セラフィム特殊戦術航空群
ケイはやたら緊張していた。
目の前には統合参謀本部総司令官、参謀本部人事局長、空軍参謀総長、海軍参謀総長、王立海軍連合艦隊司令長官、情報局局長が雁首を揃えて座っている。
「さて、ハルトマン中尉、君をここに呼び寄せたのには話すと長い訳がある、まず内容だけ教えよう。」
低く、威厳のある声でシュリットラー総司令官が話す
「1.貴官の昇進と勲章の授与について。2.君の配属と役職に関して。3.コードネームミラージュについて。4.恒久の誓い作戦について。」
(恒久の誓い作戦?なんだそれは?)
「まぁ、順を追って説明しよう。まずは昇進おめでとうケイ・ハルトマン"大尉"。27歳で大尉とは出世レースのダークホースだな。」
パチパチと6人から拍手されるが内心それどころではない。
「この6人がいれば我が国の軍を大体は動かせる訳だが…、この6人で話した結果、君は後述する功績も踏まえて大尉では物足りないと感じてね、どうかね?少佐くらいはあってもいいとは思うが。」
「ただでさえここ最近は書類仕事に追われているのです、私にもう少しの間空を飛ぶ自由を与えてはもらえませんか?」
ケイからの遠回しの拒否である
「ふむ、どう思う?空軍参謀総長。」
「いやぁ〜、懐かしい…。私もこんな頭を抱える事務仕事に追われずにこの腕で空を舞っていたあの日があったな…。」
「分かった、ハルトマン大尉。だが、君にやってもらうことがあるのでね。肩書きだけ少佐に任じる。まぁ、時が来たら仕事もやってもらうがな。」
ケイのお願いは若干の配慮を受けつつ、拒否された。
「さて、勲章についてだが…。これは通達だけだ。女王陛下が君の活躍を聞いてからというもの、是非殊勲飛行十字章とナイトの地位を与えたいと騒がしいらしくてな。良かったな、Knight 。」
「身に余る光栄であります。」
(女王陛下万歳。)
「とはいえ、首相官邸内では流石にそこまでは、という意見が出ているからナイトに関してはあまり期待しない方がいい。」
(流石にな、ミラージュを撃ち落とした訳でもあるまいし。)
「でだ、君の配属に関してだが…。」
(ここが1番大事、異動か、続投か…)
「君は引き続き特殊戦術航空群に所属してもらうことになった、まぁ、エルダ王女を安心して預けられるパイロットは探してもいないしな。ヘンリー王子に関しては…アシュフォード中尉でいいだろう、実力的にも血統的にもルックス的にも。」
「拝命いたしました、誠心誠意職務の遂行に務めます。」
「さらに、君の役職についてだが。正式に王女付き護衛機としての任を与える。それと、戦死した副飛行隊長の役割も。」
(!?、前者はヨシとして、後者なんてやってられるか。)
「お言葉ですが、小官は事務作業には不慣れでありまして、いきなりそのような大役を仰せつかっても…」
「俺も若い頃はそうだったな…。」
「承知しました、全力で取り組ませていただきます。」
「スカーレットの愛娘のメンタルケアも含まれてるんだ、まぁ、いずれ分かる。」
(スカーレットの愛娘?)
「私の愛娘をよろしく頼むよ、泣かせたら51センチ砲が飛んでくると思え。」
司令長官が一言言い放った
ケイは彼の名を思い出す
(王立海軍連合艦隊司令長官…アラン・ドエス・スカーレット…、スカーレット?、!?)
