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避ける不審者は世界ごと

1.

「見つけた。……父さん、あそこにいるの、例の『もう一人の粗大ゴミ』だよね?」

次の現場である、主を失って暴走した植物がすべて枯れ果てた、緑色の死の惑星。

十歳前後の娘――弟子は、生い茂る巨大な枯れ木の陰から、すっと二本の指を向けて囁いた。

その視線の先では、創造陣営の上層部から逃亡中の「もう一人の指名手配犯」が、残された世界のシステムを勝手にいじくり回していた。怪しげな改造魔法陣を展開し、死んだ世界を自分の都合の良い「プライベート・リゾート」に改造しようと好き勝手している。不法占拠のうえに、世界の私物化。これ以上ない悪質なバグだ。

「間違いない、調査員の言ってた通りのツラだな。よし娘、お墨付き(ライセンス)は持ってるな? 現場検証は省略だ。あいつがこっちに気づく前に、覚えたてのビームでサクッと現地処分しちゃえ」

「お任せあれ。不法占拠の粗大ゴミは、即座にデリート……『終焉ビーム』!」

娘の指先から、夜空の闇を集めたようなまばゆい消去光線が放たれた。不意打ちの完璧な一撃。塵一つ残さず消え去る――はずだった。

「おっと危ない! 誰だっ!?」

なんと逃走犯は、もの凄い反射神経で身体を真横にひねり、娘のビームをひらりと回避したのだ。光線は背後の枯れ木を概念ごと消し飛ばしたが、肝心の標的にはかすりもしていない。

「嘘っ、避けられた!?」

「何奴! 創造陣営の追手か!? 私を捕まえようとしても無駄だぞ、私のスピードには――」

「もう一発! デリート・ビーム!」

「ふははは! ぬるい、ぬるいぞ!」

娘は悔しさに顔を真っ赤にしながら、二の手、三の手とビームを連射するが、逃走犯はまるでアブを避けるようにひらひらと、右へ左へと避けていく。かつてない大苦戦(というより、当たらないことへの屈辱)に、娘のプライドはズタズタだった。

2.

「む、悔しい……っ! なんで当たらないの!? 父さん、あいつすっごいムカつく!!」

「おいおい、落ち着け娘。あいつ、逃げ回るのだけは一丁前だな……よし、お父さんもちょっとイラッときたわ。解体屋の現場を舐めるなよ」

親父神もツナギの袖をまくり上げ、娘の隣に並んで二本の指を突き出した。

「娘、こうなったらアレだ。一匹ずつ狙うのが面倒なら、足場ごと片付けちまおう。俺たちの真のコンビネーション、見せてやるぞ」

「うん! 世界ごと消しちゃえ!」

2人が呼吸を合わせ、互いの突き出した指先を重ね合わせる。

それは、「二神以上の承認とエネルギー」がなければ物理的に絶対に発動できない、解体屋の最終禁忌兵器だった。

「「――コード:終焉の終焉グランドデリート。これにて本現場の業務を終了する。すまんね!」」

2人の指先が重なった瞬間、空間の重力が完全に反転した。

娘の持つ「世界五億年分の全エネルギー」と、親父神の持つ「空間を閉じる神の権能」が完璧にシンクロし、彼らが立っている空間を除く、世界そのものの全座標が、強烈な漆黒の光の渦に包まれた。

「えっ、ちょっと待っ、世界ごと消すのはナシだろぉぉぉぉお!!?」

逃走犯がどれだけ素早く動こうが、避けるための「世界(空間)」そのものが消失していくのだから逃げ場などない。

叫び声とともに、逃走犯は、好き勝手にいじくっていた改造魔法陣も、彼が立っていた枯れ木の大地も、空も、大気もろとも、凄まじい爆縮とともに完全なる「無」へと還っていった。

ハラハラと、まるで花火のあとのように、綺麗な光の粒子だけが暗黒の虚無に散っていく。

消えたのを目視でしっかり確認した2人は、ふぅーっと揃って指先を吹いた。

「よし、完全消滅! ざまぁみろ!」

「ふはは、これぞ職人の力業よ! すっきりしたな!」

3.

後日、創造陣営の調査部。

「――というわけで、これが今回の『不法投棄ゴミの現地処分報告書』です。ついでに世界も一個なくなりましたが、元々終わってた世界なんで問題ないですよね。はい、ここに判子サインください」

親父神は、さっぱりとした顔でバキバキに目の据わった例の調査員に書類を提出した。

調査員は報告書に書かれた『対象:世界ごとまとめて焼却処分』という恐ろしい一文に一瞬だけ目を剥いたが、すぐに狂喜乱舞した。

「素晴らしい……! 本当に消してくれたのか! これで我が創造陣営の炎上案件は、名実ともに、完全に鎮火した!! 処理手続きの書類も、これ一枚で全部片付くぞ!!」

調査員は涙を流しながら、親父神の手を両手で激しく握りしめた。

さらに数日後。

解体屋の部署に、金ピカの額縁に入った立派な【事件解決の感謝状】が届けられた。副賞として、時空のパーキングエリアで使える「全メニュー無料パス(一年間有効)」までついていた。

「やったー! 父さん、これで毎日高級お肉もメロンアイスも食べ放題だよ!」

「おう、よくやった我が弟子よ! これでしばらくは、実業務サボりが捗るな!」

感謝状を壁に飾り、さっそく無料パスを握りしめて焼肉屋へ向かう、白いツナギの親父神と、魔法のバールを担いだ十歳の女の子。

大迷惑な炎上マシーンたちを世界ごと綺麗に片付けた2人の未来は、高級肉の香りと共に、ますますお気楽で輝かしいものになっていくのだった。



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