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特殊戦術航空群

2030年 4月18日

エルファリア王国 セレナレム海軍航空隊基地


ケイは車を運転しながら基地に帰ってきた、この日はケイの27歳の誕生日である。久しぶりにまとまった休暇を取れたので趣味の射撃を終えたところだった。


駐車場に車を停めて、ドアを開けると黒ずくめの連中がやってきたので急いでドアを閉める。


(絶対碌な奴じゃない、とっとと逃げるか?)


とはいえ逃げられる訳もなく、普通に取り囲まれた。


「ケイ・ハルトマン中尉、その…我々は敵ではありませんよ?基地に入れてもらってますし。」


黒服1がそんなことを言っているがフレネミーという言葉もある。


「我々はエルファリア国家情報局対内収集局の者です。」


「身分証は?」


そう聞くと胸ポケットからライセンスを取り出して見せてきた。


(本物か〜…これは仕方ない話してやろう。)


扉を開けて外に出る


「情報局の人間が一介の戦闘機パイロットにどんな用事ですか?」


黒服2が手に持っていたカバンからなにやらデカい封筒を取り出してきた。


「これは…?」


中身を確認すると1番上の書類にはこう書いてあった


特殊戦術航空群に関する計画案


噂には聞いたことがあった、統合参謀本部はいかなる任務にも対応可能な部隊を編成しそれを即応戦力として配備したがっていると。


「特殊戦術航空群、選ばれたパイロットを集め、高度な状況判断や複雑な任務に投入することが可能な航空機部隊を編成する計画です。」


「まぁ、パイロットの中ではそこそこ有名な話ですね。」


「この部隊に貴方を組み込むことが決定されました。」


(もう驚くもんか、どうせこんなことになるだろうとは思っていたさ。)


「何故それを空軍司令部からではなくあなた方情報局から?」


その質問に対して黒服2はさらに1枚の書類を渡してきた


それを見て書類を破り捨てたくなった。


「はてさて、"選ばれた"パイロットとお聞きしていましたが…こっちの意味ですか?」


その書類のメンバーにはエルファリア王国第1王女、エルダ・キャサリンと同第2王子ヘンリー・エドワードの名前があった。


黒服達の顔が渋くなる


「その…王家の人間は実戦部隊に所属するのが通例であるというのはお分かりのことと思いますが、当然ある程度の護衛も必要わけで…。」


「だったら南部の基地に送ればいい、あそこならスクランブルは起こりづらいから命の危機は少ない。」


「それはそうなのですが、姫と王子が比較的前線を志望しておられまして…。」


「そのために各航空隊の腕利きを集めると?確かに特殊な飛行部隊ですね。まるで子守りだ。」


「少しの間です、ほんの3年ほど役割を引き受けてもらえませんでしょうか。あとはハルトマン中尉さえ合流していただければ部隊は完成なのです。」


(いや待てよ?そうか、そういうことか。)


「まさか、表の抑止力たる部隊を編成したいと空軍は考え、情報局はそれを持って敵の動向を調べたい、その駒として王族パイロットとそれを護衛するパイロットが最適…とお考えで?」


「流石です、よく見抜いておられる。情報局としては表立って王女と王子が飛ぶ方が守りやすく、そして国内の敵勢力を炙り出しやすい、空軍は知りませんが我々とは利害が一致したのです。」


()

1週間後、首都エルドリッチ

同エルドリッチ海軍・空軍航空基地


「捧げ〜!銃!」


軍楽隊の豪勢な音楽と共にエルファリア王国第1王女エルダ・キャサリン・チューダーと第2王子ヘンリー・エドワード・チューダーが歩いてくる。


「エルダ・キャサリン第1王女とヘンリー・エドワード第2王子に総員、敬礼!」


招集された全パイロット、整備兵が敬礼する。


お二人もまた足を止めて敬礼した。


「このように豪勢な歓迎式をお開きいただき大変光栄に思います。しかしながら我々は皆様の傘下として共に国務に励む身、正当な軍務関係として接して頂きたい。」


「承知しました。それではヘンリー特任中尉、エルダ特任中尉、お二方のウィングマンをご紹介します。」


そういえば誰なのだろうとふと思った。


隊長…エメリア・スカーレット中佐がまず1人を呼んだ。つい、今朝に来たばかりなので全員までは把握していない、渡された資料はスカーレット中佐以外の名は伏せられていた。


ふと横目に見ると驚きを隠せなかった


(アシュフォード!?)


