友情の証をプレゼント、お返しが申し訳ない報告
遺跡『メタールム武闘劇場』を出た時、既に日は落ちかけていた。
「これは……メタルガングへ戻る事は無理だね」
「そうだね。じゃあ、野営かな……ただ、山からはもう少し離れたい」
多少暗くても山から離れればゴブリン達も襲ってこないだろう。
「そうだ。移動しながら聞いておこう。アキラテナさんはこの後どうする?」
「どうするというと?」
彼女は俺の質問の意図を理解できていないようだった。
「メタルガングまでは同じ方向になる。けれど、その先は違ってくるだろう。もし『邪竜討伐軍』を追いかけるならば、ブエルトリトスからマサダシュタールへ向かうべきだろう。でも、俺達はそっちには行かない」
少なくとも町まで一緒に行けば、自力で移動できる程度には回復している。お金なら少しくらい融通しても構わなかった。
「もう少しだけ一緒に居させて下さい。わたしは今、戻るべきなのかを正直迷っているんです」
「……そっか、了解」
山を完全に抜けた場所で開けた所にテントを張る。見張りを早番にして貰い、それを終えてテントに戻るとビジュペが話しかけてきた。
「御前様、質問があります。何故、あのヒュームの雌を仲間に加えないのでしょうか?」
「うん。彼女に限らず俺からは原則、誰も誘うつもりはないかな。ただ、例外は2つ。ビジュペも知っているだろうけど転生者。上位精霊達の依頼を達成するためにも必要な条件だからね。もう1つはその転生者が一緒に入る事を条件とした人。それだけは誘うけど、後は誘わない」
これだけは初めから徹底している。……というか、これを説明するのは何度目になるのか。
「何も好んで魔人族との死闘を望む人も居ないでしょ。関わらずに済むなら、その方が良い」
……それにアキラテナは推しでも無いからなぁ。
メタルガングに着いて、念のためアキラテナに確認をした後にオーアホージャへ向けて出発した。……できれば、別行動してほしかった。何故なら合流した瞬間、色々問題が発生するから。
そんな不安を抱えつつ来た道を戻る旅を続ける。王都に近づいてもアキラテナはそちらへ行く選択はせず、残念ながら最後の野営となった。
「今日はわたし達ですね!」
「よろしく」
シャワールと一緒に一番手の見張り。焚火を囲んで火を見つめる。
「聞いて良い?」
「はい、何でしょう?」
「前世の亡くなった時の状況とか」
彼女の前世が何者かは判っている。ただ、誰と亡くなったか判れば色々ヒントが出てくる可能性がある。
「わたし達は仕事で東京から新潟に向かう途中でした。マネージャーの運転で高速を走っていました。その時にトンネルの崩落事故があったみたいで……トンネルの中で爆発に巻き込まれてしまいました」
「一緒に居たのはご家族でなくて、アイドルのメンバーとマネージャー?」
「そうです」
……なるほど。アイツは一応無事だったんだな。
「わたしからも質問良いですか? サクリウスさんの前世は?」
……まぁ、隠すのも何だし……。
「俺の前世での名前は知念朔理。彩華ちゃんの兄貴の友人だよ」
「え? あの知念先輩ですか? 本当に?!」
「嘘ついてどうする? ……というか、本人以外知りようのない話じゃね?」
すると、彼女の目からポロポロと涙が零れた。
「知っている人と再会できるなんて思っていなかった……嬉しい……アイドルなんて碌なもんじゃないと思っていたけど、先輩と一緒に転生できた事だけは救いだったかもしれないです」
交代するまでの間、昔の話をしたんだけど、彼女が意外にも俺の事を憶えていた事に驚いた。
オーアホージャに到着したのは、15時くらいだったと思う。携帯できる時計は存在しない世界なので、町に入った時に見た時間が確か15時くらいだったはず。
