旨味のない依頼だが、世話になっているので裏切れない
カエディステラが仲間に加わった日の翌日。俺は彼女を連れてナッツリブア冒険者支援組合に来ていた。
オーアホージャにある冒険者支援組合は、既に顔の広いヒミカンヒルデのおかげで普通に利用ができている。だから姫の紹介状は必要ないが、実はこの組合に限っては唯一エディスとして既に交流があり、姫様であることも承知の上で協力してくれる組合なのだという。
……ヒミカンヒルデ……何者なんだ?
「これが、冒険者カード……」
銀色の冒険者カードを眺めて喜ぶカエディステラ。数値を見せて貰うとやはり筋力と耐久力が高い。きっと幼い内から重いサリットを被って生活していたからかもしれないが、それだけじゃない気もする。
「そういえばサクリさん。ふと思ったのですが……」
「どうしたの?」
姫様という立場は、仲間以外秘密という事で普段から他のメンバーと同じように接するようにしている。
「その、城を出て合流した際に、直ぐにわたしの正体を見抜きましたよね?」
「あ~」
……やべ。言われてみればそうか……。
「声が一緒だったから……は無理があるよな。実は知っていたんだ」
「え?」
自分で言っていて理由としては無理があると思ってしまった以上、誤魔化せないと悟った。確かに声は一緒だったけれど、それは俺が姫様本人だと知っていたからと言われれば否定が難しい。……実際半信半疑だし。
「チームメンバー以外に口外しないよう約束してほしいんだけど、俺の天職の1つがユニーク職の【念動士】なんだ。そのスキルに未来予知がある。だから、会う前からエディスが仲間に加わる事は知っていたんだ」
……若干嘘である。仲間に加わる事だけは予知夢だが、前世の記憶によるものが大きい。
「凄い……天職がユニーク職なんですね」
「チームメンバーなら全員知っているけど、ユニーク職所持の事は秘密になっている」
「わかりました」
……表情が判らないけど、多分真剣に頷いているのだと思う。
「よし、それじゃあ用事も済んだし……」
「サクリさーん、エディスちゃーん」
「ヒミちゃん?! ……どうして冒険者支援組合に?」
「最初、船に行ったの。そしたら冒険者支援に行ってるって教えて貰って、追いかけてきた」
冒険者支援組合を出ようと思った矢先に現れたのはヒミカンヒルデだった。
「2人はこの後どうするの?」
ヒミカンヒルデとカエディステラがひたすら喋って主にヒミカンヒルデが満足した後に俺達に向けてそう尋ねてきた。……多分、彼女の目的はカエディステラの冒険者デビューを祝うためだと思われた。
「えーっと……?」
カエディステラが俺の方に顔を向ける。……やっぱり表情は判らない。
「エディスの装備を揃えに行こうと思っているんだ」
「あっ、それなら紹介した鍛冶屋じゃなくて工房に行った方がいいかも?」
鍛冶屋とは、工房で作られた鍛冶製品や商人が別の町や街で仕入れた鍛冶製品を販売していたり、フリーの【鍛冶師】がメンテナンスサービスを行っていたりする場所である。
「工房か……」
「もちろん、紹介するね!」
……この町にいる限り紹介状を利用する必要はないかもしれない。
「何処に行くの?」
「うーん。『サイカ工房』が良いと思う。エディスちゃんも知ってるでしょ?」
オーアホージャはドワーフの里であるベルクミネラーネの裏口からそれなりに近い。近隣の村と同じくらいの距離にあると説明を聞いている。
だからこそ、ドワーフが工房に直接鉄鉱石等を売りに来るらしい。そういった事情から、町は鍛冶が盛んになっている。
……前世と違って、何処でも穴を掘れば鉱石が取れる世界ではあるけれど、山の下が特に沢山いろんな鉱石が採れるんだよね。……では、何故誰もそこらに穴を掘らないか? 理由は掘った穴は深さにもよるけど、鉱石が出るくらいの深さであれば、アンデッドや魔獣が住み着いてしまうから。
「あ~、確かにあそこなら……」
「サクリさんに説明すると、あそこは家族経営なので彼女の秘密も守りやすいし、身体の採寸も奥さんがしてくれるから」
確かに鍛冶仕事をしている人が男性だと男性が採寸する事になるから冒険者とはいえ女性なら若干の抵抗はあるし、可能なら同性に計って貰いたいか。
「わかった。その工房ってどっち?」
「案内する~」
ヒミカンヒルデの後を付いて行く。町の北西の方へ向かうと鍛冶工房がチラホラと見え始め、比較的小さめな工房へと案内された。
ヒミカンヒルデは無遠慮に思い切り扉を開く。
「こんにちは!」
大きな声。でも、その理由は即理解。……うるさいのだ、中が。大きな声でないと聞こえないくらいに。
その証拠に、ピタリと金属を叩く音が止まった。
「いらっしゃい。どうした?」
「お客さん連れてきたよ」
「客?」
40歳半ばくらいの男性がヒミカンヒルデの相手をしている。多分工房長?
