調査開始
警視庁には、表に出ない部署が存在する。
様々な凶悪事件に対し霊的アプローチを用いた捜査を行う――刑事部 霊事課 通称 霊事警察。
捜査一課の刑事・八神恭史郎は、ある日、霊が見える刑事「本条ひなた」とコンビを組まされる。
だが八神は、極度の怖がりだった。
人面犬事件、猟奇殺人、犯罪組織の暗躍
そして都市の闇で進む謎の薬物実験。
人間の犯罪と怪異が交差する事件に、凸凹コンビの捜査が始まる。
※ この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。
ひなたがずっと気になっているのはやはり、床下。基礎の部分であった。
何やら床下から気配を感じる。とても寂しいという負の感情。
「こういうとき樹里がいれば色々調べてもらえるんだけどな」
そう零しながらも、夕飯の支度をする麻衣子の背中を見つめながらひなたは図面を見てあることに気付く。
鬼門やトイレ階段の位置など、風水的にこれだけ配慮がされている家であるのにこういった怪異、異変が起ると証言があるのであれば実際に体験してみれば分かることがあるのではないかと。
そこでひなたはある提案をした。
「私、今日ここで異変があるまで待機しても大丈夫ですか? 深夜になっちゃうかもしれませんけど」
「あの、うちとしては何も問題がないのですが、本条さんお忙しい中で申し訳ないです」
「いえ、なんというかこの時間では問題が掴みにくいんです。
なので、しばらくこちらのリビングで待機させてもらっていいですか?」
「はい、もちろんです! もう用意しちゃってるんですけど、夕飯食べていってね」
「それは申し訳ないです。コンビニですませてきますんで」
「そんなことさせたら主人に怒られちゃいます。
ハンバーグ 本条さんは大丈夫?」
「は、ハンバーグ! た、たべたいです……」」
「ふふふ じゃあ楽しみにしててくださいね」
「はい!」
麻衣子は優しく気遣いができる良い母親なのだと思う。
子供たちも素直で元気、そして刑事という仕事にも敬意を示してくれる。
兄の悠馬は妹の宿題の面倒まで見ているようで、兄妹仲も良く見える。
リビングにあった小さい書棚には、知的な本が並びさすが官僚の家と思わせてくれるが嫌味はない。
父親の書斎については許可をもらわないと見られないが、ドア越しにもあまり嫌な気配はしない。
すると19時になると父親の御堂隆之が帰宅したのだ。
「ああ、本条さんですね、妻から連絡を受けて急ぎ戻りました」
丁寧にお辞儀をしてくれるあたり、さすが次期事務次官候補は卒がない。
ひなたは敬礼する。
「警視庁 情報支援室の本条ひなた巡査部長です。安西審議官の要請で調査に参りました」
「いやあ安西の奴、すぐに手配してくれて助かった。
えっと、本条さんは、そのあっちの専門家とこちらは認識してよろしいのかな?」
「はい。そう思っていただいて構いません」
「では、子供たちが二階に行くまで、怖がらせたくないからその」
「はい。承知しています。とても良いお子さんですね、かわいいです」
ひなたが笑顔を見せたことで、どこか構えていた御堂隆之はほっと安堵するように頷く。
御堂家ではハンバーグは大人気メニューのようで、麻衣子特製のハンバーグソースが絶品らしい。
「「いただきます!」
悠馬と美咲も食事マナーはしっかりしているが、それでもがっつきながら食べている。
ひなたも一口食べてみて驚いた。
「うまっ!」
「気に入ってもらえてよかったわ」
「こ、これ専門店開いたら絶対行列できる奴ですよ」
「ひなたちゃん、お世辞お上手なんだから」
「いやいや おいしすぎる……幸せ」
いつもより華やかな食卓の雰囲気に美咲は楽しそう。
何も怪異のかけらのない家族団らんにひなたが混じっている。
そう思えるほどであったのだが――
悠馬が真っ先に食べ終え、美咲が口についたソースを麻衣子にぬぐってもらい笑顔を見せてていたその時だった。
穏やかに最後の一切れを口に運ぼうとしていた隆之が、ぎょっとした顔でひなたを見つめている。
ひなたが異変を察知して隆之に駆け寄ると、彼の足首に複数の手が絡みつくように掴んでいたのだ。
ポケットから清めの塩を取り出したひなたは、念をこめつつ隆之の足首にすりこんだ。
すっと手が消えると同時に呼吸することを忘れていた隆之は荒い息を吐く。
「は、始まったようだ……」
子供たちはデザートのワッフルをおいしそうに食べて気付いていなかったので、ひなたは隆之を連れて二階へ上がり書斎を見せてもらうことにした。
「機密の入ったPCは見せられないが、他なら」
「了解です。一応確認させてもらうだけですので」
そこはよく整理整頓された書斎で、PCやタブレットPC、産業関連の本が所せましと並んでいる。
机の下、椅子、一番下の段の本、それらを調べていくが異変はない。
むしろ安全な気配さえする。
「大体何時ごろから異変が起こりますか?」
「21時過ぎからだね、それから深夜にかけて……これはいわゆる心霊現象なんだろうか? それとも何か住宅の欠陥で起りうるものなのか」
「とりあえず21時過ぎまでリビングで待機させてもらいます」
やはり落ち着かないのか、仕事の連絡や書類作成をしたりリビングに来たりと御堂隆之はうろうろしている。
子供たちを不安にさせないようにしていたので、既に二階で就寝しようとしていた。
美咲は人懐っこくひなたが教えた折り紙やお絵描きで喜んでくれている。
2人が寝たのは21時過ぎ。
その時分からたしかに、空気が重くなっていくのを感じた。
「あのたまになんですけど、悠馬と美咲が変なことを言うんです。
ママ、おやつ足りないよ? って」
その時だった。急に家鳴りのような軋みが聴こえ始める。
他人が入り込んでいるのに現象が起ることにひなたは少し驚いていた。
「第三者が来ているのに現象が起るというのは、あまり良いとは言えません」
「それってどういうことなんですか?」
「基本的に霊というの初めての人を警戒するんです。これは生きている人間でも多少ありますよね?」
「たしかに初対面の人には緊張しますよね」
「はい。
ですがすぐに反応があるってことは、敵意、もしくは干渉しようという意志を感じてしまいます」
異音はそれからも徐々に強くなっていく。
廊下を歩く音。
窓を叩く音。
そして呻き声。
「これだけ反応があるのも珍しいなでも、話聞こうとしても反応がないんですよ」
「は、話が、できるんですか? や、やっぱりいるんですね、その霊っていうのは」
「いることはいるんですけど、おかしい。
何かに引っ張られてるような。
こういう感覚、前にもあったような」
ひなたはこの既視感とでも言うべき感覚にしばし悩まされた。
気になる箇所で霊に呼びかけもしたが、反応がない。
御堂隆之は妻の麻衣子と今でもラブラブなようで、怖いのだろう隣に座って手を握っている。
(うらやましい……私にもあんなパートナーがいたら)
そう思ってから、ついはっとなった。
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