遺跡『メタールム武闘劇場』の最下層を目指す
遺跡『メタールム武闘劇場』への道程は長く、オーアホージャ―から片道でも馬車で12日掛かる。ベルクミネラーネの里を経由すれば1週間くらい短縮できたのだが、普通、通り抜け目的では許可されないらしい。……ヒミカンヒルデは特別なのか?
メンバーは俺、マオルクス、ユイディア、ユキサーラ、ユッカンヒルデ、カエディステラと依頼主側のミボット、シャワール、そしてバックアップという形でコテージ管理者のシオリエルの計9人。と、ビジュペかな。
目的地はレイアール王国の最北東にある町メタルガング。シャドウ樹海までも距離が近い町ではあるが、そのメタルガングの東へ半日くらい馬車で移動すると遺跡『メタールム武闘劇場』があるらしい。
コテージはメタルガングの町外れに設置させて貰い、シオリエルを留守番に置いて、残りは馬車で遺跡へと向かう。
「あっ、ご飯はまだだよ」
馬車での移動中、ミボットの服の中からスライムが出てくる。
「服の中に入っているのか」
「うん。うっかり倒されちゃわないようにね」
……うっかり死ぬか?
イヴァルスフィアのスライムは球体型だ。目のように見えるモノや口のようなモノがあり、他種族にも感情表現を示す見た目は可愛い存在だ。
「大丈夫でしょ。だって、物理無効で状態異常無効でしょ?」
「詳しいね? でも、ビックリして魔法を使ってしまう人もいるの」
「あ~、確かに魔法は……」
スライム、全属性魔法攻撃に耐性がない。だからダメージが発生する魔法攻撃であれば直ぐに死んじゃうんだよな。
「スライム、確かに戦闘は不向きだけど、使役できているなら便利ですよね。解錠とか魔法の反応が無いものなら【盗賊】要らずじゃない?」
「そうなんですよ! 解錠だけじゃなくて、意思疎通もできるし、隙間から侵入とかもできるし……」
と、勢いよく話していたかと思うとピタっと止める。
「ごめん。1人で喋っちゃったね。スライムの話なんて面白くないよね?」
「いや。使役されたスライムがどんな事できるかは興味あるよ」
「そ、そうなんだ……スライムを見て一方的に使役している事を否定的に言わなかったのはサクリさんが初めてだよ」
スライムの話ができた事が嬉しかったのかミボットのテンションが高い。
「これで上位種のスライムを使役できれば戦闘も不安じゃないんだけど……無理なんだよね」
……あ~、上位種スライムは使役できないのか……いや、諦めるのは早いかも?
遺跡『メタールム武闘劇場』に到着した俺達。一応、『邪竜討伐軍』が攻略した後ということで、数は本来より少ないはずと考えている。それと同時にどんな場所だったか思い出す。
メタールムとは竜人族の中の鎧竜王を頂点とする灰色の鱗を持つ種族の名称。竜人族の中でも好戦的な種族で武闘劇場とはそんなメタールム族の闘技場のような場所だったらしい。
地下に展開されていて、天井は高く他の遺跡よりフロアが広い。ただ地下3階層までしか無かったはず。……まぁ、このメンツならカエディステラ以外は余裕なはず。
俺は短剣一本を入り口近くの木に突き立て、〈マーク〉を使用しておく。
「少し、数が増えてますね」
ゴブリンを仕留めたシャワールが報告する。
俺達もゴブリンを数匹倒す。しかし、確かに手応えがあった。……〈山の加護〉の効果でゴブリンが強くなっているのかもしれない。デンドロムに居た森のゴブリンの雑魚具合いを思い出すと、圧倒的に強く感じていた。
……〈山の加護〉を得たゴブリンを倒した事で、ゲームで言うところの経験値を多く得られれば良いんだけどな……。
実際のところはレベルが上がる際に得られる経験値はどのくらいなのか、数値として把握するには【学者】系の天職のスキル〈アナライズ〉を使用しないと判らない。だから、多ければ良いなっていう願望。……下へ行くほどにカエディステラは厳しくなるだろうしね。
ゆっくりだけど確実に進んでいる。ゆっくりな理由はカエディステラの歩く速度に合わせているからだけど。……重装備による弊害なんだよな、移動速度。
地下2階へと下り、確実に倒していく。
「シャワールさん、強いですね」
「ありがとうございます。ゴブリン相手であれば問題ないのですが、それでも数が多いと難しくて……」
確かに圧倒的な強さを誇って見えるシャワールだが、思えば1対1での戦いしか見ていない。
「わかった。なるべく敵がシャワールさんに集中しないようにするよ」
「ありがとうございます」
明らかに動きが悪く疲労しているのではないかとカエディステラの初陣を心配しながら奥へと進み、途中で罠を思い出す。
「ユッキー、この周辺に多分隠し扉か、隠し穴か……何か移動系のトラップがあると思う。少し調べてほしい」
「ん? わかった。ちょっと待ってて」
【曲芸士】になってから髪が伸びたユキサーラはお団子に髪型を変えている。……髪型が変わるユニットなら、隠しユニット扱いなのかな? いや……ゲームじゃあるまいし、誰でも気分で髪型くらい変えるのが普通か?