「ふむ?なんだ知らなかったのか?てっきり知ってて娘に手を出したのかと思っていたぞ。」
(一体スカーレット中佐からどう伝えられたらその認識になるのやら…)
「冗談はその辺にしておこう、ここからが本題だ。君はコードネームミラージュと三度戦闘して生きて帰ってきた、しかもドッグファイトまで行っている。」
空軍参謀総長に話のバトンが渡った
「彼女の乗る機体は全くの未知の機体、性能も少なくとも高いということ以外、詳しいことは分かっていなかった。」
「だが、君が積み上げた戦闘データからおおよその能力の推定と、使用された技術の見当がついた。」
「だが一つ聞いておきたい、ハルトマン少佐、あの機動、あの戦闘、人ができることだと思うかね?」
ケイは考えた、あの変態的な機動、撃っても当たらないミサイル、しかしカラクリと戦った実感を踏まえれば…
「可能かと。最も優れたパイロットに与えられる最大限の装備を提供すれば…ですが。」
空軍参謀総長はゆっくりと頷いた
「つまり、ミラージュは人工知能ではなく、人…とりわけ女性であると貴官は思うのだな?」
「少なくともオープンチャンネルで話しかけてきた時点でAIの合理性からは外れます。あれは…人の純粋な興味であるかと。」
「オープンチャンネルの内容は我々も確認したよ、君と遭遇するたびに彼女は喜んでいた。そう、分析班は結論づけた。」
情報局長が繋ぐ
「我々情報局はコードネームミラージュが貴官に接触を試みると考えている、まさしく彼女は蜃気楼、我々は二度彼女を捕捉したがそのいずれも逃げられた、これは地上での話だ。」
(ミラージュが、俺にか。)
「君は、ミラージュと接触に成功した場合、彼女をこちらの側に出来うる限り引き込んで欲しい。」
(こいつは驚いた、奴を仲間に?できるのか?)
「彼女は敵なのでは?」
情報局長は背後のスクリーンを起動した
「我々が把握した限りでは、彼女はどこの国にも属さない、傭兵、PMC、民兵、言い方はどれでも合っているし合っていない、まぁ、一番最適なのはフリーランスの傭兵かな。」
「ならば上手く接触して金を払えばいいのでは?」
「その接触が上手くいかんのだ、さっきも言ったが我々は既に2回の接触を試みたが逃げられた。彼女の価値は高い、すまないが君に頼むよ。交渉も全てな、交渉に際して君に700億クランの権利を与える、上手く使ってくれ。」
(700億クラン?え?1人との契約に?F-15なら7機、F-22でも3機は買える値段だぞ?)
「まぁ、ミラージュに関する話は以上だ、頼んだぞ。そして、ここからの話が君の少佐昇進に関わるのだが。ここは私が話そう。」
一つの冊子が渡された。
「30分やる、読め。そして、思ったことを言え。」
表紙にはこう書いてあった
恒久の誓い作戦
中にはテルリアへの侵攻計画の概要、投入兵力、攻撃目標、作戦詳細、さらには推定される損害とテラリアの被る被害についての概算が書かれていた。
(これは…いや、しかし。これは…)
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30分後
「どう思った?」
(どうまとめるべきか…これはあまりにも杜撰だ…)
「語弊を恐れず言うなら、人の命を燃料とした軍事演習を行いたい、そう考えているようにしか思えません。」
「何故そう思うかね?」
「まず、戦争の目的と最終目標が見えません。他国の人間を殺す以上、我々にはその正当な理由が必要です。それで許されるものでもありませんがね。」
「恒久の誓い作戦。これは我々が作った作戦案では無いのだよ、さて、問題だ。我々以外で作戦のようなものを立案できる組織は?」
「国民議会の国防会議…まさか?」
「そうだ、これは国防会議から提出された作戦案だ。」
「退役軍人議員と軍事専門家とか言う民間の情報以外を知らない者達が軍師を気取って作ったのがこれだよ。」
