N-β
警視庁には、表に出ない部署が存在する。
様々な凶悪事件に対し霊的アプローチを用いた捜査を行う――刑事部 霊事課 通称 霊事警察。
捜査一課の刑事・八神恭史郎は、ある日、霊が見える刑事「本条ひなた」とコンビを組まされる。
だが八神は、極度の怖がりだった。
人面犬事件、猟奇殺人、犯罪組織の暗躍
そして都市の闇で進む謎の薬物実験。
人間の犯罪と怪異が交差する事件に、凸凹コンビの捜査が始まる。
※ この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。
「 N-β 」
鬼塚捜査一課長呼び出したのは、西園寺刑事部長だった。
整理整頓され埃ひとつさえ落ちていなさそうな刑事部長室は、何回来ても落ち着かないと鬼塚は息苦しさを感じていた。
「そのなんですか えぬ?」
「 N-β (エヌベータ)。以前の事件で発見されている精神錯乱成分の薬剤をこう呼称することにしたよ。もっともマトリではK型精神攪乱剤と呼んでいるようだがね」
「その件でお呼びになったと?」
「それもあるよ。マル暴や二課にも探りを入れてもらっているが、若者や薬物乱用者の間で広まっているという事実はないそうだ。
ある暴力団関係者は首をかしげているそうじゃないか。
こんなヤクじゃ快感どころかダウナー系にもならない、ただの精神拷問薬だと」
「疑いを含めると、10件近くの不審死と関係している可能性がありますな、そのN-βによって」
「それと、連続拉致監禁殺人の黒田と矢作は黙秘を貫いている。
そして奴らの弁護士に、あのDDC弁護士事務所のエリートが2人選ばれたようだ」
「DDCっていや業界でもトップ3に入る名門じゃないですか!? 奴らは企業案件メインで犯罪弁護はやらないはずじゃ」
「そのDDCが動いている。とりあえず組対にも探らせているが、例のあの2人はがんばっているようで安心したよ」
「あの2人ですか、結果を出してくれているので助かってはいます」
「熊谷検事がぶちきれていたよ。辻褄合わせのしわ寄せをこっちによこすなとね。まあいいじゃないか証拠の出る順番が多少ずれていても、確実に犯人であることに間違いないのだから。まあそのしわ寄せの尻ぬぐいというかね、それをさせられている私からの頼み事だ」
すると西園寺刑事部長は、手書きのメモを鬼塚捜査一課長に手渡した。
唇に人差し指を立て、鬼塚の目をじっと見つめる。
「なるほど、刑事に憧れている親戚との食事会に来てほしいと。分かりました奴を派遣しますよ」
「助かる。姪っ子なんだがね、現役の捜一刑事に会ってみたいって聞かなくてね。八神ならまあ安心だろう。ついでに本条君も連れて行くといい。女性刑事になるって憧れているからね、もちろん私と姪っ子の両親も来るから面倒なことにはならないよ」
「分かりました。伝えておきます」
そうして鬼塚はメモをもう一度見返す。
” 八神恭史郎、本条ひなた
2名を茨城県 霧ケ崎市 霧ケ先警察署へ派遣要請。
「では鬼塚君頼んだよ」
「了解しました。そういえば八神はキノコ類が食えないそうですよ、本条君は知らないです」
◇
「佐々木と俺、そして青山君の3人でジドリに向かおう」
「所轄じゃ私はかなり新人ですがよろしいのですか?」
「地図アプリもあるし、気楽に行こう」
「あ、ありがとうございます! 八神刑事の噂はうちらの間でも広まってて、憧れてる同僚も多いんです! がんばります!」
「さすが八神先輩、昼はラーメンがいいな」
「調子に乗るなよ佐々木、とっとと向かうぞ」
ある強盗傷害事件のジドリを担当している八神たちだったが、所轄の新人刑事である青山と捜査一課の佐々木を伴って聞き込みを着実にこなしていく。
事件に繋がる情報はないが青山はそのやり取りをメモし、八神から多くを学ぼうとしていた。
「八神さんクラスになるとこういうジドリやカンドリはあまり対応しないのかと思いました」
「刑事の基本は地道な捜査の積み重ねだからな、地味な仕事なんだよ。刑事ドラマみたいに派手じゃないよな」
「でも八神さん、最近銃で撃たれたりしてるじゃないですか」
「たまにはある……やっぱり、現場はいいな。身が引き締まる」
「なんか先輩楽しそうなんだよな、はりきってる」
「そうだ、ここから麻布十番まで近いよな?」
「はい、えっとルート的には近いかもしれません」
「じゃあ昼飯は麻布十番で食うか、青山君いい店知らないかな?」
「あ、知り合いがやってる定食屋があります、そこのアジフライ定食が絶品なんですよ
「よしそれにしよう、やる気でてきたな」
「俺はラーメンがいいな」
「お前はいっつもラーメンだろう」
「あはは、気付いちゃいました?」
わきあいあいとした刑事3人のやりとり。
新人の青山はかなりうれしそうにはりきってジドリに取り組んでいる。
八神も実感していた。これが現場だ。これが現場。
「あ、課長から、連絡来てます。先輩、課長が連絡ほしいって」
「課長から? 何か嫌な予感がするんだが」
「あ! また本条さんとコンビで捜査ですか? うらやましいなぁ! 俺も本条さんと組みたいな! 知ってます? 本条さんのファンクラブが出来たって」
「あ、私も聞いたことあります。本庁にめちゃくちゃかわいい刑事さんがいるって」
「……その話はいい。課長かどうせ報告書が遅いとか追記しろとかそういう話だろう」
「何言ってんですか、先輩は誰より報告書早くて見本として紹介されるぐらいでしょ」
「さすがです八神さん!」
「……多分、こないだの領収書の手続きで記載ミスがあったんだ。そういえばミスってたかもしれない」
八神は恐る恐るスマホを開くと課長から着信がちょうどかかってきていた。
「はい……八神です」
『八神、今から本庁に戻ってくれ。頼みたい仕事がある。捜査本部にはお前が外れると許可をもらってあるから急げよ』
「えっと、どういったご用件で?」
『仕事だ仕事 お仕事だ』
「わ、分かりました。これより本庁に戻ります」
『ああ、昼飯は後にしろ、西のほうからだ』
西のほう、よく課長が隠語で使う 西園寺刑事部長がらみという表現だ。
「急ぎます」
『そうだ、言い忘れていたが、また本条と組んでもらうからな』
「……ぬああああああああああ!」
「せ、先輩!?」
「八神さん大丈夫ですか!?」
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