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霊事警察 ~霊が見える刑事と、霊が怖すぎる刑事が挑む怪事件~  作者: 星乃渚(旧:鈴片ひかり)


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39/43

スカイリング

警視庁には、表に出ない部署が存在する。

様々な凶悪事件に対し霊的アプローチを用いた捜査を行う――刑事部 霊事課 通称 霊事警察。

捜査一課の刑事・八神恭史郎は、ある日、霊が見える刑事「本条ひなた」とコンビを組まされる。

だが八神は、極度の怖がりだった。

人面犬事件、猟奇殺人、犯罪組織の暗躍

そして都市の闇で進む謎の薬物実験。

人間の犯罪と怪異が交差する事件に、凸凹コンビの捜査が始まる。


 ※ この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。



 秘密の話しではないだろうとひなたも理解していた。

 なぜなら課長の声はでかいので、秘密のこそこそ話はできないと踏んでいたからだ。


 課長室に集まった刑事たちは、今回の墨田管理官の指揮についてかなり不満を抱いていた。プライドを傷つけられたいうよりも、捜査一課を明らかに持て余し気味に線の薄いジドリカンドリに集中投入している気配まである。


 そこに八神とひなたを指名して捜査から外すという流れには、さすがに皆がおかしいと声を上げていた。

「お前らが言いたいことは分かる。

 だからそれぞれが担当する地域で目撃情報を追ってくれ。


 はっきり言うが、捜査一課の刑事たちは奢りでもなく過信でもなく優秀な刑事たちだ。

 だからこそ、杓子定規に ”言われたこと” だけをやる お利口さん な連中などいないよな?


 お前たちが必要と感じた捜査、聞き込みを全力で行え!


 例えそれが神奈川から、急にお台場のほうまで足を伸ばすことになっても、そりゃあ仕方がないよなぁ?」


「そりゃ仕方がねえ 捜査だしな?」

 伊集院忠夫のツッコミに皆に笑いが起きる。

「それと、拳銃携帯命令は西園寺刑事部長が掛け合って許可が出た。

 最初は頑なに拒否していたらしいが、全員防弾チョッキを含め 準備を怠らないように!