国防会議とは国民議会に所属する退役軍人議員や防衛畑出身の議員、各大学や専門機関の軍事専門家が集まっている国防に関する様々なことを取扱う組織である。
彼らは"高度な政治的判断"を求められる軍事作戦に関してのみ、軍と同等の作戦立案権利を有する。
「今回の作戦は確かに高度な政治的判断を必要とする、だがこんな作戦は統合参謀本部総司令官として、認めるわけにはいかない。」
おそらくそれはシュリットラー総司令官以外の面々も同じなのだろうことは表情から見て取れた。
「そして、これが我々が計画している作戦案だ、目的はテルリア民主共和国の戦闘能力の破壊のみだ。」
新たに渡された書類を読む、先程とは打って変わって緻密に考えられた理想的な作戦計画だ。
「テルリア政府首脳部への斬首作戦は行わない…ですか。何か理由が?」
情報局長がケイの問いに答える。
「このことは他言厳禁だ、覚えておいてくれ。実のところ、我々情報局はテルリアが主犯とは考えていない。」
(テルリアが主犯ではない?まぁ、確かにあの侵攻速度はテルリアには無理な話ではある。)
「さほど驚いていないようだな。」
沈黙していた海軍参謀総長が口を開く。
「えぇ、あれほどの大規模な同時攻撃、しかも我が国東端のテンカ地方と我が国北中部に位置するエルドリッチへ同時攻撃なんて彼らには到底無理な話です。」
「実のところ、情報局としてはテルリアが加担していないとは言えない、彼らが参戦した確かな証拠はある。だが、彼らが主攻撃軸であったという証拠までは無いんだ。」
「そのため我々はテルリアの軍事設備のみを攻撃するに留める、無論宣戦布告から6時間後にな。」
(つまるところ、テルリアへの攻撃はパフォーマンスか、さりとて人は死ぬ、なんとかならないものか。)
「おっと、話が長くなってしまったな。そこでだハルトマン少佐、君にこの作戦の航空参謀を務めてもらうことにした。」
(は?)
「ここからは私が説明しよう。」
空軍参謀総長が説明を始めた。
「航空作戦における運用参謀は正直決まっていなかったのだ、今まではそれぞれの作戦を提言した空軍参謀から選んでいてね、1番多いのは君もよく知ってるであろう、アーサー・ペンバートン少佐だったよ。」
(ペンバートンさんか、彼とは仲が悪いからなぁ…)
「まぁ、君も知っている通りペンバートン少佐は少し面倒な男だからな、ちょうど君という人材を使ってみたいと思っていたところでもあったし。」
「君には航空部隊の運用に関してを任せたい、つい去年、君は参謀課程を修了したばかりだろ?期待している。」
(課程は終えたけれども…、とはいえペンバートンさんに任せるよりはいいかな。)
「承知致しました、全力を持って取り組みます。」
ここに、ケイの27歳での異例の少佐昇進と大規模作戦での航空参謀起用が決定されたのであった。
それに加えて
「ハルトマン少佐、私は先程君に特殊戦術航空群の副飛行隊長の任務を与えたね?特殊戦術航空群は再編成する、スカーレット中佐と共に再編成書類を作成、2日後までに人事局に提出すること、いいね?」
「はい!」
ここで、ずっと沈黙していた参謀本部人事局長がニッコリ微笑んだ。
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2日後
5月24日、特殊戦術航空群エルドリッチ臨時基地
「エレノア女王陛下へ総員敬礼!」
エルダ王女とヘンリー王子が来た時とは比較にならないほどの華やかさに満ちた基地に、エルファリア王国第51代女王、エレノア・エリザベス・チューダーがエルドリッチ基地にやってきた。
整列したパイロット達1人1人と握手していく。
「よく生き残られました、今後のご無事をお祈りしています。」
「まだ若いですね、貴方の人生は長い、謳歌してください。」
やがてヘンリー王子のもとに辿り着く
「貴方は果たすべき役割を果たしなさい、そして、王子という肩書きは常に彼らにとっての足枷となっていることを忘れないように。」
