山に隔たれた港町オーアホージャのヒミカンヒルデ
アックアイル王国へ向かっていた時と違って、今の船旅はかなり快適だ。〈海の加護〉を得ている海人族やサハギン族のみによる襲撃はあるものの返り討ちにしていたし、船内での仲間同士で作られたコミュニティによる娯楽が退屈な船旅を面白いものにしていた。
もうすぐレイアール王国へ着くといったタイミングでマオルクスの一言により転生者が集まって情報共有の場が設けられた……何故か俺の部屋で。
「それで、レイアール王国ってどんな国なの?」
椅子に座ると当然のように幼女姿のマオルクスは俺の膝の上に座る。……慣れとは恐ろしいもので、彼女がその姿の時は何故か自然と受け入れてしまっている。本来、もう幼女姿になる必要もないんだけど、彼女自身がその姿を気に入っているようだった。
「一応、騎士団の国ってことになっているかな」
ゲスト用の椅子にはヒカルピナが座り、サキマイールとナオリンはベッドに腰掛けた。
「一応?」
「公式では名ばかりの騎士王が治める国で、天職が【竜騎士】なのに保身ばかり考えて戦地へ訪れることはない。損得勘定だけで動く屑の代名詞みたいな人になっている。……まぁ、そうなってしまったのにも理由はあるらしいけど……男キャラだったから、それ程詳しくはない」
ナオリンの問いに答える……そういえば、彼女は少し『竜騎幻想』を知っていたっけ?
他にも、4つの騎士団や男尊女卑の国ということ、術士差別のある国であることも説明している内に呼び出され、結局甲板に戻って来る。
「あ~、どうするか。ユールオリンデはレイアールに行った事あるんだよね? プエルトリトス以外で、この船が停泊できそうな港ってあるかな?」
「あるよ。……泊めて良いか聞いて来る?」
「頼んで良い?」
レイアール王国が視界に入る距離なので彼女に頼む。ちなみに港湾都市プエルトリトスを避けたのは『邪竜討伐軍』が停泊していると予想できていたからだ。
許可を得て戻って来たユールオリンデの誘導の元、着いた場所の景色に心当たりがあった。
「そっか、ここってオーアホージャか」
何とも日本語であれば微妙なネーミングセンスの町ではあるが、ここは仲間になる男ユニットが存在しない山に隔たれた港町。ここならば、『邪竜討伐軍』が来る目的もない。
……ふと、甲板から見下ろすと船を見に来た住人達に包囲されていた。
港町オーアホージャに停泊してから1週間が経過した。その1週間で多くの仲間達は情報収集をしながら休みを満喫していた。
一方俺はというと、今後の予定を立てるためにすっかり会議室を兼ねるようになった俺の部屋にアオランレイアとクレアカリン、リリアンナの4人が集まっていた。……今思うと、俺の部屋だけ異常に広いのは部屋を会議室と兼ねるためではないかと疑いたくなる。
「まずは長いお休みを頂き、ありがとうございました。移動中の海人族との戦いや水棲系の襲撃者を撃退することで、戦力もだいぶ増加しました」
〈海の加護〉所持者と戦っただけに経験値も多く貰えて、サティシヤが【呪銀騎士】、アミュアルナが【氣功拳士】、レイアーナが【歌唱士】、ハルチェルカは【明白騎士】、メアリヤッカが【探検家】へと進化した。このメンバーと先に進化したクレアカリンとレイアーナは普通に装備やクエスト条件を整えてレベルクラウンにするというだけで進化する最終天職に到達した。……一応、その先が存在するモノもあるけどね。
他にもナオリンは【双剣士】、ユールオリンデは【ハイマーマン】、アサミラージュは【海賊】へと進化している。
「そろそろチームとして本格的に稼働を開始しても良い頃合いかもしれません。サクリさんはこの国で活動するに辺り後ろ盾になって頂ける方に心当たりはありませんか?」
……無くはない。だけど、現状ではどう頑張っても接点を作れない。
「サクリさん達はその辺の情報収集を。生産職の皆さんには開店して貰うのも良いと思います。それと、これはご報告です」
「ん?」
「流石に休みは充分取りましたので、サクリさんの傍を離れる事に後ろ髪引かれる思いですが、お役目のために明後日から皆とマサダシュタールのハルトエルツ城に行ってまいります」
「そっか、役目も大変だけど、気を付けてゆっくりしてきてね」
……ん?
