父の判断は
俺の言葉を聞いて父は静かに言葉を発する。
張春輝「そうか…では帝様の側を固める中常侍たち…若しくはその中の誰か1人が村の略奪行為に手を染め、女だけを攫ってる可能性があるということか?」
良師「それはまだ分かりません。あくまで可能性の段階かと」
張春輝「だな。良く見ている。ここで言い切られたら俺もどうやって諭すか考えなくてはならなかった。それで、お前としては中常侍との取り引きは引き続き続けるべきだと考えているのだな?」
良師「はい…。それともう一つ、どうやら俺には何やら不思議な力があるようでして、虚な目をして焦点も定まらなかった送られてきた女性たちに符水という水を飲ませたところ立ち所に癒し、その者たちの証言から、1人の人物の名前が挙がりました」
張春輝「ん?んん?ちょっと待て!符水は、確か道教の教えに出てくる霊験あらたかな水のことであったな?お前はそれが使えるのか?」
良師「何故だか分かりませんが使えるみたいです」
張春輝「そうか…このことを他の誰かに話たか?」
良師「いえ、父上の判断を仰ぐべきと思い、誰にも話しておりません」
張春輝「良い判断だ。この国は儒教を思想として重用していることはお前も知っているな?」
良師「はい、存じております。人のあるべき姿に任せる儒教に対して、自然を尊重し幸福を目指す道教は思想としてあまり受け入れられていないと」
張春輝「その通りだ。だが俺の考えは違う。儒教も道教も人の暮らしを支える上でとても大事な思想だ。どちらが上も下もない…だが現政権。特に帝様の脇を固める中常侍には道教は良く思われていない。その道教の中に出てくる道士が使うとされている符水が使えることが知られれば、最悪の場合処刑されよう。今は、その力を広めず悪戯に力を使うな」
良師「承知しました」
張春輝「わかっているなら良い。それでは話を戻そう。女性たちから誰の名前が挙がったのだ?」
良師「青州刺史龔景」
張春輝「な!?とんでもない大物の名前だな。あ、誤解するな。龔景自体は俺と同じく小物だが、その上は中常侍を束ねる張譲だと言われていて、張譲の推薦もあり青州刺史に取り立てられたと聞く。だが実情は何進派と中常侍の内部争いの犠牲だと言われている」
良師「このことを王宏様に報告はされますか?」
張春輝「しないわけにもいくまい。だが、そうすると女たちがどうして正気に戻ったかを疑う輩も出てこよう…慎重に判断しなければならないな」
良師「壊れていたから気にせずガンガンやったら戻ったとか…」
張春輝「お前は、そんなことを言って自分の悪名を広げたいのか?」
良師「ダメですかね?」
張春輝「良くはない。それを伝えたとして、中常侍が警戒して、こちらとの取り引きを渋られると助けれる命を助けることができなくなる…やはり知らせるべきではないのだろうな」
良師「では、噂として流してもらうのは?」
張春輝「そんなこと誰に?」
良師「洛陽北部尉の曹操殿です」
張春輝「成程、何進派に名を連ねている曹操殿であれば、中常侍たちを蹴落とすために噂を流してくれるかもしれない…だがその場合もやはりお前のことを」
良師「もう1人、実は拘束しております」
張春輝「拘束!?お前は何をしているのだ!いや、今はその者が誰かを聞くのが先だな」
良師「龔景の子飼いの商人で名を唐松と言います。その者からは、龔景に頼まれて野盗のフリをして村人を殺害するための衣服を用意させられたと申しています」
張春輝「成程、確かにそれなら全国的に発生している野盗被害が洛陽で起こる危険を考え洛陽北部尉と連絡を取ったとしても何も問題はない」
良師「それと…」
張春輝「まだあるのか?」
良師「その唐松からの証言で、龔景が程遠志の村を襲わせたことがわかり、女を性処理の道具として、殺さず根城に連れ帰ったことが分かりました」
張春輝「待て!程遠志の村は確かその前に龔景に若い娘たちを連れ去られて、残っていたのは歳を取った者だったはずだな?それを野盗が?」
良師「はい。唐松曰くどうも熟女好きな野盗で、部下たちにも女を抱かせるらしく、そのため女だけを連れ去ったのだと」
張春輝「唐松とやらがそれを話したということは…何かに協力していたのだな?」
良師「はい。どうも龔景から一時的に女たちを匿っていたようで、その行き先にも心当たりがあると」
張春輝「まさか、お前はそれを助けたいなどと言い出すのではないだろうな?」
良師「そのまさかです。その辺りのことも洛陽北部尉の曹操殿にお話しできれば」
張春輝「成程、それも曹操殿にお話するということは、洛陽の北部に野盗の根城があるのだな?」
良師「いえ、あるのは青州の大興山です」
張春輝「・・・。どうやらお前は洛陽北部尉という役職を勘違いしているようだ。洛陽北部尉という役職は、あくまで洛陽の北部を守護するものであって、全国を守護するわけではないぞ」
良師「えっ?」
でも、尉っていう役職は今でいうところの警察なんだろ?
俺のイマジナリーフレンドもそうだって言ってたし。
えーっと洛陽にあるんだからわが国で言うところの警視庁みたいな感じではないの?
必要だったら地方にも調査に向かうみたいな。
いや、我が国の何倍も広いこの国でそんなことは流石に無理があるのか?
だとしてもそこで犯罪行為が行われている可能性があることを報告して、放置されるなんてことはないだろ?
張春輝「まぁ、伝えれば曹操殿からその地方の者に伝えられるとは思うが…龔景の影響力の高い地域でまともな捜査が行われると思うか?」
良師「あ!」
父に呆れられたが確かにそうだ。
じゃあ、程遠志の村の生き残りを助けられないのか?
いや、俺に任せとけみたいな感じで飛び出してきたのに無理でしたとかかっこ悪すぎて、何もいえねぇ。
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