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霊事警察 ~霊が見える刑事と、霊が怖すぎる刑事が挑む怪事件~  作者: 星乃渚(旧:鈴片ひかり)


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30/43

ポニーテール

警視庁には、表に出ない部署が存在する。

様々な凶悪事件に対し霊的アプローチを用いた捜査を行う――刑事部 霊事課 通称 霊事警察。

捜査一課の刑事・八神恭史郎は、ある日、霊が見える刑事「本条ひなた」とコンビを組まされる。

だが八神は、極度の怖がりだった。

人面犬事件、猟奇殺人、犯罪組織の暗躍

そして都市の闇で進む謎の薬物実験。

人間の犯罪と怪異が交差する事件に、凸凹コンビの捜査が始まる。

 ※ この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。

◇


 病院ベッドの上で暇そうにあぐらをかいている八神。ベッドサイドには後輩の佐々木がお見舞いで持ってきたタコ焼きの空き容器がゴミ箱に放り込まれていた。 


 「僕が家宅捜索に入った施設は空振りでしたけど、当たりの施設はすごかったらしいですよ。冷蔵室には遺体が5体、パッキングされた臓器も数セット。

 でも医者や看護師とか職員は1人もいなくて逃げた後だったらしいです。

 移植用の手術器具や医療機器は結構いいものが揃ってたみたいですけど、そこまで持ちだせる余裕はなかったみたいですね。

そもそもなんで遺体を冷凍トラックで運んでたかっていうのは、どうやら沿線火災で配電盤が壊れた施設で遺体を冷凍保管してたぽいんですよ。そこから発覚って流れみたいですね」

 

 「空振り施設に仕掛けられていた爆弾とか発火装置はどうだったんだ?」

 

 「鬼塚課長の話だと突入を遅らせるためのダミー、時間稼ぎそういったものだったのではと。そうなると先輩が救出したあの子、危なかったですね。さすが先輩ですよ」

 

 「ギリギリの判断だったが、救えてよかった。もう退院して元気なんだろ?」

 「元気ですよ。ずっと眠らされていたみたいで、性的暴行の痕跡もなく心的外傷もないようでみんな安心してました」


 「んで、俺はどうして一週間も入院なんだ? もう早く帰りたい」


 「だってあの銃創、結構えぐかったらしいじゃないですか。かなり出血してたって聞きましたよ」

 「肉を多少抉っただけだ」

 「うひゃー痛そう!」

 

 午前中に来た鬼塚課長は銃で撃たれることによるPTSD防止のため、カウンセリングをセットに休養させることが目的だという。

 

 あとはマスコミ対策もあるのだろうと八神は推測していた。


 退院まで残り二日という頃、すっかり傷口も閉じて暇だったので筋トレをしていたら看護師さんに怒られてしょげているときにやってきたのは、被害者の三嶋絹香さんとそのご両親だった。


 「このたびは娘を助けていただきありがとうございます」

 両親が深く頭を下げると、娘の絹香もぺこりと頭を下げる。


 「いえいえ任務ですから。それより、しばらくの間のホテル暮らしは大変でしょう?」

 「いえ、娘を守るためですから。二週間ほど様子を見たいと話していたので、もう少しの辛抱です」

 「あの、八神さん、怪我はもう大丈夫なんですか?」

 三嶋絹香が心配そうに尋ねてくる。


 「もう暇すぎて筋トレしてたら看護師さんに怒られたよ」

 「よかった元気そうで、えっとお礼というか警察官の方にそういうのしちゃだめって聞いたんですけど、これならいいってあの課長さんが」


 三嶋絹香がバックから取り出したのは、手作りであろうお守り袋のようだった。


 かわいらしい刺繍で お守り と縫い付けてある。

 

 「お守り袋か、いいのかいこんなすごいものを」

 「すごいなんてあのお母さんに教えてもらってがんばって作りました。八神さん危険な仕事で、それなのに私に防弾チョッキを着せてくれたりとか。でもこれからはお守りを」


 八神はそのお守り袋を受けると、大事に胸の位置で握る。

 「これで安心だ。ありがとう絹香ちゃん、また悪い人を捕まえに行くことができるよ」

 

 「でも気を付けてくださいね!」

 

 八神は相当にうれしかったのか、お見舞いでやってきた同僚たちにも見せびらかしていたが、本条ひなたに見せると、目を見開いて驚いていた。


 「八神さんこれ、かなりすごいお守りですよ。どこかの神社でちゃんと御祈祷してもらった上に絹香ちゃんのだよねこの念って、すっごい守りたいってありがとうって念がこもってるから大事にしてくださいね」

 

