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不法侵入者は即座に片付ける

1.

「だからさ、あいつらの専門用語はさっぱり分からんって言っただろ。なんか『世界創世予算の進捗遅れに対する査察』とか何とかいう名目で、上のほうの偉い奴が直々にこっちへ来るらしいんだよ。めんどくさ……」

次の現場である、完全に氷に閉ざされた死の惑星。

白いツナギを着た親父神は、水晶端末タブレットに届いた緊急通知を見ながら、盛大に顔をしかめていた。

「へー。親父、顔がすっごい嫌そう。でも、それってあっちの部署の身内の話でしょ? なんで『閉じる係』の私たちが現場で待ち伏せされなきゃいけないの?」

「知るかよ。どうせ上層部へのアピールだろ。俺たちの解体作業を視察して、いちゃもんでもつける気さ。お前も変な奴に絡まれないように、ツナギの汚れ落としとけよ」

十歳前後の女の子――弟子は、魔法のバールを肩に担ぎ直しながら「はーい」と気の抜けた返事をした。

先ほど覚えたばかりの『存在確率をゼロにするビーム』の余韻がまだ指先に残っていて、早く次の世界を撃ち抜いてみたくてウズウズしていたのだ。

カチリ、と扉が開き、二人が吹雪の吹き荒れる結晶の氷原へと足を踏み入れた、その時だった。

「――待っていたぞ、現場の無能ども!」

吹雪の向こうから、空間を割って、何やらやたらと豪華な黄金の甲冑を纏った「変な奴」が現れた。背中には後光のような光輪がギラギラと輝き、見るからに創造陣営の「上のほう」の、偉そうでプライドの高そうな雰囲気をプンプンと醸し出している。

「あー……。お疲れ様ですー」

親父神が心底やる気のない声で頭を下げた。

「創造陣営の査察官であるこの私自らが、直々に進捗を確かめに来てやったのだ! 聞けば、貴様らは創造された世界を雑に処理し、上層部の書類仕事を増やしているそうだな!?」

「いや、俺たちただの解体屋なんで、あっちの書類のことは知らんのですが……」

「黙れ! 言い訳は無用! 創造の美学を持たぬ破壊の野蛮人どもめ、まとめて我が『創世の神聖なる光』の錆びにしてくれるわ!」

変な奴は、こちらの言い分を一切聞く耳を持たず、やたらと派手な大剣を抜き放ち、狂ったような笑みを浮かべていきなりこちらへ斬りかかってきた。

2.

「おいおいおいマジかよ!? あいつら炎上しすぎて完全に頭のネジ飛んでんじゃねえか!!」

親父神が慌てて後ろへ飛び退く。神聖な光を纏った大剣の斬撃が氷原を叩き割り、もの凄い衝撃波が2人を襲った。完全に正気を失った、本気の殺意がこもった襲撃だった。

「不敬なるゴミどもめ! 神の怒りを知れぇぇ!!」

変な奴が、今度は十歳児である娘を目がけて大剣を振りかざし、突進してくる。

「危ねっ、娘、避け――」

親父神が叫ぼうとした、まさにその瞬間。

「……うるさいなあ」

娘は眉ひとつ動かさず、ツナギのポケットから手をすっと抜いた。

バールを構えるまでもない。ただ、先ほど親父から教わった「あの感覚」を思い出す。

(そこにある存在確率を、ゼロに。……あ、この変な奴も『もう片付いたな』ってことでいいや)

娘が、すっと細い二本の指を、突進してくる黄金の甲冑へと向けた。

指先がツン、と静電気のように小さく爆ぜる。

ドッ。

夜空の闇すら吸い込むような、純度百パーセントの、まばゆい消去光線デリートレイが放たれた。

ズガァァァァン!!!

「ぶっ――!?」

変な奴は、自らの大剣が光線に触れた瞬間、自分が何に撃ち抜かれたのかを理解する暇すら与えられなかった。

黄金の甲冑も、ギラギラ光る後光も、傲慢な叫び声も、その肉体も。

爆発の火花すら上げず、一瞬で「概念ごと」この空間から消滅した。

ハラハラと、ただの綺麗な光の粒子だけが吹雪の中に散っていく。

あとに残されたのは、綺麗に更地になった、ただの静かな氷の大地だけだった。

3.

「…………」

親父神は、本日二度目の「口半分開けたままフリーズ」を発動していた。

変な奴が立っていた空っぽの空間と、我が子の指先を何度も往復して見つめ、冷や汗がツナギの背中を流れるのを感じた。

(嘘だろ……。創造陣営の上層部の幹部クラスだぞ、あいつ。それを、覚えたてのビームで、ゴミをチリトリで掃くみたいに一撃で消しやがった……)

「ねえ父さん。あいつ、なんだったの?」

娘は自分の二本の指を「ふぅー」と可愛らしく吹いて、何事もなかったかのように振り返った。

「いきなり襲ってくるなんて、ただの不審者バグだよね? 綺麗に片付けといたよ」

「あ、あ、ああ……うん。そうだな! 現場を荒らす不法侵入者は、即座にデリートするのが我が部署の基本方針だからな! 完璧な対応だ!」

神はガタガタ震える膝を必死に隠しながら、無理やり胸を張って娘の頭をガシガシと撫で回した。内心では(これで上層部にバレたら、始末書どころか俺たち指名手配犯になるんじゃ……)と戦々恐々だったが、それを見せるわけにはいかない。

「よし! 不審者も片付いたことだし、実業務に戻るぞ! 娘よ、そのままあの奥にある、この死んだ星のコアも撃ち抜いてくれ!」

「はーい。……じゃあな世界、すまんね。デリート・ビーム」

再びまばゆい光線が走り、氷の惑星は今度こそ静かに、綺麗に、虚微の彼方へと消え去った。

「あー、すっきりした。父さん、今日の始末書にはなんて書くの?」

「えーっと……『不法投棄された、黄金色の大きめのゴミを現地で焼却処分した』って書いとく。創造陣営の内容はよくわからんしな」

「あはは、親父、やっぱり適当だ。あ、がんばったから、帰りにまたアイスね。今度は生クリーム多めで!」

「へーいへーい、何でも買ってやるよ……」

神は、未来の「最強の女神」となるであろう娘の後ろ姿を見ながら、そっと財布の厚みを確認するのだった。



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