第14話:ようこそ、俺たちのテラフォーミングへ
「それじゃあ、いくわよアキト! 溜め込んだDP、1ポイント残らずコアに流し込みなさい!」
マスター室の中央で、ルミナが白銀の髪を激しくなびかせながら叫んだ。 彼女の背後では、これまでに蓄積された「1,450 DP」という莫大なエネルギーが、ダンジョンコアを中心に狂ったように脈打っている。街のゴミ捨て場から屑魔石を文字通り消し去り、商人の目をのらりくらりと躱しながら作り上げた、俺たちの結晶だ。
「全額ベットだ、ルミナさん! 3つの階層を一気にぶち抜いて、派手にやってくれ!!」
アキトがシステムウィンドウの【一括消費:複数階層同時拡張および環境テラフォーミング】のボタンを強く押し込む。
直後、マスター室の視界すべてが、眩いばかりの黄金の光に包まれた。
──ドクン!!
世界が大きく脈動する。地響きなんて生易しいものではない。ダンジョンの空間そのものが、まるでお菓子の生地のように引き伸ばされ、再構築されていく凄まじい「世界の軋み」がアキトの全身を震わせた。
「神の定めた狭苦しいシステムコードを書き換える! 大精霊ルミナの名において──空間よ、我が命に従い、新たなセカイを形作れ!!」
ルミナが両腕を天に突き上げると、彼女の体内から、人間なら一瞬で蒸発するほどの圧倒的な神聖魔力が解き放たれた。いつもエアコン代わりに使っていたのが冗談に思えるほどの、世界最高位の精霊としての「本気」の姿。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!
殺風景だった岩壁が内側から崩壊し、光の粒子となって消えていく。 神の召喚リストから呼び出された「偽物の、だけど完璧な青空」と「疑似太陽」が生成され、連動するように1階層から3階層までの空間がド派手に塗り替えられていった。
光が弾け、アキトがゆっくりと目を開けたとき、そこはもう薄暗い岩の穴ではなかった。
アキトの指示通り、コアの地形データをフル活用して完成した「1〜3階層の広大な楽園」。
まず第1階層には、もちろん通路の水たまりは残したままで、どこまでも透明なエメラルドグリーンの波が寄せる「美しい砂浜と内陸の海」が広がり、水面下には新鮮な魚介類が群れをなして泳いでいる。
続く第2階層には、清流から豊かな水を引き込んだ、黄金色に実る予定の「広大な水田地帯」。
そして第3階層には、前世の良質な家畜たちがのんびりと駆ける「牛や鶏の牧場」──。
神が「人類を殺すための地獄」として設計したダンジョン。 それが今、大精霊の本気の魔法と、転生者の歪んだ執念(食欲)によって、どこの王国よりも美しく豊かな「大自然の楽園」へと一挙にテラフォーミングされたのだ。
「はぁ、はぁ……っ! どうよ、アキト……! 3階層同時拡張なんて前代未聞よ! やってやったわ!」
フルパワーの古代魔法を使い切り、膝をついて肩を上下させているルミナ。しかしその顔には、最高のドヤ顔が浮かんでいた。
「最高だ、ルミナさん。これ以上ないくらい完璧な、俺たちの『食のインフラ』の土台が一気に完成した」
アキトはルミナに駆け寄り、その小さな手をがっしりと握りしめた。 目の前に広がる大自然を見上げるアキトの脳裏には、すでに次なるステップが明確に描かれている。
完全なる自給自足環境は整った。なら、まずはあの美しい海から、前世で焦がれ続けた「最高の獲物」を釣り上げる番だ。
「ようこそ、俺たちのテラフォーミングへ。──さあ、ここからが本当の『極楽リゾート』計画の始まりだ」
最弱のマスターと大精霊は、まだ見ぬ美味への期待に胸を膨らませ、これ以上ないほど爽快に、臨戦態勢の「悪い笑顔」を交わし合うのだった。
(第2章・完)




