荀彧は、少年でも有能でした!
暮らしの改革を他にも見せて欲しいと言われた大賢良師は、荀彧とその妻の唐麟杏を連れて、温泉に訪れた。
良師「ここがつい2週間ほど前に無事に開店する運びとなった温泉宿だ。人手を総動員したこともあって、1ヶ月ほどでここまでのものを作れた」
荀彧「温泉宿ということは、こちらは外から来た人向けの予定ですか?」
良師「言葉だけでそこまでわかるか…。あぁ、荀彧殿の言う通りだ。村民は無料で利用できる公共施設としての大浴場がある。ここは、外向け用の客に利用してもらうための施設だ」
唐麟杏「金がないと開発ができませんものね」
良師「ハハッ流石は荀彧殿の奥方、痛いところを突いてくる。その通り、何事にも金がかかる。いずれは温泉目当ての旅行客から金を得るためにこうした温泉宿を先に建築したのだ」
荀彧「それは時期尚早だったかも知れませんね。今すぐに動かせないのなら先に作っても実入は無いに等しいでしょう。それよりもここには確実に売れるものがあります。この壁掛け松明と卓上松明です」
良師「これが売り物になる?」
荀彧「はい。多くの賢人は夜にも書物を読むため松明係を雇うのが主流です。ですがこの卓上松明があれば、松明係を雇わずに人の目を気にせず1人で黙々と読書に興じる事ができます。これは賢人たちにはとても魅力的に映るでしょう。多少、高くとも今後一切松明係を雇わなくて良いなら買う人は沢山いると思いますよ」
良師「成程…(確かに親父からも領都の方でも壁掛け松明を導入したお陰で、松明係を兵士として雇い直すことに成功したと。その時はまさかこれが売り物になるとは思わなかったが…これが売り物になるのか)」
荀彧「少なくとも朝廷で真面目に働いてる才人には飛ぶように売れます。そこを目指してる官僚にも飛ぶように売れるかと…門外不出でなければの話ですが」
良師「門外不出も何もこんなの誰にでも思い付くと思って、売り物になると思いもしなかった。荀彧殿の視点のお陰だ。これからも気付いた事があれば教えてくれると助かる」
荀彧「これが…誰でも思い付くですか?」
良師「何かおかしかったか?」
荀彧「いえいえ。お役に立てたのなら幸いです」
良師「あぁ、十分役に立っている。良ければ、奥方と御一緒に温泉でゆっくりしてくれ」
荀彧「では、お言葉に甘えます」
荀彧は先程のやり取りを唐麟杏と話す。
荀彧「麟杏は張角殿のことどう思った?」
唐麟杏「うーん。画期的な発明をした人物なのに、その管理が甘々?」
荀彧「うん。壁掛け松明に卓上松明…そのどちらもどれだけ凄いか全く理解できていないどころか誰でも思い付く…と。一瞬、こんな事も思い付かないのかと馬鹿にされてるのかと思って顔を見たら普通だったから薄ら寒さを感じたよ」
唐麟杏「それに仕事終わりに汚れを落とす場所を村民に無償提供。それとは別に外から来た向けの施設も…ですがこんな気持ちいいのに毎日浸かれるのなら寧ろ村民になりたいと言い出す人もいるかもしれません」
荀彧「あぁ…寧ろ王都よりも大きな街にすらなる可能性がある。そもそも、壁掛け松明と卓上松明もこの地限定にすれば、多くの才人がここに移住してくる。それぐらい画期的な発明を門外不出じゃないと言い切ってみせた…。あんな器のでかい人間を僕は少なからず見たことはない」
唐麟杏「何というか…悪く言えば抜けてるかも。本当に私たちの命を彼に託しても大丈夫かしら?」
荀彧「うーん。僕もその判断がつかないんだよね。こんなこと初めてだよ。大器の持ち主なのは間違いない。今は様子見かな」
唐麟杏「えぇ」
2人が温泉から上がると。
良師「そろそろお腹が空いた頃だと思う。まだここに食事処は無いので、俺が簡単に作ったもので済まないが」
荀彧「これを張角殿が?」
良師「あぁ、簡単なもので済まない」
唐麟杏「これが、簡単なもの?」
大賢良師が作ったのは、小麦を挽いて粉にしたものを丸めて、作った所謂パンと呼ばれるもの、かぼちゃととうもろこしのスープ、肉を挽き丸めて焼いたハンバーグ、色々野菜の入ったサラダと一人暮らしをする中で自然と身についてしまった自炊能力を発揮した大賢良師にとっては簡単なもの。
だが、この世界に住む荀彧と唐麟杏から見れば見た事もない料理の数々である。
勿論、製法すらわからない温泉に浸かっている間に出来たというのなら簡単なものなのかもしれない。
だが、とてもそう見えないのが目の前に並んでいる光景に絶句してる状況だ。
荀彧は、恐る恐るパンをちぎって、食べる。
荀彧「や、柔らかい。それでいて、これは小麦?」
良師「あぁ、小麦を挽いて粉にしたものを昨日のうちに丸めて醗酵、それを焼いただけのものだ」
唐麟杏「いや、それはもはや簡単なものではない気が…あ、甘い」
とうもろこしとカボチャの旨味が凝縮されたスープを飲んだ唐麟杏。
良師「それは昨日のうちにとうもろこしとかぼちゃを煮詰めておいた簡単なものだがお口にあったのなら幸いだ」
荀彧「口の中で肉汁が…こんな美味い肉初めてだ」
良師「ただ、肉を挽きこねただけの簡単なものだ」
唐麟杏「これも張角殿の中では、簡単なのね」
このように大賢良師は、どれも簡単だというが一手間も二手間もかかっている料理の数々に荀彧と唐麟杏は舌鼓を打つことしか出来なかった。
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