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霊事警察 ~霊が見える刑事と、霊が怖すぎる刑事が挑む怪事件~  作者: 星乃渚(旧:鈴片ひかり)


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二つの声

警視庁には、表に出ない部署が存在する。

様々な凶悪事件に対し霊的アプローチを用いた捜査を行う――刑事部 霊事課 通称 霊事警察。

捜査一課の刑事・八神恭史郎は、ある日、霊が見える刑事「本条ひなた」とコンビを組まされる。

だが八神は、極度の怖がりだった。

人面犬事件、猟奇殺人、犯罪組織の暗躍

そして都市の闇で進む謎の薬物実験。

人間の犯罪と怪異が交差する事件に、凸凹コンビの捜査が始まる。


 ※ この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。

 2人は男同士で抱き合いながら 涙と鼻水を流し震えている。

 何か敵意を示されたわけでもないのに、奴が放つ何かが圧倒的な恐怖を2人は感じていた。


「こ、ころされる」

「あ、あれ、多分そうだよ。血、血だよ、あのバット」

「なんだそういうの今思い出すんだよ!」 

「だって、思い出しちゃったんだもん! あ、こうなったら刑事さんが他いるかもしれないから、大声で叫ぼう」

「も、もうこうなったら仕方がないよな、せーの」


「「刑事さん たすけてえええええええええええええ!」」


 ガタン!


 つっかえ棒をして、必死に締めたはずのドアが強引に開けられていく。

「ハルおさえろ! けいじさんたすけてえええええ!」

「たすけてええええええ!」

 ガンガンガン! 


 金属バットで叩かれる体育用具室の頑丈なドアが大きく軋んで悲鳴をあげていた。


「いやあああああああああ! ごめんなさいいいいいいいい!」

「たすけてええええええ!」


 きひひひ


 こんな騒音だらけなのに、奴の声だけがはっきりと聴こえる。


 開いた隙間から覗く目が、真っ黒だった。白目がない、ただの黒。


「「ぎゃあああああああ! た、たすけでええええええ!」」


「きひひひ、撮影した カメラ 壊さなくちゃな 見られたからな、当然お前らも殺す、また突き落とせばいいか」


「「ひいいいい! たずげでええええ!」」


 ガタン! とつっかえ棒の役割を果たしていたバスケットボール入れと得点ボードが軋みながらガコンと外れる。


「きひひひぃ おまたせ」


 ガラガララ……


 体育用具室の重い扉が開かれる。

「だ、だずげでぐだざい!」


「見られたから殺す まあ2人増えたところで、関係ないか きひひひひ!」


 大柄で黒めの男の迫力に、思わず2人が失禁してしまった。


 薄汚れたコートのポケットから取り出したのは、染みのついた……包丁だった。


 そしてその染みが、当然血であることも2人は情報としては入ってきていたが、既に恐怖で脳がそれらを受け入れられずただ口をぱくぱく、涙と鼻水を垂れ流すしかなかった。


「まずは目玉を」 

 『ちがう、両足の腱を切れ、そのあとであのデブの脂肪を切り取ってスリムにしやるんだ、痩せてるほうはそうだな、両手の骨を抉りだして腕を更に細くさせてやろう』


「目玉が先だって言ってるだろ」

 『俺の言うことを聞けねえのかゴミ』


「うるせえうるせえ! うるさいうるさい うるさい! がああああああああああ!」


 『きひひいぃ! 引っ込んだ引っ込んだ まずはそいつらさくっと解体しておいてやろう、いや脂肪切断だったか いや 待て!? 