5000人に聞いたら5000人が美女と答えるだろう美女、ロレイン・アシュフォード中尉、空軍所属。


「彼女はロレイン・アシュフォード中尉、所属は空軍でした。彼女はヘンリー特任中尉のウィングマンに就きます。」


一歩アシュフォードが踏み出し手を差し出す。


「ロレイン・アシュフォードです。殿下のウィングマンの役目、大変光栄です。」


(おいおいヘンリー王子…動きが鈍いぞ?惚れてしまったか?まぁ、仕方のないことだとは思うが…)


「あ…あぁ、よろしくお願いするよ。アシュフォード中尉…で良いですか?」


「えぇ、それで構いません。お好きにお呼びください。」


ヘンリー特任中尉とアシュフォードが手を取り握手する、大量のフラッシュが焚かれその光景を写真に収める。


「続いて、エルダ特任中尉のウィングマンはおそらく貴女もよく知る人間です。」


(エルダ王女と面識のある人間か…、中々珍しい経験をしているものだ、僕も二度三度話をしたくらいか…)


「紹介します、ケイ・ハルトマン中尉です。」


(!?)


聞いていない話を突如として言われて混乱しない人間はいないだろう、しかしここはメディアの前、とやかくは考えていられない。


王女もといエルダ特任中尉の前に行く


「ケイ・ハルトマン中尉です。特任中尉のウィングマンを行わせていただけるようです。」


手を差し出す


王女はというとやたら目を輝かせている


「えぇ!お久しぶりですね!ハルトマン…えっと中尉ですよね?ふふ、よろしくお願いしますわ!」


(そんなにグワングワン握手しなくとも…)


こうしてやたら元気に王女に握手されている姿がその日のうちに世界中に発信された。


()

式典終了後、エルドリッチ特殊戦術航空群臨時基地


「スカーレット中佐もお元気そうで何よりです、それよりも僕が何を言いたいか分かっていただけますでしょうか?」


「やっと久しぶりに君と話せると思っていたら、まさか怒っている君を相手することになるなんてね。分かっているわ、でも貴方も満更でもないんじゃない?」


「私は王女と仲が良いわけではありませんよ?」


「でも懐かれている、それが肝心なの。高貴な方に懐かれるなんて滅多なことじゃないわ、上手くやりなさい?」


(言いたいことは山ほどあるがこの人にはおそらく敵わない、ここは大人しく引くのが正解だろう。)


ケイが少し不満げながらもその場を引いたのをみてスカーレットは別の話題を出した。


「ねぇ、ハルトマン中尉。今夜、一緒に一杯どうかしら?貴方には4年前のお礼を返しきれてないもの。」


4年前…そう、テルリア戦争。その時に確かに一度、俺は彼女を助けた。


しかしあれは自分を守るためでもあった、ピアース中佐を失って、少し敏感になっていた自分がいたのだ。


「僕はあまりお酒は飲みませんよ?でも、もう少し話したいこともありますし、いつ頃お迎えにいけば?」


「あら?迎えに来てくれるの?ふふ、惚れちゃうかも。7時くらいでどうかしら?」


「了解。」


ふとスカーレット中佐の顔が曇った


「昔に比べて口数が増えたわね、今の方が話してて楽しいわよ。前は前で楽しかったけれどね。」


ケイには彼女が何を思ってそんなことを言ったのか分からなかった。


()