「承知しました母上。」
ヘンリーは背筋を伸ばして敬礼した。
次にエルダ王女の元へ行く
「貴女もよエルダ、果たすべき役割を忘れず、貴女自身が部隊にとっての重荷であることを常に意識し、その中で為すべきを為しなさい。」
「分かりましたお母様。」
エルダは背筋を伸ばして敬礼した。
次に陛下はアシュフォードの前へ移動する。
「アシュフォード家のロレイン嬢、しばらく会えなかったうちにとても美しく上品になりましたね、昔のロザンナより美しいと私は思いますわ。ヘンリーのことをしばらくの間お願いしますわね。」
「お褒めに預かり、至上の喜びです。いかなる女性でも陛下の気品には遠く及びません。」
「あらあら、言葉のうまさはロザンナ譲りね、そのうち舞踏会に招待するわ、意中の殿方でも連れていらっしゃい。」
「承知しました、その日を今から楽しみにしておきます。」
次にその隣の飛行隊長スカーレット中佐の前に女王は移動する。
「スカーレット中佐、貴女と貴女のお父上の献身的な国防への貢献に国民を代表して感謝するわ、ありがとう。」
「身に余る光栄であります陛下、父もさぞ喜ぶでしょう。」
「この航空部隊を率いる貴女は、きっとその重責とそれ以外の出来事で常に苦労していらっしゃるでしょう、1人で抱え込んではなりませんよ、誰かに胸の内を打ち明けるのも、誰かに手を借りるのもどれも誇るべきことです、貴女の隣にはかくも優秀な彼もいるではありませんか。」
スカーレット中佐は僅かに頬を赤らめた、女王は遠回しにも彼に甘えろと言っているようなものだった。
ゆっくりとその彼の前に立つ
「久しぶりですねハルトマン少佐、少し見ないうちにますます男前になられたようですね、私が若かったら今夜にでもディナーにお誘いしたはずですわ。」
「陛下、小官は陛下のお誘いとあらば空からでも駆けつけます。」
「ふふふ、やはり面白いですね貴方は、私の手でこうして貴方にこれを渡せることが私はとても嬉しくてよ?」
女王は側近から小箱を受け取り中に輝く勲章を取り出した
殊勲飛行十字章
空中で類い稀なる武勲と貢献をもたらし、国家に貢献したパイロットに与えられる勲章である。
「本当はもっといい勲章とナイトの称号を与えたかったのだけれど、官邸がとやかく言ってくるものだから少し物足りないものになってしまったわね。」
「陛下、私のような一兵士は陛下から勲章を承れるだけで至上の喜びであります。その上でさらにことを望めるほど私の器は大きくありません。」
「謙遜なさるのね、お父上とそっくりですわ。あの人もそんなことを言っていましたわね。よし、できた。」
ケイは一歩下がり敬礼する。
「それでは、もう一つの仕事をしましょうか。」
女王は演台へ向かいその上に登った。
そして、マイクへ向かい言葉を発す
「お集まりいただいた皆さん、少し姿勢を楽にしてください。」
「総員!休め!」
「数日前、我が国は突如の襲撃に遭い、尊き命が数多く失われました、王都エルドリッチへも敵の魔の手は伸び、歴史ある王都が火の海になる可能性もありました。」
「しかし、勇敢なる天界の騎士達が己の職責を果たし、美しき都を守り抜きました、私が彼らにできることは非常に少ない、けれど彼らが空を飛んでいく上で語るべき名を与えることはできます。」
「彼らはこの国のすべての民に対しての天使であり、その活躍は神の遣いのようなもの、そこで私は彼らにこの名を与えます。彼らの名は…」
「セラフィム」
セラフィム、聖書に記される天使九階級のうちの最上位存在であり、神に最も近い存在の天使。
特殊戦術航空群はその天使達の名を冠した。
「彼らのますますの研鑽とその忠義に期待と感謝を。」
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式典終了後 飛行隊長執務室
「ありがとうハルトマン少佐、こんなに早く人事計画案を出せるなんて思ってなかったわ。手際がいいのね。」
