ハルとカズ 再び
警視庁には、表に出ない部署が存在する。
様々な凶悪事件に対し霊的アプローチを用いた捜査を行う――刑事部 霊事課 通称 霊事警察。
捜査一課の刑事・八神恭史郎は、ある日、霊が見える刑事「本条ひなた」とコンビを組まされる。
だが八神は、極度の怖がりだった。
人面犬事件、猟奇殺人、犯罪組織の暗躍
そして都市の闇で進む謎の薬物実験。
人間の犯罪と怪異が交差する事件に、凸凹コンビの捜査が始まる。
※ この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。
『八神さん! やっと連絡くれたんすね!』
「緊急事態だ。あの宇宙服の動画を撮影した場所は分かるか? どこかのビルの屋上から撮影したようだが」
『き、緊急事態!? すごいなんかすごいよカズ!』
「急げって言ってるでしょが! 早くしなさい!」ひなたの怒声に思わずびびって反応するハル。
『は、はい!ってうちら今撮影したビルの屋上で待機してるっすよ。宇宙服の人いたら突撃しようと思って』
「絶対にやめろ! いいか、その住所をすぐに送れ、そしてお前らはそこを動くな、いいな? 約束破ったら逮捕するから覚悟しておけ!」
『逮捕ひぇー! わ、分かりました! えっと住所はですね、あれなんだっけ、カズ、あ、調べてすぐ送ります』
「いいか俺たちが行くまで絶対に動かず静かにしておけ、下手したら死ぬぞ」
『し、しぬ!? し、静かにしてるっす! カズです、や、約束守る まもります』
「急いで住所送れいいな」
『はい』
「こっちの事件と関係あるか分からないが、照合はしてみる必要はありそうだ」
「えっと、ナンバー解析できました」
すでにメモを書いていたため、ひなたはすぐに樹里へ送って返事を待つ。
西住良輔が間に入ってくれているおかげでデータのやりとりがかなりスムーズになっていた。
『ひなた? このナンバーどこで見つけてきたの? 捜査本部や公安がマークしてる実体不明のイベント会社所有の大型トレーラーよ』
「樹里、現状分かる範囲でいいんだが、送った動画に写っている大型トレーラーになら、臓器摘出用のオペ室を設営することは可能か?」
『可能でしょうね。だって臓器のパッキングさえできれば、ドナーの生命維持は臓器摘出まで持てばいいんだもん』
西住良輔は何のことか分からず震えているが、事態は最悪な方向へ動きつつある。
「樹里、三嶋絹香さんが受けた健康診断のデータについて追ってみてもらえないかしら?」
『は? 何言ってんのひなた』
「緊急なのよお願い!」
『そんなデータ、既に二人のスマホに転送済みよ』
「さすが樹里! できる女!」
ひなたが興奮して叫ぶが、送られたデータを見て八神とひなたは疑いが確信に変わってしまう。
「このARCヘルスケアって、臓器売買ネットワークでバックドアしかけられてた下請けの一つだったわよね?」
「繋がった。繋がってしまった。点と点が線になってしまった。急ぐぞ本条! 西住君、世話になった礼はまた後日」
「は、はい! お気を付けて!」
「西住君、大丈夫よ。少し訓練すれば見えないスイッチを使えるようになるから、じゃあね!」
「はい!」
八神はすぐに鬼塚課長へ連絡を取るも、作戦行動前で連絡がつかない。
さらに黒瀬課長とも連絡がつかないため、後輩の佐々木などに連絡をつけようとしても無線封鎖でもしているのだろうか。
覆面パトカーで目白方面へ移動中も、ひなたが樹里にも手伝ってもらいながら連絡をつけようとするも部下が出ては伝言を承ります ということで繋いでもらえない。
「ISSにも情報を流してもらいながら、所轄署へ応援を願うしかないか。恐らく情報漏洩を危惧して制限をかけているんだろうが」
「ハルとカズもバカやってなければいいけど、あの時も怖い目にあったってのにもう」
そんなハルとカズはさすがにあの廃中学校で死にかけたことで懲りたのか、言いつけ通りに八神とひなたをビルの近くで待っていてくれた。
ご丁寧に誘導までしてくれたのだが。
「このビルってパパの所有だから屋上まで上がるのと駐車場使う許可もらってるから大丈夫っす」
「パパって、実家大分太いの?」
「そんなことないっす。大型トレーラーの他には、工事現場にクリーニング屋のバンがあったっす? あやしいっす!」
屋上から目立たないように確認してみるも、6階建ての屋上だと大型トレーラーがあることとそのバンがあるのが分かる、そしてあまり見慣れない車両が一台近くに駐車していた。
「あれはなんだ工事用車両か?」
「多分電源車じゃないかと思うんだぜです」
「電源車……急がないといけないようだ」
八神は覆面パトカーから持ってきたバッグをあけるとそこにはLEDライトや通信用のイヤホン、そして防弾チョッキが入っていた。
「本条これをつけろ」
「分かりました。それだけ危険ってことですよね」
「ああ。俺たちも応援要請しているが、ハルとカズは身を隠しておくかここから車で離れろいいな?」
背広を脱いで防弾チョッキを着ていく2人を見ながらハルとカズは一気に緊張感が増している。
「大丈夫っす、隠れておくっす!」
「き、気を付けるんだぜ!」
八神は銃を引き抜くと、ゴム弾の弾倉をセットしスライドを引く。