18:30

エルファリア王国テンカ地方、防空要塞ノガナ


「やたらと最近は領空侵犯してくる機体が多いよな。」


「そうだな、しかもパイロットの奴らから聞くに識別マークが全て消されてるらしい。」


「マジかよ?それじゃあどこの国かわからねぇじゃん。」


「機体から察するに東側の国の何処からしいがどこの国かは確証がないらしい。」


「物騒な世間になったもんだよな、全くさ。軍人は自国を守るためだけにいればいいんだよ、宇宙人にでも備えときゃいい。」


そんな雑談をエルファリア王立陸軍第203防空師団所属のマイク・ロブレスキー上等兵と同部隊所属のブレイク・オスロ上等兵が交わしていた。


彼らの役割は見張り台からの洋上監視と基地内監視である。


少し肌寒い日だった。


突如、肌がヒリつくような熱気を感じて周りを確認すると防空要塞の一区画で火の手が上がっていた。


続けて、風切り音と共に次々と火柱が上がる、要塞中に警報音と命令が響く。


「総員戦闘配備、繰り返す、総員戦闘配備!これは訓練ではない!当要塞は現在正体不明の攻撃を受けている、沿岸守備隊は全部隊敵の着上陸に備えよ!本要塞はこれより制空権を奪い返す!」


「おいおい!ただごとじゃねぇぞ!」


「いいから武器を取れ!ほら、弾だ!銃を確認しろ、最悪の場合もうそろそろ来るぞ!」


その時、沿岸部から重機関銃と汎用機関銃、ライフルの銃声が響き出した。


「おいおい…嘘だろ…!」


2人は重機関銃の弾を取り出して見張り台に持っていった。


()

同日 首都エルドリッチ 統合参謀本部


「現時点で判明している損害報告と支配喪失域をスクリーンに表示しろ!」

「今即応可能な部隊を即座にリストアップしろ、戦略AIに読み込ませて最適な反撃案を取りまとめるんだ。」


三軍を指揮統率する統合参謀本部は荒れていた、こちらの警戒が緩い時に仕掛けてきた。


それ自体は歴史上よくある話だ、問題はエルファリアがこの攻撃を察知できなかったこと。


エルファリアの諜報網は群を抜いている、12時間以内にあらゆるターゲットを暗殺できるし、敵の戦力移動も手に取るように分かる…はずだった。


近隣諸国にはまるでその気配がなかった、少し前にテルリアで軍事演習があったが全部隊の帰還をこちらも確認している。


この事実はエルファリアの国防体制の根幹を揺るがしかねない事態であった。


「諸君落ち着きたまえ。」


野太く、低くもよく響く声がマイクを通して施設に広がる


「我々は想定を外れた攻撃を受けた、しかし、想定外などいくらでもあり得る、たかが一つの想定外に対応できないようでは諸君らはマニュアル人間だ、ロボットだ、しかし諸君らは違う、エルファリア王国の兵士だ、誇り高き騎士なのだ、我々はこの事態にあらゆる手段をもって対応する、情報の収集に努め、部隊の即応配備を完了せよ。以上だ。」


エルファリア王国軍統合参謀本部総司令官


ギルバート・シュリットラー 元帥


エルファリア王国唯一の元帥にして全軍の事実上のトップ、冷静沈着、優れた決断力、その知見の広さより三軍を率いる長として彼は彼の椅子に座っている。


「敵がいずれであるにせよ、テンカ地方の一時的な喪失も可能性としては十分あり得ると小官は考えます。」


総司令官補佐


アダム・マッケンジー 少佐


彼はシュリットラー元帥より多大な信頼をおかれている優秀極まりない作戦参謀であり、将来的な陸軍参謀長も確実視されている男である。


「ノガナ要塞を含めテンカ地方には多数の軍事拠点が張り巡らされている、そう簡単には落ちるまい、しかし…」


「ナガノ要塞が既に陥落しているとしたら、話は変わる。ですか?」


「そうだ、あの要塞は主にテンカ地方の防空を一挙に担う中核防空施設だ、あそこを失えばテンカ地方は空から無防備になりかねない。」


「ノガナ要塞とは30分前より通信が途絶しています。」


彼らの懸念、それはノガナ要塞陥落による制空権の喪失とそれに伴う地上部隊の苦戦であった。


ノガナ要塞は第8次高度国防戦略計画によりテンカ地方に作られた防空要塞であり、127ミリレールガン、1300基のVLS、複合レーダー、短距離防空用レーザーシステム、移動式地対空ミサイルシステム複数を有する防空中枢である。


