難航
警視庁には、表に出ない部署が存在する。
様々な凶悪事件に対し霊的アプローチを用いた捜査を行う――刑事部 霊事課 通称 霊事警察。
捜査一課の刑事・八神恭史郎は、ある日、霊が見える刑事「本条ひなた」とコンビを組まされる。
だが八神は、極度の怖がりだった。
人面犬事件、猟奇殺人、犯罪組織の暗躍
そして都市の闇で進む謎の薬物実験。
人間の犯罪と怪異が交差する事件に、凸凹コンビの捜査が始まる。
※ この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。
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捜査一課も慌ただしくなり、伊集院忠夫が村上と一緒に目撃情報のあった地域へ向かおうとするのを猪狩班長が引き留めている。
合流したひなたと一緒に八神が課長室へ入ると鬼塚はタブレットPCの画面を睨みつけながら唸るように呟いた。
「きな臭せえ」
「俺たちはどのエリアの聞き込みに向かいましょうか?」
「いや、情報の広がりが早すぎる。
お前はどう見る?」
「攪乱工作でしょう」
「やはりか、恐らく犯人の画像が発表されることを事前に把握していた奴らが偽装の目撃情報を拡散するようにAIに指示していたんだろう、とサイバー犯罪対策課が分析していた。
俺も正しいように思う。
どうだ本条、何か気が付いたことないか?」
「分かりませんけど、ちょっと鬼塚課長に話して良いことか悩んでたんですが」
「言ってくれ、この際なんでもいい」
「……美冬姉、えっと遠縁の神社があってよく穢れ祓いを頼んでる神職さんがいる神社があるんです。
そこの宮司さんと巫女さんが、ここ一週間ぐらい特に神様の様子がおかしいと」
「神様? あの神様か?」
「広義の意味でなんとなく神様って思ってもらっていいです。
その神社の御祭神だけじゃなく、他の神社でも似た現象が起きていて非常に警戒心というか、苛立ち、そういったものを強く感じているって。
まあ私も少なからず、朝立ち寄っている神社でも違和感を感じ始めていました」
「それが今回の事件と関係していると?」
「私は繋がりがあると、証拠はもちろんありませんけど、思います」
「神様が警戒して苛立ている、か。
ようは連中が罰当たりなことをしているか、やろうとしてるって認識でいいんだな?」
「その方向でいいかと。って八神さんびびってませんね?」
「いや、神様なら怖くないっていうか、ありがたいじゃないか」
「八神も成長したな。
ということで、本条はこの隙に、まあ隙間を縫わなきゃいけないような風通しが悪くてすまないが、被害者の霊視を頼めないか?」
「やっと許可降りたんですね。って今まで嫌がらせだったんですか?」
「正直に言えば、縄張り争いだ。西園寺刑事部長系が霊事課を掌握しているのは面白くない、そう考える派閥が警察庁内にあるのは事実。くだらねえ、まったく。おっと科捜研の目黒から準備ができたと連絡が入った。
目撃情報への対応とお前らの担当が決まったらまた連絡する。
それと、あいつらに俺から頼みたいことがあるってお前から伝えておいてくれ手間が省ける」
「ああ、了解です」
科捜研への道中、ひなたは考え事をしている。
「そういえば八神さん、こないだ美冬姉にお清めしてもらったアレちゃんと持ってますか?」
「ああ、ちゃんとお守り袋に入れてある」
「なら安心。あの三嶋さん家で作ってもらったお守り袋と、早瀬香澄さんと護君が作ってくれた八神君人形、二つともすっごく良い念がこもってるから、というより祈りに近いのかな。八神さんを守ってくれるようにって優しい気持ちで一杯なんですよ。
だから必ず身に着けておいてください」
「そういうのフラグって言わないのか?」
「ちっ気付きやがったぜ」
「おい、お前な」
八神は気付いている。ひなたがこういうからかいをしてくる時は、大体緊張していたり覚悟が求められる場面のことが多い。
あの猟奇殺人事件の凄惨な遺体と対面するのだ。
異変があったらすぐに引き離そう、八神もそういった覚悟を決めていた。
すると出迎えてくれた目黒は目の下にクマができ、さすが疲労が貯まっているのが分かる。
「お待ちしてました」
「目黒さん、大丈夫ですか? ちゃんと眠れてますか?」
「あはは、ここ一週間ほど家に帰れていませんでして」
「……目黒さん、この塩、ちょっとでいいから舐めてみて」
ひなたが差し出した塩の入った手の平サイズのビニール袋から、目黒言われるままに爪の先ほどつまんで口に含んだ。
「んんん」
「味はどうです? 苦いですよね?」
「そ、そうですね。塩ってこんなに苦かったでした?」
「ちょっと背中向けて」
「はい」
ひなたは首筋から背中にかけてを手ですーっと撫でる。
「これで少し体調良くなるはずです。以前出たような呪詛シールあったら絶対触らないでくださいね」
「はいって? あれ? なんか身体が軽くなって、心臓も痛かったような気がしてたのに、すごいや」
八神から見ても目黒はやや元気を取り戻しているように見える。
だが本当に除霊とかそういうのが、と考えると背筋が寒くなって逃げ出したくなってくる。
「えっと、本条さん無理しないでください。すぐ戻っていいんですからね?」
「目黒さんいつもありがとう」
ひなたはにこっと微笑むと、目黒が準備してくれた遺体と向き合った。
よりによって最初に対面したのは、アイドルグループに合格した女子高生の妹尾千春の遺体だった。
顔面の皮膚を抉り取られており、むきだしになった筋肉組織や、唇のない口の周辺などは正視に耐えるような状態じゃなかった。
ひなたはゆっくり目を閉じると妹尾千春の魂魄、そして念の残滓を見ようとした。
だが、虚ろで弱弱しく、拒絶と絶望が入りじまった嗚咽が微かに聞こえるのみ。
ここまで大切なものを奪われてしまうと、魂が壊れてしまうような状態になってしまうのだろうか。
その状態は残りの3人も同様だった。
命がけで練習し研鑽を重ねて掴み取った地位や未来の可能性が、シリアルキラーによって無残に奪われた。
ひなたは力なく戻り、ごめんなさいと頭を下げた。
「よし、今日はスイーツて気分だな。目黒さんも一緒にどうです?」
「いやあ僕も分析待ちの依頼がもう20件ほどで、また誘ってください」
「では次には必ず」
ひなたがしょげているが、報告に捜査一課へ戻ると先ほどよりも照明が暗くなったと思うほどに雰囲気が悪い。
角倉が椅子を蹴とばし、伊集院忠夫が村上に八つ当たりをしていた。
「角倉! 落ち着け!」
猪狩班長に嗜められているが、八神を見付けると角倉はいきなり胸倉を掴んできた。
「おいお前は悔しくないのかよ!」
「なんだよいきなり」
「八神と本条さん、事件から外されるってどういうことだ!」
「聞いてないぞ」
「ふざけんなそんな知らないわよ」
その時、鬼塚課長が今いる捜査一課の刑事たちを課長室へ集める。
「本条君、すまないが入り口で誰かこないか見張っていてくれないか?」
「了解でーす」
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