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隣の芝生は炎上中

「ねえ父さん、最近『創造の神』の陣営がめちゃくちゃ騒がしくない? 廊下ですれ違う創世担当の人たち、みんな目がバキバキで死にそうな顔してたよ」

時空のパーキングエリアで、約束通りの高級メロンアイスを生クリームごとスプーンでつつきながら、十歳前後の娘――弟子は言った。格好は白いツナギを着た生意気な弟子のままだが、性別としては完全に女の子に決まり、最近は少しだけ髪が伸びていた。

「あー、なんか新しい何ちゃら計画の予算がどうだとか、初期設定の数式がバグっただので、上から下まで大炎上してるらしいぞ。詳しくは知らんけどな。畑が違いすぎてあいつらの専門用語はサッパリわからん」

白いツナギを着た親父神は、ホットコーヒーをすすりながら他人事のように鼻を鳴らした。

「気になる? ちょっと覗きに行ってみる?」

「バカ言え、気になるけど今は実業務が忙しいんだよ。ほら、見てみろこれ」

親父神が水晶端末タブレットの画面を娘に向けた。そこには「至急」「本日中」「未処理」という真っ赤な文字とともに、解体予定の世界のリストがずらりと並んでいる。

「あいつらが向こうで何を揉めてるのかは知らんが、とにかく現場にシワ寄せが来てんだよ。ほら、アイス食い終わったら次の現場だ。今日はゴミ屋敷みたいな世界だから覚悟しろよ、不届きな助手」

「へーい」

娘は最後の一口をパクリと読み込むと、お気に入りの魔法のバールをカチカチと鳴らした。

カチリ、と親父神が時空の鍵を開ける。二人が足を踏み入れたのは、創造の神々が作りかけのまま「やっぱこれ無し!」と途中で放棄した、なんとも不気味な未完成の世界だった。空には半分だけ描かれた太陽が固定され、大地にはバグった幾何学模様の結晶が浮いている。

「うわぁ……。テクスチャの貼り忘れがひどいね。何がしたいのかよくわからないや」

「だろ? あいつらが何を失敗したのかは知らんが、後片付けする俺たちの苦労も考えてほしいもんだ。よし、サクッと空間の座標を固定してデリートするぞ」

親父神がいつものように二本の指をすっと突き出した、その時だ。

「あ、待って父さん。この世界の『半分だけ出来ちゃった海』の底、なんかおかしな音がする。機械的な……」

「またバグか? スキャン中……あー、出た。創造の連中、なんかよくわからない初期化プログラムを起動したまま、放置してやがるな」

神のスキャン端末が激しく警告音を鳴らし始めた。放置された原因不明のプログラムは、世界のエネルギーを巻き込んで肥大化し、今やこの世界の境界線を突き破って、外の時空まで巻き込む超巨大な空間のブラックホールに変質しようとしていた。

「おいおいおいマジかよ! 内容はさっぱりわからんが、これ暴走したら、俺の始末書どころか部署の減給処分モノだぞ!?」

「隣の部署の尻拭いなのに!?」

「お役所仕事ってのはそういうもんだよ! おい娘、あの海の底にあるプログラムの核を引っ叩いて止めろ! お前ならあの暴走を正しく終わらせられる!」

「任せて!」

娘は魔法のバールを強く握り締めると、バグだらけの不気味な海へと飛び込んだ。水の中に満ちているのは、創造の神々が遺したよくわからないエネルギーの奔流だ。だが、今の彼女はただの女の子ではない。世界五億年分の質量を体内にホールドした、魔力生命体の申し子だ。

「……どれだけ雑に放り出された世界でも、終わり方くらい、綺麗にしてもらいなさい!」

娘が海の底に沈むプログラムの核に向けて、バールを思い切り振り下ろした。その指先から溢れ出たのは、冷徹な消去の力ではない。荒れ狂う暴走エネルギーを優しく包み込み、眠りへと誘うような、静かで温かい「終わりの光」だった。

バリィィィン!! と空間が割れるような音が響き、暴走していたブラックホールの卵は、まるで役目を終えた光の泡のように消滅していった。

「ふぅ……。終わったよ、父さん」

海から上がってきた娘は、ツナギの裾を絞りながら、少し誇らしげに胸を張った。

「おお、完璧だ! さすが俺の弟子! これで部署の減給は免れたぞ!」

親父神は本気でホッとした顔で娘の頭をガシガシと撫で回した。

「さて、と」

親父神は二本の指を空に向け、ニカッと笑った。

「おまけの仕事は終わりだ。今度こそ、この出来損ないの世界を閉じるぞ。……じゃあな世界、すまんね」

パチン、と指が鳴る。未完成の世界は、今度こそ静かに、綺麗に消え去った。

「よし、今回の始末書には『創造の神の陣営の不始末による実業務の遅延』って特大の文字で書いてやるからな。意味はわからんが苦情だけは入れる!」

「あはは、親父、顔がすっごい意地悪になってる。あ、そういえば父さん、がんばったからもう一個アイス買って」

「えっ、さっき高級メロン食っただろ!?」

「だって、エネルギー使ったらまた女の子のパラメーターが揺らいじゃうかもしれないし?」

「……お前、だんだん余計な知恵がつてきたな!?」



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