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神に丸投げされた大精霊と、巻き込まれた低級冒険者のダンジョン経営記  作者: マサ
押し付けられたコアと最弱マスターの誕生
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第5話:人を殺して稼ぐとか無理です

【──ダンジョンマスター権限:正常に同期されました──】

【──現保有ダンジョンポイント(DP):12──】


「……じゅう、に?」


 脳内に響いたシステム音声が告げた、桁違いに寂しい数字に、アキトは思わず耳を疑った。自分の聞き間違いかと思い、コアの表面に浮かび上がったステータス画面を二度見、三度見する。だが、何度見ても数字は変わらない。そこには冷酷にも『12 DP』という、一桁に毛が生えた程度の文字が刻まれていた。


「なぁルミナさん。これ、何かの間違いだよな? 表記バグか何かで桁がズレてんだろ。本当は後ろに『万』とか『億』とかの単位が隠れてるんだよな?」


「いいえ、純然たる『じゅうに』よ。一、十、の十二」


ルミナはあっさりと現実を突きつけ、深いため息をついた。


「だから最初に言ったじゃない、あのバカ神は初期投資用の予算を雀の涙しかくれないって! 12DPなんて、一番安いスライムを二匹召喚するか、ゴブリンの棍棒を一本生成したらほぼ破産よ。完全に初期の資金繰りが詰んでるの!」

「一国の一城の主って言ったの誰だよ! 破産寸前の零細企業の社長じゃねえか!」


 アキトは頭を抱えた。衣食住が保証されるとはいえ、手持ちの資本がこれでは、ダンジョンを拡張するどころか、防衛用の壁一枚まともに作ることもできない。


「まぁ、嘆いていても始まらないわ。システムが起動したんだから、まずはDPの獲得ルールをおさらいしましょう」


 ルミナは空中に光の文字を浮かび上がらせ、教鞭を執るように指をさした。大精霊としての知識が、システム解説としてアキトの脳内へ流れ込んでくる。


「この世界のダンジョンシステムにおいて、DPを獲得するルールは大きく分けて3つ。一つ目は【滞在時間】。人間がダンジョン内に留まっている時間に応じて、その精神力や魔力が微量にコアへ吸引され、DPに変換されるわ。二つ目は【魔力変換】。魔石や価値のある資源を直接コアに食べさせることで、その質量に応じたDPが得られる。そして三つ目が……最も効率的で、ダンジョンの基本となるルールよ」


ルミナの青い瞳が、すっと冷徹な光を帯びる。その唇が、残酷な笑みの形に歪んだ。


「──【命を刈り取る(殺害)】。侵入してきた人間の命を奪い、その魂と肉体のすべてをコアの栄養として直接吸収する。これが一番手っ取り早くて、大量のDPが稼げるのよ」


 ゴクリ、とアキトの喉が鳴った。 ルミナは楽しげに、そして不気味に、アキトの顔を覗き込んでくる。


「ねえアキト、まずは手始めに、その辺に転がっている大きな岩でも動かして、入り口の近くに『落とし穴のトラップ』を作らない? 12DPもあれば、自重で崩れる程度の簡単な穴なら掘れるわ。そこに迷い込んできたお馬鹿な冒険者をハメ殺して、落下の衝撃でグシャッとやって、一気に──」

「却下。絶対にダメだ」


アキトはルミナの言葉を遮り、断固とした口調で拒減した。


「はぁ? なんでよ。人間を殺さなきゃポイントが増えないのよ? ポイントが増えなきゃ、あなたの大好きな『美味い飯』だっていつまで経っても作れないのよ!?」

「前世の倫理観が許さないんだよ。俺はしがない薬草拾いだが、これでも人間だ。自分の利益のために、同族を罠に嵌めて殺すなんて真似、絶対にできるわけがない。そんな血生臭い方法で稼いだ飯なんて、食えるか」


 アキトの目は真剣そのものだった。 五年間の極貧生活で肉体は擦り切れても、魂に刻まれた「日本人としての最低限の倫理」だけは手放さなかった。人を殺して得る贅沢など、ただの地獄への特急券だ。


「なよそれ、ただの綺麗事じゃない! 綺麗事じゃこの弱肉強食の異世界は生きていけないの!渡っていけないの! 人を殺さないダンジョンマスターなんて、ただのシステムのエラー、ただのバグよ!」

「バグ、か……」


ルミナの怒声を聞きながら、アキトの思考は急速に別の方向へと回転を始めた。


 バグ。システムのエラー。 完璧に見える神のルール。だが、もしこれが本当に「プログラム」のようなシステムなのだとしたら、開発者の意図しない「抜け穴」が必ずどこかにあるはずだ。転生者の魂の処理を適当に済ませてシステムの欠陥を放置しているような神なら、なおさらだ。


 アキトの脳裏に、前世で浴びるほどプレイしたゲームの記憶――特に、仕様の穴を突いた数々の『稼ぎ技』がフラッシュバックする。


「……なぁ、ルミナさん。人間を殺さず、かつ安全に、この12DPを爆発的に増やす方法を思いついたかもしれない」

「はあ? 何言ってるのよ、そんな都合のいい方法──」


 アキトの顔に、これまでにない不敵で、どこか悪辣な笑みが浮かぶ。 その「悪い笑顔」を見た瞬間、大精霊ルミナは本能的に、天上の神が作った世界のシステムが、今まさに根底からひっくり返ろうとしている予感に襲われ、ゾクリと背筋を震わせた。

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