(いやまぁ、やれと言われてたから用意してただけなのだが)
「まぁ、微力ながら力になれれば良かれと思いまして。」
「微力どころかほとんどあなたに任せてしまったわね、それより人事局からこんなにも早く承認が下りるなんて夢にも思ってなかったわ。一体どうしたのかしら。」
「こちらの人事案に言うことがなかっただけですよ、きっと。」
(流石に突っ返してきたら人事局に行って詰め寄るところだったぜ。)
スカーレット中佐は耳元のショートヘアーの髪をかき上げて言った。
「ねぇ、ハルトマン。今夜こそ、一杯どうかしら?」
以前の約束は首都の急襲で消し飛んでいたことをケイは今思い出した。
「そうですね、この仕事を終えたら行きましょうか。」
スカーレット中佐は小さくガッツポーズした。
「ふふ、私のおすすめのお店があるの。きっと貴方も気に入ってくれるはずよ。」
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同日夜
バルフォア大陸東部 国連保護地域No.5 サイクス
バルフォア大陸東部にある海沿いの小さな地域には数々の戦争で発生した難民や迫害に遭った人々を国連が保護している地域があった。
その5番目の土地、サイクスでは現在エルファリア王立陸軍とノースウェル空軍、フレグテリア共和国防衛軍の三軍が管轄していた。
「ノースウェルの奴らも飲もうぜ!お前達にはよく世話になってるからな!」
サイクスのバーでは各国軍兵士が集って酒を飲んでいた
ここにいれば国が違おうと共に任務に就く仲間である、ある意味で世界が行くべき姿の一つなのかもしれない。
「エルファリアの連中は明後日で帰国か?少し寂しいな、代わりの奴らはいつ来るんだよ?」
「上からの話だと確か来週だな。」
「まったくよ、お宅のホワイト軍隊が羨ましいぜ。ほら、飲めよ。俺らからの祝いだぜ。」
バーは乾杯と笑い声で満ちていた。しかし、忍び寄る悪魔の手に彼らは気づいていない。
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同時刻 エルドリッチ
「でね〜、お父さんったら、「お前もそろそろ適齢期なんだからいい男を捕まえて孫でも作れ。」なんて言うの、私が彼氏が連れて行くと怒ってたのにね。」
(なんて反応すればいいんだ…)
スカーレット中佐はウイスキーをグビグビ飲んでいく、ケイはお酒には強いが流石にこれは心配になるレベルである。
「もう私も31歳、そろそろいい男を捕まえないとね。優しくて〜、カッコよくて〜…ヒック、頼りになる男の人。」
(おぉ…、理想が高い。でもまぁ、スカーレット中佐なら狙えるか。美人だし、家系もいいし、仕事できるし。)
「まぁ、機会さえあればすぐ捕まえられますよ、スカーレット中佐なら大体の男はイチコロです。」
「ふふふぅ〜ん?こんな歳を取った女にたなびく男なんているかしら?」
「31なんて今の時代未婚も珍しくないですよ、白湯です。少し身体を労ってくださいね。」
注文していた白湯を渡してゆっくりウィスキーから遠ざける。
「ケイは配慮ができるなぁ〜、イケメンだし、お仕事もできる、エースパイロット様だしね。ヒック、ケイみたいな人が良いな〜、結婚するなら。」
(おぉう?だいぶ酔ってるな、今のうちに聞いておくか。)
「スカーレット中佐、アラン連合艦隊司令長官にハルトマン少佐のことをどう話したのです?」
だんだん酔いが回ってきて若干言動が幼くなっているスカーレット中佐はすぐに話し出した。
「私の〜、憧れの男の子って言ったかな〜、だって命の恩人だもん、驕らないし、素直だし、優しいし、イケメンだし、ちょっと無口だから話してると不安になるけどね。」
「でも〜、ちょっと前に再会してからは彼もおしゃべりになってたし、またまた助けられちゃったし、もう惚れない女の子はいないでしょ?」
(目の前の僕を誰だと思っているのだろう?もしかして認識されてない?)
