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霊事警察 ~霊が見える刑事と、霊が怖すぎる刑事が挑む怪事件~  作者: 星乃渚(旧:鈴片ひかり)


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8/12

霊視

警視庁には、表に出ない部署が存在する。

様々な凶悪事件に対し霊的アプローチを用いた捜査を行う――刑事部 霊事課 通称 霊事警察。

捜査一課の刑事・八神恭史郎は、ある日、霊が見える刑事「本条ひなた」とコンビを組まされる。

だが八神は、極度の怖がりだった。

人面犬事件、猟奇殺人、犯罪組織の暗躍

そして都市の闇で進む謎の薬物実験。

人間の犯罪と怪異が交差する事件に、凸凹コンビの捜査が始まる。


 ※ この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。



 ◇

 捜査一課長の許可をもらい、提供用のデータをてきぱきと編集した八神は約30分後には真壁にデータを送っていた。


 その手際にはひなたも感心している。

 「それで、本条はどう動くかの算段はついてるのか?」

 「遺体と対面したいんですが、まだ科捜研にあるんですよね?」

 「なんだその顔は、何か含みがありそうな、嫌な予感しかしないが」


 「えっと、私、1人で対面したいんです」

 「……そ、その、れ、霊視とかいうやつか」

 「そういうことです」


 八神はひなたに押し切られる形で科捜研にアポを取る。

 すぐに対面できるようだが、情報支援室絡みになるとうまく事が運ぶような気がする。


 科捜研の職員が立ち会ってくれるが、八神は顔なじみなのもあって彼を連れ出そうとする。

 「なんだか、1人で対面したいらしい。そうすると意識が集中できるとかなんとかんとか」

 「えっとうちらが同席するのが条件なんですけど」

 「じゃあ離れた場所で見ていればいいじゃないか、静かにしてやってほしい」

 「ああそういうことなら」


 佐久間光一はどこにでもいる大学生ではあるが、整った顔立ちでその死に顔は安らかに見える。

 「佐久間光一さん、少しお話をしましょう」


 本条ひなたは手を合わせると、意識を集中していく。

 「……そうね、残念だけど――うん、うん、そうだったのね」


 何かぶつぶつ言っている状態のひなたを科捜研の職員が怪訝そうに見ているが、八神は仕方なくフォローする。

 「あいつは普段から独り言が多いから気にしないでくれ」

 「なるほど、でもあの子かわいいですね。あんなかわいい子、警視庁にいたかな」

 「ははは」


 八神が待っている間、ひなたは佐久間光一の霊との対話を行っていた。

 ひなたほどの力があっても、生きている人間のように会話ができることはほぼない。

 それぞれの思いや気になっていること、執着を延々と語りだすようなタイプがほとんであるが、佐久間光一は奇妙なことを口にした。


 『 ほかの ふたり だいじょうぶかな 』

 

 佐久間光一が亡くなってから発見されたのは、三枝里穂であることを考えれば、もう一人、拉致監禁されている可能性が浮かび上がる。


 「どこにいたかわかる?」

 『……  ああ、授業欠席したら 単位が』


 大学にはもう通えないということが、ひなたの胸をチクリと痛ませた。

 「他の2人はどこに閉じ込められているか教えてほしいの、あなたが頼り」

 

 『 たより、そう。 そうこ 倉庫がいっぱい ……』


 ひなたは佐久間光一が必死に教えてくれた内容をメモに取る。


 そして佐久間光一の霊は静かに消えていく。

 もちろん八神には本条ひなたが1人で話しているようにしか見えないが、実のところ八神は必死に震えと戦っている。

 「その寒いっすねここ」

 「それはしょうがないですよ」


 続いて、三枝里穂の霊に話しかけるも、彼女については終始、怯えそして叫び、ずっと母親と父親に助けを求めていた。

 その必死さに、ひなたは同情する。どれだけ怖かっただろう。頬に涙が流れた時、三枝里穂の端正な顔立ちがすこし落着きを見せる。


 『 ふたり、ふたり、許さない あの男、あいつら 』

 

 三枝里穂の感情が恐怖から憎しみへと変わっていく。


 「三枝里穂さん、覚えていることがあったら教えてください。必ず犯人を逮捕してみせます」

 

 逮捕という言葉が、三枝里穂を少しだけ落ち着かせる。

 『 お茶 …… おちゃっぱが、こぼれてて 服について 』


 お茶っぱ 服に…… もしかしたらとひなたの中で何かが結びついていく。


 『こわい、またくる 注射 いや やめて!』


 そこで三枝里穂がすっと消えてしまう。


 ここまでかと、ひなたは再び手を合わせ深くお辞儀をする。


 「お待たせしました」

 「もういいのか」


 「はい! 必ず犯人を逮捕しますから!」

 八神に向けた言葉ではない。彼らに対して向けられた言葉に八神も頷く。


 そのまま2人が捜査本部に戻ろうとすると、本部長の杉沢からの電話だった。

 『八神! さきほど姉が行方不明だと10歳の弟から連絡が入った。ジドリカンドリの割り振りで人が出払っていてな、お前たちで状況を詳しく聞いてきてほしいが頼めるか?』

 

 「分かりました。すぐに向かいます」

 八神が電話を切ると、スマホにデータが送られてくる。

 「目白近郊か、よし急ぐぞ」

 「はい」

 「分かったことがあったんだろ? 分析、しなくていいのか? どうやって情報を入手したかは知らないけどな!」


 「情報は断片的で現状では結びつくものはほぼないです。どうやら監禁されていたであろう場所がどこかの倉庫だってことぐらいで」


 「都内に倉庫がどれだけあるか、個人のものを含めれば膨大なものだろう」

 

