コツさえ掴めばすんなりと
「ねえ父さん、そろそろ私にも、あのビーム教えてよ」
次の現場へと向かう次元の回廊を歩きながら、十歳前後の女の子――弟子は言った。手にはお気に入りの魔法のバールを握り、カチカチと器用に回している。格好は相変わらず白いツナギを着た生意気な弟子のままだ。
「ビーム? ああ、俺がいつも世界を消すときに使ってる消去光線のことか」
白いツナギを着た親父神は、水晶端末で今日の現場データを確認しながら、面倒くさそうに片目を細めた。
「まだ早い。お前にはバールがあるだろ。あれでバグを物理的にどつき回す方が、現場の泥臭さが身についていいんだよ」
「えー、だってバールだと射程距離が短いし、ツナギが汚れるんだもん。女の子なんだから、もう少しスマートに仕事したいの。それに父さん、私が生まれる前にあいつを消した時も、そのビーム使ったんでしょ? だったら私も使えないと、解体屋の弟子として格好がつかないよ」
「……チッ、それを言われると弱いな」
神は頭をバリバリと掻いた。何万年経っても、この子の生まれの殻をうっかり消し飛ばした件は、彼にとって最大の弱みなのだ。
「はぁー……。しゃあない。じゃあ、コツだけ教えてやる。よく聞けよ。あれはな、魔力を込めるんじゃない。『そこにある空間の存在確率をゼロにする感覚』で、指先にちょっとツンとくる静電気みたいなのを集めるんだ」
「存在確率をゼロにする感覚……?」
「そう。言葉で言うと難しいけど、要するに『これ、もう片付いたな』って頭の中で納得して、指先からピュッと出すだけ。コツさえ掴めば、すんなり行くもんだよ」
神は「まあ、神々のエリートでも習得に三百年はかかる高等魔術だけどな」と心の中で付け足し、鼻を高くした。すぐに出来なくて悔しがる娘の顔を、少しからかってやろうと思ったのだ。
カチリ、と扉が開く。今回の現場は、すでに大気も水分も失われ、ただ巨大な結晶の岩石だけが宇宙空間にぽつんと浮かぶ、文字通りの死んだ世界だった。
「よし、じゃあ試しにあの向こうにある、直径百メートルくらいの結晶の岩を狙ってみろ。まぁ、最初は指先から煙が出るだけ……」
「ん。そこにある存在確率を、ゼロに……『片付いた』っと」
娘がすっと細い二本の指を岩石に向けた。神の「危ないから離れてろよ」という言葉が、その耳に届くよりも早かった。
ドッ、と空間が爆縮するような音が響いた。
次の瞬間、娘の指先から、眩いばかりの純粋な「消去の光線」が、もの凄い速度で放たれた。
ズガァァァァン!!!
光線が直撃した結晶の巨大岩は、爆発する間すら与えられず、一瞬で概念ごと消滅した。塵一つ残っていない。完全なる無だった。
「……あ、本当だ。すんなり行った」
娘は自分の二本の指を「ふぅー」と口で吹いて、ニカッと笑った。
「父さんの言った通り、指先がツンってした! これ、バールより全然楽ちんだね!」
「…………は?」
親父神は、口を半分開けたまま、岩石があったはずの空っぽの空間と、我が子の指先を何度も往復して見つめた。
(一発で? しかも俺のビームより、消去の精度が高くて綺麗じゃねえか。天才のレベルがバグり散らかしてんだろ……)
「ねえ父さん、どうしたの? 魂が口から出かかってるよ」
「あ、いや……なんでもない。うん、まぁ、俺の教え方が天才的に上手かったってことだな! ハハハ!」
神は冷や汗を流しながら、無理やり胸を張って威厳を保った。内心では「これ、将来確実に俺より強くなるやつじゃん……」とガタガタ震えていたが、それを見せるわけにはいかない。
「よし! コツを掴んだなら実戦だ! 不届き者の弟子よ、そのままあの奥にある、この世界の本体を撃ち抜いてみろ! 今日は俺、指一本動かさねえからな!」
「えー、親父、やっぱりサボるんじゃん」
娘はあきれ顔でため息をつくと、もう一度二本の指を、死んだ星の核心へと向けた。
「じゃあな世界、すまんね――デリート・ビーム!」
まばゆい光線が再び走り、終わった世界を一瞬で片付けていく。天才的な娘の誕生に、親父神の未来は、ますます明るくなるのだった。




