王佐の才を囲い込め!
俺は目の前の少年が同姓同名の別人の可能性も考えて、字を書いてみることにした。
良師「荀彧殿、丁寧な挨拶痛み入ります。俺は張角。この東の森の開拓を任されている役人といったところでしょうか。差し支えなければ、字を教えていただいても?」
荀彧「えぇ構いませんよ!文若と申します!」
荀文若…王佐の才と謳われる天才…本物…えええええ!?
張角『驚くのは俺の方だ。荀彧と言えば、俺が起こした黄巾の乱の最中、何進や袁紹に献策していた。何故、少年の状態でここに?だが、良師よ。見方を変えればこれは好機だ。黄巾の乱の成功確率を上げるため、ここで事故に見せかけて殺してしまった方が良い』
俺のイマジナリーフレンドは、何を物騒なことを。
というか王佐の才を殺すとか損失だ。
寧ろ、何とかして味方に招き入れた方が何倍も黄巾の乱の成功確率は上がる。
それぐらい、それに荀彧が知る才人たちを…ん?
軍略の天才、郭嘉って産まれてたっけ?
いや、荀彧が少年なんだから産まれているよな?
俺、黄巾の乱以降の歴史は有名人の名前ぐらいしか知らないんだよ。
郭嘉が産まれてるとかわかる方法とかあるわけないよなぁ。
張角『郭嘉であれば、俺が黄巾の乱を起こした時、何進と袁紹のアドバイザーのようなことをしていた。表には出ていないが裏でコソコソと動いていたのも知っている。確かその時14・5ぐらいだったはず』
流石、俺のイマジナリーフレンドは頼りになる。
ということは、今年産まれたばかりの赤子か。
イマジナリーフレンドのお陰で、荀彧に郭嘉は何をしてるとか聞いて不審がられずに済んで良かった。
良師「ありがとう。それで、俺に会いたかったとか?発明の数々とは?」
荀彧「未だ多くの地で松明係と呼ばれる重労働を担う人たちが居て、彼らの多くが奴隷や平民です」
あー、なんかそんな話を親父から聞いたような。
うちでは、多くの平民がそういう事を担っていて、壁掛け松明のお陰で彼らを常備兵として雇い直すことに成功したとか。
荀彧「だから、あの壁に松明を掛けられるのは革命です!それに僕みたいに本の虫には、夜も本を読める机におけるのなんて、革命すぎます!」
手を掴んで振り回さないで…というかここまで俺の評価が高いなら荀彧を味方に引き入れるの楽なのでは?
ものは試しに。
良師「なら、この東の森は今多くの人材を求めていてな。荀彧殿さえ良ければ此処で暮らさぬか?」
荀彧「えっ!?良いんですか!是非!」
良師「そうだよな。親の確認とか必要…二つ返事で了承!?」
荀彧「うわぁ嬉しいなぁ。あ!その妻も僕も逃走中の身なので、刺客とか送られるかもしれ無いので、正直どこに腰を押し付けようか悩んでたんですよね。張角殿が迎え入れてくれて本当に良かったです」
いやいやいや、そういうことは先に言って!
何だ荀彧って意外とチョロじゃんって思った俺の気持ちを返して!
厄介ごと、抱えてるとか知らんやん!
張角『今からでも遅くはないぞ。刺客の行動に見せかけて事故に』
いや、殺さねぇから!
王佐の才を招き入れたら刺客が付いてきましたってか…。
防衛体制の見直しとかもしていかないとだ。
荀彧「それでそれで!他には、どんな暮らしの発明を?」
良師「いまはこれだけで…他に目新しい事といえば…」
荀彧「うんうん」
いや、そんな期待の眼差しで見られても…他に何かあったか?
清潔な身体を維持するため、公衆浴場の設置とか…疫病予防のために手洗いうがいの推進は最近始めたが…まぁ常識だろうしなぁ。
張角『いや、それもこの男の知りたい暮らしの発明かもしれん。俺も死んで、そういう知識が頭に入ってきたせいで、それが当たり前のように思っていたが、この時代手洗いうがいの習慣が無いどころかお風呂なんて、それこそ頻繁に入れたりはしないものだった』
成程。
良師「他にやっている事といえば、手洗いとうがいの推進でしょうか」
荀彧「手洗いとうがい?」
良師「はい。他の所ではどうかわかりませんが広宗内では、新たな取り組みとして、公衆浴場の設置と外から家に帰ってきた際の手洗いとうがいの徹底をさせています」
荀彧「疫病の対策までしてるなんて…やっぱり僕の目に狂いは無かった。民の暮らしを守る張角殿こそ、この地を救う救い主様かも知れません!」
良師「いや、俺が話したことだけで疫病対策だと言い切れる荀彧殿こそ王を助ける才覚を持つものかと」
荀彧「そんな大層なものでは…」
良師「じゃあ、俺もそんな大層なものでは無い。ただ、身近な命を守ることに。いや、守れてすらいないな。この地の新たな民となってくれたものは、未だ野盗に妻や娘を連れ去られたままの者も居る。助け出すと約束しておいて、未だ果たせていない」
荀彧「でも、この地に住んでいる人たちは笑顔が溢れています。それにまだ果たせていないのならこれから果たせば良いだけでしょう」
良師「確かにな。それに荀彧殿が力を貸してくれるのなら上手くいきそうだ。とても子供には見えない深謀遠慮だ」
荀彧「僕も隣にいる大事な人の命ぐらいは守りたいので」
唐麟杏「すっかり私のことなんて忘れてるんだと思ってたけど…初めまして張角殿。荀彧の妻の唐麟杏と申します。夫共々、御迷惑をおかけしますが宜しくお願いします」
良師「こちらこそ。この地の発展に尽力してもらえると有り難い」
俺は、優秀な人材である荀彧を囲い込むため、荀彧は俺を隠れ蓑として利用し刺客から身を守るため、お互いの思惑が合致したのだった。
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