 そうだここで殺すと運ぶのがめんどくさいな


 こないだの3人運ぶの疲れたってあれが喚いてた。


 だったら、あいつらを』


「自分の足で歩かせる」

 『そうしよう きひひ』


 ガチャガチャ…… 

 ハルとカズは用具室にあった固定用のチェーンを首に巻かれ繋がれながら、屋上に向けて階段を歩かされていた。


 聴こえるのはチェーンがぶつかる金属音と、2人がすすり泣く声。


 『 舌がいいか、食うの好きそうな奴だ、舌と鼻 がいい……』


「ぐっぅ……」 

 ハルが恐怖で呻きながら、時間をかけゆっくりと歩く。

 カズは既に呼吸が荒く不規則で、今にも倒れそうな状態だった。


「 女、女 女を 殺したい」

 『 女はいないか 女女! 前みたいに子宮を抉りだしたいなぁ 』


「『 ぐきひひひひひ 』」


 歩みが遅くなると容赦なく金属バットで尻を叩かれ、2人はとうとう屋上に到着してしまった。


「 出せ 全部出せ けいたい カメラ、全部だ! 」

「は、はい!」


 ポケットに入っていたGo-proの予備バッテリーまでも差し出したハルとカズは、命乞いする以外に道がないと判断し ひたすら頭を屋上の床にこすりつけている。


 大柄な男がつけた屋上の蛍光灯がパチパチと明滅しながら、黙ってハルとカズの叫ぶ背中を照らしていた。


「んで、どこを奪うんだ」

 『 デブは 舌と鼻、ガリガリは、そうだな、検死みたいに胸をV字に切開して肺を取り出すか…… どうせもう逃げるしかねえから派手にいくぜぇ 』

「けんし、 けんし いいねぇ」


 ハルとカズにはこの男から 二種類の声が聴こえてくるカラクリがまったく理解できなかった。

 唐突に容赦なくハルの足を金属バットで叩くと鈍い音と共に 悲鳴をあげてどうと倒れる。


 大柄な男がハルの顎を大きな手で掴む。


「さっさと舌出せ」

「ひいいいい! い、いやだあああ! 絶対に絶対に誰にも言いませんから! お金も払いますから! たすけてください!」


 ゴンと頭を殴られる呻くハル。カズは既に貧血を起こしてぐったりとし、涙を流しながらハルを見つめている。


 『 鼻をさきに削げ 』


 大柄な男は髭面をハルに近づけながら、包丁を投げ捨てると無言で何のためらいもなくポケットから取り出した鋭利なナイフをハルの鼻へとその切っ先を向けた。


「あああああ! だずげでえええええええ!」

「ハルぅ うう」

 月明りに照らされた刃がきらりとハルの視界に入ったとき、その絶望がハルの意識を奪った。

 がくんと、力が抜けた瞬間。


 何かが大柄な男とぶつかり、どうっと倒れてしまった。


「暴行と殺人未遂の現行犯で逮捕する!」


「け、刑事さん!」


 カズのか細い呻きに似た声をたしかに八神は聞いた。


「 なんだてめええええええ! 」


「ぐっ なんて力だ」


 後方から飛び掛かりナイフを持つ手を押さえて関節を決めようとするも、今まで八神が感じたこともないほどの膂力でそれを引きはがそうとしてくる。


 この時八神の頭では優先順位に対しての最適行動が訓練で培った思考方法にて瞬時に選択されていた。


 彼らを守る。


 警察官として。


 この膂力で引きはがされたらナイフで切り付けられてしまう。

 自分が行動不能になれば彼らを守れない。


 だからこそ八神は素早くその場から飛びのくが、凄まじく早い反射速度で犯人の大柄な男がナイフで切り付けてくる。


 叩き落とす要領でなんとか2撃、3撃と防ぐが、4撃目に腕を切り付けられてしまう。

 浅いが血が染み出してくるのが分かる。


「大人しく逮捕されろ!」


「警察かよ」

 『警察は嫌いだ、ぶっころせ、手足を切り落とせ』


「!?」

 声が二種類聴こえることに八神は一瞬驚いたが、すぐに切り替える。

 この場にはいらない情報だ。


 そんなカラクリどうでもいい。

 今は奴を取り押さえ行動不能にすること。


 犯人は八神を脅威と認定し、チェーンで繋がれ足を負傷し意識がないハルとカズを放置することにしたようだ。


 犯人のナイフ裁きは自己流だった。だがそれが逆に八神を苦戦させる。


 ナイフ対素手。一見すると圧倒的に素手が不利に見えるが、攻撃がナイフに頼りになるためそれを知っている八神には戦う術があった。


 ナイフの切り付けを何度かかわしながら、カウンターのジャブで犯人の顔をヒットさせる。

 鼻血が吹き出しているが奴は痛みなど感じていないかのようにまったく怯みもしない。


 まさか薬物!?

 そう八神は状況が不利になることを感じていた。


「静かに、今ほどくから、立って」


 カズの鎖と拘束を解いてくれたのは女性だった。

 そうあの時、一目惚れしそうになったほどの綺麗な女性刑事。


 その羨望と淡い恋心がカズの生きる活力を呼び起こす。

「ハル、ハル、起きろ、起きろ」


 ハルを揺さぶるとすぐに意識を取りもどすが、すかさずカズが口を塞いで悲鳴を防ぐ。

「逃げるぞ、刑事さんが来てくれた、痛くても立て!」


 耳元で声を潜めながらも強い語気で伝えると、ハルは涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながらもうんうんと頷く。


 あまりの痛みで立てないと分かったハルは、ハイハイで階段まで逃げようと必死に動いた。

 ひなたはその間、彼等をかばうように立ちはだかっていたが何度試してもスマホは使用できなかった。

 電源が急に切れ、再起動さえできないのだ。


 屋上に来る前から続いていた通信障害、これが霊障であると察したひなたはポケットに入れていたLEDライトを手にする。


 ひなたも合気道は有段者だが、ナイフで戦う八神と大柄な男の間に割って入れるほどの腕前ではない。

 しかし八神はあのナイフの猛攻をよく耐えていた。

 見事なステップでかわしながら、ハルとカズから距離を大分稼いでいる。


 お化けが苦手な臆病者なのにこういうときはかっこいい。


 また八神の左ジャブがヒット、さすがに呻いて鼻をおさえた瞬間、八神は一気に懐に飛び込み襟首を掴むとそのまま腰を落して一気に背負い投げを決める。


「ごっへ」


 大柄な肉体であることがマイナスに働いた。

 強かに全身を打ち付けたことで動きがとれなくなった犯人に対し、八神くるりと背中を転がして右腕を取ると腕を捻ってナイフを取り落とさせ素早く手錠をかけるのだった。


「本条 時間!」


「は、はい! 午後 10時13分!」

「暴行と殺人未遂の現行犯で逮捕する!


「ぐがああああああああ!」

 『けいさつがああああああああ! がああああああ!」


 うつ伏せ状態背中側で手錠をかけられたことで、もう身動きはほとんどできないとの八神の判断は間違っていないだろう。


 だが、今回は違った。

 犯人の男はそのまま膝立ちになると、「ぐおおおおお!」 と唸り声を上げながら力を込めたのだった。

お読みいただきありがとうございました。


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