もう一つの
警視庁には、表に出ない部署が存在する。
様々な凶悪事件に対し霊的アプローチを用いた捜査を行う――刑事部 霊事課 通称 霊事警察。
捜査一課の刑事・八神恭史郎は、ある日、霊が見える刑事「本条ひなた」とコンビを組まされる。
だが八神は、極度の怖がりだった。
人面犬事件、猟奇殺人、犯罪組織の暗躍
そして都市の闇で進む謎の薬物実験。
人間の犯罪と怪異が交差する事件に、凸凹コンビの捜査が始まる。
※ この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。
ひなたが戻ると鳴り続いていた怪異は鳴りを潜めていた。
さきほどまではひどい悪意が満ちていた家が、平穏な空気が満ちているようだ。
「本条さん! 音が止みました! 妻の頭痛も収まってくれたようで」
「本条さんありがとうございます!」
2人は抱き合って喜んでいる。
「パパ、ママ、あのね、下なんだって」
美咲ちゃんがリビングの中ほどで指を差している。
「多分あの子だと思うよ。遊んでるといつの間にか一緒にいる子」
「ちょ、ちょっと待ちなさい悠馬! な、何が起きてるんだ? もう終わったんじゃないのか?」
親に見えていなくて、悠馬は感じ、美咲には何かが見えている。
そしてひなたにも見えていた。
リビングの先、キッチン近くに5,6歳で線の細い男の子がこっちを見ながら下を指さしている。
悪意は感じない。
ひなたはゆっくり近づくとその子の手をゆっくりとる。
流れ込んできた苦痛と苦しみ、そして……
狭いアパートで食べる物がなくて
いつもお腹が空いていて。
それでも母親を待っていた。
”
あのね、ママはいつもおしごとで いそがしいから
だから ぼくは おなかが減っても がまんするの
しんぞうが よわいから へやからでちゃだめだって
でも おなかが減って 水を飲んで がまんしてたら
ぼくは しんじゃったんだ。
ママは ぼくを白いつぼ にいれて どこかにはこんだの
そしておうちが たって そしたらね おともだちができたの
いっしょに あそんでくれた ゆうまくん みさきちゃん
ゆうまくんのママが つくったおやつが とてもおいしくて
ぼく、 こんな おうち ですごしたかったな
”
突如 話し始めたひなたの口から 子供のような弱弱しくも優しい声で気持が語られていく。
最初は怯え、震えていた 麻衣子。そして終始恐怖で家族を抱きしめる隆之。
子供たちはそんなひなたの頭を優しく撫でてくれていたのだ。
”
でもね、わるいひとがね おうちで いたずらするの
ゆうまくんのまま けがしちゃった
ぼくはね、ゆうまくんと みさきちゃん にちかづくわるい人を
だいすきだった ぽりすれんじゃー れっど! にへんしんして おいはらったの
ごめんなさい ゆうまくんのまま のおやつもらったのに ぼくがよわいから
ゆうまくんみさきちゃんのまま まもれなくて ごめんなさい
ゆうまくんとみさきちゃんのぱぱ とてもやさしくて いいな
ぱぱ いなかったから ぱぱってこんなにおおきくて やさしいんだなあ
どんどん わるい ひとが ふえていくの ゆうまくん みさきちゃんには
ちかづくなって がんばるけど ぼく つかれてきちゃって
おねえちゃん、 ぽりすれんじゃー のぴんく なの?
みんなやっつけちゃった すごいなぁ
――
”
「……こうた君 今までずっと悠馬君と美咲ちゃんを守ってくれていたんだね、君はポリスレンジャーみたいなヒーローだったんだね」
ひなたは流れる涙を止めることができなかった。
「こうたくん ありがとう」
「ありがと……」
美咲ちゃんはひなたの気持が伝染したようにしくしく泣き始めた。
「ほ、本条さん、そのどういう状況か教えてもらえないだろうか」
「ご説明します。分かる範囲になりますが。
結論から言えば、この家の基礎、部分におそらく こうた君の遺骨が入った骨壺が埋められているか隠されているはずです。
こうた君は ネグレクト傾向のある母親の元で育ちましたが、心臓に持病があったこともあり衰弱しそして亡くなりました。
心臓の持病、この医療記録のためにネグレクトによる罪には問われなかったようです。
そして骨壺を持って歩いていたとき、この家が目に入った。そんなビジョンが飛び込んできました。
その時の気持ちは強い嫉妬と憎悪、そして工事中の基礎部分に埋めたか隠したのが見えました。
こうた君はここで悠馬君と美咲ちゃんと遊んで、怪異から守ってくれた存在でした。友達だったから、なのでしょう。
こうた君と怪異は別のもの。
これまで苦しめられてきたのは、呪術的な処理のされたいわゆる 呪符。呪いをかけるためのシールです。
悪意のある霊を呼び寄せるような非常に強く、積極的に相手を呪う呪術です。
これから守ってくれたのが、こうた君だったんです」
麻衣子と隆之はしばらく黙り込んでいた。
すでに眠さが限界にきていた子供たちを寝かせた後、再び説明が始まった。
「この呪詛シールから感じたイメージは、ママさんと同じぐらいの年代のお母さんという印象です。ママさんが自分で貼ったということはないでしょうから、引っ越してからこの家に遊びに来たことある人、これは限定してよいはずです」
麻衣子の表情が真っ青になっている。
「お、おい、大丈夫か? 思いあたることでも?」
「そ、その、悠馬と同じ小学校の、そのお友達のお母さんが、2回ほど遊びに来た事が。親戚とかお義母さんの他には、田中さんぐらいしか来てないわ」
「その人で間違いないでしょう。でももう大丈夫でしょうね、こんな強力な呪いを返されたのですから無事では済みません。もうこの家には反動で近づくことすらできないはずですよ」
「それは良かったがその、こ、子供の霊というのはどうするんだ?」
「これから対処します。ハンマーとかドライバーとか工具があれば貸してください」
ひなたはキッチンにある床下収納を開くと、そこに収納されていた梅酒や漬物のビンを取り出していく。
床下収納というのは、実はすぽっと外すことができその下はすぐに床下の基礎部分が丸見えであったりする。
ひなたはするりとライトを持って地下へ潜ってしまった。
「なんて行動力だ、すごいな。本条さん、必要なものがあれば」
「見つけた。点検用のパネルの下に入れたんだ……でも少しだけ削らないと外せないか」
ひなたはドライバーとハンマーでパネルについたコンクリートをがりがり削っていく。
もはや深夜であっても騒音とかいうことを気にする余裕はない。
すぐそこで こうた君が見守ってくれていた。
そして埃とコンクリの粉末だらけになったひなたは、パネルをどかすとそこには小さな骨壺が押し込められているのを発見する。
「見付けるのが遅くなってごめんね」
ひなたはその骨壺を優しく抱きしめた。
わずか30分ほどで骨壺を見付けてしまったひなたの行動に、隆之は圧倒されっぱなしだった。
麻衣子からタオルを受け取り埃などを落とすが、さすがにスーツも汚れてしまっている。
「本条さん、お風呂入ってください、すぐに沸きますので」
「そうですね借りちゃおうかな? パパさんいいですか?」
「そ、それはもちろんです!」
さすがに新居のお風呂は快適だった。麻衣子が用意してくれた着替えはひなたの希望でジャージだったが借りたシャンプーが上等だったのか髪はつやつやになっている。
「気持かったです~ ああしあわせ~」
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