集団自殺
警視庁には、表に出ない部署が存在する。
様々な凶悪事件に対し霊的アプローチを用いた捜査を行う――刑事部 霊事課 通称 霊事警察。
捜査一課の刑事・八神恭史郎は、ある日、霊が見える刑事「本条ひなた」とコンビを組まされる。
だが八神は、極度の怖がりだった。
人面犬事件、猟奇殺人、犯罪組織の暗躍
そして都市の闇で進む謎の薬物実験。
人間の犯罪と怪異が交差する事件に、凸凹コンビの捜査が始まる。
※ この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。
◇
「ありえない。ラーメンは次郎系が至高でしょ」
「あほか。色んな味があっていいんだよ、俺は絶対に佐野ラーメン系だ」
「あーあじゃあ戦争ですねもう知らない」
「お前こそありえない」
「お待たせしました! 霧ケ崎警察署刑事課の白石環です」
2人の口論に勢いで割って入ったのは、ひなたとはまた違う印象の美人な女性だった。溌剌とした笑顔の優しい美人でセミロングの髪がとても似合っている。
「警視庁の八神です」
「同じく本条です」
「うわあ本庁の刑事さんだ、ってことは捜査一課なんですよね!?」
「はい」
「えっと私は情報支援室から来ました」
「すごいかっこいい! っていけない、ご案内しないとこっちです! 小会議室用意してあるのでそこに資料とか準備してあります」
「すいません助かります」
白石環はまじまじと八神を覗き込むよう見つめてきた。
「八神さんって捜査一課なのにすごく穏やかなんですね、もっと所轄がでしゃばるな! とか怒られるんじゃないかと思ってました」
「いや それドラマの中だけですよ。そんなことしてたらすぐに外されますって」
「ラーメンの趣味は悪いけど、そういうことはしない人です」
「よかった安心したぁ」
霧ケ崎警察署では、すれ違う警官たちが八神とひなたをじろりと値踏みするようにちら見してくる。
本庁からなので興味があるのだろうか。
小会議室にはお茶セットやポット、お茶菓子類が用意してあり大分気を遣わせてしまっているようだ。
白石環がお茶を入れている間、用意されていたファイルに目を通そうとした。
「あの白石さん」
「はい! なんでしょう?」
「情報はISSに上がってないようでしたが、理由はあるんですか?」
「ああ、ええ? ISS? そうかあれか、えっと事件というより自殺で処理されているからじゃないでしょうか」
「白石さんも自殺だと考えていますか?」
「えっと違うんですか?」
ひなたと一緒に資料を読み込んでいく。と言っても量は限られているため、十分に読み込んでも10分もかからない。
「……3人の大学生が廃校になった中学校の屋上から飛び降りて自殺。
遺体の損壊が激しく、悲しむ両親の希望もあって早急に荼毘に付された……
つまり検死もされていない。薬物反応だけは出ていなかったか」
一瞬、N-βによる不安増幅により自殺企図が生じた可能性を考慮したが、さすがに杞憂だろう。
「遺体の損壊状況についての情報はこれだけですか?」
「はい。落下したときに色々と……」
詳細情報がない。
「対応した鑑識班に話を聞きたいのですが」
「えっと、八神さんがこの集団自殺の調査に来たのって、事件性があるからなんですか?」
「いやそうじゃない。上から事件性があるかとどうか調査してくれという依頼があったからだ」
「なるほど。じゃあ鑑識行ってちょっと読んできますね、そこのお菓子おいしいのでよかったら食べてください」
白石環は元気に飛び出して行った。
「黙ってるが、なんだ? まだラーメンの件で絡んでくるつもりか!? 佐野ラーメンだけは譲らないからな!」
「次郎系しかありえないって! ……はぁ、とりあえず現場写真をいくつか霊視してみましたけどこれだけじゃ分かりませんね、どうやらここって心霊スポットになってる感じします」
「し、しんれい、す、すぽっと だと!」
「びびりすぎ」
「だ、だって」
ガチャリ
「お待たせしました! あと5分ほどで来てくれるそうです!」
「お手数かけてすいません白石さん」
「いえいえ!」
切り替わりの速さに思わずひなたは吹き出しそうになった。このかっこつけめと心の中で煽っておくことにした。
その後現れたのは鑑識班の制服を着た30代後半の男性だった。
「あの、本庁の人が話を聞きたいってことは、監査的なものなんでしょうか……」
高橋という名でもう熟練の域にあるだろう。
「いえ、検死されておらず記録があまりないためその当時の担当者に話を聞きたかっただけなんです」
「そうでしたか、えっと何を話せば」
八神はメモしておいた内容を読み上げていく。
「高橋さんが感じた遺体の印象、所見、死因などについて教えてほしいんです」
「あの死体はまだ記憶に新しいです。何しろ、若い男性が3人も飛び降り自殺をしていたのですから……しかも改装工事のために用意されていた資材の上に落下したので、それはもうひどい有様で」
高橋から聞いた内容に白石環などは辛そうな顔をしている。
「鉄骨や鉄板、足場用の資材、その他の上なので千切れたり内臓も出ていました。発見が二日後だったために、動物によって食べられた形跡も見られました。全員、眼球がなかったのは、鳥に食べられたせいだと思われます」
「だから早く火葬にという流れになったんですね?」
「そうでしょう、あの状態ではご家族は正視に耐えられないと思います」
これは辻褄があう。そう八神は理解した。
「次に、3人の大学生に薬物反応はありましたか?」
「若干のアルコール反応が2名、島村耕太と水原悠馬ですね、えっと高瀬陸からはアルコール反応ありませんでした、たしかポケットに車のキーがあったのでその影響かと」
「……下戸だったという可能性はある。だがこれから死ぬという時に飲酒運転を気にした
……真面目な性格だった?」
「いえそこまでは。実はその直後に、トクリューの捜査でこっちも手一杯になってまして」
「ああ、茨城栃木千葉埼玉で一斉検挙があった時期か」
「こっちでも3名を逮捕したりで色々あったもので……」
「上からの指示であれば仕方がないですし、緊急性が高いですから気にしないでください」
「あ、はい」
高橋は残っていた資料を持ってきてくれていたが、捜査らしい捜査がされていないというのが実情だと理解した。
「八神さん、3人のこともっと調べたほうがいいと思います」
「俺もそう思う」
「3人の友人について、大学に問い合わせてみますか?」
白石環から提案があったので、明日会えるかどうかのセッティングを頼むことにする。
「俺は現場を見て見たい。夕暮れまでまだ時間があるから急ごう」
「急ごう?」
「……茨城なら帰れるからな」
「目を逸らしながら言ってる」
「……」
白石環が大学の学生課に3人と同じゼミの学生に声をかけてくれるとのことなので、今日は廃校になった中学校へと向かうことにした。
車で15分ぐらいな場所だが、どうにも廃校というにはまだ新しい印象がある。
「子供の数が減って廃校になったみたいですよ。市は何か活用できないかということで補修工事をする予定でしたがあの自殺でストップしているようです」
白石刑事も色々と調べてきてはくれているようだ。
校門前の広場に車を停車させる。
あの事件以降、侵入できないように施錠が強化されているが、心霊スポットという評判は一度広まると拡散してしまうため対応に苦慮していた。
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