第33話:永久マスター免税と、最強の利権保護
『ううう……ひっく、美味しかった……美味しかったよぉ、アキトくん……。私、生まれて初めて、この世界を作って本当に良かったって思ったわ……』
天界の大理石の床の上で、一滴残らず『神殺し』を飲み干した駄神は、空になった徳利を愛おしそうに抱きしめながら、未だにぐずぐずと涙を流していた。画面の向こうの最高神は、完全に極上のアルコールによって幼児退行している。
「満足していただけて何よりです、神様。これで……明日からこのダンジョンが血みどろのデスゲーム会場に変更される予定は、なくなりましたかね?」
アキトが管理人カウンターに肘をつき、わざとらしく困ったような、しかし腹の底では勝ち誇った「悪い笑顔」で問いかける。
『あるわけないじゃない、そんなの! 取り消し! 全面取り消しよ! むしろ明日からここを世界の中心にして、大結界でガチガチに保護してあげたいくらいだわ!』
駄神は鼻水をすするのも忘れてコアにすがりついた。
『お願いアキトくん、そのお酒、これからも定期的に天界に送って? ね? 私、もうあのお水と果物だけの味気ない生活には戻れないの! このお酒を切らされたら、私、ショックで世界を滅ぼしちゃうかもしれない!』
「神様が酒のために世界を滅ぼさないでください。……まあ、定期的に献上(お取り寄せ)するのは構いませんが、こちらもボランティアじゃないんですよ。これだけのお酒を造るには、莫大なコスト(DP)と、誰にも邪魔されない安全な環境が必要不可欠なんです」
『は、ハッ! そうよね! すぐに用意するわ、神の特権をなめるんじゃないわよ!』
駄神が涙を拭い、虚空に向かってパチンと指を鳴らした。その瞬間、アキトの視界にあるシステムウィンドウが、警告音と共に見たこともない眩い黄金の輝きを放ち始めた。
キィィィィィン──ッ!!!
──ピコーン!
【天界ルートからの強制システム書き換えを検知】
──ピコーン!
【固有特権:『永久マスター免税』が適用されました】
──ピコーン!
【固有結界:『神の絶対不可侵加護』が全階層全域に付与されました】
「お、おいアキト、これ……!」
ルミナが目を丸くして画面に張り付いた。 そこに表示されていたのは、ダンジョンシステムの根幹を揺るがす、チート級のプラチナチケットの数々だった。
【永久マスター免税】:今後、このダンジョンの維持費、およびアイテム生成・施設拡張にかかるシステム消費DPを『永久に100%免除』とする。
【神の絶対不可侵加護】:このダンジョンの全階層において、マスター、および従業員に敵意・害意を持って武力行使、または不当な圧力をかけようとする全ての存在に対し、システムが自動的に即死級の『神罰』を執行する。
「維持費も生成コストも永久にタダ……!? しかも、攻めてきた奴はシステムが勝手に神罰で消し炭にするってことか……?」
アキトは冷や汗を流した。自分が当初想定していた以上の、異世界最強の安全地帯(引きこもりシェルター)が完成してしまったのだ。
『これで文句ないでしょ! あと、アキトくんのマスター権も世界が滅ぶまで永久保証だからね! だからお願い、次はあのウイスキーとかいう琥珀色のも送ってぇぇぇ!』
「はいはい、分かりましたよ。次の仕込みが終わったら送りますから、神様は天界で大人しく待っていてください」
アキトがそう言って通信を切ると、コアの黄金の光はゆっくりと収まり、部屋には元の静寂が戻った。
「やった……やったわアキト! 維持DPがタダ! 攻めてくる悪徳貴族は神様が勝手に消し炭にしてくれる! 私、もう二度とお風呂の温度管理以外で戦わなくていいのね!」
ルミナが狂喜乱舞してアキトの周りを飛び回る。
「ああ。これでもう、大国の王だろうが大教会の聖女だろうが、俺たちの邪魔はまったくできない。……よし、最強の後ろ盾(神)も手に入ったことだ」
アキトは、キラーンと眼鏡の奥の目を光らせ(眼鏡はかけていない)、管理人室の窓を開け放った。
「ルミナさん、ガルバさん。ついにこの時が来た。本日をもって、我がダンジョンリゾート『極楽亭』の『夜の部(Bar・極楽)』を、一般のお客様に正式解禁するぞ!」
神を完全にジャンキーに仕立て上げ、異世界で最も安全な利権を手に入れた最弱のFランク冒険者。最強の「神の加護」という盾を手に入れた天国リゾートが、いよいよ世界の全ての権力者と酒好きを骨抜きにする、真の魔窟へと進化を遂げる。