「でもね…そんなの、他の子も一緒。ロレインちゃんも、ケイにはぞっこんだし。あの子は年齢も同じだし、私より上品な美人だし、貴族のお嬢様だしで敵わないな…。」
ケイに衝撃が走る、目の前の爆弾を処理しようとしていたら背中に爆弾が貼り付けられていたような。
「ケイの悪いところは女の子受けが良すぎるんだよ…、エルダ王女だってケイの側にいるときはとっても楽しそうだし、同じ女だから分かるの、彼女の気持ちの高ぶりが。」
気づいたら没収したはずのウィスキーが奪い返されていてまたグビグビ飲んでいる。
「彼はどんな女の子がいいのかなぁ…」
「あぁ…さぁ?人並みに美人なのは好きかと。」
スヤスヤとスカーレット中佐は眠っていた。
ロレインに連絡した
「すまない、スカーレット中佐を頼んでいいか?え?あ、いや。お酒に誘われて…、手?僕が出すように見えるかい?」
「随分と必死ねケイ、貴方の横で無防備に一晩を明かした私にも手を出さなかったんだもの、スカーレット中佐に手を出せるような度胸がないのは私も分かっているわよ。場所を教えてちょうだい、車を出すわ。」
「ま、まぁね…。あぁ…頼んだ。」
ロレインはぴったりと大人の女という系統だ、だからからかい上手だし、溢れ出る色気の使い方もわかっている、何かと関わりがあるとなっては尚更だ。
(まぁ…なんだかんだで頼りになるんだけれどな。)
しばらく待っているとリムジンでやってきた。
(そこまでしてくれとは言ってはいないのだが。)
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翌日未明
バルフォア大陸東部 国連保護地域サイクス
突如連続する爆発音、プロペラ機のモーター音、砲弾が空気を切り裂く音。
突如としてサイクスは攻撃を受けた、人口が密集しているため既に民間人の犠牲者は計り知れない。
わざわざ砲弾の弾頭はクラスター弾頭と焼夷弾が混ぜられており各所で火の手が上がり、道を逃げる人はクラスター弾頭により一挙に殺された。
各基地の宿舎には巡航ミサイルが降り、配備も間に合わず消し飛んだ。
休暇の兵士達が集っていたあのバーも今は瓦礫の山である、あの場にいた兵士達、バーのマスターも皆死んだ。
自爆無人機が航空基地を襲う、ノースウェルの空軍部隊は空中哨戒にあたっていた機体と離陸が間に合った機体で必死の防空戦闘を行っていたが、焼け石に水であった。
この日、サイクスは致命的な被害を被り、瓦礫と死体の山と化した。生き残った者も家とインフラを失いドン底へ突き落とされる。
火の海となった町で黒い何かと化した妻、夫、兄弟、友人の横で泣きながら人々は言う。
《我々が何をしたのか》
人々は嘆き悲しみながらその言葉を紡ぐしかなかった。
国連多国籍調査隊はこの攻撃の犯人を特定するため現地入りした、衛星画像や移動記録を照合してもこれと言える証拠が出てこない。使用された兵器の残骸はシェストワ条約機構で広く使われる規格であった。
「コミーテル連邦は責任を持ってこの事態に関しての弁明、もしくは調査協力を行うべきであり、我が国はコミーテルに対して拭えない不信を持つものである。我が国は既に報復の用意を終えており、失われた命を悔やませるだけの力を用意している。」
ノースウェル合衆国大統領 ドワイト・ダック
「この不幸な出来事にコミーテルが直接関与していると我々は考えていない、先の我が国への攻撃を含め、世界の不信により戦争が起こることを望む勢力がいる。我々はこれに対抗するべきである、国家の理性を保ち、世界平和のために銃ではなく言葉を望む。」
エルファリア王国首相 トーマス・ビーティー
「エルファリアの多大なる理解と自制心、世の中を見通そうという姿勢に我が国は最大限の敬意と尊敬、感謝を持つ。この事態は我が国の預かり知るところではあらず、条約加盟国全体のただちの詳細な調査と、真犯人の捜査に我が国は国家の誇りと意地をかけて望むものである。これは汚い陰謀主義者の策であり、高潔な我々は無実である。」