テンカ地方は島であるためノガナ要塞一つで全土をカバーすることが可能であったため、ここに防空戦力を集結させることとされたのであった。


これは飽和攻撃に対して高い防御性を持つ一方、基地機能喪失により防空を一気に失うことを意味していた。


「機動空中空母は?」


「戦略AIは一番艦アルテミスを選択、現在第1空中空母航空団が出撃命令待ちです。」


「艦隊は?」


「第十艦隊がテンカ地方南東部沖合に展開しています、第301空母航空団が地上部隊支援のために近接航空支援と制空作戦を実施中です。」


「第六強襲艦隊と第十艦隊を合流させ、陸軍部隊を上陸させる。アルテミス航空隊は制空任務に特化させる。第301空母航空団は敵対空兵装の殲滅と地上支援に特化、明日。反転攻勢を仕掛ける。」


「全部隊に通告します。」


「作戦はプロミネンス作戦とする、全参謀を集めろ、作戦計画について仕上げるぞ。」


()

同日、エルドリッチ特殊戦術航空群臨時基地


「上手くいかないものね…、これもまた仕方のない運命かしら。」


外出用の私服からパイロットスーツへ着替えたスカーレット中佐は名残惜しそうに私服をロッカーに詰めた。


基地では忙しなく人が移動し、機体には対空ミサイルが搭載されていく。


ブリーフィングルームには続々とパイロットが集結していた。本来は特殊戦術航空群は完全な休日であったため、お酒を飲んだ隊員もいる。


そのため、出撃可能なパイロットはスカーレット中佐を含めて8名だった。


「現状を説明するわ、本日16:40時、テンカ地方の大都市カサーオ近郊に位置するノガナ防空要塞が不明勢力から攻撃を受けた。その後、要塞とは通信が途絶。」


「配備が間に合った部隊からの通信も把握すると、敵はカサーオを制圧、テンカ地方を南進しているとのことよ。」


「これに対してエルファリア軍は第十艦隊、第六強襲艦隊、そして機動空中空母アルテミスを派遣、現在テンカ上空で交戦中。」


「テンカ地方は知っての通り縦の長さはエルファリア大陸と同じになる大きな島、ホーシュー島とその他の細かな島から出来ている。」


「大陸とホーシューを結ぶ八大大橋は全てが無事、そのため本土部隊も続々と投入できているわ。」


「我々の任務は、テンカ地方救援に向かう部隊の穴を埋めて、首都エルドリッチの航空警戒を行うこと。各機はエレメントを編成、各エレメントで空中哨戒に当たりなさい。」


「不測の事態だけれど、我々は為すべきを為すのよ。それでは解散、準備出来次第空に上がりなさい。」


パイロット達が立ち上がり敬礼する。


あいにくお酒が入ってしまっていたパイロット達は、基地の地下施設へ食料、飲料水を追加で運び込んだ。


ケイは耐Gスーツを身につけ、ハンガーに向かった。


エルダ特任中尉とヘンリー特任中尉はこの際、戦力としてカウントされていなかった、そのため2人は機体へのミサイルの取り付けや機体チェックに回された。


ケイが機体に向かっていると、首都全体に空襲警報が発令された。けたたましいサイレンの音が鳴り響く。


(まさか、エルドリッチに来たというのか?)


