第10話:大精霊、システムバグに爆笑する
「ただいま、ルミナさん。仕入れに行ってきたよ」
アキトが息を切らせながら荷車を引いて最奥のマスター室に戻ると、ダンジョンコアの前で退屈そうに宙に浮いていたルミナが、パッと顔を輝かせた。
「お帰りアキト! それで、どうだったの? 街の人間は塩に気づいた? ちゃんと金貨とかに化けたの?」
「ああ、大銀貨五枚になったよ。その金を使って、約束通り『仕入れ』をしてきた」
アキトが荷車の荷台を覆っていたボロ布をバサリと取り払う。そこには、赤や青、緑といった、薄汚れて濁った小石のような結晶が山をなしていた。街のゴミ捨て場から二足三文で買い叩いてきた、大量の『屑魔石』だ。
ルミナは期待に満ちていた顔を引きつらせ、その結晶の山とアキトの顔を何度も往復させた。
「ちょっと、アキト……。大銀貨を手にして頭が狂っちゃったの? なんでそんなゴミを大量に持ち込んでるのよ。それ、魔力がスカスカで人間界じゃ何の役にも立たない不燃ゴミじゃない」
「前にも説明したろ、人間にとってはゴミでも、この『ダンジョンコア』にとっては違うはずだろ?」
アキトはにやりと悪い笑顔を浮かべると、荷台から両手いっぱいに屑魔石をすくい上げ、禍々しく輝くコアの台座へと近づいた。
「ルミナさん、システムを開いてくれ。第2のルール【魔力変換】の実行だ」
「え、ええ……。やるのはいいけど、本当に期待外れに終わるわよ?」
ルミナが半信半疑のまま指先を動かすと、アキトの視界に半透明のシステムウィンドウがポップした。
【資源を投入してください:魔力変換を開始します】
アキトは躊躇なく、抱えていた十数個の屑魔石をコアへと押し付けた。 ジジ、とノイズのような音がして、濁った結晶がコアの放つ光の粒子に包まれる。融けるようにして屑魔石が消滅した直後、脳内に無機質なシステム音声が鳴り響いた。
【──屑魔石×14:魔力に変換されました──】
【──ダンジョンポイント(DP)+1.4 ──】
「ほら見なさい! 14個も消費して、たったの1.4ポイントよ!? スライム一匹すら呼べないわ! 効率が悪すぎるのよ!」
ルミナがやっぱりね、とばかりに肩をすくめる。 普通のダンジョンマスターなら、ここで諦めるだろう。高ランク冒険者を一人ハメ殺せば数千DPが手に入るのだから、こんな雀の涙のような変換効率に付き合うのは時間の無駄だ。
だが、前世のゲームで「一回につき経験値1しか貰えない作業を数十万回繰り返してカンストさせた」経験を持つアキトにとって、この仕様はただの『確変突入』の合図に過ぎなかった。
「効率が悪い? 違うよルミナさん。一回の効率が悪くても、『分母』が無限ならどうなる?」
アキトは荷車を傾け、ガラガラと凄まじい音を立てて、数百個の屑魔石をコアの周りへとブチまけた。
「街のゴミ捨て場には、これが毎日大量に捨てられてるんだ。人間にとっては加工コストに見合わないゴミだが、コアにとっては『ただ置くだけ』でノーコストで吸収できる純粋なエネルギーの塊だろ。──さあ、一気にいくぞ!」
アキトは両手で文字通りゴミを掻き集めるようにして、コアへ次々と屑魔石を叩き込んでいく。 ジジジジジジジジ!!!
変換の処理が追いつかないのか、コアが激しく明滅し、システム音声が機関銃のようにアキトの脳内を叩き始めた。
【──魔力変換:DP+1.2──】
【──魔力変換:DP+0.8──】
【──魔力変換:DP+1.5──】
【──魔力変換:DP+2.1──】
チリン、チリン、チャリン、チャリン! と、脳内でポイントが加算されるリッチな効果音が爆音で鳴り響く。 先ほどまで綺麗に『0』だったDPのカウンターが、10、50、100、300……と、恐ろしい勢いで跳ね上がっていく。
「な、ななな……何これぇぇぇ!?」
それまで黙って見ていたルミナが、悲鳴のような声をあげて頭を抱えた。世界最高位の精霊である彼女の常識が、目の前の光景によって物凄いスピードで崩壊していく。
神が作った最高峰の迷宮システム。人類を間引き、血の生贄を捧げることで成長するはずの恐怖の魔窟。それが今、ただの「塩の精製所」兼「不用品のリサイクル工場」として、一歩も戦闘することなく爆速で成長しているのだ。
「あ、はは……! 何よこれ! 最悪! 最高にイカれてるわアキト!」
ルミナはあまりの衝撃に、ついに緊張の糸が切れたように腹を抱えて笑い出した。
「お腹痛い……! あの偉そうな神様が、何年もかけて必死に調整したダンジョンのゲームバランスが、ただの『塩』と『ゴミ処理』で完全崩壊させられてる! あははは! 見てみろクソ神! お前のシステム、穴だらけのガバガバじゃないのよ!!」
涙を流して爆笑し、宙をゴロゴロと転げ回る大精霊。 その傍らで、アキトは跳ね上がり続けるDPの数字を眺めながら、確かな勝利の味に、これ以上ないほど邪悪で、満足げな笑みを浮かべていた。




