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第9話:ゴミをコアに喰わせよう

「皆さん、落ち着いてください。ただの偶然なんですって!」


 ギルドの奥にある薄暗い査定室。アキトは顔を強張らせたふりをしながら、数人のベテラン職員たちに囲まれ、文字通り吊るし上げられていた。 彼らの視線が注がれる机の上には、アキトが持ち込んだ純白の塩が、まるで宝石のように丁重に広げられている。


「偶然でこんな『至高の白塩』が手に入るか! 白状せんか、アキト。どこの隠し鉱山だ!? どこから密輸した!?」


 鼻息を荒くして詰め寄る鑑定士の老人に、アキトはあらかじめ用意していた「もっともらしい嘘」を吐き出した。


「本当なんですって! 今日、いつもみたいに『迷い子の森』の奥地で魔除け草を探してたら、道に迷っちゃって……。そしたら、見たこともない奇妙な岩場に出たんです。その岩の表面に、この白い結晶がびっしりとこびり付いていて。ただ、その周りには見たこともない大型の魔物の気配がうじゃうじゃあって……。俺、怖くなって、表面のやつを大急ぎで剥ぎ取って逃げてきたんです! もう二度とあそこには行けませんよ!」

「な、なんだと……!? 未発見の危険地帯にある、天然の塩床か!」


 アキトの「低級冒険者らしい怯え方」と「命からがら逃げ帰った」という迫真の演技に、職員たちは完全に騙された。 海のない内陸都市において、塩の新たな供給源――それも宮廷御用達を超えるクオリティの利権となれば、ギルドとしてもおいそれと手出しはできない。


「ううむ……これだけの品質、かつ危険を冒しての採取となれば、ギルドとしても最高値で買い取らねば筋が通らん。アキト、今回の分、すべて合わせて……大銀貨五枚でどうだ!?」


 大銀貨五枚。 Fランク冒険者が薬草採取で稼ごうと思えば、半年は不眠不休で働かなければ手が届かない大金だ。


「……ありがとうございます。命がけで持って帰ってきた甲斐がありました」


 アキトは目元に涙をにじませ、最高に殊勝な笑顔で答えた。


 だが、懐にずっしりと響く銀貨の重みを感じながら、内心では激しいガッツポーズを決めていた。

(原価、ほぼゼロ。神のトラップから水を汲んで、ルミナに火をつけてもらっただけ。完全なる暴利、最高すぎる……!)


 大金を手にし、大手を振ってギルドを後にしたアキト。しかし、彼が向かったのは、きらびやかな高級武具店でも、美味い肉が食える酒場でもなかった。 彼がやってきたのは、街の端にある薄汚れた「冒険者のゴミ捨て場」だった。


 そこは、冒険者たちが遠征で拾ってきたものの、値段がつかなかったり安すぎて買い取りを拒否されたガラクタや、使い古されて壊れた武器が不法投棄される掃き溜めだ。鼻を突く鉄錆と埃の臭いの中、アキトはお目当ての場所へと歩みを進める。そこには、赤や青の濁った結晶が、まるでそこらの小石のように山積みにされていた。


「おいおい、アキトじゃねえか。そんなゴミの山で何してんだ?」


 たまたま通りかかった同期のFランク冒険者が、不審そうな目で声をかけてくる。


「いや、ちょっとさ。この『屑魔石』、工作の材料にでも使えないかと思ってね」


 アキトが指差したのは、含まれる魔力が少なすぎて魔法具の動力にもならず、加工する価値すら存在しないとされるタダ同然のゴミ――「屑魔石」だった。


「ハッ、そんな魔力が枯れ果てたゴミ、何にも使えねえよ。ただ重いだけだ」

「まあ、ちょっとした暇つぶしだよ」


 アキトは苦笑いを浮かべつつ、ゴミ捨て場の管理人に声をかけた。


「おーい、おっさん。これ、全部引き取るから、銅貨数枚でどうだ?」

「マジか? お前、最近ちょっと羽振りがいいと思ったら、ついに頭がイカれたか」


 同期の冒険者はゲラゲラと笑いながら去っていき、管理人も呆れたような顔をしながら「いいぞ、好きに持ってけ!」と手を振った。


 周囲の人間からすれば、大銀貨を手に入れた男がゴミを買い漁る姿は、奇癖を持つ変人にしか見えないだろう。 だが、アキトの目は最高にギラついていた。

(笑ってろ、脳筋ども。お前たちの言う『ゴミ』が、俺にとっては最高効率の燃料なんだよ)


 アキトは大銀貨を崩した小銭を惜しみなく使い、用意した荷車がミシミシと悲鳴をあげるほどの大量の屑魔石を買い占めた。その数、数百個。


 街の誰もが「無価値」と切り捨てた濁った結晶の山を乗せ、アキトは周囲に誰もいないことを確認すると、不敵な笑みを浮かべながら、森の奥の「我がダンジョン」へと意気揚々と引き返していった。

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