ひなたもそれに習う。
「す、すげえ、COMBAT MASTER 初めてみたよ! それに本条姐さんの銃って、SIGのP365じゃないですか! また似合ってる!」
「声がでかい、静かにしろ。くれぐれも危ないことはするないいな?」
「はい! お二人とも気を付けて! すぐに所轄署へ連絡してみるっす!」
「通信は一応繋いでおくんで、十分注意してほしいんだぜ」
八神とひなたは通行人を装いビル工事現場を覆う高いフェンスに面した歩道を歩く。
樹里に図面を用意してもらっているが、少し時間がかかるという。
「ハルによるとこの先の公衆電話ボックスの近くに通用口があるらしいが……さすがだな」
「どういう感じで行きます?」
「悲鳴が聴こえた。事故かと思って中に入ることにした」
と言いつつも、八神は通用口に手をかけ強引に入って行く。
そこは建設途中のビル工事現場であり、様々な資材が置かれているものの入り口付近は車両用にスペースが確保されており大型トレーラーも余裕を持って駐車されていた。
その近くにトレーラーとその隣に電源車、素人目に見ても怪しい。
ひなたが八神の肩を叩き指を差す。
それは大型トレーラーの後部ハッチが開いており階段が設置されている。
ひなたは二度ほど指を差した。それはここが怪しいと霊感で言っているのだと八神は理解した。
COMBAT MASTER を構えゆっくりと中途半端に開いた後部ハッチに入り込む二人。
するとそこはまるで研究施設のような内部であり、無菌室のようなエアカーテンが設置されたエリアと入り口に近い準備エリアに別れている。
どうやら奥には手術台や医療機器が並んでいた。
そしてその準備エリアのストレッチャーには、1人の少女が寝かされている。
「三嶋絹香さんで間違いないな」
「はい」
ひなたがゆっくり三嶋絹香に近づき頬を軽くぺちぺちと叩く。
呼吸もしており体温も温かいことでひなたはほっと安堵し、起こそうとする。
すると八神は背広を脱ぎ防弾チョッキを外すと三嶋絹香へ装着するようにひなたへ頼む。
「八神さんは」
「俺は大丈夫だ」
そのまま手術用術衣を着ていた三嶋の肩に背広を着せてあげるようにひなたに指示した。
「ここに彼女がいた、それだけで十分だ。本条、三嶋さんを背負えるか?」
「結構鍛えてるし、高校の部活は陸上部ですよ」
「悪いが頼む」
八神はゆっくりとトレーラーの出口へ近づき階段を降りながら手招きでひなたを誘導する。
その時スマホがぶるっと鳴る。なんだと着信を確認するとハルだった。
すぐにイヤホンに繋ぐと、ハルの焦った声が聴こえてくる。
<八神さん! 入り口に車が2台入ってきました! その位置じゃ見つかっちゃう!>
ひなたを誘導しながら八神はトレーラーの左横にある事務所があるプレハブへと身を潜める。
それと同時にガシャっと工事現場のフェンスが開き、黒いバンとセダンタイプのEV車が乗り入れてきた。
ひなたも手にP365を構え緊張で冷や汗を流していた。
バタンバタンと車から降りてきた男たちがドアを閉めていく。
「先生、契約なんですからやってもらわないと困るんです」
「無理だ。そもそも子宮移植は相当に高度な移植技術なんだぞ。しかもこんなトレーラー内のオペ室で臓器の摘出なんて無理だ。
無理なものを無理という私の対応こそ誠意があると判断してほしいものだな」
「そこをなんとかしてもらえませんか? もう前金で5億もらってるんですわ」
「5億だろうがなんだろうが知ったことか? しかもドナーはまだ中学生? 発育途上の子宮を摘出など移植医療をバカにしてるとしか思えん」
「だってしょうがないでしょう、健康診断の血液サンプルから得られたマッチングで最適って出たのがあのガキなんですよ」
「どっちにしろ私には無理だ。当初からの予定通りに腎臓、肝臓、膵臓、小腸、大腸、角膜を摘出する。それだって生半可な腕じゃできないんだからな?」
「ちょっと待ってください、上に確認しますんで」
「子宮内膜症とか子宮筋腫を併発してたとか言っておけ、移植ではそういうことはある話だ」
「はぁ、しょうがないな」
八神はこの会話を録音し撮影までしている。
あれほど探していた証拠があっさり取れたことで拍子抜けしたくなるが、逆にこれほどまでにおぞましい会話をしているのに奴らには罪悪感の欠片もないことが怖ろしかった。
ひなたは怒りで肩がぶるぶる震えている。
せめてもの救いなのが三嶋絹香がこの話を聞いていなかったこと。
「ハル、警察には電話してくれたんだな?」
<はい! 八神さんの名前を出しちゃいました。でも来てくれるそうです>
だがそんな安心材料も吹き飛ぶような事態へ発展していく。
先生と呼ばれた50代の医者風の眼鏡をかけた男と、コーディネート担当の30代の男がそろって大型トレーラーの内部へ入っていったのだ。
10秒ほどで飛び出してきたコーディーネータ―の男が待機していた部下たちを怒鳴りつける。
「ドナーがいないぞ! この工事現場に隠れてるはずだ、探せ!」
6人の部下たちはぎょっとした表情を浮かべ、腰から拳銃を取り出し周囲に散っていく。
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