霊事課の樹里
警視庁には、表に出ない部署が存在する。
様々な凶悪事件に対し霊的アプローチを用いた捜査を行う――刑事部 霊事課 通称 霊事警察。
捜査一課の刑事・八神恭史郎は、ある日、霊が見える刑事「本条ひなた」とコンビを組まされる。
だが八神は、極度の怖がりだった。
人面犬事件、猟奇殺人、犯罪組織の暗躍
そして都市の闇で進む謎の薬物実験。
人間の犯罪と怪異が交差する事件に、凸凹コンビの捜査が始まる。
※ この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。
所轄の警官に事後を頼むと、八神とひなたは覆面パトカーへと向かう。
「母親は心臓の手術前だから、主治医によると娘の行方不明の状況を伝えるには厳しいらしいからな。なんとしても見つけてやりたい」
「さっきから佐久間光一さんの霊が私に伝えたい事があるようなんです、何か聞き取りずらくて、『 かずま 』 って単語が聴こえるんですよ」
「かずま?」
八神は佐久間光一の霊に怯えつつも、ISSに上がった情報をエレベーターの中でチェックしていく。
「……あった!」
「え?」
八神が指摘した部分を見て見ると、そこには 相場壱磨 とか書いてある。
「あ、これで かずま って読むんですね」
「だがどう繋がるか」
覆面パトカーに乗り込むと、ひなたと一緒に繋がりがないかを見直していく。
「住所は…… 大田区梅屋敷ですね」
「梅屋敷か、まさか!」
慌てて地図アプリを出した八神は、周辺地図を見て思わず叫ぶ。
「これだ!」
「え?」
「羽田空港周辺の倉庫街!」
「あっ!」
「本条が、れ、霊視だかで聴きとってただろ!? そうこって」
「たしか三枝さんは お茶とか それが服についたって!? ちょっと待ってください!」
ひなたはスマホで連絡をすると数コールで出てくれた。
「樹里ちゃん! 大至急調べて!」
『はいはーい!? ひなちゃんどうしたの?』
「大田区の梅屋敷に近いエリアにある倉庫で、お茶、お茶葉を搬入した履歴のある倉庫を調べられる?」
『いきなりだなぁ~でも、ピンときたかも。ちょっと待って、羽田の大鳥居から北、梅屋敷までのワードを…… この辺に絞ってみる、うん、繋がってる感じする。5分で絞ってみせるから、後でハグさせてね ひなちゃん成分ほきゅうしたい~』
「なんだあれは?」
「うちの霊事課で情報分析ナビゲーション担当の 七曲樹里ちゃんです。卓越した情報分析のプロなんですけど、霊感を含めたナビや分析をするのが得意なんです。一歩先、そこを調べるのが彼女の得意分野」
「すごいな、とりあえず大田区方面に向かうぞ!」
「はい!」
八神は覆面パトカーのサイレンを鳴らして大田区へ急行する。
5分も経たないうちに樹里から連絡が返ってきた。
『う、うげええ、ひ、ひなちゃん!』
「ど、どしたの?」
『すごく霊的な悪い感じがする、気を付けて! 倉庫は多分ここだと思うんだけど、すっごい穢れを感じる、後から持ち込まれた物の可能性が高いと思う、うっこれ以上きっついごめ』
「霊的によくないものに遭遇すると、体調壊す人っているんですよ」
「た、大変だな。だがお手柄、いやお手柄にしなくちゃならない。しかしこれをどうやって本部長に伝えるべきか」
「そこなんですよ。分かっても、現実との折り合いがつかないと何もできない。そこで生まれたのが霊事課であり、鍵になるのが協力者である八神さんなんです」
「辻褄は後で合わせればいい。もしかしたら早瀬香澄さんの他にも拉致監禁されている人がいるかもしれない」
「気持が、焦りを抑えるのって辛いですね」
「早瀬香澄さんほどじゃない」
「たしかにそうですね」
京急本線に沿って走らせていたが、梅屋敷が近づいてきたためサイレンを外す。
「131号線 このまま直進、もう少しで左折です」
「倉庫位置、大体場所把握してるな?」
「はい。というより佐久間さんが教えてくれています、やっぱりこの方向であっているようです」
「さ、佐久間さんが!? うっ、こ、こわいけど、今は護のためだ!」
すっかり日が暮れ、街灯がまばらな倉庫街へと入っていく。
「あの角の先にある倉庫のようです、どれも似たような倉庫ばかりで」
「お前の感覚が頼りだ! 辻褄合わせは後で悩めばいい」
「どうして信じてくれたんですか?」
「知るか!」
「まあ、それぐらいでちょうどいいのかもしれません」
ひなたの指示でパトカーを静かに停車する。
何かを感じているようで、斜め向かいの青い壁の倉庫を睨むように見つめていた。
「あそこで間違いないです。佐久間さんと三枝さんの念を強く感じます」
「ということで、悲鳴が聴こえたから中に入って確認する」
「私《《も》》聴こえました」
倉庫の通用口には鍵がかかっておらず、八神と一緒に遠くの街灯から漏れる光を頼りにひなたの誘導で目当ての倉庫へと早足で歩く。
拉致実行犯と遭遇する可能性が高いためであり、最優先目標が拉致された被害者の救出であるためだ。
メインシャッターの横にあるドアが施錠されていたら、ガラスを割って窓から入るつもりであった八神だったが、やはり施錠はされていない。止まっているトラックなどの車両はないもののそれだけに飛行機の離発着の間の静寂と重なり不気味な雰囲気が広がっていた。
ひなたその時、びくっと全身を震わせる。
八神は気付いていないが、ひなたには葛藤があった。
ここであのことを告げてしまえば、八神が怯えて使い物にならなくなるだろう。
ひなたは背筋にひんやりとしたものを感じながら、八神の後に続く。
音を立てないように静かにドアを開けると、倉庫内はガランとした空間だった。
周囲に大型のスチール棚があり、前の荷物の名残が少しあるだけだが中は意外な構造になっている。
倉庫内にすっぽり収まるようなプレハブの小屋が設置してある。
倉庫の内の照明が点いているが、薄暗く張りつめた空気が漂っていた。
八神が手振りで合図を送ると、中のプレハブへと侵入する。
そこにはマットレスが複数置かれ、パイプに繋がれた女性がぐったりと横になっている。
八神がかけより首筋に手を当てると温かい。そして脈が触れる。
プレハブ内は暗いが、護からもらった写真の人物を一致することは間違いない。
そしてその隣には、明らかに衰弱した20代前半の女性が横たわっている。
脈が触れるが体温が低めであり、早急に病院へ搬送しなくてはならないことは一目瞭然だった。
「本条、応援と救急車の手配を」
「はい」
ひなたの声がやけに小さく、元気がない。この暗さだからよく分からなかったが、顔色も悪い。
「!? どうした?」
「ここから、早く 離れないと」
八神は何も感じることはないが、あっち系だということはよく分かる。
「本条は、衰弱してる女性を頼む、小柄だからお前でも背負えるだろ、いや背負ってもらう」
「がんばり、ます」
2人にかけられた拘束が手錠であると分かり、手持ちの鍵で開くかとどうかダメ元で試すがあっさり開錠できてしまう。
「さあ、早く起きてくれなかなお姫様」
お読みいただきありがとうございました。
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