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神に丸投げされた大精霊と、巻き込まれた低級冒険者のダンジョン経営記  作者: マサ
押し付けられたコアと最弱マスターの誕生
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第4話:低級冒険者、支配者になる

「お断りします」


 アキトは一切の躊躇ちゅうちょもなく即答した。肩を掴んでいたルミナの手をするりと身をかわし、これ以上ないほど真剣な顔で必死に首を横に振る。


「おい、ちょっと待ちなさいよ。今、私の話をちゃんと聞いてた?」


ルミナが綺麗な眉をひそめて不満そうに唇を尖らせる。


「聞いていましたよ。大精霊様がブラックなワンオペ業務に耐えかねて、通りすがりの哀れなFランク冒険者にすべての責任を押し付け、一緒に泥舟に乗せようとしている、不条理なホラーサスペンスですよね?」

「誰がホラーよ! 人聞きが悪いわね! これはウインウインのビジネスの提案よ!」

「どこがですか。いいですかルミナさん、俺はしがない薬草採取専門で最下級の冒険者なんですよ。ゴブリン相手に逃げ回る戦闘力しか無いんですよ。そんな人間が『ダンジョンマスター』なんて大層なものになったらどうなるか、火を見るより明らかでしょ。明日には噂を聞きつけたCランクやBランクのガチな冒険者集団が押し寄せてきて、俺は一瞬で挽き肉にされて終わりです。死にます。絶対に死にます」


 アキトはきっぱりと言い放った。 この異世界で五年生き延びられたのは、自分の身の程をわきまえていたからだ、徹底的に。分不相応な権力や宝に手を出す人間がどうなるか、ギルドの裏路地で何人も見てきた。触らぬ神に祟りなし、命あっての物種だ。


しかし、ルミナも簡単には諦めなかった。限界を迎えた社畜の執念は恐ろしい。


「死なせないわよ! そもそもここは未発見の隠しダンジョンだから、人間なんて早々来ないわ。それに……もし冒険者が来たとしても、マスターのあなたには『ダンジョン内での絶対的な衣食住の完全保証』がシステム的に付与されるのよ?」

「……衣食住の、完全保証?」


その言葉に、アキトの耳がピクリと動いた。


「そうよ! マスター権限を持つ限り、ダンジョン内での飢えや渇きはシステムが肩代わりしてくれるし、どんなにボロくても絶対に外敵が侵入できないセーフティエリア(マスター室)が無料で支給されるわ。ついでに、世界最高位の精霊であるこの私が、あなたの後ろを全力の魔法でバックアップする。これでもまだ不満?」


ルミナはふんぞり返り、豊満な胸を強調するようにドヤ顔を決めた。


アキトの脳内で、急速に損得勘定のソロバンが弾かれ始める。


(待てよ。衣食住の完全保証……? ということは、あの硬くて酸っぱい割に高い黒パンを、明日の食費を気にしながら齧る生活とおさらばできるのか? 冬場に凍えながら隙間風の吹く安宿で雑魚寝しなくていいのか? しかも、大精霊のバックアップ付き……)


 心が揺れているアキトの様子を見て、ルミナはここぞとばかりに距離を詰めてきた。ふわりと甘い香りがアキトの鼻腔をくすぐる。その青い瞳には、契約書に印鑑を捺させようとする敏腕営業マン――あるいは詐欺師のような光が宿っていた。


「どう? 毎日泥にまみれて数枚の銅貨を稼ぐ生活、ぶっちゃけもう限界でしょ? 冒険者ギルドの受付嬢に冷たい目で見られながら『今日もこれだけなんですか?』って言われるの、心が痛くない? 私と契約すれば、あなたは今日から一国の一城の主。引きこもっているだけで誰にも文句を言われない生活が手に入るのよ?」

「……」


 ルミナの言葉が、アキトの貧乏生活五年のトラウマを的確にえぐっていく。 毎日、擦り切れたブーツの底を気にしながら歩く惨めさ。美味いものを食べたいと願うだけの、満たされない胃袋。


「……本当に、衣食住は保証されるんだな?」

「システムが保証するわ。神の作ったルールだから絶対よ」

「俺が部屋から一歩も出なくても、ルミナさんが代わりに働いてくれる……じゃなくて、守ってくれるんだな?」

「ええ、私のプライドにかけて、あなたに傷一つ付けさせないわ!」


 アキトは大きく息を吸い込み、覚悟を決めた。 どうせこのまま街に帰っても、待っているのは緩慢な餓死か、あるいはいつか魔物に遭遇してあっけなく死ぬ未来だ。なら、この大精霊の泥舟に賭けてみるのも悪くない。


「わかった。その契約、乗ります」

「よし、交渉成立! じゃあ、そのナイフで指先を少し切って、このコアに血を垂らして!」


 ルミナに急かされるまま、アキトは採取用ナイフで自身の親指を薄く切った。 滲み出た一滴の赤い血を、怪しく輝くダンジョンコアへと押し付ける。


 じゅわ、と吸い込まれるように血が結晶に溶けていった。 直後、アキトの脳内に、これまでは聞いたこともない、無機質で冷徹な「システム音声」が直接響き渡る。


【──固有識別コード:アキト・イガラシを確認──】

【──未命名ダンジョンのマスター権限を移譲します──】

【──ダンジョンシステム、起動──】


 ドクン、と心臓が大きく脈打った。 自分の身体が、この広大な洞窟の隅々まで「繋がった」ような、奇妙で圧倒的な全能感が五感を駆け巡る。


「やった……! ついにワンオペ脱出よ!」


ルミナがバンザイをして狂喜乱舞している。


 こうして、異世界で最弱を誇るFランク冒険者のアキトは、神のシステムの裏をかく最凶の「ダンジョンマスター」としての第一歩を踏み出したのだった。

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