その懸念への回答は分かりやすく行われた、隣接するエルドリッチ空軍基地の方向で爆発が起こる。


続けて海軍航空隊の基地でも。


今両方の基地はテンカヘ救援に向かう部隊がまさに出撃しようとしているところであったはず。


「全機は直ちに離陸、首都に接近する敵機を叩き落とせ!」


基地司令からの命令は簡潔だった。


「さっさと出ます!」


タラップを駆け上がりコックピットに入る。


作業員がタラップを外し、ミサイルのピンを全て抜いた。


機体を動かしてハンガーの外に出る。


「緊急でコールサインを割り当てる、Knight、君はコールサイン、ヴァイパー01だ。復唱せよ。」


「こちらKnight 、コールサイン、ヴァイパー01。了解。」


「ヴァイパー01、君の二番機にはセイレーンをつける。彼女のコールサインはヴァイパー02。」


セイレーン…アシュフォードのタッグネームだ。


気づけば後ろにアシュフォードがついてきていた。


「ヴァイパー02より01へ、カバーポジションには常に私がいます、上手く使ってくださいね。」


「言われなくとも働いてもらいますよヴァイパー02。」


そのまま滑走路に進入する。


「ヴァイパー01、離陸。」

「ヴァイパー02、離陸します。」


2機のF-15MXが夜空に昇っていく。


高度8000フィート


「こちら、首都防衛要塞ラダノ。早期警戒管制レーダーだ。特殊戦術航空群全機の離陸を確認した、現在首都より200マイルの位置に敵航空部隊21機が展開している。さらにその後方に20機だ、前面の敵は我が要塞が相手をする、君たちは後方の敵を始末してくれ。頼んだぞ、女王陛下万歳!」


「特殊戦術航空群全機、聞いたな?我々は後方の敵を始末する。臨時編成に従い各エレメントごとに交戦せよ。ウェポンズフリー、蛮族に礼儀を教えてやれ!」


スカーレット中佐はそう言い放つと、高度を上げていった。


「私達はどうする?ヴァイパー01。」


「無理に高度を上げて速度を失っても的になる、高度1万フィート目指して緩上昇、マッハ1.9を目指す。」


「ヴァイパー02、了解。」


2機は24発もの中距離空対空ミサイルを積んでいるためいくら新型エンジンといえど、速度や高度には気を配る必要がある。


しばらく飛んでいると


「凄いわね、前面の敵機はもう全滅よ。流石のラダノ要塞といったところね。」


見るとラダノ要塞の対空攻撃で無惨にも敵機は全滅していた。


「僕らは目の前の敵を狩るぞ?」


レーダーは既に敵を捉えている、あとは射程に入るのを待つのみ。


「距離90マイル、もう少し引きつけよう。距離85マイル。潮時だな、ターゲットを複数同時ロック。FOX3」


8発のAAM-12が距離85マイルで放たれた。


アシュフォードも8発を放ち、ともにクランクする。


ミサイル誘導を続けつつ、機体を動かしてミサイルの回避に備える。


「スタンバイ、ミサイルのピットブルを確認。離脱、離脱。」


ミサイルが自身で敵機を追いかけ始めたのを確認すると機体を旋回させて相手に背中を向ける。


フレアを撒きつつ、敵の中距離赤外線ミサイルに備える。


RWRは鳴っていないのでレーダー照射は受けていない、そのためレーダー誘導ミサイルは気にしなくて良い。


(そろそろだな)