アオランレイアに返事をしたのはクレアカリン。多分俺に向けて言っていたと思うんだが?
「サクリさんのことは他のみんなでしっかり支えますので」
リリアンナも笑顔で送り出そうとしているのだが、明らかに圧を放っているような? もちろん、ここで俺が口を挟もうものなら悪化するから黙るけれども……。
「はい、留守の間よろしくお願いしますね。……サクリさん、居ない間寂しいかと思いますが、なるべく早く戻ってきますね」
……この子、素は泣き虫なのに全くそう見えないとは頑張っているんだな……。
予告通り、その2日後にはアオランレイア達5人はマサダシュタールへ向けて出発。同日に船内でも店が開店し町民の方々を甲板までだが招き入れた。お客様には好評で町内でも噂になっていると好調な始動となった。
オーアホージャの町にはドワーフがヒュームに変身する事無く頻繁に現れる。それはここからドワーフが暮らすベルクミネラーネの里まで馬で2時間くらいの距離だからであり、逆に里にも許可の得ているヒューム族が割とよく居るらしい。
船の評判はどうやら里に暮らすドワーフ達の耳にも入っているようで、買物客の中にもチラホラと見かけていた。
ドワーフ族。平均身長140~150センチくらいの頑強な種族で噂によるとドラゴンに踏まれても骨折1つしないと言われている。特徴は男女共に樽型体型で男性は髭、女性は髪を成人の証として切らずに伸ばし続けている。
店をオープンしたばかりの頃は物珍しさで客が溢れ、自然と女性陣総がかりで手伝う事になった。男だからというわけではないが、少なくとも俺は戦力外と言われて用心棒のようにトラブル発生するまで客の様子を観察することになった……なんか申し訳ない。
「お兄さん、何してるの?」
「お仕事」
女の子の声に投げやりに答えて、声の主に視線を向けて……思ったより幼くない事に驚く。
膝まである明るい灰色の髪をツインテールにしていて、童顔で深い灰色の瞳。愛嬌のある元気なロリ声……しかし、160センチくらいの高身長に胸の膨らみ……どう見ても未成年ではないよな。
「国外から来たんだよね?」
「そうだよ」
「やっぱり! ねっ、思った通りだった!」
パッと見て女子4人組というのは判った。ただ、印象に残る4人だった。
「わたし、ヒミカンヒルデ。この中では最年少の15歳! ……お兄さんは?」
……未成年かい!