 予備弾倉の持ち出しも許可するが管理をしっかりしておけよ! そして各人この封筒を受け取ってから現場に向かえ」


 全員が一糸乱れぬ敬礼を返す。

 鬼塚がその思いを胸に刻むかのようにゆっくりと返礼したのだ。


 ひなたは全員の心が一つの方向に向いたことをその時に理解した。

 やはり、捜査一課はかっこいい。

 そう思わせてくれるだけのことはある。

「本条助かった!」と手招きする鬼塚課長に呼ばれ、八神と二人で課長室に入る。


「ということだ。お前らにはご丁寧に別の任務が指定されてきた。


 お台場の先にあるスカイリング知ってるだろ? 最近できたIR総合施設の人工島だ」


「ビルの上のリングが天使の輪っかみたいなあれですよね?」

「そうだ。その周辺で不審者情報が多発しているらしくてな、スカイリングで不審者情報の聞き込みと調査を行えとのことだ」


「……湾岸署の生活安全課あたりが管轄だと思うんですが、なぜ捜一になんでしょうね」

「皆まで言わせるな、嫌がらせだ。

 霊事課に手柄を奪われたくねえんだよ」


「だっさ」


 短く吐き捨てたひなたに同調し、課長も笑い飛ばしている。

「八神、このバッグを持っていって必ず準備を怠るなよ? いいな?」

「了解です」

「了解しました」


「それとあいつらと連絡がついたから――うまくやれ」


「うまくやれ ですかあいかわらずですね課長」

「アバウトでいいんだよこういうのは。じゃあ俺は色々とやることがあるんでな」


 八神は鬼塚から預かったスポーツバッグを担ぎながら覆面パトカーで現場であるスカイリングへ向かう。


 天海総合リゾートタワー 通称 スカイリング。


 お台場に隣接した人工島であり、複数のSAFE関連企業の出資により建設された。

 IR施設も充実しており、オフィスやホテル、カジノや遊園地、水族館やショッピングモール。


 そして夜はライトアップされたスカイリングの天使の輪っか、通称 ハロウと見ながら夜を過ごすのが恋人たち人気である。


「あ!」

「なんだ!?」

「スカイリングにラーメン横丁がある!」

「なんだと!? 佐野ラーメンはあるか? あるよな?」

「そこまで載ってないですって。それより水族館いいなぁ」 

「アジの大群とか見ると うまそう が先に来るのって日本人ぐらいらしいな」

「アジのたたき 食べたくなった」

「くそう腹減ってきたぞ」


「あ、見えてきた」


 有明側からの天海ゲートブリッジの先に見えるのがスカイリング。

 夜はかなり見ごたえのある夜景が広がっているだろう。


「不審者情報について ISSに上がっていないか?」

「それが? なんか不審者ていうよりSNSじゃ陰謀論のほうが先行してる感じ」

「陰謀論?」

「あのリングがUFOの着陸場所だとか、地下に宇宙人の基地があるとか。あっこういう建物ってコナン君の映画じゃ必ず爆破されますよね!」 


「爆破ね、映画ならいいんだよ映画なら」


 八神は地下駐車場への誘導案内に従い駐車するとトランクからあのスポーツバッグを取り出し、車内に戻った。


「本条の分はこれだ、左手につけるといい」

「なんですかこれは?」

「アームガードだ。軽量のセラミック板が入っていてナイフや打撃なんかを防げる。あまり邪魔にもならないんで俺も装着しておく」


「これならナイフをガードしても致命傷負わないで済みますね」

「それとこれと、これと……弾倉の予備は内ポケットにでも入れておけ」

「了解」


 八神はCOMBAT MASTERを腰から抜くと、改めてゴム弾の弾倉であることを確認する。

 ひなたもそれに続いた。


 そして肩からバッグを下げると周辺の聞き込みをすべく、まずは指示通りにスカイリングの管理事務所にへ向かうことにする。

 土曜の午後ということもあり、親子連れやカップルたちがクレープやホットスープの屋台に並んだりと平和な時間が流れている。


「ここに不審者なんているのかね」

「……すごく変な感じがする場所です。私はあまり長居したくないな」

「まったく分からない」


「その反応が助かるんですよ。なんか圧迫感があるんです。こう頭を押さえつけられてるみたいな」

「まったく分からない」


 スカイリングを見上げるとさすがに60階建ての高層建築だけあって迫力が違う。

「総工費いくらなんでしょね」

「金はあるところにはあるんだよ」


 なんとなく、捜査から外されたことについての憤りがこのおしゃれな天海リゾートを見て回っていると収まってくる気がする八神。


 ひなたは不審者捜査そっちのけでクレープ食べたいあれ食べたいと、食い気ばかりだしていた。


「さて、受付でどういう対応をされるのか少し興味はある」

「邪見にされるのがオチでしょ。

 こんなおしゃれな町でくたびれた刑事が2人来たところで、ぷっくすくすくす って笑われるだけよ」


 豪華な回転扉を抜けてスカイリングに入ると、その豪華さに対し逆に呆れ気味になる2人。


「はぁ」

「ため息しか出ないわね」

 観光案内兼受付のようなカウンターがあったので、八神は目立たぬように警察手帳を見せる。

「警察ですが、この天海リゾート周辺で不審者情報があるということで調査にうかがいました」

 受付嬢は驚くかと思いきや、しっかりとした対応ですぐに「少々お待ち下さい。すぐに担当へ連絡いたしますので」


 と丁寧な対応をしてくれた。

「笑われなかったじゃないか」

「さあどうだか」


 すると5分も経たずにガタイの良いスーツ姿の男たちが5人八神達の前にやってきたのだ。


 時刻は夕暮れ。冬至が近いので日暮れも早い。

 あっという間に暗くなり、皆が待ちに待ったライトアップで歓声が上がっている。


「お待たせいたしました。警備担当の菅原と申します」

「警視庁の八神です」

「同じく本条です」

 2人の警察手帳をじっくり確認すると、警備担当者のうちの1人がスマホで連絡をいれている。

「それではご案内いたします」

 外観、もしくは不審者の目撃情報があった施設へ案内されるのかと思いきや向かっているのはエレベーターホールだった。


「まったくカズ君がドッペルゲンガーいるとかいうから、こんな暗くなっちゃったじゃないか。それと良輔くんがさっき食べてたのって何? すっごいおいしそうだったんだけど!」


 3人組の男たちが大きな声で盛り上がりながら近づいてくる。

「そんなこと言ってるとハル、お前の夕飯なしだからな! スマホよこせ」


 ひょろガリがデブのスマホを奪うとからかい半分に駆けだしたのだ。

 そして運悪く、ぶつかってしまったのが八神だった。


「いてっ」

「うわっ!」


 思わず八神とぶつかって倒れるひょろがり。


「走ると危ないのでお気をつけください」

 警備担当たちはややイラつきながら手を貸そうとする。

「大丈夫だ、お前も気を付けろ」

「はい、すいませ~ん」


 そのときひなたは見ていた。ひょろがりがふらつきながら八神のポケットに何かを入れたのを。


「ごめんなさい、ほらハルも謝って」

「そのすいませんでした」


「大丈夫だ、怪我はないな?」

「はい」


 警備たちは呆れながら八神とひなたをエレベーターへ誘導した。

 さすがの最新機種なのだろう。ほとんど揺れが感じられない。

 一気にエレベーターは上昇し、無言のまま59階で降ろされる。


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