「なるほどな、エディスか。……おい」
呼ばれて出てきたのは、彼よりは少し若い女性だった。
「いらっしゃい、エディスちゃん。何を作るんだい?」
「えっと、サリットを付けたまま装備できるフルプレートアーマーとタワーシールド。あとは武器を……」
「武器は決めているかい?」
「……悩んでいて……」
「じゃあ、武器は後で考えましょうね」
フルプレートアーマーは主に【重戦士】が身に付けるような全身を金属鎧に身を包む装備の事。ただ、既製品だと鎧を装備した後に頭装備を身に付けるのだが、彼女はサリットを外したくないわけで。そして、タワーシールドというのは、身体全体を隠せるような大きさの長方形の盾。盾には覗き穴があって、盾越しにも前方の視界を確保できる設計になっている。……ちなみにどちらも重く、女性冒険者にはあまり好まれていない。
「それじゃあ、寸法を測りましょうね。どうぞ、こっちに」
カエディステラが連れて行かれて寸法を測っている間、手持無沙汰になるなと思っていたら背後の扉が開かれて人が入ってきた。
「ただい……いらっしゃいませ」
「アズミン!」
「ヒミちゃん!」
……なるほど、友達の家だったか。ただ、そのアズミンと呼ばれた子の後ろに2人いるのだが、お邪魔じゃないだろうか? ……いや、その2人もヒミカンヒルデと友人の可能性もある。
「あ、このお兄さんはサクリさん。あの大きな船の人」
「初めまして、サクリウス=サイファリオです」
紹介のされ方に苦笑しそうになるのを抑えつつ、印象に残らないように平凡な挨拶をする。
「初めまして。わたしはここの工房の娘でアズミーナ=サイカです。あと、こちらがわたしの用心棒で……」
「用心棒のシャワール=イヴリヴィアです」
「ちなみにあたしは、アズミーナさんの依頼を受けてきた冒険者のミボット=アルスーラです。貴方の事は気になっていたし、船も何度か見に行きましたよ」
そういって、彼女は手を差し出してくれて応えるように握手する。
……本物だ……。
ミボットも推しの1人である。前世の知識とゲームの仕様に捉われない育成手段で、もしかしたら最強になりえる可能性を秘めたユニットの1人。……『竜騎幻想』では最弱ユニットの1人ではあったけど。
「あれ? 元気ない? ……どうしたの?」
ミボットと握手した事に感激していると、ヒミカンヒルデがアズミーナの様子の異常に気付いた。
「実はね、『メタールム武闘劇場』の最下層に夜影鉱があるっぽいの」
「うん?」
アズミーナは話してみたものの、ヒミカンヒルデは意味が解らないようだった。
「えっと、遺跡の一番深い場所に欲しい鉱石があるの」
「え? 遺跡じゃ危なくない?」
……あっ、通じたっぽい。
「そうそう、危ないの。『邪竜討伐軍』って軍が入って戻って来たばかりらしいから、魔獣とかが少なくなっていると思って行ってきたんだけど、それでも3人じゃ無理っぽくて」
……無茶をするなぁ。
遺跡『メタールム武闘劇場』は『竜騎幻想』でも戦場マップになっているメインシナリオで訪れる場所。竜王の時代にて鎧竜人達の修練場として使われていた場所。ゲーム通りの展開であれば、ムッチミラはそこで新たな剣を手に入れる。
そんな場所だから割と高レベルの敵が結構いる。適正レベルでもしんどいのに、NPCが向かうって自殺行為だと思う。
おまけに、夜影鉱という鉱石は知らない。『竜騎幻想』では出て来ない。一般的な鉱石でもないので、珍しい鉱石なのかもしれない。
「それで、出せる金額の都合上でカッパー級の冒険者に依頼してみたんだけど、割に合わないから無理って言われちゃって」
