白鷺美冬
警視庁には、表に出ない部署が存在する。
様々な凶悪事件に対し霊的アプローチを用いた捜査を行う――刑事部 霊事課 通称 霊事警察。
捜査一課の刑事・八神恭史郎は、ある日、霊が見える刑事「本条ひなた」とコンビを組まされる。
だが八神は、極度の怖がりだった。
人面犬事件、猟奇殺人、犯罪組織の暗躍
そして都市の闇で進む謎の薬物実験。
人間の犯罪と怪異が交差する事件に、凸凹コンビの捜査が始まる。
※ この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。
「多分気になってる人もいるかと思うので、あえて説明しますけど、あの突撃隣のなんたらチャンネルのハルとカズの2人はピンピンしてますので安心してください」
「誰も聴いてねえよ」
八神が吐き捨てるように言った。
夜のコインパーキングからある場所へと向かっているが、それは本条ひなたからの要請、依頼、いや八神には脅しに聞こえていた。
「うちの遠縁が宮司さんしてる神社なので入ってください」
「お、おう」
星月神社 書かれた石碑? のようなものがある。
都内豊島区にある神社でこじんまりとしているが、清潔で鳥居をくぐっただけで心が落ち着くような清浄ささえ感じる。尤も八神自身は神社だという感覚しか感じていないようではある。
「お待ちしておりました」
深くお辞儀をしたのは、黒髪ロングで清楚そうな美人巫女だった。
「美冬姉、わざわざごめんね」
「いいのよ、だって凶悪犯を捕まえてくれた刑事さんなんだもの」
「こちら、親戚の美冬姉、んでこっちの堅物びびり野郎が八神刑事です」
「そんなびびりなんて失礼じゃない」
「いいんです、もうお化けとかそういうの怖く怖くてもう、反論できなくぐらい苦手で怖いんすよ」
頭を搔きながら照れる八神に美冬は思わず微笑んだ。
「あのとりあえず中に入ってください、父がお祓いの準備してますし、やはり急いだほうが良いと思います」
真剣な表情になった美冬の瞳と、その美貌に思わず八神は見惚れてしまいそうになる。
ひなたもかなりな美人だと思うが、美冬に至ってはこう近寄りがたいようなでも惹きつけてやまないような魅力が漂っている。
それは淫靡さを感じさせるようなものではなく、清らかで触れてはならぬ畏れにも似た雰囲気だった。
「そういえば怪我をされたとお聞きしましたが、お加減は良いのですか?」
「はい、縫うほどの怪我じゃなかったのでもう絆創膏もはがしてますよ」
「まあびびりだけど、凶悪犯相手には怯まないから結構強いんじゃない? グアンタナモ帰りらしいから」
「だから違うって言ってんだろ! その言い方だと俺がテロリスト扱いだろが!」
「あれ違ったっけ?」
「違う、お前が言いたいのは…… まあいいや。すいません騒いじゃって」
「ふふふう いいんですよそういう明るさっていうかやりとりはとても大事だと思います」
通されたのは神社の祭壇であり、宮司の父親が待っていてくれた。
「八神さん、この神社の宮司をしております 白鷺剣介と申します。そして娘の美冬でございます」
ここで八神は敬礼で返礼する。
「警視庁捜査一課の八神恭史郎と申します。この度はお忙しい中、時間をとってくださりありがとうございます」
「おじさん ごめんね、でも見たらわかるでしょ?」
「ああ、ひなちゃんでも抑えられなかったとなると、神様の力をお借りしてのお祓いしかないだろう、さあそこの椅子に座ってください」
美冬が差し出したお神酒に一口だけ口をつけると、そのまま目を閉じるように言われる。
宮司の祝詞が神社の社に響く中、八神は怖いながらも体の痛みを感じていた。
顔には出さないようにしているが、痛む。
そして気付いた。
先日の事件で負傷した部位、蹴られ、殴られ、ナイフで切り付けられた箇所がひどく痛む。
八神が冷や汗を流していることに気付いた美冬がハンカチでぬぐってくれる。
「八神さん、お辛いようですがもう少しの辛抱です」
体を何かで何度も撫でられ、そしてお祓いは終わった。
どっと力が抜け、思わず椅子から倒れそうになるのをひなたと美冬が支えてくれる。
「八神さん、あなたはとてもお強いのですね。このレベルの穢れを受けていたら、痛みで転げまわっても不思議ではない。
あなたは呻き声ひとつあげずに、たいしたものだ」
「はぁはぁ、なんだか体の芯に残っていた痛みというか重さというか不快感がなくなったような」
肩を回しながら、ナイフで切り付けられた傷跡を撫でているが、未だに包帯が巻かれており強がっていたのが分かる。
「……大丈夫、穢れ取れてる。おじさん、ありがとね」
「いやいやこれがただの肝試しとか罰当たりなことをしたガキどもならば追い返しているが、犯人逮捕のために危険を顧みずがんばってくれた刑事さんならお安い御用だよ」
「あの、つかぬことを聞きますが、けがれ って何ですか?」
全員がきょとんとしたが、「そりゃそうだろう、とりあえず夕飯にしよう。気力を大分すり減らしたからね」
「では私はこれで」スパンッ!
「いてっ」
「八神さんのために用意してくれたんだから、食ってくの! いい?」
「あ、はい」
「ふふふ 2人は仲が良いのね」
「いえ、悪いです」
「何言ってんのよひなちゃん、じゃあ用意するからちょっと待っててね」
美冬は慣れた手つきで鍋を温めるとすぐにカレーを用意してくれる。
「もう美冬姉のカレーはまじでおいしいから! 最後の晩餐あったら絶対美冬姉のカレーだね」
「そんな茶化さないの」
「いい匂いだ」
出されたのはごく普通の、家庭カレー。
だが一口食った八神は、あまりのうまさに一気に食い尽くす。
「う、うまい」
「でしょ!?」
「よかった お口にあったようでうれしい。おかわり します?」
「お、お願いします!」
結局、八神は3杯、ひなたは2杯も完食してしまう。
「見事な食べっぷり。まあ八神君の場合、穢れで衰えていた気力がこのカレーで大分補充できたんじゃないかな」
「すごい、なんか元気になれました! えっと正直なところ、ずっと疼痛が続いて通院していたんです。毒物や薬物検査もしてもらいましたが何も反応なく、PTSDの一種ではないかと言われていました」
「八神さんほどの健康で精神がしっかりしてる人でも受けたダメージですからね、与えた相手は相当にやばい存在だった」
「おじさん、あれは悪霊とかそういうレベルのやばさじゃなかったと思うの」
「多分、集合体だろうね。悪いモノが寄せ集まり、融合し、そして強固な人格や意志を持ってしまった存在」
「や、八神さん、大丈夫ですか、なんだか震えてるようですが」
「べ、別に こ、こわくなんか! ない、です!」
八神にとっては怖いこともあったが、星月神社での一時は忘れられぬものになった。
後日、ひなたによると、同じように山崎から被害を受けたハルとカズは命に別状はないが怪我の治りが遅く入院が長引いているらしい。
ひそかに星月神社で穢れ祓いをしなければならなくなりそうと宮司の白鷺剣介が漏らしていた。
お読みいただきありがとうございました。
よろしければブックマークや評価をいただけると、今後の執筆の励みになります。




