ハルとカズ
◇
翌日地元の国立大に赴くが、事務局のほうで事情聴取用の応接室を用意していてくれた。
案内してくれた事務長は白髪の混じった髪で疲れたような表情をしながら八神の手を握る。
「若い学生が命を落すことなんて、どんな理由でもあってはならんと思います。どうか、どうか真相を」
「全力を尽くします」
八神の敬礼に事務長は少しだけ安堵の目を見せてくれた。
1人目は同じゼミの学生 沢渡修 2年生。
「あの刑事さん、俺たち、あいつらが自殺なんて絶対しないって断言できますから!
島村耕太は奨学金の申請が通ってめっちゃがんばろうって言ってたんです! 水原悠馬は彼女ができたばかり、高瀬陸は妹のドナーが決まってそれはもう喜んでたんですよ。
実は俺も肝試しに誘われたんですけど、当日熱出しちゃって。それで同じゼミの菅原に薬買ってきてもらったんです」
沢渡修はどこにでもいる大学生という印象がぴったりな青年だった。
涙ぐんでおり、それは八神にも演技ではないことが伝わった。
他の学生に裏をとっても、沢渡の言っていることと食い違いはない。
合計8人ほどに事情を聞くも、悩みといえば彼女ができず童貞を卒業できないと島村が嘆いていたという大学生らしい悩みとも言える。
「一通り聴取してみたが」
「彼らが抱えていた悩みは、せいぜいバイト先のクレーマー客がうざいとか、童貞卒業ができない程度のものでしたね。それって自殺するほどですか?」
「違うな」
「ですよね」
「……んでどうなんだよ、お前的に見て」
「嘘ついてる人はいないと思いますし、沢渡君の守護霊がお願いしますって頭下げてたんで言ってることは本当なんじゃないかと」
「しゅ、しゅ、しゅしゅ……」
「守護霊です。ご先祖様や遠縁の血縁者がって怯えすぎ」
「だ、だってお化けなんだろ! くそ! なんなんだよまったく」
「私の意見としては、現場で悪い霊に憑りつかれて自殺へ引っ張られた可能性を考えたんですけどね」
「考えたって、なんだよ人を殺せる霊がいるってのか!?」
「殺せるっていうか、自殺にしむけるっていう。そういう精神状態に誘導するというか、落すって感じかな」
「そ、そんなのがあそこにいたのか!?」
「いませんでしたよ」
「じゃあ 何言ってんだよ」
「だから不思議なんです。感じたのは怖いものから逃げるような強い念。まあ心霊スポットだからそういう念が焼き付くのは分かるんですけど」
「逃げる?」
「ええ。自殺を繰り返す様子はまったくなくて、むしろ3人とも逃げるというイメージが強かったんですよ。
可能性としては、悪霊憑依による自殺企図の発現、そして誘導、でもなぁ何か引っかかるんだよな」
「お前でも分からないとはな」
「八神さんは何か分からないんですか? グアンタナモ帰りでも?」
「おいグアンタナモはテロリストの収容所だぞ! 俺が研修に行ったのはクアンティコだクアンティコ! 俺をテロリスト扱いすんな!」
「たしかにそれは怒られても仕方がないですね。んでなんですかその くあんてぃこ って」
「自分で調べろ。それよりも、俺はいくつかの可能性を疑っている。
一つは、自殺企図が強烈に刺激された可能性。
そこに不安を増幅するN-βが使われれば、可能性が無くはない。
だが犠牲者の3人は、薬物に手を出すようなタイプではない。家に集まってゲームやタバコがいいところで軽犯罪でもしないタイプだろう。
むしろ国立大を無事に卒業するためのリスクを回避する頭がある。
除外できる原因としては、ふざけあった末に落下した可能性。
これは鑑識が否定していた。そういった場合には、ある程度固まるかばらけるかだが今回は1人ずつ順番に頭から真っすぐに落下している。
二つ目は……」
「もったいぶらないで教えてくださいよクアンティコ」
「……第三者による他殺の可能性だ」
「!?」