「あったよ、扉は見つからないけど」
ユキサーラは壁を凝視していた。
「サクリなら何とかするでしょ?」
「何とかするねぇ」
……誰も居ない事を祈って……〈テレポート〉。
「あ~、そんな感じなのか……アイルゥ、《氷精の叩尾》」
「お任せ下さい、旦那様」
プリュメリアが召喚されると頭上に向けて投げられた水属性範囲攻撃魔法により、巨大な蜘蛛軍は一瞬で糸まで凍らす。……昆虫は氷に弱い……多分?
糸でグルグル巻きにされた大きな塊を短剣で慎重に裂いていく。中の人を傷つけないように作業を続けると、予想通り唯一の生存者で知った顔の1人が入っていた。
俺は彼女を抱きかかえて来た道を戻る。
……〈テレポート〉。
「あっ、戻って来た」
「ユイ、彼女の回復頼む」
「この方は?」
「『邪竜討伐軍』にいた人だよ」
ユイディアの回復魔法のおかげで衰弱はしているものの、意識を回復した。水を飲ませて話せるか確認した後に彼女は自分から話し始めた。
「助けて頂きありがとうございました。わたしはアキラテナ=D=オーロライト。『邪竜討伐軍』に所属していたのですが、罠にかかりまして……」
弱々しく話す彼女は『竜騎幻想』においてまだ城の中しか動けない時に仲間にできるユニットの1人。職業は確か【狩人】だったはず。仲間に加わる時はレベル1だが、余計な事をしなくとも既にレベルクラウンになっていても変ではない。
「『邪竜討伐軍』はまだレイアール王国内にいる。追いかけるなら間に合うと思うけど」
「……サクリさん。意識は回復したけれど、まだ無理は厳禁です」
ユイディアに注意をされたが、行動方針は決めておきたい。
「どうする? とりあえず、俺なら一旦入り口に運ぶこともできる。ここで休むことも可能。アキラテナさんの意思を尊重します」
……馬鹿でなければ留まる事は死を意味する事くらいは判ると思う。
「もう少し時間を頂けませんか? わたしの希望は皆さんと共に行動する事です」
「わかりました」
……とは言ったが無謀だと思う。尊重するとは言ったが動けない場合は出口に強制送還する事も仕方ないと思っていた。
「あの、サクリウスさん。今の、どうやって?」
「あぁ、俺のスキルですよ」
……多分、〈テレポート〉の事を言っているのだろう。
「そうなんですね」
シャワールが言いたい事は何となく判るけど疑惑だ。俺が無詠唱で空間を移動した。ただ、それがユニーク職のスキルでないと不可能という事はない。【精霊術士】の空属性スキルでも可能な事は知っている。彼女もそれが過ったのだろう。
そんな雑談をしていたら、アキラテナが自力で立ち上がろうとして、ユイディアが手を貸していた。
それから直ぐに彼女は歩けるようになり、移動が遅い事もあって一緒に付いて来た。
戦える程、アキラテナは当然回復していない。多分、歩くので精一杯だと思う。ましてや〈山の加護〉を得たゴブリン相手なら厳しい事間違いないだろう。
アキラテナの護衛をしながらなので休憩回数も増えて移動速度は明らかに落ちた。なので、前を歩いていたシャワールを最後尾、入れ替わるようにカエディステラを前に移動させた。……最悪、マオルクスも戦力になるので戦闘力的には問題ないだろう。むしろ後ろから攻撃されて俺だけで守り切れる自信が無かった。
「シャワールさんの武器、刀だよね?」
「そうですよ。刀をご存知なんですか?」
多分、シャワールさんが言っているのは、刀という言葉を知っていた事だ。『竜騎幻想』に刀は存在していない。ただ、シャムシール、カトラス等の片刃の剣は存在していて片刃の剣を見ると普通はそっちを連想する。……いや、知っていれば全然違う代物なんだけどね。