俺達は真っ直ぐにサイカ工房へ向かい、依頼主のアズミーナに会って達成報告を行った。
「おかえりなさい、皆さん」
「はい、これ」
ミボットは結構な量の夜影鉱の入った袋を渡す。
「うわっ、思ったより沢山だわ……とりあえず……ちょっと待ってて」
アズミーナは部屋を一瞬だけ出て行ってすぐ戻る。
「これはミボリンとシャワチの分。あとは“サクリウスファミリア”の皆さんの分です」
そう言って俺達には青銅貨を6枚。6000ナンスをゲット。残念ながら人数にシオリエルはカウントされていない。……まぁ、承知の上だけど。
「じゃあ、こちらからの報告ね」
「どうだった?」
ミボットからの報告に耳を傾ける。多分俺達にも聞かせる理由は違った事を言わないように公平性を担保するためだろう。
「鉱石は地下5階にあったの。情報では地下4階が最下層だと思ったのに……で、5階にはいっぱいあったよ。でも、もう全部採り尽くしたけど」
「他の鉱石は?」
「あったけれど、サクリウスさん達に渡したよ? だって、この方達を1000ナンスで働かせるって絶対に変だもん」
横でシャワールがうんうんと頷いている。
「そ、そうなんだ……なんかごめんなさい……お詫びに良いモノ見せてあげるから」
そう言って彼女は工房へと向かい、2人が付いて行ったので俺達もそれに倣った。
アズミーナは受け取った夜影鉱を粘液状にする。鍛冶職系のスキルなのだろう。これをスキル無しでやるなら高熱で溶かさなきゃならないんだが、鉱石の種類によっては熱によって変容してしまう金属も存在する。加工できる鉱石の種類に差があるだけでもスキルの無い者は大変だというわけだ。
続けて、黒銀鉱も粘液状にする。黒銀鉱は魔力を通しやすい性質があるが非常に脆い材質だったはず。だから、黒銀鉱で作られる武器は無い。……父さんから教わった事だ。
アズミーナは鎚を振い、夜影鉱を鍛え、一本の刃を形作ると溝を作り、そこに黒銀鉱を流し込む。柄や鍔を付けて、形を整えられた風霊石を鍔と刃の間の部分にはめ込む。
「最後に頭へ魔石を嵌めて……完成。シャワチ、持って見て」
持つとシャワールの魔力に呼応したのか風霊石が藍色にほんのりと光り、リィーンと音が小さく鳴り響く。青黒い刀身から黒銀に魔力が巡り回路模様に青白く光る。
「凄いです!」
「プレゼント。これまでの感謝と友情の印に。……銘は夜唄刀“サイカ”。誰かに教えるなら夜唄刀って言えば良いと思うけど、刀の銘には製造者の家名を入れるのが習わしみたいだから」
そう言われて、シャワールは喜んでいたが急に真顔になった。
「刀、ありがとうございます。これを受け取る前に伝えなければならない事があります。……実は、わたしとミボリンは、サクリウスさんところのチームに入ることになりました。なので、用心棒契約、終了です」
「え? 2人とも? 嘘でしょ?」
「ごめんね。本当なんだ」
動揺するアズミーナにミボットは申し訳なさそうに伝えた。
「そんなわけですので……すぐ辞めるわけでは無いですが、後任を探して貰いたいのです」
シャワールは一度刀を作業台の上に戻してアズミーナの返事を待つ。
「……他の誰かじゃ困るのよ……」
1分くらいの沈黙の後、アズミーナは絞り出すように答えた。
「それこそ、シャワチやミボリンじゃなくて、別の人を仲間に加えれば良いじゃない」
「ごめんなさい。確かに誘われた立場ではあるんですけど、今はわたしが先輩……サクリウスさんと共に行きたいのです」
「あたしも、もう一度チームを組むのなら彼のところが良い。むしろ、サクリウスさんを逃したら、二度とチームに入れなくなると思うから」
……これは俺も悪いタイミングで仲間に誘っちゃったかなぁ?