「俺はサクリウス」
「わたしはイクミコット……成人してます」
「その……エディスです……成人してます……」
「ユミリアです。見ての通りドワーフで、大人です」
1人はドワーフ、エディスと名乗った少女はサリットと呼ばれる兜を被って素顔を見せず……厄介そうな女子に何故か付き纏われてしまった。
……普段から女子に囲まれているから慣れていると思うだろ? ……残念。適正ある人は女子に囲まれても平気だし、無い奴は一生慣れることはない。……特定の誰かに対しては別として、あくまでよく知らない女子の話。よく知らん異性に囲まれるのはガチで怖いと思う。
もちろん、そんな事を考えているとは思わせないように振る舞って、女子4人を相手した結果、妙に懐かれた事の代償として町の人達数名と顔見知りになり、町に対して詳しくなり、お勧めの店も教えて貰えた。……どうやら、ヒミカンヒルデは町の人気者のようだ。
数日間4人は一緒に現れては連れ回されたのだが、ピタっと姿を現さなくなった。多分、成人している他3名が仕事をしているのかもしれない。
連れ回されている間はただ遊んでいたわけでは無く、記憶を総動員してコネになりえるNPCを思い出していた。
……腹減った……あっ、冒険者の店か……。
1人だったし、ヒントを求めて町中をフラフラしていたらアイアン級冒険者の店から、とても良い匂いがしてきた。
「そういえば、この“待ちわびた仲間が会いに来ている”亭って、お勧めって言われたっけ」
ふと思い出して中に入る。
「いらっしゃいませ……あっ、サクリさん!」
「え?」
昼の冒険者の店だが客でいっぱい。ウェイトレスとして働いている未成年のヒミカンヒルデ。
「さぁ、こっちの席にどーぞ! ……えへへ、ここわたしン家なの! 待ってて!!」
注文も聞かずに厨房へ向かって、暫くすると彼女が料理を運んできた。
「“待ちがいる”亭名物豚肉コーンピザだよ! 食べてみて?」
「……パクッ……モグモグ……んまっ!」
「でしょ! この1枚はお店からのプレゼント。追加注文お待ちしてま~す♪」
流石にタダ飯だけ頂いて帰るというわけにはいかない。実際美味しいし、最終的にラージサイズのピザを3枚食べた。……唯一、店の屋号の略し方だけが気になっていた。
食べ終わった客から仕事へ戻っていく。この冒険者の店のピザは大人気で冒険者じゃなくても食べに来るとは事前に聞いていた。だが、ここまで大盛況とは思っていなかった。
「サクリさん、口に合わなかった?」
お手伝いが一段落したヒミカンヒルデは向かいの席に腰を下ろす。
「そんなことないよ」
「でも、すっごく眉間に皺が寄ってるよ?」
ピザが美味しいのとコネの悩みは別問題。悩みは顔に出ていたみたいだ。
「……ちょっと聞くけれど、この町に王族って住んでないよね?」
「いないよ」
「……ですよねぇ。この国で働く上での後ろ盾が欲しいんだけどね……どうしたものか……」
「レイアール出身の冒険者を仲間にしてみるとかは?」
「……難しいかもなぁ」
答えはどうにもならない。……そんな事は聞くまでもなく子供に尋ねる話ではなかった。
レイアール王国の王族は厳しい環境にある。まず、王様は男性でなければならない。そして、王様以外の王家の男は国外へ婿養子に出される。つまり、王族の男は王様とその息子しか存在しない。女は別に嫁ぎ先が縛られる事は無く、求められたら他国の王族へ嫁ぐ方が幸せだと言われている。だから、国内に極端に王族は少ない。
「うーん……サクリさんになら、心当たりがあるから聞きに行ってみる! 1日時間頂戴!」
そう言うと呼び止める間も無く、彼女は店の奥へと行って戻ってこなかった。
正直、国内のアイアン級冒険者を仲間に加えるという案は厳しいと思う。冒険者の中に好んで国内に引き籠っている人はいないので、快適な船旅がセットであれば国内限定で活動する理由がない限りは喜んで入ってくれるとは思う。
でも、ウチのチームは誰でも入れるというわけではない。少なくとも俺の知る条件は女性でなければならず、リーダーが俺だと見抜いて最初に声を掛けられるくらいの観察眼が必要だと考えているっぽい。……そんな奴を現地で即捕まえるのは不可能だし、そもそも俺自身がレイアール王国内で動くためのコネを得るために仲間に招くという事をしたくなかった。
王族に心当たりはある。この国の第一王女は『竜騎幻想』でのユニットである。ただ、『邪竜討伐軍』と違い城に入る機会なんてあるわけがない。……実質不可能というわけだ。
正直、誰を仲間にすれば良いのか、または誰がなってくれるのかが判らなかった。
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