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神に丸投げされた大精霊と、巻き込まれた低級冒険者のダンジョン経営記  作者: マサ
押し付けられたコアと最弱マスターの誕生
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第6話:チートがないなら知恵を使え

「人間を殺さずに稼ぐ? そんなの、神様のシステムに対する無謀な挑戦、あるいはただの幻よ。そんなの期待するだけ無駄だわ!」


 ルミナは呆れたように両手を広げ、小さな子供を諭すように言った。大精霊としての数千年の経験が、そんな甘い考えを真っ向から否定している。しかし、アキトの不敵な「悪い笑顔」は一向に消えなかった。


「ルミナさん、あんたさっき自分で言ったよな? 神のシステムは『バグが残ったまま放置されている』って」

「それは、あなたの魂の形とか、適当なワンオペの丸投げの話でしょ!」

「同じことさ。どんなに完璧に見えるルールでも、作った奴の『想定』から一歩外れれば、そこはすべてが崩壊する。……いいかい、俺たちは『ダンジョン』だ。冒険者を殺して奪うのが神の想定なら、その逆を突けばいい」


 アキトはしゃがみ込み、洞窟の湿った地面に、落ちていた小枝でサラサラと文字を書き始めた。 前世で、数々のゲームの仕様書を読み込み、仕様の穴を検証していた頃の記憶が、濁流のように脳裏を駆け巡る。チート能力なんていらない。この世界そのものがシステムで動いているなら、知識こそが最大のツールだ。


「ルミナさん、まずは街の物価の話をしよう。俺が毎日必死に採取していた『魔除け草』は、一袋で銅貨三枚。黒パン一切れが銅貨五枚。これじゃ一生這い上がれない。じゃあ、この内陸の街で、一番安定して『高値』で取引されていて、かつ人間が絶対に毎日消費するものはなんだと思う?」

「え? ……強い武器? それとも、高位の回復薬ポーション?」


 ルミナが小首をかしげる。


「違う。もっと根源的で、泥臭いものだ。答えは──『塩』だよ」


 アキトは地面にデカデカと【塩】と書いた。


「ここは海から馬車で数週間はかかる完全な内陸都市だ。ギルドの講習でも習ったが、この街に流通している塩は、遠くの塩山から命がけで運ばれてくる岩塩だけ。不純物まみれで泥臭くて、そのくせ銀貨数枚はする高級品だ。もし、ここに『純度100%の真っ白な極上塩』を大量に持ち込んだらどうなる?」

「そりゃあ……商人が目の色を変えて買い叩く――じゃなくて、大金で買い取るでしょうね。でも、それがダンジョンと何の関係があるのよ? 12DPじゃ、塩の結晶を数グラム生成するだけで終わりよ?」

「生成するんじゃない。システムを『インフラ』として利用するんだ」


 アキトは地面の「塩」の文字を丸で囲み、そこから矢印を伸ばした。


「ルミナさん、DPの第2のルールは【魔力変換】だったな。価値のある資源をコアに食わせれば、DPに還元できる。なら、塩を売って得た大金で、街に溢れているゴミ──たとえば加工もできない低級の『屑魔石』を買い占めて、このコアに片っ端から食わせたらどうなる?」

「え……?」


 ルミナの吸い込まれそうな美しい瞳が、戸惑うようにパチパチとせわしなく動いた。


「屑魔石は、魔力が少なすぎて魔法具の材料にもならない。だから街のゴミ捨て場に山積みされてる。タダ同然で引き取れる資源だ。でも、コアにとっては『魔力は魔力』、質が低くても変わらないはずだろ? 量さえあれば、12DPなんて一瞬で吹き飛んじまうほどのポイントになる」

「待って。理屈はわかるわ。工程ルートは見えるわ。でも、肝心の『最初の塩』はどうやって手に入れるのよ?」

「だから、この 12DP の出番さ」


 アキトは立ち上がり、洞窟の入り口へと続く通路を指差した。


「ルミナさん。残りの 12DP を全部使ってくれ。1階層の最初の通路、あそこを横幅いっぱいに数メートルだけ『深さのあるくぼみ』に変形させてほしい。そして、そのくぼみの中に──『限界まで塩分を濃縮した、超高濃度の塩水』を満たすんだ。神の召喚リストにあるだろ? 海水のトラップがさ」

「海水のトラップ……? 確かに数ポイントで配置できるけど……アキト、あれはただ『足が濡れて不快になるだけ』の、殺傷能力ゼロの最弱トラップよ? 冒険者は誰も死なないわよ?」

「死なさなくていいんだよ」


 アキトはくつくつと喉を鳴らして笑った。 低級冒険者アキトの世知辛い知恵と、前世の近代科学の知識。その二つが合わさった今、最弱のトラップは「打ち出の小槌」へと変貌しようとしていた。


「誰も殺さない。ただ、俺が毎日そこへ『バケツ』を持って水を汲みに行くだけの、俺たち専用の最高の仕入れ先(塩田)にするんだよ」


 大精霊ルミナは、目の前の転生者が何を企んでいるかを完全に理解した瞬間、あいた口が塞がらなくなった。神が「人間をハメ殺すために用意した悪意のシステム」を、ただの「資源採取場」として有効利用する。その恐るべき発想の転換に、彼女の心臓はドクドクと高鳴っていた。

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