「書物では知っていたけれど、実物を見たのは初めてで」
「なるほどです」
シャワール=イヴリヴィア。身長は160センチ越え、藍色の瞳に整った顔立ちの美少女。股上まである灰色の髪は高い位置でポニーテールに結っている。格好は鉢金、ハーフプレート、グリーブ、手は革製のグローブのようだ。大きくスリットの開いたワンピースに幅の広い腰紐を巻いていて、何となく微妙に和風をイメージさせる格好になっていた。
……当然、彼女は『竜騎幻想』におけるユニットではない。
「この刀はアズミーナがわたしのために作ってくれた刀なんです」
「何で刀?」
「わたしの天職が【刀術士】だからです」
……聞き慣れない天職。
「もしかして、ユニーク?」
「そうです」
なるほど。それなら〈山の加護〉を得ているゴブリン相手に戦えるのも納得だ。
「なるほど……成人して1つ目の天職?」
「もちろんです。まだ成人して半年くらいですから」
……そう、これが普通。俺達の成長速度が異常なんだよな。
でも、そうなると……彼女は転生者の可能性が高い。少し離れているとはいえ、転生者の話をするのは少しリスクがある。……まぁ、大丈夫なメンツではあると思うんだけど。
タイミングを見て確認して、もし転生者ならスカウトしないとだな。
少なくとも移動中に聞く話じゃないかと様子を伺っていた。
「あれ? 下り階段? ここって地下3階じゃなかった?」
「そうですよ。『メタールム武闘劇場』は地下4階以上ありますよ」
……あれ? 俺の記憶違いか?
「丁度良いですし、ここで一度休憩しましょう」
ミボットの提案で休憩に入る。……多分、アキラテナの様子が厳しそうだったからかもしれない。
「ちょっと、様子を見てきます」
「俺も付き合うよ」
好都合とばかりにシャワールが地下4階へ向かうところに付いて行く。声が絶対聞こえない距離まで歩いたところで尋ねてみた。
「シャワールさん。もしかして、転生者?」
「そ、そうです。どうして判ったんですか?」
「最初にユニーク職を賜る人は転生者の可能性が高いので、もしかしたらって。前世はどんな方だったのですか?」
「サクリウスさんも転生者?」
頷くと、彼女は少し考える。
「まぁ、もう前世の話だから構わないですね。……わたしの名は若宮彩華でした」
「……あのアイドルの?」
彼女の申告が事実であれば、俺は彼女をとても良く知っていた。
「彩華ちゃん……いや、シャワールさん。俺達の仲間に加わってほしい」
今の段階なら断られる事を承知で、まずは彼女をスカウトしてみた。
直ぐに断られると思ったのに、彼女は1分くらい考えた後、
「そうですね。ミボリンが仲間に加わるなら、御一緒しても良いですよ?」
「それは構わないですが、何故、ミボットさんを?」
……ミボットさん、ミボリンって呼ばれているのか……。
「ミボリン、もうソロ活動が限界に近いんです。彼女には仲間が必要だけど、断り続けていて……。でも、サクリウスさんならミボリン的に断らないと思うの」
……俺もそう思う。予知夢で見ているしね。
「大丈夫ですかね?」
「あたしも、サクリウスさんだったら仲間に入れて欲しい」
ミボットの急な出現と申し出に何処まで話が聞かれていたのかは気になったが、とにかく了承した。
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