放ったミサイルが敵に接触する。


消えた輝点は2つ、支援AIも2機の撃墜を認定した。


「スプラッシュ2、バンディッツ。反転して再攻撃する。」


「ヴァイパー02、スプラッシュ2、バンディッツ。こちらも2機撃墜、了解再攻撃します。」


機体を反転させて再攻撃を狙う、敵の数は既に17機近く減っている、もう結果はついた。


「警戒せよ!高速で接近する飛行物体を一つ確認した!敵機と思われる、レバー01、02、回避せよ!」


ラダノ要塞からの警告にコールサインレバー01と02は回避を取ったが2機とも撃ち落とされた。


???「これが特殊戦術航空群?期待していたのだけれど…これではまるでサーカスのピエロね。」


またこの声だ、蜃気楼を名乗る敵、


コードネーム ミラージュ


テルリア戦争でエルファリア側の戦闘機を11機撃墜した所属不明、目的不明のエースパイロット。


「オープンチャンネルで話してるの?」


アシュフォードの言いたいことも分かる、しかしミラージュに常識を求めてはいけない。


「奴に対処するぞ、この距離なら射程内だ、遠距離からミサイルの物量で無理やり引き剥がす。」


ロックしようとしたがレーダーは敵機を捕捉しきれない。


「この面倒くさいECMめ、一体どういう原理のものを積んでるんだ?」


「ヴァイパー01、こうなれば赤外線のレンジに持っていくしかないわ。リスキーかしら?」


「リスキーもリスキーだ、だがそれしか無さそうだ、ヴァイパー02、やろう。」


四連装ミサイルラックを二つ投棄して身軽にする。


「前の機体のままなら赤外線センサーなら十分捉えられる、しかしそれは近接戦闘を意味するぞ。あの機体は速い、気を抜くとあの世行きだぞ。」


「経験者の言葉の重みは違うわね、了解したわ。」


2人の機体はミラージュへ近づいていた、その頃。


「エッジ02、応答を!エッジ02!」


スカーレット中佐は今まさにミラージュと交戦していた


臨時の僚機は既に空から姿を消している、スカーレット中佐はミラージュとやり合うが決定機は掴めない。


???「あら?この飛び方は…どこかで見覚えがあるような?あぁ、生きていたのね。」


スカーレット中佐は自然と操縦桿を握る手に力が籠っていた、闘志ではない。恐怖だ。


ミラージュの機動は鋭い、彼女の乗る機体から繰り出される攻撃は完璧なタイミングでこちらを捉えてくる。


???「貴女も成長するのね、なかなかいい動きだわ。機体とは友達のようね。」


スカーレット中佐は機体をグイッと回してミサイルを2発放った。


敵機は急降下し、地面に向かっていった。


スカーレット中佐は失った運動エネルギーを取り戻すために使い切った四連装ミサイルラックを投棄した。


ミラージュは地面スレスレで機体を引き起こし、同時にフレアを撒く。


ミサイルはそのまま地面に突っ込んでいった。


???「悪くない、いえ、少し面白いわ。」


ミラージュの動きが明らかに変わった、先ほどよりも明らかに鋭い、まるで引き裂かれてしまいそうなほどに。


殺される


スカーレット中佐は本能でそう感じた。


あっという間に背後を取られていた。


(誰か助けて、ケイ…)


???「殺気?やっと来てくれたのね、ふふ。」


ミラージュは攻撃を取りやめて回避に移った、複数のミサイルが地面に突っ込んでいく。


(誰…?)