「わたしだって、誰でも良いと思って誘ったわけじゃない。【鍛刀師】として成長するためにも2人の協力は必須だし、代わりは無いわ」
……あっ、【鍛冶師】じゃないのか。
【鍛冶師】と【鍛刀師】の違いは、【鍛冶師】には刀は作れない。【鍛刀師】には防具が作れない。もちろん、スキルに頼らず自力で作るなら話は別だけど。
「……2人がレイアール王国を離れるなら、わたしも仲間に入れて欲しい!」
「じゃあ、これから一緒に船へ来ます? 反対する人が居なければ入れますよ」
シャワールとミボットの話を聞く限り、アズミーナは加入条件に含まれていない。……今聞けば話は変わるかもしれないが、そんなに特例は認めにくい。
「もちろん、行きます!」
そう言うと、夜唄刀を改めてシャワールに渡すと船へ移動する。
「……というわけで、2人は仲間に加える。アズミーナさんも反対する人がいなければ……」
「いいんじゃない? 仲良いのに引き剥がす理由はないでしょ?」
ヨークォットの一言が決め手となって、3人とも新たにチーム入りが確定した。
アキラテナの待遇については冒険者の店に預けても良かったが、空き部屋もあると言う事でみんなの意見もあって船内の一室で休んで貰っていた。
3日くらいの休養の後、すっかり完全に回復したアキラテナ。案の定ハルチェルカやサオリスローゼを見て騒いだのは言うまでもなく。
……帰る時は口止めした方が良いだろうなと密かに思いつつ。
「おはよう、アキラテナさん。身体の方は?」
「おはようございます。お陰様で……この船、凄いですね」
「みんなの力の結晶ですよ」
そろそろ、彼女にどうするか決断して貰わなければならなかった。
「あの……今後なのですが……何度も申し訳ないけど……」
流石に自分でも副音声で迷惑だと発している自覚はある。それでも、新たな神器が現れた以上、どのタイミングで魔人族の襲撃があるか判らない。事情を知ったら巻き込んでしまう可能性がある以上、何も知らない内に去った方が良い。
「はい、ご迷惑でなければ、仲間に加えて頂けませんか?」
「……何故?」
率直な疑問。これまで『邪竜討伐軍』から合流してきたのは2人。ハルチェルカの時はまだ魔人族とも交戦していないし、上位精霊からの依頼も受けていない。何より彼女は推しで、しかも幼馴染みだという。サオリスローゼの場合は精霊と契約し、目的を共にする事から受け入れた経緯がある。
助けただけのアキラテナでは仲間に入る動機が無い。そして、彼女は推しではないので、俺としても入ってくれたら嬉しいという感じでもない。むしろ申し訳なくなる。
「国の命令で求められる限り『邪竜討伐軍』として【剣の乙女】であるムッチミラ様に協力するよう動いてまいりました。ですが、人数が増えた今は不要になったのだと思います」
まぁ、ムッチミラは男性ユニットを優遇する奴だというのは、これまでの噂と勧誘する人材で察する事は出来る。不要と思っている可能性は無くもない。
「それに、ハルチェルカさんとサオリスローゼ様から話を聞きましたが、皆さんは己の正しさを貫いて国すら敵に回しながらも仲間を増やしているご様子。それが正しい選択である事はこれだけの仲間がいる事により証明しています」
「……そんなつもりはないよ。むしろ、必要以上に危険な目に遭わせ、無茶振りをしている事に申し訳ないとも思っている。だから、アキラテナさんも……」
……彼女は入らない方が良い。衝動的な義侠心で命を失う事なんてアホらしい。
「ねぇ、サクリ君。入れてあげたら?」
「彼女が国に戻った場合の事を少し想像すると気の毒で……ね?」
マオルクスとアミュアルナの助言に少し考える。
アキラテナはヒューム女性平均の身長155センチ、尻に届く白髪に茶色い瞳の美少女で顔も容姿も声も好みなのだが、所謂トラブルメーカーで前世でも苦手なタイプなんだよな……。
「……解った。念のため全員に聞いて反対する者が居なかったら承諾するから」
何時の間に聞いていたメンバー達の圧に負けて、彼女のチーム入りを結果として認めた。
結局、食事時に全員の承認を得て、正式にアキラテナは仲間に加わった。
「御前様、宜しかったのでしょうか?」
「うーん。何となくこうなる事は予測していたけれど、アキラテナ本人が後悔しない事を願うばかりだね」
風呂上がりの俺に対し心配して尋ねるビジュペ。
「そんなに深刻に考える事でもない。……毎度のことさ」
「それでも拒否されているのですか?」
「もちろん。何も好んで命を賭ける必要は無いよ」
普通に冒険者する方が、俺達の仲間に加わるよりは絶対安全だから基本拒否なんだよね。
「それに多分だけど……これも女神ナンス様の企みだと思うんだよな。人聞きが悪い言い方になるけどさ」
そう思う根拠はある。……いや、現状を冷静に判断した結果とも言える。
「そうなのですか?」
「前から薄々感じてはいたんだけどね。最近はそうじゃない理由が思いつかない。もちろん、女神ナンス様の心の内なんて解るわけがないんだけどさ」
最近思う事は、女神ナンス様は俺の女難体質を利用して何かをさせたいような気がする。その根拠として最近、女性が集まる事で俺は生命の危機が頻繁に訪れているが、その女性の力で命を守られている。このバランスは異常だ。……普通じゃない。
……今となっては逆に女性が去ったら死にそうだ。
「御前様……多分、考えすぎです。疲れているのはないでしょうか?」
そんなビジュペの言葉に……俺も流石に根拠なさ過ぎかと一旦忘れる事にした。
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