 覆面パトカーで移動中、杉沢から送られてきた捜索願いが出された行方不明者情報が更新された。


 「早瀬香澄 20歳 国立看護大の2年生 父親病死後、家計を支えるためにバイトをしながら国立の看護大に合格、奨学金とバイトで学費を出し、母も入院中で弟の面倒を見ている……」


 「こんな人を拉致したとか!? 疲れて逃げ出していただけでいてほしい」


 「まったくだ。逃げたっていいんだよ。とにかく無事でいてほしい」


 八神たちが到着したのはあるマンションの一室だった。 

 そこには女性警官に慰められ、泣きながら話す10才の男の子の姿だった。

 「捜査一課の八神です。早瀬香澄さんの件で来ました」

 

 女性警官も捜一が来たことに驚いている。

 八神は男の子と同じ目線でしゃがむと、肩をぽんと叩いて声をかける。

 「お姉さんがいなくなった時のことで、覚えてることはあるかな?」


 さきほどまで泣いていた少年、早瀬護はじっと八神の目を見つめる。

 「今日ね、一緒にカレー作るって約束してて、お姉ちゃんはずっと勉強とバイトで忙しいけど絶対にね、できない約束はしないんだ」


 女性警官が補足の情報を読み上げる。

 「今日は日曜なのでお昼にカレーを作るはずが、早朝バイトから帰ってこず夕方まで待ってもこなくて泣いてるところを近所の人が心配して通報となったようです」

 

 「お姉ちゃんのこと好きか?」

 「うん。ぼく、まだできないこと多くてお姉ちゃんにいっぱい迷惑かけちゃって、でもお姉ちゃん、お母さんのお見舞いとかも、すごく忙しいのに」


 「分かった。お姉ちゃんを見つけるためのヒント、探すんで部屋に入ってもいいか?」

 「うん!」

 「護、案内頼むぞ」

 「分かった!」


 ひなたと女性警官が驚いている。

 「八神さんって子供の扱いうまいなぁ」 

 「近所の人の話だと、護君は大人しくて人見知りしやすい子のようです」

 「なるほどなぁ」

 

 護の案内で早瀬香澄の部屋に入ると、そこは整理整頓された弟と一緒の部屋であった。

 几帳面で丁寧な文字で書かれたノートが開きっぱなしで、看護大の勉強をがんばっていたことが分かる。

 衣類をひなたに確認してもらうと、派手なものはなく地味で機能性の高い衣服を好んでいたようだ。アクセサリー類もわずかなものしかなくて、贅沢からはほど遠くとも家族3人で仲良く暮らしていたことが各所に飾られた母親や父の似顔絵や、家族3人になってから撮った写真などを見ているとよく分かる。


 だからこそ、必ず助けなくてはならない。

 「八神刑事、バイト先からの情報です」

 所轄の警察官が情報を取りに行ってくれたようだ。

 「すいません、助かります」

 「いえ、そのバイト先では早朝のシフトを終えて、午前10時30分にはバイト先のコンビニを出ているようです。評判は良く店長や他のバイトからの信頼も厚いようで、今回の失踪をとても心配しており協力できることがあればなんでもすると申し出がありました」


 「家族思いの苦学生でバイト先の評判もいい。つい糸が切れて逃げ出したくなった可能性も高いし、もしそうならすぐに戻ってきてほしい。むしろそうであってほしいという思いのが強い」


 「どういうことでしょうか?」

 「20代の真面目な大学生が数名、オーバードーズにより死亡している事件が続発しています。我々は拉致された可能性が高いと、早瀬香澄さんが巻き込まれていないことを……」


 「そうだったのですか、検問を要請しますか?」

 「いえ、もう意味はないでしょう。スマホの通話記録のほうは」

 「それがバイト先を出てから電源を切ったままで、位置情報も掴めません」

 

 「ということは、バイト先を出てからスマホの電源を入れるまでの間に拉致された可能性も出てきたな、よく行くスーパーについては?」


 「監視カメラをチェックさせます」

 「頼みます、いや、俺たちがむか……護君を預けられる親戚はいるんですか?」

 「同じマンションに住む同級生のお母さんが数日預かってくれるとのことです」

 「そうか、一安心だな」


 ひなたはこのやりとりを見て実感している。

 八神は弱者によりそえる人なのだと、まったく気にしない刑事のほうが多いだろう。

 

 そのときだった。部屋にいた護が八神の元へやてきた。

 「あのね、お姉ちゃんを助けて」

 

 ひたむきで目に涙を浮かべた瞳が、潤んで夕暮れの茜色が瞳に差し込んでいる。


 八神は膝をついて護の手を取ると、頷いた。

 「全力を尽くす」

 こくりと頷いて護はそっと差し出したものがあった。

 「これね、お姉ちゃんが好きなへもっちのぬいぐるみなの」

 それは情けない顔をしたような小さな子猫のぬいぐるみだった。


 八神はへもっちを受け取ると、護の肩を掴む。

 そして返事の代わりに、護の頭を撫でるとひなたへ視線を送る。


 強く、決意に満ちた光が宿っている。


 「本条、この際俺が怖がることを頭に入れず、できることをやれ! それぐらいは、た、耐えてやる」

 「そう言うと思ってました。歩きながら話しましょう」


お読みいただきありがとうございました。


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