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第11話:完全安全なる永久機関

【──魔力変換完了:総資源の吸収を確認──】

【──現保有ダンジョンポイント(DP):842 ──】


 脳内に響く最終通知と共に、マスター室を埋め尽くしていた屑魔石の山は、一粒残らず光の塵となって消え去った。 そこに残されたのは、先ほどまで「12」や「0」を行き来していたのが嘘のような、堂々たる三桁の数字。初期の絶望的な資金難は、わずか一日の「リサイクル作業」によって完全に過去のものとなった。


「はぁー……笑った笑った。こんなにスッキリしたの、数百年ぶりだわ」


 ようやく笑いすぎて震えるお腹を押さえ、ルミナが涙を拭いながら床に着地した。その表情には、神のシステムを出し抜いた共犯者としての、奇妙な連帯感と全幅の信頼が浮かんでいる。


「でしょ? これが俺の言った『システムハック』だよ。誰も殺さない、誰も傷つけない。ただ、神様のルールの穴をのぞき込んで、ちょっとだけ効率的なループを組んだだけさ」


 アキトはコアの前にあぐらをかき、地面に指で一本の綺麗な「円」を描いた。


「整理しよう、ルミナ。これが俺たちの誇る『完全安全なる永久機関(錬金ループ)』だ」


 アキトは円の頂点を指差す。

 ステップ1: 『死海トラップ』から塩水を汲み、極上の白塩を精製する(原価ほぼゼロ)。

 ステップ2: その塩を街のギルドへ持ち込み、内陸価格の最高値で大銀貨に変える。

 ステップ3: 得た大金で、街の冒険者が捨てた『屑魔石ゴミ』をタダ同然で大量に買い占める。

 ステップ4: 屑魔石をコアに喰わせ、莫大なDPへと変換する。


「──そして、増えたDPでさらにダンジョンを安全に、快適に大改造する。このループが回る限り、俺たちは一歩も戦闘せず、誰も傷つけずに、無限にポイントと金を増やし続けられる」

「完璧ね……! 完璧すぎるわアキト! このループ、どこにも『リスク』が存在しないじゃない!」


 ルミナが興奮気味にアキトの肩を叩く。 普通のダンジョン運営であれば、強い冒険者を呼び込むために強力な魔物を配置せねばならず、逆にマスターが返り討ちに遭うリスクが常に付きまとう。だが、アキトの防衛戦略は「そもそも戦わない」こと。1階層の塩水の水たまりは、今や凶悪な罠ではなく、ただの「無限に湧き出るドル箱の油田」だった。


 一方、その頃の人間界──街の冒険者ギルドや裏路地では、奇妙な噂が立ち始めていた。


「おい、知ってるか? Fランクの薬草拾いのアキトの奴……」

「ああ、知ってるぜ。最近、大金を懐にチラつかせながら、ゴミ捨て場の『屑魔石』を荷車一杯に買い漁ってるらしいな」

「あんな魔力もねえゴミを集めてどうすんだ? 部屋に飾るのか?」

「さあな。あまりの極貧生活に頭がイカれて、キラキラ光る石を集める奇癖に目覚めた変人になっちまったんじゃねえか?」


 脳筋の冒険者たちは、酒を煽りながらアキトを「哀れな変人」として笑い草にしていた。彼らの貧困な想像力では、加工コストの合わない屑魔石が、まさかダンジョンのエネルギーに変換されているなどとは夢にも思わない。


 ギルド職員のサトラだけは、「あの上質な白塩をどこから……?」と怪しんでいたが、アキトが提出した「危険地帯の天然塩床」という報告書が正式に受理されたため、それ以上の追及はされなかった。むしろ、街にとっての貴重な塩の供給源として、アキトは密かに重要人物扱いされ始めてすらいた。


「変人、大いに結構。脳筋どもには一生笑わせておけばいいさ」


 マスター室のふかふかのクッション(さっそくDPで生成した快適グッズ第1号)に深く背を預け、アキトは炭酸水を片手にくつくつと笑った。


 目の前のステータス画面では、時を刻むように数ポイントずつ、じわじわと滞在時間DPも加算されている。誰も来ない安全圏。最強の引きこもり環境。そして、みるみる溜まっていくDPの数字を眺める楽しさ。


「さて、資金も十分に溜まったことだし……ルミナさん。そろそろ、この殺風景な岩穴生活を、根本から変えてみようか」


 アキトの視線が、マスター室の冷たい岩壁に向けられる。 永久機関を確立した男の次の野望──それは、この不条理な異世界において、前世の「極上の快適ライフ」を完全再現することだった。

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