心霊スポットの怪異
警視庁には、表に出ない部署が存在する。
様々な凶悪事件に対し霊的アプローチを用いた捜査を行う――刑事部 霊事課 通称 霊事警察。
捜査一課の刑事・八神恭史郎は、ある日、霊が見える刑事「本条ひなた」とコンビを組まされる。
だが八神は、極度の怖がりだった。
人面犬事件、猟奇殺人、犯罪組織の暗躍
そして都市の闇で進む謎の薬物実験。
人間の犯罪と怪異が交差する事件に、凸凹コンビの捜査が始まる。
※ この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。
「「……」」
「お兄さんたちノリ悪いなぁ。今日は定点カメラセットして自殺のあった場所を撮影しようと思うんです! こないだは定点カメラが倒れちゃってて、でも足音は入ってたっす! 聞きます!? 聞きます? あっ! でもチャンネル登録はしてほしいな?」
「わかった。チャンネル登録するから聞かせてくれ」
「やった! えっとこれです!」
スマホから自分のチャンネルに飛ぶと、彼らが見せてくれたのは倒れて画面が真っ黒の地面になっている状態でその場所から離れていく足音。
「歩幅が広い、大柄、男性……本条、被害者の身長と体格はどうだった?」
ひなたがISSをチェックすると、
「大学入学時のデータですけど、島村耕太が165cm52kg 水原悠馬 168cm 53kg 高瀬陸 172cm 73kg です」
「172cmは大柄とは言えないか……」
「えっとお兄さんたち、あのなんで被害者の情報を知ってるっすか?」
2人が若干きょどっている。
八神とひなたがほぼ同時に警察手帳を見せる。
「警察だ。今の情報提供を考慮して、不法侵入の件は見逃してやる。次はないぞ」
「え、えっと」
「ほら、さっさと帰りなさい。情報は助かったわよ、ここで起きたことは動画にしたりしないでね」
「「は、はい!」」
2人が帰ったのを確認した八神は、頭を抱えた。
「う、べ、別のお化けがいるってことじゃねえか」
「足音ってのは結構頻繁にありますから大丈夫ですよ。通りすがりの浮遊霊かもしれませんし」
「ふ、ふゆゆゆれい?」
「しっかりしてください。じゃあどこから見たらいいですか? 多分、白石刑事の様子からここを確認できるのは今日が最後だと思いますよ」
「たしかに、前回見ていない学校周囲の建物を確認してみるか、部室棟とか、用具室なんかか…… ほ、ほら 前歩けよこわいだろ」
「ああ情けない。情けない」
「くっ 言い返せないのがきつい」
八神はひなたの肩を掴みながら腰が引けた状態でついていく。
部室棟を一通り見て見たが、怪しい箇所は見つからない。だが……
「なんでこんなにゴミが多いんだ? 肝試しに来る奴らの仕業か」
「まったく、バチが当たりますよ」
◇
「なあカズ、1時間ぐらい学校の周りを歩いたけど、中を撮影できそうなポイントなかったね」
「刑事が夜に二人で来るってことは、捜査が続いてるってことさ! きっと動きがあるはずなのに、良い定点ポイントないのは辛いぜ」
「最近じゃ女子中学生の盗撮を防ぐために、シートとか貼ってるとこ多いみたいっすよ」
「遠目に撮った動画で、お蔵入り編に使うぐらいしかなさそうだ」
「撮れ高少ないと、一気に疲れるな 帰りにラーメン食ってこうよ」
「ハルはいっつも食うことばっかだな……ってあれ? 車ちょっと斜めってない?」
「?? あれ? なんだこれ……」
異変を感じて近寄ると、2人の乗ってきた軽自動車のタイヤが4本ともパンクしている。
「あれ? こんなこと起きるはずが」
「もしかして、霊障かも!」
カズが意気揚々と撮影し始めるが、すぐに思い直してがっくりと落ち込んでる。
「やばいぞ、タイヤの修理、交換の金ないぜ」
「うわーまじで霊障かも どうしようね、JAF呼んだら来てくれるかな」
「俺契約してないって、金ないし」
「あちゃーじゃあ刑事さんたちに乗せてもらおうか、警察署からなら歩いて帰れそう」
「ハルの提案に乗るしかなさそうだ、ああ痛い出費だああ!」
しょんぼりしながら刑事たちを待つために校門近くに止めた車両に近づくハルとカズ。
だが……
「あれ? 刑事さんたちの車もなんか様子おかしくない?」
「うわっ! こっちもパンクしてる!」
「これって霊障!? というか早く刑事さんたちに教えたがいいよねこれ」
「そうだな、応援呼んでもらえれば俺たちの修理してくれる可能性? ワンちゃんあり?」
「かも! じゃあ中に入って刑事さんたちに知らせよう」
「ついでに撮影しちゃおうぜ」
「ナイスアイデア、さすがカズ!」
ハルとカズは意気揚々と、校門から堂々と入って八神とひなたを探すために校舎内へと入っていった。
夜の校舎は非常灯以外は落ちているため、異様な雰囲気が漂っている。
「どこにいるんだろうな刑事さんたち」
「校舎の中だと思うぜ。自殺現場は遠くから撮影してた時は人いなかったはず」
校舎の二階に上がり、廊下を歩いている時だった。
カラカラカラ……
何かを引きずるような音が遠くから聴こえてくる。
それはリノリウムの床を何かが擦っているような音。
「刑事さんたちが何か運んでるんだよきっと」
「行ってみるか」
ハルとカズはついでに撮影しながら音の方向へと歩いていく。それが3階から階段を降りてくる音だと分かったため近くで待つことにした。
だが、それは月明りに照らされながら現れた。
大柄な1人の男が、階段をコツン コツンと音を立てながら降りてくる。
「ん?」
ハルが何だろうと目を凝らし持っていたライトで照らす。
そこにいたのは大柄でだぼっとしたコート。髪がぼさぼさ、そして手には歪な色合いをした金属バット。
「え?」
「あれ、違うんじゃね」
「見つけた……きひひ」
大柄な男の発した声が、異様に高かったことがさらにハルとカズの恐怖心を刺激した。
心霊スポットに慣れている彼らだが、目の前にいた金属バットを持つ大柄な男の異質さには背筋が凍り付くほどの恐怖を全身が駆け巡る。
声を発っすることができないほどの恐怖。息をするのを忘れ、慌てて呼吸をするもうまく息ができない。
「きいひひひひいい 見られたから 殺すしか ないよねぇ~」
ハルとカズは反対側の階段へ向けて走り出し、さらに飛び降りるように駆け下りると渡り廊下を走って体育館へ、そこからさらに体育用具室へと逃げ込んだ。
計画的に逃げたのではない。相談したわけでもない。
ただ、目の前にある通路を走り、闇雲に走って辿り着いたのがそこだった。
心臓が飛び出るほどの恐怖でありながら、2人は協力して体育用具室を封鎖しようとバスケットボール入れや得点ボードなどを扉に積み上げて立てこもる。
「な、なんなんだよあれ」
「わ、わからないよ、刑事さんたち やられちゃったのかな」
「かも、しれない! そ、そうだ警察、警察呼ぼう!!」
カズが会心の閃きを口にし、震える手でスマホでキーパッドを押すも、電波が繋がっていない。
「なんでだ、さっきまで繋がったのに」
カラカラカラ……こつんこつん
「ひぃ!」
「通り過ぎて、通り過ぎて……」
ハルの願いも虚しく、それは明らかに近づいてきていた。
カラカラカラ……こつんこつん
お読みいただきありがとうございました。
よろしければブックマークや評価をいただけると、今後の執筆の励みになります。