コミーテル連邦書記長 イワン・ロバコノビチ・ベリーコフ
あわや第三次世界大戦の可能性も大いに孕んだ事件であったが各国穏健派並びに国連の仲介、被害を受けたエルファリアの姿勢によって事態は収束に向かっていった。
エルファリア王立陸軍戦死者325名、ノースウェル合衆国空軍戦死者320名、フレグテリア共和国防衛軍戦死者416名、
民間人死者確定値で1729名、行方不明計5000名超
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同日 某所
「合衆国も連邦も動きませんか…、事はうまくいかないものですな。」
「とはいえ忌々しいエルファリアにはかなりの血を流させた、あの国も流石にこの被害は許容できまい。」
「我らが神に泥を塗った奴らは末代まで苦痛を受けねばならぬ、まだまだ足りぬな。」
「王国はテルリアへの反撃を画策しているという、既に我々の殉教部隊もかなりが神に殉じた、ちょうどいいデコイになる、一度引いて体制を整えよう。」
「それもそうだな、テルリアは扱いやすくて良かったのだが、そろそろ使用期限か…。新たな駒を探さなくてはな。」
「我らが主神、アルディケ様がもたらしてくれるであろう。忠実な我らが信徒に祝福あれ。」
「「「祝福あれ」」」
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5月27日、統合参謀本部 総司令官執務室
「ふむ、実に若いというべきか、理想を求めているな。しかし、私は君に賭けようと思う。他の皆は異論はないかね?さて、誰の首が飛ぶか。それとも、我々の完勝か。」
総司令官執務室には数日前と同じメンツがいた、彼らはケイによる恒久の誓い作戦についての話を聞いていた。
ケイは考えていた、恒久の誓い作戦はいくら手加減しても死者は出る、もし黒幕がそれすら計画に組み込んでいるなら少しずつずらさなくてはならない。
戦争を起こさせないようにするために、武力を用いない実力を見せる、それがケイが思いついた作戦だった。
「既に4年前のテルリア戦争で彼らは我々の強さを知っている、そしてその後の戦後復興はエルファリアによる支援が大きい、彼らは我々との戦争を望まない…、根拠はないが可能性としてはなくもない話だ。」
「そこで、我々が仕掛けるという事前情報を大っぴらに流して国民による反対運動をもってこちらの目的を果たす。」
「荒唐無稽…だが。」
「面白い。」
「腕が鳴りますなぁ。」
彼らも乗り気だった、世界は理性を示したばかりだった、ならばそれをエルファリアが破るわけにはいかない。
「失敗すれば我々はさよならですな、国防会議の意向に逆らうことになるわけですから。」
「なに、成功させればよいのです。それに最悪の場合、私が人事権を握ってますしね。」
参謀本部人事局長はおどけてみせる。
「我々なら上手くやれるさ、なんせ我々だからな。」
そう言って帽子を被ったシュリットラー元帥はケイの横に立ち、
「これが成功すれば、少なくともこの世界の流れは希望へと向くはずだ、使わない武力の意味を世界は知ることになる。」
「成功すれば、です。」
「作戦名はバーチュアル。君は吉報を待っているといい。」
そう言い残して部屋を去っていく元帥とその他大勢、一介のパイロットでしかないケイは彼らに託すしかなかった。
()
2日後、テルリア首都ロマエ
「我々は戦争を望まない!」
「ドゥカニエ首相は退陣せよ!」
「恩を仇で返すな!」
「我々は駒にはならない!」
「我々の命は消耗品なんかじゃない!」
国中の人間がテルリアの首都、ロマエに流れ込み首相官邸などを包囲した。
