失踪事件
警視庁には、表に出ない部署が存在する。
様々な凶悪事件に対し霊的アプローチを用いた捜査を行う――刑事部 霊事課 通称 霊事警察。
捜査一課の刑事・八神恭史郎は、ある日、霊が見える刑事「本条ひなた」とコンビを組まされる。
だが八神は、極度の怖がりだった。
人面犬事件、猟奇殺人、犯罪組織の暗躍
そして都市の闇で進む謎の薬物実験。
人間の犯罪と怪異が交差する事件に、凸凹コンビの捜査が始まる。
※ この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。
◇
公安との一件があってから5日後。
捜査に進展が見られた。
ひなたが突き止めた大出周一さん絡みのジドリを徹底的に行ったことで浮かびあったのは、彼が真っさらで犯罪絡みのトラブルなどということが微塵もない人物であったこと。
そこで各種方面から助言をもらった捜査本部は医療関係者からの助言で臓器のマッチング、つまり移植の相性についての検査が必要でありどこかで必要な生体情報を入手しているはずだという情報を徹底的に調べあげた。
大出周一の雇用主である石倉社長から聞けたのは毎年行っている健康診断の会社を今年から変更したとのことが判明。
こちらは大手の健康診断サービスの会社であったが、サイバー犯罪対策課によるとデータベースに開発元が把握していないバックドアが発見される。
「ARCヘルスケア という下請け企業がHLAタイピング用のキット試薬を大量に購入していることが判明……? なんのこっちゃ?」
ひなたの問いに霊事課のオフィスで樹里に入れてもらったお茶を飲みながら八神が答える。
「HLAタイピングってのは臓器のマッチングに必要な検査らしい。
その臓器が移植先の人との相性がどうかっていう目安の一つだそうだ」
「それって、尻尾を掴んだってこと?」
樹里が黒瀬課長が持ってきてくれたどら焼きを食べながら質問してきた。
「現状、尻尾というより尻尾の毛の一部ってぐらいだろうな。研究用って言い逃れる可能性もあるが物証がでないと厳しい。
厚労省からタレコミがあって医療施設としての届け出があるにも関わらず実体の掴めない施設で、高度な医療機器の搬入がここ1年以内にあったとされる施設が都内に8ヵ所」
「厚労省?」ひなたがどら焼きをうまそうにかじっている。
「この厚労省が示した施設と例のHLAタイピング試薬を大量に購入したARCヘルスケアと取引のある施設が5ヵ所」
「意外と減ってない」
「でもでも~そこへ同時にカチコミかければ、うちらの勝ち確定?」
「それで決着してほしい。今回は俺と本条はここでゆっくり報告書を仕上げて、大出周一さん身元特定のための辻褄合わせの筋書を考えるのが任務となる」
「うげー 辻褄合わせめんどくさ! もういいじゃん霊視で見つけましたってことでさ」
「それ賛成~、今までも辻褄合わせのために大分データをまとめて検察にわたしが送ってんだかんね」
「助かるよありがとな樹里」
「もうほめてほめて もっと褒めてあやして、もちあげて」
樹里はひなたとは違った愛嬌のある性格で、検察とのやりとりも任せっきりだったりする。
「家宅捜索はかなり大がかりになりそうだな。捜査員は全員防弾チョッキ着用命令が出ている」
「八神さんは行きたくはないんですか?」
樹里の質問への返答を八神は悩んでいた。
「行きたくないといえば嘘になるが、行きたいと強く懇願したいほどではない」
「そうなると大出さんとか他の被害者から見えたビジョンっていうか感覚はなんだったんだろう。
揺れてたり、すごく眠かったり、トラックていうイメージがすごく強いんだよね」
「冷凍トラックで運ばれてたことと関係するのか?」
「寒いって感覚は結構感じやすいんだけど、そういうのじゃないんだよね」
「ちょっと待って、緊急で2人に別件の捜査支援の要請きてる……阿佐ヶ谷で中学生が行方不明……昨日の夜から帰らずに捜索願が出てるって。
今、家宅捜索とその対応で人員確保が大変みたいで2人が直接自宅に向かってくれって、住所はここ。うちらが準待機でラッキーだったかも」
「行くぞ本条」
「どら焼き おやつでもらってくね」
「ちょっと待て! それわたしの!」
・
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阿佐ヶ谷駅からほど近い住宅街に三嶋家はあった。
一目で裕福な家なのだということが分かる。自宅前には関係者と思われる車やパトカーが数台止まっていた。
「気持を切り替えなきゃ」
パンパンと頬を叩くひなたを見て、八神は負担をかけすぎていることに罪悪感を感じていた。 「いいか無理はするな」
「大丈夫です。まだ無理じゃないです」
