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あの時、一番好きだった君に。  作者: 三嶋トウカ
大学3年 秋

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第33話:旅行のお土産_2


 クマのキーホルダーを貰ってから数日。その日のうちに、しっかりと摩央にはメールで報告していた。いつものことというか、通過儀礼というか。


「航河君に、旅行のお土産もらった」

『へぇ、なにもらったの?』

「ちっちゃいクマのキーホルダー。イニシャル付きの、可愛いやつ」

『なにそれ良い感じじゃん』

「まさかキーホルダーもらえるなんて思わなかった」

『千景、すぐ物失くすし、携帯もどっか行くから、金具変更してストラップ代わりに携帯へつけておいたら?』

「え、それだと目立っちゃうじゃん」

『誰も航河君からもらった……なんて気が付かないでしょ? すぐ目にもつくし、良いと思ったんだけどなぁ』

「航河君には『みんなには内緒』って言われてるし、鍵がちょうど良いと思うよ?」

『……イニシャル付きなら、航河君とお揃いだったりして』

「まさか! こんな可愛いのつけないでしょ?」

『わかんないよ? 千景とお揃いだから、みんなに内緒って言ってるのかもしれないし?』

「それは都合の良すぎる気がするし、お揃いだったらビビる」

『確かに』

「理由わかんないもんね」

『さすがにないかぁ』


 摩央は面白そうだった。気持ちはわかる。逆の立場だったら、私も面白がっていただろう。


 今日もバイトへと向かう。ホールにもようやく早瀬さんの代わりの社員さんも来たが、お店は忙しいままだった。キッチンもホールも、どちらもこなしていた佳代さんが抜けた穴は大きく、それを埋めるべくしてキッチンにも新しい人が増えた。高城晴臣≪たかぎはるおみ≫と尾西祐輔≪おにしゆうすけ≫だ。


 祐輔は、他にもお店を掛け持ちしているフリーターの男の子だ。二個下だが、割と大人っぽい。私のことは『千景さん』と呼んでいる。割と懐いてくれているようで、いつもホールの様子を聞いてきて、困っていたら助けてくれる凄く良い子である。

 オミさんは、キッチンの社員さんだ。新しくできた店舗のオープニングスタッフを経たあと異動してきた。……そう。あの早瀬さんがいるお店である。早瀬さんと仲が良かったようで、『早瀬さんから聞いたよ? 君が千景ちゃんね。……なるほど』と、初対面の際に意味深な言葉をかけられた。何事もないと良いなと、本気でそう思っている。オミさんの本名は晴臣なのだが、名前で呼ぶにしてもなぜかみんな『ハルさん』ではなく『オミさん』と呼ぶ。店長が『オミ』と呼んでいただろうか。ついでにモデルみたいにかなり整った見た目をしている。それは、就職先を間違えたのではないか? と思うほどに。

 キッチンの一部はホールから見えるようになっているので、オミさんがその場所で料理をしているときの、お店に来た女の子たちの視線が凄い。


 見かねた店長が、ホール側から開閉可能なブラインドをつけた。


「マジで助かった。視線が気になって、飲み物もあそこで飲めなかったもん」

「いや、あれは仕事し辛いと思ったからさ。もっと早くつければ良かったね、ごめんね」


 オミさんから感謝の言葉をもらったが、お客さんからは『あのブラインド、閉めっぱなしなんですか?』と質問を受けるようになった。……気のせいか、女性客が増えた気もしている。仕事をしているとどうしても気になってしまう、チラチラとブラインドの向こうを気にする女性。オミさんだけではなく、みんな気になっていた。


(あれは……)


「すみません」

「はい、どうされましたか?」


 私の視線に気が付いたのか、女性が声をかけてきた。


「キッチンの様子って、見えたりしないんですか?」

「そうですね、当店では、とくにそういったことは……」

「前は見られましたよね? 作っている姿を見られると、料理も楽しく食べられると思うんですけど」


(……アナタは、そうかもね。……でもね?)


「あのブラインドを開けると、中の人間が落ち着かないそうなんです。仕事の効率も悪くなると。……外から見えるのが、すごーく、嫌だったみたいで。だから閉めているんですよ。……でも、なんででしょうね? 仕事していたら、そんなに気にならないかなと思ったんですが。……とくに、人の視線、とか。……もしかして、視線じゃないものがあったのではないかと、本社で問題になったようで、閉めっぱなしにするよう決まったみたいですよ」

「……そうですか」


 女性はバツの悪そうに携帯を鞄へとしまって、そそくさと席へと戻っていった。


 ――私は知っている。この女性が、オミさん目当てでこのお店に来ていることを。そして、何度もオミさんの許可なしで、あの窓越しに写真を何枚も撮っていたことも。


(肖像権というものがあるのだよ)


 ちょっと、意地悪だったかもしれない。彼女のソレを知っていて、私はあえてニッコリと知らない振りで答えた。でも、オミさんは、お客さんだからと強く言えずに困っていたんだ。お店の人間は、私だって守らせてもらう。


 ブラインドを取り付けても、客足が遠のくことはなかった。お店として、きちんと機能している。そのことに少しだけ安心した。


「千景ちゃんお疲れ。飯食お」

「お疲れ。うん、そうしよっか」


 だんだんと落ち着いた十五時ごろ、上着を羽織り航河君とふたりで遅い昼食をとる。ただの短い休憩は休憩室でとるが、食事休憩はお店の中の一番奥まった席でとっていた。最奥の席には既に祐輔がいて、三人で同じテーブルに座った。

 航河君はお客さんが近くにいるときは『千景さん』と呼ぶが、いないときは『千景ちゃん』と呼ぶようになった。これが仕事中かそうでないかの違いなのだろうか? あまり、変わらない気がするが。


「航河さん、千景さん、お疲れさまです」

「お疲れ」

「お疲れさまー」


 うちは賄いが出る。内容は決まっていなくて、日替わりランチセットを食べるときもあるし、メニューから好きなモノを選んで頼むときもある。オリジナルの料理を適当に作ってくれたり、メニューにはない料理でも、材料が揃っていれば作ってくれるときもある。忙しくなければ。 キッチンの人が作ってくれるから、当然美味しい。無料ではないが、格安だ。

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