これに対して、エルファリアへの攻撃に関わった首相ドゥカニエは軍部隊による鎮圧を命令した。
しかし一向に軍からの応答はない、軍人も皆ボイコットしたのだ。エルファリアがその気になれば最初に死ぬのは軍人だ、国を守るためではなく政治家の計画の数字として。
やがて民衆は首相官邸に突入、首相が雇っていた民間軍事会社の発砲により多数の死傷者が出たが、武器を持たぬ市民は水を大量に放水し、それすらも突破した。
ドゥカニエはヘリで国外逃亡し、その後消息不明となった。
これはテルリア非戦革命と呼ばれることとなる、3日後テルリア臨時政府並びにテルリア軍部はエルファリアへの攻撃を認め、講和の席に着いた。
6月1日
エルファリア王立海軍空母クラウン艦上
テルリア臨時首相は終戦条約に調印した。
テルリアはエルファリアへの今後一切の攻撃を禁止することが条件とされた。
これはエルファリアからの攻撃に無防備になることを意味していたが両国間の信頼関係に基づき、行われるに至る。
また、裏文書ながらテルリアが他国からの攻撃に備えて配備する武器をエルファリアが侵攻してきた場合に限ってのみエルファリアに対して使用することも認められた。
テルリアから先の戦闘の黒幕についての情報提供があったものの、それに関する全ての情報が焼き払われており電子データ上にもない上、関わった人間の全てが消息不明となったため真相は闇の中となった。
しかし有益な情報もあった、エルドリッチへの攻撃に際してテルリアは関与しておらず、エルファリア軍がテルリアと認識していた敵は別物だったのである。
武力を使わない手段でのさらなる戦争の阻止、そして戦争の終結により、世界は緊張緩和、デタントへと緩やかに頭を向けていった。
しかし、この武力を使わない手段もエルファリアの圧倒的武力とテルリア戦争での圧勝がもたらしていたこともまた事実である。
エルファリア貴族・・貴族自体は2030年現在でも複数家が残っている、有名どころは七宝石と呼ばれる七つの貴族、アシュフォード、レイナリア、シャール、ルクレール、ランカスター、ローズ、ラウゼンである。この家はエルデン8カ国連合王国の際の構成国でありチューダー家に正当王権を譲ったのちも王家にまつわる特別待遇を受けられる。現在でも資産家。
エルファリア空母・・エルファリアは15隻の空母を保有しており、10隻が原子力、5隻が通常動力である。現在は空母レオニダスが退役寸前であり、新型艦がまもなく進水する。
デタント・・緊張緩和、冷戦を緩めようという流れ。現実ではソ連とアメリカの間でデタントが行われたものの、アフガン侵攻などといった紛争もゼロにはならなかった。
プロメテウス弾頭・・燃料気化爆弾の一種、サイズによって厳密には4つに分けられる。戦略爆撃から障害物除去まで幅広く使われる兵器。気化した燃料に引火させ凄まじい熱と爆風を生み出す。
エルファリアの核兵器・・エルファリアは核兵器を全て放棄しており憲法には非核三原則が明記されている。エルファリアの大規模な通常兵力はこれを補うため。
国連保護地域・・国連主導で行われた戦争による難民を保護する地域、都市一つほどの大きさだが治安維持のため国連軍が駐屯している。軍の配備に伴う問題を防ぐため、多国籍監視団が常に各軍の武装が協定に則っているかを監視している。
皆さんお読みいただきありがとうございます、溜め込んでいたものに若干の加筆なり修正なりを加えている本作ですが、実のところタイトルが決まっていないのです、今のタイトルはとりあえずのタイトルでして中々いいタイトルが思い浮かびません、他の作家の人達は凄いと感じます。この話では戦闘機の戦闘はありませんでしたが常に戦争してるわけにもいきませんのでね、ご容赦ください。次の話では王女と王子もやっと戦闘機で空を舞います。そしてまた別の国では戦争が起きるかも?次回作品で会いましょう。それでは。




