価値観の崩壊
大賢良師が簡単だという未知の夕食を食べた翌日、荀彧は無理を言って野外訓練に参加させてもらっていた。
管亥「荀彧殿。お疲れではございませんか?」
荀彧「ハァ。ハァ。まだまだ。僕も麟杏のことを守れるぐらいには、力を付けたいからね」
程遠志「好きな女のためならなんだってできる。わかるぜその気持ち!若いのに大したもんだな荀彧殿は。ワーハッハッハッ。まぁ、俺はその好きな人に捨てられたんだけどな」
鄧茂「程遠志の兄貴、いきなり自虐ネタをぶち込んで、勝手に落ち込まないでくださいっす!」
荀彧「捨てられたんですか?」
程遠志「おぅ。龔景の野郎が村に来た翌日に村の年若い女たちを連れて、龔景の女になるって宣言されちまったよ」
荀彧「龔景の?(確か龔景は、宦官を名乗る現役バリバリの奴らに女を当てがってるという噂があった気が。成程、好きな人だからこそ汚れる自分の事などとっとと忘れて欲しいと。これは僕から言うのは違う。一歩間違えば、彼女の覚悟を無にする行為だからね)」
程遠志「でもよ。大賢良師様に言われたんだ。お前の好きな女はそんなことをする女なのかって、俺の信じるアイツを信じてやれってな」
荀彧「成程(張角殿の誘導は見事です。彼女の気持ち推測で伝えるのではなく、彼の気持ちの方を動かした…本当に面白い人です張角殿は。でも、何故あのような人物が中央ではなく地方に埋もれているのか?それがいくら考えても分かりません。十常侍はともかく何進派閥は取り込んでてもおかしくないのに)」
管亥「良し!本日の山登り訓練はここまでとし、昼食の時間だ!」
程遠志「待ってたぜ!」
鄧茂「いやぁ、正直この時間が一番の楽しみっすからね」
荀彧「食事の時間が楽しみ?(味気ない干し肉を食べるこの時間が?)」
張曼成「マジで何言ってんだろうな。あんな味気ない飯の時間がいちばんの楽しみなんてよ」
管亥たちが懐から取り出したのは…。
管亥「まぁ、普通はそう思うだろうな。だが張角様は、そんな味気ない食事の時間すら改革してくださったのだ!みよ!この光り輝く白米に生える黒、そして鉄筒の中には、熱く燃えたぎる汁物を!ちゃんと人数分渡されているから今から配布する!」
程鄧賊たち「ヒャッホー待ってましたぜ!」
荀彧「(何なんだ?この熱気は?行軍中のあの味気ない時間を変えるほどなのか?)」
荀彧も手渡された物を見る。
荀彧「(一見、何の変哲もない米に黒い何かが巻かれた物だが…美味い。米の周りの黒いのが何か分からないが、米の中から焼いた鮭が…それにこの鉄筒、持つと暖かい。寒さがきつくなる厳しい行軍の中でも使えるかもしれない。中身は…んん!?これは昨日、張角殿からもてなされた時に飲んだとうもろこしとかぼちゃを煮込んだ物か!)」
張曼成「嘘だろ…お前ら訓練中にこんな美味いの食べてんのかよ!」
管亥「張曼成様がそう思われるのも無理はない。これらは張角様がお作りになられた恵みなのだ」
程鄧賊たち「んだんだ。この恵みのお陰で厳しい訓練にも耐えられるってもんよ」
程遠志「全くだぜ。大賢良師様が参加してくださった前の訓練の時なんて、食事がだいぶ豪勢だったぜ」
鄧茂「あーあの狩りの時っすね。あん時は、確か狩った野生動物たちをその場で大賢良師様が血抜きして、美味しく料理してくれたっすね」
管亥「あの、人参やじゃがいも、玉ねぎと一緒に肉も煮込まれた白米にかけると激うまになる汁物も良かった」
程遠志「ありゃ美味かった。あんな美味いもん食ったことねぇ」
鄧茂「あれだけ野菜を美味しくしてくれたら農家冥利に尽くってもんっす」
張曼成「そんなに言われると食いたくなるだろうが!従兄に言えば良いのか?言えば作ってくれんのか?」
管亥「さぁ、それは」
荀彧「食事1つを取ってもここまで(僕の今までの価値観が音を立てて崩れていく。張角殿は兵の士気すら自在に操れるのですか…)」
程遠志「わかる!わかるぜ!俺も飯なんて食えれば良いって思ってたけどよ。今じゃ、俺たちの村は食事の時代がきてんだぜ」
程鄧賊たち「俺たちの妻たちも大賢良師様の料理教室に通って、家で作ってくれるんでさ。これが美味い」
荀彧「えっ?(あの宮廷料理ですら霞む料理をあの村ではほぼ全員が家で食べてるの?えっ?えっ?えええええ!?ガシャんとまた僕の価値観が音を立てて崩れていった)」
鄧茂「いやぁ、大賢良師様は常々言ってるっすからね。健康な体に健康な精神が宿るって」
管亥「最初聞いた時は張角様は何を言ってるのかと思いましたが…成程。健康な肉体のために美味しい物を食べろってことだと理解しました」
程遠志「まぁ、確かに肉付きも良くなって、農作業も軽々こなせるようになってきたよな」
管亥「そう見えますか。俺は農業は無理なんで、庭はって遠慮してたんですが、庭で野菜を育てて張角様の元に持って行ったら美味しく調理してくれるならやらないわけには行かないと」
荀彧「成程(それであの村は全ての家の庭に畑があったのか!でも、自分の家の分は自分の家で賄うことができ、それらを美味しく調理してくれるとなったら…皆好んで農作業に勤しむのもわかる。張角殿は食糧不足ですら凌駕しようというのか…お、恐ろしい。ガシャんとまた僕の価値観が音を立てて崩れていった)」
この後、食事を済ませ訓練を終えた荀彧は村へと帰るのだった。
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