そんなことより、今日もお掃除
1.
ジュウジュウと、時空の焼肉屋の鉄板の上で、上質なカルビが最高の音を立てて焼き上がっていく。
「ふはーっ! やっぱり汗を流したあとの高級肉は最高だね、父さん!」
「おう、しっかり食え娘。無料パスがあるんだから、今日は店の在庫が切れるまで特上ロースを追加し続けてやるからな」
金ピカの感謝状と「一年間全メニュー無料パス」を引っ提げて、一人の神と、十歳前後の女の子――弟子は、至福のディナーを堪能していた。
世界をまるごと一個大技で消し飛ばしたあとの焼肉は、五臓六腑に染み渡る美味さだった。
そんな2人のテーブルの脇で、水晶端末がピコピコと、創造陣営のあの調査員からの後日報告書(メルマガのような気軽さの通知)を受信した。娘が肉を頬張りながら、どれどれ、と画面をスクロールする。
「あ、父さん。なんかね、先日私たちがビームで消したあの指名手配犯の2神、本体じゃなくて『コピー(複製)』だったんだって」
「は? コピー?」
「うん。何が理由でそんなもの作ったのかは知らないけど、創造の上のほうが実験室でやらかしたらしいよ。なんでも『コピーされた神は、オリジナルの数倍の破壊衝動を持つ性質がある』だってさ。へー、だからあんなに変な奴らだったんだね」
親父神は、焼き上がったタン塩を口に放り込み、ビール(的な神の神聖な飲み物)をグイッと煽って鼻で笑った。
「ハッ、相変わらず創造の連中は、わけのわからんもんを作っては現場に垂れ流しやがるな。まぁ、コピーだろうが何だろうが、俺たちにとってはただの『不法投棄された粗大ゴミ』だしな。もう解決済みな件だし、どうでもいいわ」
「そうだね。ちゃんと消去(現地処分)したし、私たちは肉が食べられればそれでよし!」
2人は端末の通知を既読スルーでゴミ箱へ放り込むと、再び網の上の肉へと箸を伸ばした。向こうの部署がどれだけ高度なバグで頭を抱えていようが、解体屋の現場目線からすれば、すべては「片付けるべきゴミ」でしかないのだ。
2.
翌日。
カチリ、と親父神が新しい時空の鍵を開ける。
そこに広がっていたのは、度重なる天変地異の果てに自転が止まり、半分が永遠の灼熱、半分が永遠の極夜となった、役割を終えた終わりの世界。
「よし、娘。今日も元気に世界のお掃除だ。忙しいけど、自由気ままに行こうじゃねえか」
「うん! 今日はどっちが先に世界の半分を消せるか勝負ね、クソ親父」
「生意気言うな、不届き者の弟子。まだ俺のほうがビームの燃費はいいんだからな!」
白いツナギを着た2人は、誰一人いない死の世界の荒野へと、いつも通りお気楽な足取りで進んでいく。
娘は魔法のバールを嬉しそうにカチカチと鳴らし、指先へと静電気のような消去の魔力を集め始めた。
この時の彼女は、まだ何も知らなかった。
自分が世界五億年分の絶滅をその身に宿して生まれた奇跡の命であることも。
これから先、何万年、何億年もの歴史の中で、数え切れないほどの終わった世界を、その溢れんばかりの慈愛と漆黒の光線で優しく看取っていくことになることも。
そしていつしか、全次元の神々から畏敬を込めて、『終焉の女神』なんて呼ばれる大物になるなんて――。
このときの彼女は、知る由もなかった。
「じゃあな世界、すまんね――デリート・ビーム!」
まばゆい光線が、今日の世界の静寂を綺麗に閉じていく。
夜空のドレスを纏うその日まで、少女は今日も元気に、大好きな父親の隣で、世界のお掃除を続けるのだった。