◇◇
事情聴取から霧ケ崎警察署へ戻ると、ちょうど別件で県警に行っていた白石環刑事と合流することになった。
「事情聴取の結果は自殺を否定するような内容ばかりでしたか……」
ひなたが小会議室でお茶を入れていると、白石環が居心地が悪そうになにか八神をちらちら見ている。
「意見があるなら聞かせてほしい」
「えっと、その県警の上層部から指示を受けまして、その、今回の捜査支援はこれで終了という話が」
「あら」
ひなたがあっけない終わり方だと、やや不快感を込めてお茶を置く。
「あの色々思うところはあるかもしれませんが、ご協力ありがとうございました。報告書は私のほうでまとめておきますので」
「いやちょっと待て」
「え?」
「俺は本庁の捜査一課長から指示を受けていない。だから捜査は続ける、君は命令系統からここまでなのだろう、今まで助かったありがとう」
「そういえば私も黒瀬課長から指示が来てないなぁ、ということで八神さん行きましょうか」
「あの行くって、どこに!?」
「現場に決まってるだろ。第三者の痕跡を探す。ちょうど日が暮れるから彼らがどうやって落下に至ったのかを当時の暗さから見えてくるものがあるかもしれない」
白石環は呆気に取られていた。
県警から命令が来たのであれば、仕方なく引き下がってくれるものと考えていた。
「と、威勢の良いこと言ってましたけど、なんでそんなへっぴり腰で運転してるんですか?」
「こ、こわいからだろ! 日が暮れてるんだぞ! 心霊スポットだぞ! こわいのいるかもしれないんだぞ!」
「ほら、そこ右折!」
「は、はい! ってびっくりするだろが!」
「ああもううっざい!」
到着したときにはもう、日はすっかり暮れており八神は既に顔色が真っ青だ。
「そんなんで大丈夫ですか?」
「も、問題ない!」
車を学校前の空きスペースに開け、正門を施錠していた南京錠を預かっていたままの鍵で開けようとしたとき中から人の声が聞こえてきた。
「じゃあざっと一度見回って撮れ高ありそうな場所をピックアップしとく?」
「まずは死体が見つかったあたりにしようぜ」
どうやら男二人で何かの撮影をしようとしているようだ。
八神がライトを点けながら近づいていくと、彼らのほうから反応してくれた。
「あら、お兄さんは彼女さんと一緒に心スポ巡りっすか?」
「君らは?」
「俺らは アイチューバーですよ。動画配信するために撮影にきたんです。ここ、一ヵ月ぐらい前に自殺があったらしいんですよ!」
1人はやせ型、1人は太り気味のまだ20代前半ぐらいの若者だった。
「ここ、どうやって入ったんですか?」
太っちょが得意げに話し出す
「あそこの植え込みにある金網が破られててこっそり入れるんっすよ!」
「あれ? 兄さんたちはもしかして正門乗り越えちゃった系?」
っす という語尾を使いたがるのが太っちょのほうだが、さてどうしてやろうかと八神は少し悩んだ。
「君らは何か情報を掴んでるのか?」
「あら、知らないんすか? ここって2カ月ぐらい前から夜中に明かりが点いてたりするって近所の噂で」
「2カ月前か。近所で聞き込みしたのか?」
「ですです。みんな気味悪がってますよ、近所の人とかは洗濯物干してたら男物の服が2着ぐらいなくなってたこともあって、なんだか怖いって言ってたっす」
ひなたが中々やるなと感心している。
「他に分かったことあるかな?」
「えっとお兄さんたち、何か調べてるっすか?」
「そんなところだ」
「あ、これ俺らの名刺っす! まだチャンネル登録30人しかいないけど、いずれ100万登録越え狙ってるんで!」
「……突撃隣の心霊スポット? チャンネル?」
「ぼくがハル!」(ふとっちょ体型)
「俺がカズ」 (痩せガリ体型)
「「突撃隣の心霊スポット! ハルとカズで、ハルカズいきまーす!」」




