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チーム入り希望の【機工師】イクミコットの推薦と承諾のお礼

 ピザを食べてから2日後。船にヒミカンヒルデともう1人、計2名で俺の元に来た。もう1人も4人で来ていた時の1人だと記憶にあり、雰囲気的にお客として遊びに来た感じでもなかった。


 俺は2人を甲板で運営されているマユシェの飲食店のテーブルを1つ占拠し、3人でテーブルを囲む。


「えーっと、今日はどうしたの?」


「肝心な事を聞き忘れたの。サクリさんの冒険者チームに入る条件について聞いてなくて。もし紹介しても条件に当てはまってなかったらサクリさんにも紹介した人にも申し訳ないから」


 ……それはごもっとも。


「条件は、とっても言い難いんだけど女性である事なんだよね」


「あっ、サクリさんの趣味でしょ?」


「……違うわ!」


 俺としては半々で良い。いや、今となっては不可能だけど旅立った時点では1人旅で良かったんだよ。


「えっと、他の連中が女子だけだからね。変な男招いてトラブルが発生する事を避けたいんだってさ。後は俺に対して仲間に加わりたいって言った人。他のメンバーに仲間入りを打診したり、口添えを頼んだり、リーダーは誰かと尋ねたり……そんな人はダメなんだとさ」


「ほっ……じゃあ、わたし達はセーフだね!」


 ヒミカンヒルデの言葉に偽りはない。確かに彼女達は船にいる俺をチームのリーダーだとは言っていないのにリーダーだと呼んでいた。多分、他の連中の反応を見て判断したんだろうけど、未成年の割によく観察していると思う。


「実はね、イクミンを推薦しようと思って。条件的にもバッチリよね?」


 身長は平均的なヒューム女性の155センチくらい。肩に掛かる程度のミディアムボブの赤髪に灰色の瞳。一番の特徴は冒険者に少ない大きな眼鏡。……まぁ、実際に目が悪いわけでなく、魔道具や魔器かも知れないけどね。


「あれ? イクミコットさんってレア職なんですか?」


「いえいえ、違いますよぉ。あたしは【機工師】です」


「確かにウチはノーマル職で入っている人は多いけど、何故?」


 ウチには何故か多いけれど、基本的にノーマル職の冒険者は苦難の道なはずなんだよ。




「今、職無しなんですよ」


「いや、だから冒険者っていうのは短絡的過ぎるし、何より冒険者って危険だよ?」


 彼女は周囲を見回し、近くに客が居ない事を確認した上で声量を落として話し始める。


「実は前職が兵器研究室ってところで、城勤めだったんですよ」


「あ~」


 説明されなくとも想像はできる。


 【機戦士】の鎧であるギアアーマーや【駆戦士】のグリーブであるギアブレイドも元々はユニーク職の神器の劣化レプリカな量産品である。元々神器や魔器だったそれを手持ちの技術で再現しているのが【機工師】である。


 ユニーク職は世界に1人しか存在しないと言われている。国であればまだ知られていない神器生成能力を持つユニーク職の情報を仕入れ、レプリカの製造を試みているかもしれない。


 そんな知識のある公務員職の彼女が仕事を辞めた。国内では監視の目があって雇う側も雇い難い事は想像できる。ただ、破格の報酬を貰って仕事をしていたと思うんだが、何故辞めたのかが理解できない。


「正直、再就職は厳しくて……国を出て行こうかなって考えていた矢先にヒミちゃんから聞いたんですよ」


「なるほどね」


「でも、残念ながら前職勤務時であればお手伝いできたと思うんですが、無職のあたしには何の権限も……」


 ……ですよねぇ。まぁ、命あっただけでも良かったんじゃないかと。機密保持のために口封じなんてありそうだからなぁ。……いや、あるな。


「もし、話せるなら辞めた理由も教えてほしいかな」


「あたしが仕事を辞めたのは……辞めさせて貰えたのはと言い換えても良いのですが、あたしが関わっていたのが、【機戦士】用のギアアーマーのカスタマイズ業務と研究だったんですよ」


 ギアアーマー。【機戦士】専用の全身鎧。フルプレートアーマーと違い魔石エネルギーによる動力アシストがついており、城壁破壊もこなす出力を誇る。その外観は人型の巨大三頭身ロボである。


「ですが、あたしがメンテしているギアアーマーが使われた形跡がないんですよ。意味ないと思いません? 使う機会が無いわけでないのに、傷1つ増えない。国民を守るために整備し、開発しているギアアーマーなのに……」


「……イクミン……」


 悔しそうに話すイクミコットにヒミカンヒルデが心配で慰めようとしたが言葉が続かないようだった。


 俺の知る『竜騎幻想』の設定通りであるなら、納得の話だった。




「よく解った。けれど、やっぱり冒険者になる必要はないんじゃないか? 国外へ行って【機工師】として働けば良いと思うよ?」


 似たような説得はカナディアラやユッカンヒルデの時にした記憶がある。国から逃げるだけならば危険でいつ死んでもおかしくない冒険者になる必要はないのではないかと。


「……多分、転職先の方にご迷惑を掛けてしまうと思います。あの、やっぱりダメですか? あたしなら船の動力炉のメンテナンスも可能ですし、皆さんなら迂闊に刺客を仕向けるような真似もしてこないと思います」


 ……あ~、やっぱり考えていたか。


「刺客……ねぇ」


「冒険者の方なら想像できると思いますが、多分、他所の国に行っても仕事は困らないとは思うんです。ですが、レイアール王国としては自国の技術と人材が流出してしまうのは避けたいと考えるんですよ」