その頃、ヴァイパーの2人は


「あれを全て躱すのね…噂通りだわ。」


「アイツは化け物だ、エレメントを崩すな。2機で翻弄して隙を撃つ。」


おそらく昼であれば少し遠くにミラージュの飛行機雲が見えていたであろう距離まで今は近づいている。


???「貴方を待っていたわ、ケイ・ハルトマン。」


「俺の名前まで漏れてるとは思わなかったよ…」


「当たり前でしょう?貴方は有名人じゃない、それより後で聞きたいことがあるわ。」


機体がレーダー照射を受ける


機体を反転させてミサイルを引きずり回す。


「やつのミサイルはもうほとんど尽きているはず、これを躱したら一気に攻めるぞ。」


とはいえミサイルはなかなか外れない、しつこいミサイルだ。


何度かチャフとフレアを撒くとようやくロックが外れた。


「ヴァイパー02、反転するぞ、ペイバックタイムだ。」


機体を反転させ、牽制としてAAM-12を放つ。


「今のうちに機体の速度と高度を回復させるぞ。」


しかし敵がそんなことをさせてくれる筈はなかった。


機体を機関砲弾が掠めていく。


その衝撃で機体がバランスを崩す。


「この距離で掠めてくるか!?」


「貴方は体勢を立て直して、私が時間を稼ぐわ。」


待てと言う前に彼女は飛んでいった。


すぐに機体を立て直して追いかける。


???「あら?ハルトマンには常にお友達が側にいるのね、羨ましいわ。」


アシュフォードはミサイルを続けて放った。


「まったく!オープンチャンネルで彼の名前をペラペラと!彼女面かしら?!」


やたら感情的なアシュフォードの声がオープンチャンネルで全部隊に流れた。


「落ち着けアシュフォード!足元を掬われるぞ!」


敵はアシュフォードの上に入り込み機関砲を撃った


「馬鹿な!?」


アシュフォードは機体を捻ってコックピットを外した、が。弾丸はエンジンを捉え、片側のエンジンが火を噴いた。


「右エンジン被弾!消火!」


機体に複数の被弾を受け、エンジンを片方失った以上、彼女の命運はあと僅かだった。


「よく耐えたぞ!交代だ、ここからは俺が引き受ける!」


入れ替わりでケイが攻撃を開始した。


「アシュフォード中尉、エスコートするわ。戦闘空域から離脱するわよ。」


スカーレット中佐がアシュフォードの護衛につき空域を離脱する。


ケイとミラージュの戦いは激戦の様相を呈していた。


ミサイル4発を残して残るミサイルを投棄する。


機体は捉えるか捉えないかのギリギリの交差を繰り返す。


(あと少し、あと少しで射線に捉えられる。)


3度目の交差になった時、ついに斜線に捉えた。


すかさず機関砲を放つ。


捉えた、弾は敵機の機体を確かに捉えた。


機体から黒煙が噴き出している、しかしまだ推力は健在そうだった。


???「やっぱり面白いわ、貴方。でも、ここで落ちるわけにはいかないの。」


その時小型の敵機が複数体当たりを仕掛けてきた。


当てる気はなさそうだった、コックピットらしき形状が見えなかった。


(無人機か?)


去っていく無人機を1機、ミサイルで撃ち落としたものの、ミラージュをまた取り逃がした。


レーダーが正常に戻り酷かった通信妨害も鳴りを潜めた。


「交戦中の全機、現状を報告せよ。繰り返す、現状を報告せよ。」


「ヴァイパー01、交戦終了、敵機を1機撃墜した。しかし、コードネームミラージュと思われる機体の撃墜には失敗、燃料が限界です、基地に帰還します。」


「了解したヴァイパー01、エルドリッチ基地に帰投せよ。」


「首都の様子は?」


「ラダノ要塞が首都攻撃を画策した敵機を殲滅、貴隊らの奮戦により後続部隊も大半を喪失して撤退した、首都近辺の軍事施設に攻撃を受けたが民間区画には被害なし、よくやってくれた。」


「了解、RTB」


後にエルドリッチ防空戦と命名されるこの戦闘で、特殊戦術航空群は3人のパイロットを喪失。


全部隊では空軍パイロット12名、海軍航空隊パイロット8名がそれぞれ地上への攻撃を受けて戦死、整備士、防空兵を入れて合計45名が戦死、37人が重傷を負った。


この戦闘でも敵対勢力の詳細は掴めず、ミラージュが前線にいたことよりテルリアの関与が疑われた。


()

