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あの時、一番好きだった君に。  作者: 三嶋トウカ
大学3年 秋

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第34話:旅行のお土産_3


 「お、祐輔今日はオムライス? ホワイトソースかかってるの美味しそう」

「自分で作りました。航河さんと千景さんは、オミさんに依頼中ですか?」

「俺はたらこクリームスパ頼んだ」

「私、海鮮のオイスターソース炒め」

「千景ちゃん、海鮮好きだよね」

「美味しいもん。特に、エビ」

「エビ美味しいですよね。俺も好きです」


 祐輔と航河君と喋りながら、料理が出てくるのを待っていた。


「お待たせいたしました」

「わぁ、美味しそう! めっちゃ良い匂いする! オミさんありがとー!」

「ほんと旨そうだよなぁ。オミさん、あざっす!」

「あいよー」


 目の前に置かれた出来立ての料理は、とても美味しそうな匂いを漂わせていた。お腹が鳴る。早く食べたい。


「「いただきまーす!」」


 航河君と声が揃った。早く食べたい気持ちは、同じだったようだ。


「あー、美味しい! 幸せ!」

「パスタも美味しいよ。さすがオミさんだわ」


 私も航河君も、フゥフゥと熱々の料理を冷ましながら食べ進めた。


「あ、彼女にメール返さなきゃ」


 航河君がズボンのポケットから携帯を取り出した。


「航河さん、やけに可愛いクマつけてますね」

「……え?」


(クマ? 可愛い……?)


 どこかで聞いたフレーズ。だが、それ自体はありふれたものだ。


「でしょー。元々キーホルダーだったんだけど、上の部分付け替えてストラップにした」

「邪魔じゃないですか?」

「邪魔じゃないよー。むしろちょっとデカめだから、携帯鞄の中で探すとき便利」


 ――つぶらな瞳に、爽やかな空色のクマ。【K】と書かれたハートを抱えている。脇には、夜空の色をした星型のチャームが添えられていた。


 航河君の携帯についていたそれは、私が航河君にもらったクマのキーホルダーと、色とイニシャルは違えどそれ以外はまったく同じものだった。


(え……嘘……。航河君も同じ物持ってたの……?)


 想定していなかった事態に、頭が混乱する。同じ物ということは、私と航河君はお揃いの物を持っているということだ。こんな可愛いものを、航河君も自分用に買っているなんて、まったく想像もつかなかった。


(なに? え? えぇ? 摩央の言った通りなの? は? え?)


 思わずジッとそのクマを見つめてしまう。そのうち穴が空いてしまいそうなほどに。


(……いや、いやいや! どれだけ見ても、色とイニシャル以外私がもらったクマにしか見えない……!)


「さすが石に、男友達の前で買うのは恥ずかしかったから、こっそり買ったんだよね、あはは」

「女の向けっぽいデザインですもんね。可愛いですよね? 千景さん」

「……」

「千景さん?」

「えっ? あ、うん! 可愛いね、そのクマ」


 ……言えない。まさか、同じクマの色違い、イニシャル違いを持っているなんて。しかも、もらった相手が航河君だなんて。だからか。これだから、航河君は私にもらったことを口止めしたのだろう。バレてしまわぬように。


「もしかして、お揃いですか?」


(そんなこと聞くなよぉ祐輔!)


「これ? 彼女とお揃い」

「……へ?」


 思わず間抜けな声を発した。


「彼女さんとお揃いなんすか?」

「そうだよー、美織ちゃんはレモン色。イニシャルに【M】って入ってるの」

「お揃い良いですね」

「お前も彼女作ったら? お揃いできるぞ?」

「あー、まー……そうですよね」


 ポリポリと頭を掻いて、祐輔はまたオムライスをむしゃむしゃと食べ始めた。


(私は桜色でCだもん。……作り話じゃ、ない、よね? えっ、なに……?)


 咀嚼するスピードが落ちる。大好きな海鮮で、とても美味しいはずなのに、一気に味がしなくなった。心音が早くなり、耳元がカッと熱くなる。少し手が震えたがとにかく料理を箸で掴んでは口に運び、この場から離れるべく早く食べ切るためだけに、もそもそと一生懸命口を動かした。……気まずい。とにあっく気まずいのだ。航河君がなにを思って今その話をしたのかはわからないが、気まずさしかない。お揃いのくだりは黙っていてくれても良かったのに。


(……いやいやいやいや! 彼女と三人でお揃いとか……冗談でしょう?)


 ――いや、もしかしたら、航河君の作り話かもしれない。誰かとお揃いなんて痛い所を突かれて、彼女なら違和感がないだろうからと、咄嗟に吐いた、嘘。内容はリアルだが、自分のクマと、私のクマから想定して作るには容易い。私と美織ちゃん、相手を変えるだけなのだから。


「あ……私ちょっと、散歩に行ってくる」

「もう食べ終わったの?」

「うん、このあいだ近所にできた雑貨屋さん、見に行ってみたかったんだよね。五分前には遅くとも戻るから。いってきます」


 『いってらっしゃい』『いってきます』の祐輔と航河君のやりとりの返事も聞かずに、食べ終わった食器をそそくさと片付け、ロッカーから財布を取り出し店を出た。別に今日雑貨屋さんにどうしても行きたいわけではなかったが、その場を去る上手い言いわけがそれ以外に見つからなかったのだ。


(……なんで? なんで私と航河君と美織さんの三人でお揃いなの?)


 自分と彼女と自分の女友達とで、お揃いのアイテムを買う人がこの世に存在するなんて思ってもいなかった。よりによってその三人でお揃いにする意味がわからない。ダブルデートの結果みんなでお揃いのものを買ったとか、仲良しグループでお揃いのものを買ったとか、そういうのであればわかる。あとは、好きな人と同じものをほしくて、こっそりお揃いを買うとか。


(やばい、同じ疑問しか出てこない……。ほんとに混乱してきた)

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