんだって。その結果、2人分の徳は姉に備わり、わたしは徳が無いんだそうです。徳の無い者本人は何もない代わりに周囲にいる同族の運を略奪し続けるって。だから、逆説的にわたしと会話等で接触しなければ幸運に恵まれるって言われています」
「じゃあ、ユミリアは幼い頃から今みたいな環境だったの?」
「ううん、違いますよ。成人した頃からだったかな?」
……いや、おかしいだろ?
そんな伝承が仮に実在しているとして、だとすれば生まれて直ぐ隔離されるなり、追放されるなり、別種族の集落に預けられたりするだろ?
そもそも、こんな少し考えればデタラメだと判る話を何故信じられている?
「……あっ……」
仮説。現段階で確証はないけれど、多分これは冥職が悪さをしているのではないだろうか?
この仮説が正しかった場合、冥職持ちは高確率で双子の姉であるカナリアだろう。そうでなければ、ユミリアが成人するまで酷い仕打ちをされずに暮らす事ができた理由が謎すぎる。
「どうしました?」
「……いや、何でもない」
……言えない。仮にカナリアが冥職持ちだとした場合、エルミスリーに報告の後、スキルで確認後に処刑するという流れになる。ただ、そうなった場合はベルクミネラーネのドワーフ全てを敵に回す事になるから。
採掘を進めながら目的地を目指す。……気になるのは依頼主であるチットリーゼも付いて来ている事。戦闘経験はあるようだけど……できれば他の非戦闘メンバーと共に階段のところで待機していて欲しかった。……断られたけれど。
「きゃあああ!」
「ぐああああ!!」
女性と男性の悲鳴。その後に激しい衝突音も聞こえた気がする。小さすぎて断定はできないが……同じ判断をした数名が音のした方へダッシュする。
現場と思われる場所へ駆けつけると、ドワーフの坑夫が壁に叩きつけられた。視界にはヒューム女性が人形……いや、マネキンに担がれていた。……マネキン?
そのマネキンのような存在は全部で2体。女性を担いでいる方を追いかけようとしたが、もう1体が道を塞ぐ。
「……邪魔だ」
俺が斬りつけようとした瞬間、背後から何かが飛び出してきたかと思うと、マネキンを吹き飛ばした。
「……ローリングコヨーテ?」
ピンク色の毛並み、紫色の瞳のコヨーテは帯電状態でとんぼ返りするように突っ込んでマネキンを吹き飛ばした。壁に叩きつけられた所にワイルドヘアの突進、トドメとしてメタルスライムによるプレス攻撃により倒してしまい、俺達の出番は無くなってしまった。
……とりあえず、坑夫のドワーフ男性に駆け寄ると、幸いにもかすり傷程度で済んでいた。
「手間掛けさせて済まん」
治療されて意識が回復したドワーフは開口一番そう告げた。
「避難指示を聞いてなかった?」
「いや、魔物如きで怯んでいたら仕事なんて出来んと思っていたんだが、それが原因で冒険者の嬢ちゃんが攫われてしまった……頼む、嬢ちゃんを助けてやってくれないか?」
「……言われるまでも無いよ。今度こそ逃げてね」
「ちなみに、攫われたのは嬢ちゃんだけじゃない。抵抗している間に何人か担がれているのを見ている……無事だと良いんだが……」
……いや、そう思っていたなら逃げてくれよ……なんて内心思いつつ、マネキンが行った先を追いかけ、ついに目的地に辿り着いた。
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