4月26日

テンカ地方南部 ワナキオ


「上陸作戦を開始する!頭を下げろ!ハッチが開いたら遮蔽まで走れ!」


LCACに乗った陸軍兵士達がテンカ地方南部にある都市ワナキオに上陸作戦を仕掛けていた。


北部から徐々に追い込まれていたテンカ地方だが、夜遅くに南部からも敵が侵攻、守備隊はテンカの中部で挟み撃ちにされていた。


本州との連絡橋を渡った増援部隊はすぐに橋を落とされて補給が絶たれた。


そのため統合参謀本部提案のプロミネンス作戦が実施されるにいたる。


第一段階、本土からの増援航空隊と機動空中空母アルテミスの艦載機隊、第十艦隊の空母ヴィクトリアの艦載機による徹底した制空戦闘と対地支援が行われる。


第二段階、砲撃と対地ミサイルによる上陸支援攻撃。


第三段階、陸軍部隊による上陸作戦。


第四段階、仮設橋の設置と陸軍部隊の大量投入。


以下の手順を持って作戦は実施された。


4月29日

テンカ地方中部 ラナ

「本土からの増援に感謝いたします。」

「よくぞ耐え抜いてくれた、ここからは我々が攻撃を担う、君達は土地勘を我々に与えてくれ。」


南部の制圧を終えたエルファリア陸軍部隊は中部の都市ラナに到達、籠城していた部隊との合流を果たす。


「敵が何者か分かったか?」


「いえ、捕虜はみな自殺しました。」


「なんだと?識別証か何かはないのか?」


「何も、どうやって連携を取っているのかも不思議なほど彼らの装備には何も所属を示すものがありませんでした。」


「人種は?」


「おそらくバルフォア大陸東部の人間かと」


「テルリアか?」


「確証は…、ただ、使用している銃器、装備の水準はテルリアのものと合致します。」


「しかしこれだけの電撃戦、奴らの練度でできるのか?」


彼らの疑念は絶えない、あまりにも不可解すぎる敵、不気味なほど順調に進む作戦。その全てが彼らに不安を与えていた。


5月3日、ノガナ要塞


「旗を掲げろ!」


5色に彩られた五角形の真ん中でその威光を示す王冠を持つ


クラウンペンタゴン


エルファリア王国の国旗である。


奪還されたカサーオの市庁舎とノガナ要塞に掲げられた国旗は燦然とその地がエルファリア王国のものであることを示した。


「住民の様子は?」


「酷いものです、道路上には何人もが撃ち殺されていました。行方不明の子供と女性も100名を超えます。」


「我々の敗北だな。」


「残念ながら…。我が国の防衛体制の弱点がこんなところにあったとは。」


「ハッキリした相手にはめっぽう強いが…何が何だか分からん敵にはこうも弱いとは。」


「切れ者のシュリットラー元帥のことです、すぐに対策を立てるでしょう。」


その時、話をしていた上陸作戦司令と参謀は声が聞こえた。


「お〜い!手伝ってくれ!敵の捕虜を取った!まだ生きてる!」


遠くから兵士が地下壕から出てきた。


「なんだと?部隊を集めろ、いくぞ。」


上陸作戦司令は拳銃を取りつつ、走って向かった。


マイク・ロブレスキー、ブレイク・オスロの2人は味方に捕虜を引き渡した。


「ロブレスキー上等兵、オスロ上等兵、少し話を聞かせてもらいたい。捕虜についてだ。」


「は!しかし、敵が舌を噛みちぎるのを防ぐために猿轡を着けたので我々自身はあまり情報を持っておりません。」


「構わんよ、それは尋問で聞くさ。敵はどんな自殺を謀った?」


「最初は拳銃で、次は口の中の薬剤で、最後は舌を噛みちぎって、角に頭を打ち付けて死のうともしていました。」


「狂ってるな…」


「狂気的でした。」


「わかった、よくこの要塞で生き残ったな。あとで勲章が渡されるだろう、その前に風呂に入るといい。」


2人は敬礼してその場を去った。


エルファリア王国はこの戦闘全体を通して陸軍兵士500名、空軍兵士120名、海軍兵士300人の犠牲が出た。


これは、現代の戦闘では最大でありエルファリアの国防体制の弱点を晒したものであった。


「この度の戦闘で、国家、国民のために己が身を以て勇猛果敢に戦い、残念ながら華々しく散っていった王国の騎士達に私は最大限の敬意と言葉では言い表せない感謝を送るものであります。どうか、国民の皆さん。勇敢な将兵へ黙祷を…」


「いつの日か、この世界が戦争による恨みと怨嗟の鎖から解き放たれることを切に願うものであります。」

エルファリア王国女王 エレノア・エリザベス・チューダー

クランク・・レーダー誘導ミサイルの誘導を行いつつ、敵ミサイルの回避に備える回避の準備機動

RTB・・基地への帰還という意味

ECM・・電波妨害、敵のレーダーを妨害し身を隠したり敵のレーダーの能力を著しく低下させる役割を持つ。

LCAC・・ホバークラフト型揚陸艇。水上を航行し、そのまま地上に揚陸できる。戦車や装甲車、物資、兵士を積む。

ピットブル・・レーダー誘導ミサイルが自身のレーダーで敵機を捕捉し、母機からの誘導を必要としなくなったこと。

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