 「ありがたいことだ。こっちが助けられたような気分だ」


 「んで、私に何か言うことあります?」

 「ん? 何か? そうだ、ハルとカズがお見舞いで持ってきた変な本! あの怪談本を持ち帰ってくれ! 病院の怖い話とかあいつらまじで半殺しにしようかと思ったぞ!」


 「懲りないなハルとカズは。まあ被害者を守るために撮影した動画とか音声を提出させられちゃったみたいだけど、感謝状もらって喜んでたから本人たちは納得してるのかな?」


 「あいつらがいなきゃ 俺は死んでいたかもしれない。いずれ恩は返すさ」

 「本人たちは恩だなんて思ってないかも ふふふ」

 

 美冬が作ってくれた唐揚げを持ってきてくれたが、このままだと入院で太るかもしれないと思いつつあまりのうまさに平らげてしまう。 


 そんなひなたの後ろ姿を見て声をかけるか迷うのが、彼女のポニーテールが半分ぐらいの長さになっていること。


 失恋か何かか? と思ったが、変に藪をつっついてヘビが出てきても困るので黙っておくことした。


 警察の捜査は進んでいるが、臓器売買のいわゆるARC案件はその実態調査にしばらくかかるだろうが日本での拠点作りは一旦阻止することができたと上層部は判断している。


 そして……


 警視庁、地下射撃練習場。


 本条ひなたは時間を見つけては、SIG P365の射撃訓練を行っていた。


 (あのとき、もっと早く判断していれば八神さんを守れたのに)

 その思いと悔恨が、射撃の腕をもっとあげないといけない、いざというときに守れるように。


 そうひなたに焦燥感を与えていた。


 「大分上達したようじゃないか」

 はっとして振り向くと、捜査一課長の鬼塚が声をかけてきた。

 「鬼塚課長!?」


 射撃精度を確認するために的を引き寄せると、それなりに上達はしているように見える。


 「八神が怪我したことが自分のせいだと思っているのか?」

 「……責任は一部あると思っています」

 「自惚れるな。今回の件で責任があるとすれば、応援を出せなかった俺たちの不手際によるところが大きい。

 踏み込んだ施設に爆弾がしかけられているため、周辺の避難や爆弾処理班の手配で命令系統が混乱していたときの要請だった。

 完全に俺たちのミスだ、すまなかったな本条」


 「いえ、そんな!」


 「まったく。俺たちに文句の一つでも言って噛みついてくれたほうが、罪悪感が目減りして助かるってのにな。というか一つ聞いていいか? その髪は何かあったのか?」


 「やっぱり気になりますか?」

 ひなたは短くなったポニーを撫でながら答える。

 「理由があるのであればな」


 「うちら霊能者が髪を伸ばす合理的理由、実はあるんです。

 この世には人間の霊体だけじゃなくて、動物霊とかいますけど、もっと古くから色んな場所に住まう良い存在も、悪い存在も、中間的な存在もいます。

 そういう存在は、神々とか妖とか、鬼とかそう呼ばれていた存在でした。


 こういう稼業をやっていると、人間の霊だけじゃなくてそういう存在と対峙しなくてはならない時があるんですけど、そいつらは口をそろえたように人間の体の一部を要求してくることがあるんですよ」


 「体の一部? それは怖ろしい話だな」


 鬼塚は霊能関係に理解がある。

 だからこそ捜査一課と霊事課での連携が始まったのだが。


 「あのとき、八神さんを守らなくてはと、あの臓器売買の犯罪者たちを私は強く、怒り憎みました。

 その結果、あのビル工事現場の近くにいた 妖霊 とも呼べる存在が私の念に反応して彼らの足を掴んで邪魔をしたんです。

 契約もしていないのに、それは要求したんです。私の体の一部を。


 そこで髪の毛を渡しました。

 妖の類は高い霊力を持つ女の髪を欲しがる傾向にあります、だから納得して持って行きました。


 いきなりポニーテールの部分が半分消えたんです。

 まあそういった事情ですので、霊能者は取引材料になりうる可能性があるんで髪伸ばしてることが多いんですよ。

 ちなみに八神さんには内緒です。多分怖くて気絶しちゃうと思うので」

 

 「あのびびりならありそうだ。がははは! まあだから、そんなに根を詰めるな。やるなとは言わない。ほどほどにしておけ」


 「はい!」

 ひなたは敬礼で答える。そして鬼塚も返礼する。


 「それはそうと銃のメンテナンスはちゃんとやってるのか?」

 「えっと、明日専門の方に教わる予定なんですが」

 「貸してみろ」

 「え? 課長直々に?」


 鬼塚課長はメンテナンス用の作業台に座ると慣れた手つきで弾倉を抜き スライドを外し、中のシリンダーやばねのようなものを分解していく。

 「ここには煤が貯まりやすいからちゃんと処理しておくように」

 「さすがです課長」

 「そしてここは……なんだこれは? SIG P365ってこんな感じなのか? えっと、これがこうで……」

 「……」


 10分ほど格闘した後――

 「分からん!」

 「そんなぁ! 途中までかっこよかったのに」

 

お読みいただきありがとうございました。

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