「分かった」
既に午後2時を過ぎており、所轄の警官に通されると中では父親が学校とやりとしていたがかなり口調が荒くなっている。
奥さんに頭を下げ改めて話を伺うことに。
「ご両親ともお仕事で帰宅が遅くなってしまい、既に寝ているものと思い込んでいたら朝起きてこないことで部屋に戻るといないことに気付いた、そこで通報に至るという流れですね?」
「はい、あのとき確認しておけば、模試が近いから邪魔しちゃ悪いと思って……」
母親は自分を責め、父親は知り合いの弁護士に電話をし何かできることはないかと電話を繰り返している。
対応したであろう所轄の警官に話が八神たちに近づく。
「ご苦労様です。捜索願が出されたのは三嶋絹香さん15歳。中学3年です。私立の南条学院中学校の3年で塾が終わり友達と別れたところまでは確認が取れています。スマホは電源が入っていないのか反応はありません」
渡された写真は元気に友達と笑ってふざけあう制服姿が写っている。
地毛がやや明るい茶色でとても整った容姿をしているのが分かる。
となると、行方不明になる理由は各段に跳ね上がる。
可能性が高いのが突発的に不審者に襲われたか、ストーカーによる犯行。
「友人たちからストーカーなんかの話は聞けていますか?」
「いえ、特に問題がなくいつも通り、明日配信になる推しの3Dライブが楽しみだとワクワクしていたと」
本条ひなたは電話を終えた父親に挨拶をする。
「警視庁情報支援室からきた本条と申します」
警察手帳を見せると父親は疲れた顔をしながら頭を下げた。
「む。娘は見つかりますよね!? お願いします!」
「全力を尽くします。それで手掛かりを探すために絹香さんの自室を見せてもらってよろしいでしょうか? 男性はなるべく入らないほうがいいと思うので」
「そ、そうですね、香織、案内してあげてくれ」
「は、はい!」
これはひなたが先輩の女性刑事に教わった殺し文句だ。
家宅捜索レベルになれば気にすることもないが、任意やこういったケースの場合は女性だと特に歳が近い女性だとハードルが低い。
さらにひなたにとってのメリットがある。
誰もいない部屋で霊視がしやすい。
八神はひなたの狙いをすぐに察して部屋の入口で待つことにする。
そこは年頃の女の子にしては整理整頓がしっかりし、物も少な目だが推しのポスターやアクリルスタンドが並んでおり憧れているのが分かる。
「アノライブのエリカちゃんか」
ピンク髪をツインテールにしたいわゆるVirtualアイドル。
机の前のコルクボードには修学旅行で友達と一緒に取った写真が貼られており、充実した学校生活が送られていることが伝わる。
歪みはない。
抑圧されているタイプの子はこういう感じはしない。
どちらかと言えば、能天気でほんわりとした印象。
枕元にあるペンギンのぬいぐるみはお手製なのかリボンや服を着せられていて几帳面で器用な一面がある。
母親が作ったであろうパッチワークの壁掛けがあることから、母から習った技術だと推測できる。
それらをスマホの写真に見せて後に八神に意見を求めよう。
すると八神からメッセージが届く。
” いじめの有無を確認したいから教科書を探して確認してほしい。両親に知られたくないため机奥にあるパターンが多い ”
なるほどと引き出しを開けるが、入っていたのは片想いの同級生の男子と一緒に写っている体育祭の写真が入った綺麗な箱。
なんだか青春をのぞき見したような気がして、ひなたは少し申し訳なく思う。
そして……
ベッドの下なども確認するも、お菓子の空箱が落ちていたぐらいで不自然な点は感じられない。
そのとき、勉強机の上にあったキーホルダーを手にしたとき、ひなたは立ち眩みにも似た感覚に思わずふらついた。
「生きてる……少しだけ揺れてる、これって……拘束されてた。八神さん!」
ガチャッ「どうした?」
「絹香さん、拘束されてると思う。生きてる感じします。確証はないけど、死んでる人だとこういう感じの念ではないはず」
「他に情報はあるか?」
「揺れてて、拘束されてる。生きているから私レベルだとそれぐらいしか分からないです、ごめんなさい」
「いやそれだけで十分だ。生きてるってことはお化けじゃないから、俺も怖くないしな!」
「まったくもう」
「いじめの線や家族内の犯行がないのであれば、突発的な外部の犯行だと決めつけて捜査するしかない。行くぞ本条」
「ってどこへ?」
「塾からここまでのルートを辿る。お前なら、犯行があった場所で何かを感じられるかもしれないだろ? 何から何まで本条頼りですまないと思ってる」
「いえ。行きましょう!」
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