「よく無事に辞めて来れたね」


「それはお父さんが室長だからと思う」


「……あ~」


 会話に入れなくてヒミカンヒルデがソワソワしている。……済まんな、難しい話で。


「多分ですけど、国内にいる限り自分の技術で貢献できることはないと思います。そして、海外であっても一ヶ所に留まり続けると、受け入れて下さった方々にご迷惑を掛ける事になると思うんです。ですから、サクリさんのように大陸を巡るタイプの冒険者になった方が結果としてお世話になった方々に還元できるんじゃないかと思うんですよね」


 ……そう言われるとそうだなぁ。他の冒険者チームではノーマル職が敬遠されるだけでなく、そもそも拠点となる冒険者の店や借家を中心に活動するタイプが多数派だから、結果危ないってことになるのか。


 正直、俺としては入ってくれても構わない。むしろ助かるまである。


「仮にウチに入ったとして、冒険者になった以上、天職のスキルを使用するだけというわけにはいかない。急襲に耐えられるように普段から戦闘訓練もしなきゃならないし、レア職以上のメンバーが稼いだ報酬が分配される代わりに、製作した武器や防具を譲って貰う事にもなる。冒険者として役割と相互協力が必要になるけど、やれる?」


 今まで研究室で働いていたような環境では無くなるよと、彼女の覚悟を確認した。




「やります。やらせて下さい!」


 彼女は立ち上がって頭を下げる。……当然ながら近くに客が居なくとも視線はこちらに集まってしまう。


「わかった。後はみんなに承認を得られればチーム入りだけど、全員揃うのは夜の夕飯時になると思う。……まぁ、大丈夫だと思うよ」


「良かったね!」


 本来なら気が早いからってツッコミいれるところだけど、これまでの経験からガッカリする事もないだろう。


「ちなみに戦闘経験は?」


「無いです……ちなみに運動も苦手ですけど……いけますかね?」


「「……がんばれ!」」


 ……こればかりは本人の努力次第だよなぁ。ただ、近接武器は不向きかも?


「あっ、店やる予定はある?」


「お店ですか? ……それは無いですけど……工房は欲しいですね。できれば動力炉の近くが理想ですけど」


「倉庫のあるエリアか……ちょっと相談かな。部屋割りの時にでも一緒に……」


「いいなぁ、船で暮らせるんだぁ」


 ヒミカンヒルデはイクミコットを羨望の眼差しで見ているけれど、多分乗らない方が平和だし、船に乗るなら観光船の方が楽しいと思うんだよな。


 ……そんな感じで2人は一度戻って貰って、夕飯時にイクミコットだけ船に来て貰った。


「……というわけで、彼女を仲間に加えてあげたいと思うんだけど、反対の人いるかい?」


 反応なし。やっぱり了承されたか。


「イクミコット=フィリアス。天職は【機工師】です。船の動力炉のメンテナンスや搬入用のエレベーター、神器レプリカの作成など貢献できるかと思います。宜しくお願いします」


 その日の夜から彼女は正式に仲間入りを果たした。




 翌日は朝からイクミコットの日用品の作成や準備が始まった。町での買い物は充分顔見知りということで何とかなり、ヒミカンヒルデが紹介してくれた鍛冶屋でも武器のメンテはして貰えた。ナッツリブア冒険者支援組合での登録、更新もスムーズに行われ、町の中だけでなら不自由のない生活は手に入れたかもしれない。……そう、町限定である。


 残念ながら元国の兵器研究室の研究員だったとしても当然ながら国内に影響はない。俺達もずっと町にいるわけにもいかず、どうしたものかと考えながら午前中を過ごしていた。


「サクリさーん、こっち来て―!」


 いきなり来たヒミカンヒルデに強引に引っ張っていかれたのは彼女の実家の冒険者の店。


「お昼には少々早いけど……食べて!」


 そう言って出されたのは、例の美味しいピザ。


「それでね、それを食べ終わったら付き合って欲しいところがあるの。ちょっと時間掛かるけど……お願い!」


「いや、いいけど……」


 ピザ代くらいの仕事なら引き受ける。それだけ彼女には恩もあるからな。


 ピザを食べ終えると、「いってきまーす!」と厨房に向かって声を掛けると、彼女は一頭の馬を連れてくる。そして俺の目の前で乗ると、


「後ろに乗って!」


「いいけど、何処まで行くん?」


 彼女はそれには答えず、馬を勢いよく走らせて町の外へと出た。




 ……驚いたのは、馬を走らせることに慣れている事。それと、向かった場所が山。ドワーフの里だった事。本来異種族の里へは許可なく立ち入りを禁止されているものなのに、彼女は顔パスで走り抜けて、とても珍しいドワーフの里を通り抜けて山を突っ切った。


「ごめんね。ベルクミネラーネの里見たかったよね? でも、ゆっくりしている時間の余裕がないからまた今度ね!」


 馬の体力増強と移動速度アップの魔道具で強化されているとはいえ、かなり無理して走らせているのは流石に判る。


 全力疾走ではないとはいえ、更に3時間走らせて王都まで入ると厩舎に馬を預けて移動する。


「目的地を言わずに連れて来てごめんね。目的地を言葉にするわけにはいかなかったの」


 そう言ってヒミカンヒルデが連れてきた場所というのが、お城の離宮だった。

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尚、5日間連続投稿1日目+本日中にあと2回投稿します!

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