……NPC6人で攻略も無理ゲーである。記憶が確かなら、推奨は18人くらいだったはず。
「それで一度戻ってきたところなの」
「無理も無い。多分知っているとは思うけれど、あそこは普通ブロンズ級以上が挑戦する遺跡のはず。いくら敵の数が減らされているとは言ってもカッパー級じゃ自分達ですら生きて帰って来る保証はできないはず」
「サクリさん、知ってるの?」
ヒミカンヒルデの問いに頷く。
「知っていると言ってもすごく詳しいわけでは無いけど、全員がスーパーレア職でもないと6人で攻略は厳しいんじゃないかな。実際、『邪竜討伐軍』もウルトラレア職も連れて18人以上で攻略したはずだよ」
「さすがにシャワさんだけじゃ厳しいね」
「ねぇ、サクリさん。何とかならない?」
ヒミカンヒルデのお願いでも、正直難しいんじゃないかな?
「確かにそれなら受けて貰えない……そんなに大変な場所だったなんて……」
遺跡の難易度は公表されていない。それでも、レイアール王国を主軸に活動している冒険者であれば、その難易度は把握していると思う。
「ねぇ、サクリさん。どうしても、どうにかならないかな?」
ヒミカンヒルデが上目遣いで俺を見る。……言葉こそ丁寧だが、これは恐らく命令だ。そして俺には彼女の命令を聞くだけの恩義がある。
「護衛、お願いできませんか?」
そう言ってきたのはミボットだった。護衛対象はミボットか……。
「報酬はそのカッパー級の報酬分と、目当ての鉱石以外の鉱石。その他発見したアイテム類。倒した敵の魔石。……それでも良ければ仲間に相談してみるけど」
現実問題として、ブロンズ級の報酬で引き受けるなら解る。こっちはシルバー級冒険者なので、それでも小遣い稼ぎくらいで受けるとは思う。ただ、ブロンズ級の難易度をカッパー級で受けると言うのは本来ありえない。
……絶対に何か言われるなぁ。
仲間に相談する際の苦言を想像すると若干萎える。だとしても、ヒミカンヒルデには結構な恩義があるし、何より護衛対象が推しであれば引き受けるべきだろう。……直接接して思っていたのと違う性格だったら落ち込みそうではあるが。幸い、今のところはその可能性は低い。
「それで問題ないです。あたしが必要としているのは夜影鉱だけなので。移動時間も考えて、出発は明日の朝にしたいのですが、可能でしょうか?」
「賛同してくれる仲間が後5人いれば問題ないですよ」
「お願いします」
……「仲間を説得する時間が必要だ」という副音声に対し、「何とかして下さい」という副音声が返って来た。
【鍛冶師】のスキルも他の生産系天職のスキルと同じく、材料が揃ってれば一瞬で製造される。もちろん、技量が足りて無ければ失敗するわけだが、作業時間が圧倒的に短縮されるのは天職の恩恵と言っても過言じゃない。
だからこそ、カエディステラの装備はオーダーメイドのはずなのに1時間も掛からずに完成して帰ってきていた。
「……というわけで、同行してくれるメンバーを探しているんだけど……マオ、ユイ、ユッキー、ユッカンも協力してくれない?」
4人の視線が痛い。ちなみに、カエディステラは強制参加である。
「仕方ないですね。確かにヒミさんのお願いは断れないですよね。ウチの方針的に」
そうユッカンヒルデの言葉にみんなが同意してくれて安堵すると同時に、思い出したことがあって、遺跡『メタールム武闘劇場』の罠に囚われている人がいないかと不安になった。
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